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風が当たり一面を吹きぬける そして、風に乗って聞こえてくる唄 その唄にあわせて、力をつけて育っていく植物 唄が聞こえてくるのは、すぐ近く そこにいるのは、翼を広げ、みどりの衣を身に纏った女がいた
みどりの風が運ぶ唄
今日も、配達屋は大忙し。 何せ、地域がどれも端から端へと離れていて、移動時間だけで時間がかかる。 「じゃ、行ってきます。」 元気よく竜のアーシャニアに乗って空高く飛んでいったのはキャリーシャ。 それに続くように、少し危なげに空高く飛んでいったのはチャチェリアとリアルド。 そんな二組を見送って、出てきたミルディアドに挨拶をして出て行くラーティンスとエルシャンド。 今日も皆、仕事の為に飛んでいった。
いつものように空間を移動して時間を短縮するラーティンス。 出てきた場所はサンタの村。キャリーシャからシャーディルとシャリーヌ宛の手紙を届けるためだ。 「あ、ラーティンス。数日ぶり。」 「いらっしゃい。」 家に行けば、迎えてくれた二人。だんだんと、一人前になっていく二人を見て、自分ももっと頑張らないとと張り切るキャリーシャを思い出す。 数日前に会った時よりもしっかりしているように見えるのは、間違いではないと思われる。 たった数日。それでも、この二人は変わっている。 やはり、その数日間にあった試験のせいだろう。 「これ、手紙のお届け。」 「ありがとう。」 受け取ったのを確認し、仕事の後に時間があったらねと、再びラーティンスは飛んでいった。 次に向かうのは、またキャリーシャから今度はサーシャンイールとルーナムーン宛の手紙。 以前会った時から、少し変わったキャリーシャ。だけどたまに思い出す孤独から、手紙を書くようになった。 そして、いつもそれを届けるのはそこへ行く事が可能なラーティンスの役目となるのだ。 いつものように、空間を飛んで二人がいる扉の前まで行く。 力の波動を感じてか、空間から抜け出せばルーナムーンが迎えてくれた。 「いらっしゃい。」 「今日も、キャリーシャからですよ。」 「後で読んでおくわ。だから、また後で返事を取りに来てくれる?」 「いいですよ。」 サーシャインにはお土産でこれをと、キャリーシャが今朝作って届けるように頼んだクッキーを包んだ袋を渡した。 二人で食べて下さいと、おいしいお茶を用意して、次の配達へと向かった。 次はシャルド宛の封筒だ。 なにやら、ミルディアドが何か緊急で届ける必要のある書類が入っているのだとか。 きっとまた、次の仕事で必要になったものを頼んだというところだろう。 今現在いる場所として連絡を受けている第三砂漠へと向かう。 空間を移動して出てきた場所は、ちょうどいるとされている集落のあるテントの一つ。 この中に、シャルドとナディリアがいるのだ。 「来たか?はいれはいれ。」 通常なら、ナディリアが確認して中へと通すが、来る事がわかっているし、時間指定もしているので間違いないという自信と信頼と、ラーティンスが持つものを感じたからこそ警戒もせずに、入れというシャルド。 きっと、ミルディアドの場合もこのような感じだろう。 シャルドが気を許す相手は少ない。だが、気を許した相手には警戒する事もあるが、側へと近寄ることを許すのだ。 シャルドの恐ろしさを知りながら、シャルドの事をしっかりと理解できていない者達は、ナディリアやシャルドによって再起不能に陥るまでやられる。 シャルドの持つ権力や能力、情報を手に入れようとする欲望で近づく者が多いから、毎日気を許すことなく警戒する事もしょうがないことだろう。 「はい。頼まれた書類です。」 差し出すは、一つの封筒。中身はたった数枚の紙。いったいこれに何が書かれていて、何に使われるのかはわからない。一つわかるのは、仕事で、きっと正当なものではないということ。 「確かに、これだな。サンキューって伝えておいてくれ。」 「わかりました。では、次へ行くのでこれで。」 礼をしてテントから出る。一度振り返れば、頭を下げるナディリアの姿が見えた。
