| 四章 混合と純潔の違い
死を覚悟していた奇屡。そして、残りの幹部達。逃げ遅れた招待客達。 だが、玖緒は一向に攻撃を仕掛けてこない。 「・・・。」 「・・・。」 にらみ合う二つの影。強い力を持つ神。 「大丈夫・・・。今、怪我を治してあげるから・・・。」 動かないまわりなど気にも留めず、鈴は瀕死の状態で倒れている滝輝に近づき、癒しの術をかける。 「仮のものの流れゆく赤き命の水を止め、力を与えよ。」 優しく触れていく鈴の手。触れた場所からはもう出血も怪我も残されていない。 鈴の存在を知りつつも、静のことばかり重要視していた奇屡は驚きが隠せなかった。鈴もまた、静同等に力があることを知らなかったのだ。 第一に、静や鈴の家、神柳家の古い風習も残る、現代にまで続く大きな力を持つ一族のことで、この二人は天才とも言われた兄妹であった。 だがあの日、兄の静が暴走したため、見せられた力に怯えた彼等は次第に忘れていったのだ。 神柳が強いのではなく、静が強いのだと誰もが思うようになっていったのだ。 だから、陰となった鈴の力の事など、気にも留めなかった。 「これでいいわね。」 綺麗な目を鈴に向ける滝輝。彼は死を覚悟していたにもかかわらず、どうやら自分はまだ生きているという事に不思議に思っているようだ。 「もう、大丈夫。あなたは一度死に、契約は無に還った。自由になさい。」 鈴は後ろで腰を抜かして動けなくなっている輝屡を横目で見て、何も見えていない愚か者と思いながら告げる。 「今すぐ逃げよ。お前の神との契約は無に還った。」 それだけを告げ、前に出る。そして、睨み合っている二人のもとへいく。 「・・・珠呂狐、彼には帰ってもらって。」 「御意。」 動き出す二つの神。どちらも退きはしない。絶対の主の命令が下れば、その命令を突き通す。 「犬神よ、聞きいれよ。守を結び、囲え。」 伸ばした腕に幻真が魂のようにふわふわと揺れ動き、からみつく。 「守れ、同じものを。助けよ、我が同胞を。守を結べ、外へもらすな。囲いの中へ閉じ込めよ。」 腕を大きく振るう。まるで意思を持った紐のように、細いものが、この空間を動き回り、円を書く。 始めと終わりが繋がれば、光を放ち、結ばれた。 いわゆる、外と中を切り離す結界のことだ。 「珠呂狐、光炎氷地の力を見せてあげなさい。」 一歩下がり、何か言葉をつぶやく珠呂狐。 「光の中、浄化炎に包まれ、氷結した大地の中へ。」 何かを悟った玖緒は主を見やる。 「・・・お前も使ってやりなさい。混合と純潔と、どちらが強いか、それではっきりするだろう?」 覚悟を決めた玖緒は同じように呪を紡ぐ。 「純粋なる汚れなき水の流れに沿い、洗い流せ。立ちはだかりし障害を。」 「神を斬れ、無に還せ!」 二つの神は同時に呪を使う。 その空間内で、大きな爆発音と爆風が吹き荒れる。 誰もが死を予感するが、あらかじめつくられた結界により、それは中だけで押さえ込められ、外にいた彼等は助かった。
吹き荒れる煙が大分収まり、中が見えるようになった頃。まだ、両者怪我を負いながらも無事だった。 「・・・玖緒に対抗が出来るとは、下級同士の混合であれど、主への意思は強いようだな・・・。」 どんな神でも霊でも、契約した相手との絶対の信頼やよせる思いや意思が強ければ強い程、彼等は強くなる。そして、人に頼ってもらったり信頼されたりする程、また強くなれる。 神とはそういうもの。つまり、信じられなければ力を失い、最後には消えるのだ。 「混合であろうとも、ここまで強いのはまれだ。さすが、鈴だな・・・。たった一人の、生き残った妹よ。」 愛しい反面、哀しいと思う。まだ、出会いたくはなかった。全てを終わらせるまでは出会いたくはなかった。 心優しい妹は、必ず止めようとするとわかっていたからだ。 「どうして、今日来たんだ、鈴。」 そのつぶやきは風に乗り、鈴の耳に届いた。 「・・・突然失踪した静兄を見つけるため。心配に決まっているでしょ?大切な兄なのだから。」 それが聞けただけでもうれしいなと思える。 「まったく、ここで下級といえ、これだけの強い混合を出すとは思わなかった。」 「当たり前でしょ。私と蒼狐と朱呂とは、どれだけの付き合いだと思っているわけ?」 「それもそうだ。」 自分と玖緒との付き合いがあるように、鈴にも鈴の付き合いがある。玖緒との付き合いの倍もあるのだから、同等に対抗されてもしょうがないかもしれない。 主に忠実な二つの神の混合なのだから、油断は出来ない敵。 「混合と純潔・・・。昔では混合は異端、純潔で高位のものが上に立つ事が許される。・・・誰がそんなことを決めたのだろうね。」 その考えに鈴は同意できる。純潔だろうと混合だろうと関係ない。それ故に、今まで多くもの神が混合という事で異端神と呼ばれ、悪く無なくとも恐れられてきた。 そして、信じるものを失った数多くの神は消滅した。 その間違いに、どれだけのものが気付いているのだろうか。 自分は実行しようとしているが、数が多いので一人ではとうていおいつけない。 今、目の前で腰を抜かしているもの、魂を喰われたもの。どれだけのものが実行しようとしたか。 「しょうがないから、今回は退くよ。これ以上の鈴との会話は、己の背負うものを放りだしてしまいそうだからね・・・。」 玖緒に戻るよと言い、退却する二人。 まるで空気と同じように、すう――っと姿を消す静。 鈴はただ、その背中を見ているだけだった。 あの日、兄が失踪する直前に見た、あの背中と同じだと、思いながら・・・。
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