| 二章 星なき闇夜の宴
本来の体調を取り戻し、庭を走り回る幻真。 元気になってよかったと思う反面、昨日の出来事を思い出して、どうしようかと考える。 「それほど、難しく考えるな、鈴殿。くるときはくるものじゃ。宴までは何も起こらぬじゃろう。たとでどのような奴等とて、我等は鈴殿に手を出させはせん。」 「ありがとう。」 無理に笑顔をつくってみせる鈴。鈴が蒼狐を含めた神の心情や姿を理解できるように、蒼狐も鈴のことはよくわかる。 「いったい、何が鈴殿を悩ますのじゃ?」 何かを感じ取っても、深い心の奥底にある事はわからない。鈴はそういったものを他者だけではなく、連れてきた神にさえいわない。気付かない限り、黙ったままなのだ。 「・・・まだ、言えない。これは、まだ憶測にすぎないから・・・。」 何かを迷い、困っているということはわかる。それが、どうしてもしなければいけない決断でありながら、迷っているということが。 だが、それを手助けすることは蒼狐には出来ない。 「・・・悩みが大きいときはわし等を頼るのじゃ。寂しいぞ、わしらも、鈴殿のことが大事なんじゃからな。」 それだけ言い、今は聞かないでいてやると、外へ出て行く蒼狐。 「ありがとう、気にかけてくれて・・・。」 出て行った蒼狐にそっという鈴。たぶん、その言葉は聞こえていないだろう。この部屋には、鈴以外の存在は何もないし、聞いているものも見ているものもいない。 「・・・まだ、わからないのよ。本当に、本当にあの人が、敵に回って、何かを企てているかなんて・・・。」 ずっとひっかかっていること。それは、自分がこの屋敷の主なることに決まったときからの疑問。 あの人・・・家を継ぐはずだった、姿を消した兄。 「私には、昔からあの人のことがわからないのだから。」 兄は昔から、他者に自分のことを言わないし、考えが読めない人だった。 兄が家を出た理由も、両親やこの屋敷にいた親族達が次々と死んだ真実も、闇の中。 全てを握っているのは、兄只一人だけ。 敵に回して勝てる相手ではない。わかりきっている。 せめて、昔の優しかった兄に戻っていて、今回の相手が兄ではないことを願うのみ。 「・・・どうして、真実をいつも、私から隠すの?」 誰も答えてくれない問いを何もない空間に問いた。
昼間は何時もどおり神達と楽しく騒ぎ、平和な一日を楽しんだ。 日が暮れれば、年に一度の宴が始まる。神や鈴のような力を持つ者と、異端者達の集まる、顔見せの宴が。 「蒼狐、朱呂、幻真、行くよ。」 連れて行くのはこの三人。残りは家に置いておく。 「わたしもいきたい。」 「堵杜は駄目。雅江も駄目だよ。家の守りをなくしちゃ駄目でしょ?」 そう言い聞かせて、見送りだけにする。 「いってきます。」 「いってらっしゃいませ、鈴殿。」 使用人たちも出てきて、見送ってくれた。 これから起こるかもしれない何かを誰もが感じ取っていたのかもしれない。
今日の宴の場所は、とても近い。少し林のようになっている木々の間にある、閉ざされた空間の中。そこにある滝の中を通れば、宴の会場へと続いている。 「行くよ?」 「御意。」 四人は滝に臆することなく、歩いて入った。 濡れているはずの衣類や体はまったく濡れていない。あそこには特殊な力が働いているので、招待客には害がないのだ。そして、招待客のみ、その滝は道を開く。 「今日は・・・どうなるんだろうね?」 ふと、そんな言葉を独り言のように告げる鈴。警戒を強める三人。 「あの先に答えがあるのかな?」 薄暗かった道を出ると、見慣れた景色がそこにあった。 毎年ある宴の会場と同じもの。場所は違っても空間はそのままなので、何一つかわらない。 「よく来てくれた。鈴殿。」 ふっと姿を見せた宴の門番の刃胡だった。 「一年ぶりね。相変わらずかわらないようで。」 「そう簡単に神は変わりませんよ。人間とは違いますからね。」 あちらへどうぞと、いつものように、奥へと案内された。 すでに数名、顔見知りがそろっていた。適当に挨拶をすませ、鈴は三人と夕食に手をつけた。 宴ということで、夕食は用意してくれるのだ。なので、四人は何も食べずにここへ来た。毎年、おいしい料理を楽しみにしているからだ。 「今夜のこれも美味いものじゃ。」 「そうだな。」 「あ、あれおいしそう。」 「待っ、鈴殿、動き回っては!」 四人それぞれ動いて夕食をご馳走になった。
食べ終わった頃、ほとんどの宴の参加客が訪れていた。 そして、宴は本当のはじまりを告げた。開催者が前に出て、挨拶を始めたから。だが、総責任者でもあった開催者は、それ以上、話しを続ける事はなかった。 「うわぁ!」 「まさか?!」 「そんな、馬鹿な!」 誰もがそう思い、口に出した。 それもそのはずだろう。開催者は有翼人であったにもかかわらず、いとも簡単に息の根を止められてしまったからだ。 彼は、あまり好かれてはいなかったが、ここまでされるほど嫌われていることはなかった。 誰もが、いったい誰の仕業だと、攻撃されたと思われる方向を見た。そこに真っ黒のフードとマントで顔も姿も覆い隠している奴がいた。 だが、誰も文句をいわなければ反抗しようともしなかった。なぜならば、相手は格が違う上級者だとわかったからだ。 そして、かつて天才とも言われた呪術師と同じ気配を持つものだったから、言葉を失っていたのだった。 それは、鈴も同じだった。 「嘘でしょ・・・?本当に・・・?」 まだ、目の前で見るまでは、違うと思えた。だが、もうそう思うことはできない。相手を見て確信してしまったから。 突然の再会に喜びはない。これから起こるかもしれない未来が想像できて、懐かしさより恐ろしさの方が勝っていた。 「・・・静兄さん・・・。」 まさしく、その人物。 静はかぶっていたフードを頭からおろし、誰もが見えるようにした後、あたりを見渡し、顔見知りばかりがいることを確認する。 「・・・あいかわらず、のようですね。いつまでたっても、気付かず、変わろうとしない愚か者共め。」 空に輝いていた星は曇り、光は届かなかった。 兄静の目も、まるで何か幕がさえぎっているかのように、曇って璃羽陽に見えた。 「愚か者。どうして、気付かない。長い年月の間に、そんなことも忘れてしまったのか・・・?」 静が言いたい事が何なのか。まだ鈴にはわからなかった。
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