他にも数件周り、最後の一通となる。 帰りたいのに帰れなくなり、自由という名の翼を失い、レプリカの翼と成り果てたものを持つ聖霊。 清い心で唄う彼女の歌があって、天界の天使が生まれ、育っていく。 彼女の名前はエルーリョ・ディーディア。唄が得意で、その唄には力を持ち、命を芽吹かせ、温かく包み込んで見守り、癒す。 それが天使を育てるのに必要だからと、彼女は連れてこられた。彼女の意思を聞かずに。 そして、ここが彼女の家となり、帰る場所として与えられた。 その代わりに、ここから出られないと言う代償を背負って。 彼女自身がそう望んだわけではない。望まずに決められた運命。 確かに、自分の唄を必要としてくれるのならいくらでも唄う。天使と一緒にいる事は悪くない。 ただ、本来いた場所へ戻りたいという思いだけが叶わない。 「こんにちは。エルーリョさん。」 天使の卵を宿す天界の神木の枝に腰掛けているエルーリョ。 ラーティンスの存在に気付き、にっこりと微笑みかけながら下へと降りた。 別に、ラーティンスも上へとあがれるが、木を傷つけてはいけないし、誰かと話をする時はなるべく下がいいという相手の意見の尊重の為に大人しく下で待っていたのだ。 「今日も、届けてくれたのね。ありがとう。」 ラーティンスが渡したものは、彼女が本来いるべき場所からの手紙。 エルーリョが世界で一番愛する大切な人からの手紙。 「いつも、本当にありがとうね。」 彼女の事情を知らなければ、天使に見えなくない。 彼女のうれしそうな笑顔を見て、やはり配達屋はいいものだなと思う。 「今日も、聞いていくのかしら?」 「そうですね。ここが最後ですし。せっかくですから聞かせてもらいます。」 いつも、ここで一人現れる観客。 今は、天使の小さな子供だけが観客となり、他のものへは唄わない。 だというのに、ラーティンスにだけは観客としておいてしまう。 きっと、彼の事は知らないが、同じようなものを持っていると思ったからだろう。
『 全ては必然。貴方と出合ったあの日さえ。何度も何度も巡り合う。 何年も変わらず定められたもの。ただ、ずっと側にいたいと願う。 神は人に希望を与え、知恵と勇気と夢を与え、最後に愛を与えたの。 それから神は人を愛し、人もまた神を愛した。 貴方達も愛するのよ?決して疑って嫌わないで。中身をしっかり見てあげて。 応えはいつも貴方の中に。自分を見失わないで。自分を嫌わないで。 そして、少しでも相手を愛してあげて。そしてはじめてわかるから。 みどりの風が貴方を包む。私と同じみどりのそれ。いつも見守り側にいるから。 何度も何度も巡り合う。必ず最後に辿り着く。 どんな場所でも状況でも、私には貴方だけ。貴方達もまた、わかるはず。 愛することを知れば、わかるはず。愛する素晴らしさを知るはず。 そして、巡り合うわ。必然の中にかすかに残された糸を手繰り寄せれば。 大切なひとへそれは繋がっているから。 何者にも縛られないで、自分らしく真っ直ぐに。そうすれば、また会える 』
エルーリョの思いが込められた詩。 会いたくても会えない大せつな人を思って作った詩。 それはやわらかく包み込むような風に乗って運ばれる。 ラーティンスには、彼女の切なく寂しい思いが伝わる。 それと同時に、自分のように縛られず、いつまでも純粋な心で平和を愛し、大切な人とめぐり合ってほしいという願いが込められている。
「そろそろ、戻りますね。夕食の用意もしないといけませんから。」 「今日も、付き合ってくれてありがとうね。」 また、手紙が書けた頃に来ますよと言い、ラーティンスはその場所から姿を消した。 エルーリョと、今日生まれたばかりのエルーリョの腕の中で眠っている天使の赤子に見送られながら。
自由の翼を失った鳥は飛べなくなった。 だけど、いつも自由にあの高く蒼い空を見上げ、再び飛べる事を願い続ける。 そして、いつも風に乗せてあの人へと伝わるように唄を忘れずに歌い続ける。 ほのかに鳥の羽と同じみどりの色を持った風が、鳥を支え、話し掛け、鳥の言葉と思いを載せて流れ行く。
あとがき みどりの日ということで、みどりというキーワードで作成したお話。 またも、季節に合わせたお話はイージュリカです。 イージュリカ、本編よりこっちがメインかもしれない状態だね…。 でも、必要なお話なので、いいのだと、事故解決。 自由を失っても唄は忘れなかった彼女。 その唄と手紙が、彼女と大切な相手を繋ぐもの。 どうか、届きますように。 そして、貴方の願いもまた、届きますように…。 |