記録帖 六  魔女の宝石その六





 京はいつものように館まで帰ってきて、気配を殺したまま、扉に手をかけて入った。

「・・・只今、帰りましたよ。」

いつものように同じ言葉をかけて、魅琴と依頼人に任務を終えてきた事を知らせる。そう、いつもと同じはずだった。

「もう、何をやっていたの?!実行時刻から何分経っていると思っているの?!」

「そうですよ。警察では実行時刻になったと同時に獲物は取られてしまったと言って、まだ遠くには行っていない、そう言って捜査で走り回っているにもかかわらず、いくらなんでも・・・。」

京は『あれ』と言う感じで時計を見やる。時刻は実行時刻に指定した時間より一時間以上経っていた。

 闇野との時間で、かなり時間がくるってしまっていたようだ。

無駄な心配を掛けてしまった事に気付き、すみませんと言うしかなかった。

「で、任務は成功だったわけ?」

「ええ、少々厄介な方がいらっしゃいましたけどね・・・。」

その言葉で、魅琴は何が起こっていたかを理解した。

そう、この空気のように存在をつかめない京を足止めできる人物はあの男だけ。

「いったい何があったんですか?」

「別に、何もありませんよ。はいどうぞ、これが依頼の品です。」

話をそらすように今回の仕事で取ってきた獲物を取り出して渡す。

「あ・・・。」

「間違いはないかだけ、確認しておいて下さい。それが本物かどうかわかるのは、あなた自身だけですから・・・。」

意味がわからないと首を傾ける学だったが、何かに反応するように目を石に向けた。

「・・・どういう事でしょうか・・・。」

「何かあったということは、それがあんたの持ち物だと証明する事が出来たのではないのですか?」

「ただ、何か痺れるようなものが身体に走っただけで・・・。」

「それが、石が貴方を認めたという事にはならないのですか?」

今思うと、学はこの意思に関してあまりにも無知すぎた。

強大な魔力を制御して使いこなす事が出来る為の石としてしか、知らないのだ。

「あの、知っていたら教えて下さい。これの事を・・・。」

この人は祖母から聞いて知っている。だから、仕事も彼に頼むようにメッセージを残していた。学はそう確信していた。

そして、この非常識な人を認めていたから、意地を張る事もない。知らないのなら教えてもらえるまで聞くまで。

相手も知らなかったら真実と言う名のものを捜すだけ。

だが、この人は確実に知っているとわかった。

だからこそ、自分が後継者として知って、認めたからといって、そう簡単に彼が仕事をするとは思えない。

この仕事の後にまだ何かあるから仕事を引き受けたのだろう。そう考えていた。

「・・・やはり、貴方はあの人の孫ですね。私が伝言者として確信しているのですから。

そうでなければ、私は後継者としても、貴方を認めませんでしたよ・・・。」

学の目を見て、学が何を言いたいのか理解した京は魅琴に何かを取ってくるようにと指示して、あの席に座った。

「さぁ、お話しましょう。伝言者が今は亡き人からの真実を貴方に継承させる為に。」

夜はまだまだ長い。

 

 

 客の気配のないこの館に一人の訪問者が現れた。

「いらっしゃい。」

「始めまして、大路 魅琴さん。和島 京さんはいるかしら?」

初対面のはずだが、真名を何故か知っていて、だけど、警戒するに値するような気配はなく、彼女、冨倉 璃那と私達は出会った。

 それから何十年と経過し、自分達と違って彼女はたとえ魔女と言われる血族でも歳を取り、今では孫までいる始末。

そんな時、彼女から依頼をされた。

「あのね、京ちゃん・・・。私はあとそう長くないと思うの。いえ、わかるのよ。もってあと10年ちょっとでしょうね。

実は、私のこの力、継承するものが出来てしまったの。」

「それはそれは・・・。貴方の願いを踏みにじってしまわれたのですか。神もいけない人ですね。」

京は頼みがあるのでしょう?聞きますよといいながら、冗談の笑みをなくして真剣に向かい合った。

「実は、この数年の間に、これ、この魔女の宝石が外に出るの。

欲にまみれた者の手によって外へ出される。これは魔女の予言。だからはずれない。

だから、家から行方不明になった後、監視下にいれて見ていてほしいの。」

魔女の予言は真実。彼女の言う通り、数年の間にあの石は行方をくらました。

そして、彼女はもう一度、後継者になる者に言葉を残すから、その時に依頼を受けてほしいと伝え、それ以来彼女はこの館へ来る事はなくなった。

 だが、京は彼女の約束通り、石を見張った。今誰の手にどのような状態であるかを監視しつづけた。

いつか、この石を必要とし、現れる後継者が来るまで。

 

 「そして、貴方が現れたわけですよ。」

「それで、私は貴方の目にとまって依頼を受けてくださったわけですね。」

その時、ふと思った事がそのまま口に出てしまった。

「もし、私がここへ来なかった場合はどうしたんですか?」

「その時はその時。貴方が亡くなるまで、『約束』が続いているので、監視を続けておきますよ。」

 

そう言い、その石の説明をしましょうと、石に手を沿えて話し始めた。

「まずは、石に自分が主として認めてもらわなければいけないのです。」

「石に認めてもらう?」

どうも意味がわからないと首を傾げる。

それを見て、まぁ誰でもそういわれたらわかりませんよねといいながら、話を続けた。

「石は認めた相手に対しては何らかの反応を示します。

先ほどの痺れるような何かがきっと認められたという証明だと思われます。」

そして、認められたら後継者として契約の名を石に記憶させる為に儀式をしなければならないと京は言った。

これが、祖母から頼まれた、本当の依頼だという。石を取り返して手元に戻す依頼をするのは学自身で。

「ですから、私が契約の証人となりましょう。」

そう言って、腰を挙げ、ついてくるように言った。