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お父さんの顔は覚えていない お母さんの顔も、今ではぼやけてはっきりと思い出せない でも、もういい 自分には、血の繋がった親以上に、大好きな家族がここにいるのだから 父への贈り物 父の日は目前に迫っていた。 郵便配達でも、少し前からちらほら見られる贈り物。 現在、キャリーシャはそれを見るたびにとても悩んでいた。 「何をあげたら喜んでくれるんだろう。」 今更ながら、あの人の好みを知らなかった。 今日が終わったら、ラーティンスにでも相談しに行こうかなと考えるのだった。 その頃、リアルドもラーティンスやキャリーシャが言うので、父の日の贈り物とやらを考えていたが、一向に何をあげればいいのか思いつかず、ただただ時間を過ごしていた。 隣同士の部屋。本日は二人とも休みの日。 同じ動作で、同じようなことを考えて二人はため息をつくのだった。 「只今、帰りました。」 「お帰りなさい、ラーティ。」 今はまだ、父の日ではないので、荷物は預かり状態である。 なので、今日はラーティンスだけが仕事だった。 「それで。シャルドは何て?」 「まだ、何も・・・。」 「そうですか。・・・部屋に戻って着替えてきて下さい。」 「・・・では、またあとで。」 頭を一度下げて、部屋を出た。 「・・・まだ、何もつかめないか。」 その呟きは、ラーティンスの心の中での言葉と同じだった。 部屋に戻ろうとすると、部屋の前にいる二つの影。 「あれ?どうしたの?」 見覚えのある影は、つい先日に思えるが、町で見つけて拾った子、キャリーシャとリアルド。 二人は帰ってきたことを知れば、ばっと近づいてきた。 「お帰り。待ってたの。」 話があるからと、二人にそれぞれ左右の腕を取られ、部屋に押し込まれた。 何事かと思いつつも腰掛けて話し出すのを待てば、なんと父の日について聞いてくるのだった。 「つまり、何を渡せば喜ぶかってこと?」 「そう。ミルディアドさん、何かほしいものってない?」 「考えても、あの笑顔と嫌味しか思い浮かばなくって・・・。」 二人は真剣だった。キャリーシャには母の日にあげたらどうかと言えば、かなりうれしそうに、何をあげるか考えていた。リアルドも日ごろの感謝の気持ちを込めてどうだと言えば、ぶつぶつ言いながらもいろいろ考えていた。 だから、もうてっきり決まったものかと思っていたのだ。 「そっか、父の日ねぇ。」 「ねぇ。何かない?」 確かに、あの男は人に弱みだけではなく、何かをさらけ出すことはない。 長い付き合いである自分であっても、知らないことはたくさんあるだろう。 それだけ、得体の知れない、様々なことを経験し、それを隠してきた男である。 だけど、彼に関して彼等に言えることは一つある。 「そうだね。二人が一生懸命ミルドのことを考えて、用意して渡したプレゼントなら、何でも喜ぶよ。」 「それじゃ駄目なの。」 「何渡しても、きっとありがとうっていうお礼と嫌味だ。」 よくわかってるねと、苦笑する。だが、本当に喜ぶ事は事実だ。 彼はあれでいて、寂しい人であるから、素直な気持ちの贈り物なら、何でも喜ぶだろう。 「ようは、気持ちだよ。二人がミルドにどれくらいの思いがあるか。それをプレゼントに込めればいい。」 何を渡しても喜ぶだろうけれど、真剣に悩んで用意してくれたものを、気持ちの篭ったものを、作った笑顔ではきっと受け取らないだろうから。 「今の二人に出来る事で、喜んでもらえて、気持ちがこもるもの。考えてごらん。人からアドバイスを受ける事は悪い事じゃないけど、それを実行しても、思いが追いつかないと意味がないから。」 頑張ってねと、二人の頭をぽんぽんと優しく、そして笑顔で。そろそろ夕食だよと、下へ行くように仕向けた。 夕食後、二人は必死に考えた。何なら喜んでもらえるか。 そこで、二人は別々の部屋で同時に思い立った。自分達が思いを伝える事が出来る手段。 思いを届ける仕事をしている自分達だって、書かないことはない。 「手紙を書こう。」 今の自分の思いを精一杯込めて、ミルディアドに手紙を贈ろう。 近所の花屋でお花を買って、それを添えて。 先日覚えたお菓子を作って、それを添えて。 喜んでくれるだろうか。 少し悪戯を仕掛ける子供みたいにドキドキしながら、二人は同時に布団の中にもぐった。 「どうやら、決まったみたいだね。」 三人は並んでいる部屋のお隣同士。 部屋が静かになったことで、二人とも寝たことを確認した。 「ミルド、驚いて、喜ぶだろうね。」 少し楽しみだと、自然と笑みが浮かぶ。 まだまだ、自分にはやらなくてはいけないことがあるが、この日常がとてもうれしい。 父の日当日。 朝から大忙しで三人は飛び回る。ミルディアドは中に残って、来客を待っていた。 しばらくして、来客は現れた。突然、その場に現れたのだ。 「お待ちしていました。」 「そんなかしこまるなよ。お前らしくねーな。」 くくくと、笑う男、シャルド。 「一向に、つかめませんか?」 「ああ。綺麗さっぱり痕跡はないな。」 「そうですか・・・。困りましたね。・・・彼はこのまま・・・。」 「んなわけねーだろ。第一、俺はあいつを許すつもりはない。」 普段、あの二人がいれば見せることのない冷たい眼のミルディアド。 「これからも、お願いしますね。」 「どうせ、切っても切れねー縁だ。最後まで付き合ってやるさ。」 シャルドは、ナディリアが入ってきたのを確認し、一緒に出て行った。 「・・・呪いから解放される時は、はたしてくるのでしょうかね・・・。」 そろそろ仕事をしましょうかと立ち上がる。 さて。帰ってきたキャリーシャ。 すでに三人はいて、夕食の用意もされていた。 「わぁ。おいしそう。」 いい香りがすると見れば、テーブルの上にはビーフシチューが人数分並べられていた。 四人はそれを食べて、二人にとってはとうとう来たという感じだった。 「これ。」 「やる。」 二人は同時にミルディアドの元へ行き、父の日の贈り物を手渡した。 そして、恥ずかしくって、返事を聞く前に自分の部屋へと引っ込んだ。 だから、かなり驚いて目が点状態で固まっていたミルディアドの姿をみることはなかった。 「・・・ラーティ、あなたですか?」 「違いますよ。ただ、二人はいつもミルドに何かをしてあげたいと思っていたんですよ。」 二人の気持ちが篭ったそれ。自然と零れる自然な笑み。 「うれしいですね。」 「お父さんって感じだね。」 「・・・未婚で子供がいた覚えはありませんが?」 「でも、娘と息子のように思っているのでしょう?」 「そうですね。」 ならいいじゃないですかと、中身を見て下さいと部屋から追い出した。 片付けは自分がするから、贈り物を見ていればいい。 その彼の気遣いに甘え、ミルディアドは部屋に戻り、その贈り物を開けたのだった。
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