記録帖 五  魔女の宝石その五




 怪盗の顔になった京は予告10分前に、すでに屋敷内にもぐりこんでいた。

どれだけの警備や設備をしても、京には何でもないのだ。

だから、軽々と侵入が出来、今まで姿を見られたこともあまりない。

見られてもこの服装と髪の長さと色ぐらいだろう。顔を見られる事はない。

高さや角度で、この身長がはっきりと知られる事もない。

 京は予告時間どおり獲物を盗み取り、警察の包囲を抜け出して行った。

そして、現在いるのは近くの建物の屋上。念のために、警察が離れるまで待つ。

もし、裏通りへ行くのを見られたら、きっと彼等は捜索として足を踏み入れるだろう。

そうしたら、周りの店にも迷惑をかけるが、そこへ来る表の客に迷惑をかける。

それだけは避けなければいけないのだ。

 そんな時だった。

 

 

  キュイン――――――――

 

 

背後にある気配に気付き、よけた。だが、それは京の頬をかすり、赤い線を作ってしまった。

京は背後にいるのが誰かすぐにわかった。

自分にこれほどまでに正確に銃を打つ事が出来る相手は一人ぐらいだ。

「お久しぶり・・・というべきなんですかね?

・・・しかし、今夜に限って貴方に会うとは・・・思いもしませんでしたよ・・・。」

京は相手をにらむように見る。相手は別にそんなものは怖くないといたって平常。

「確かに、久しぶりだな。こっちも、あれが最後でもう二度と会うとは思っていなかったけどな。」

相手は相変わらず銃を京に向ける。京も先程から細いナイフを取り出して構えている。

この相手には扇子よりこちらの方がいいのだ。

それだけ、相手の技量、能力、危険性を数回の対峙であったが、感じ取っていたのだ。


それに、同じ『力』を使って、被害を広めたくはなかったのだ。

「それで、今夜は何が仕事内容なんですか?」

「そんなもの、簡単に教えられるわけがないだろう?

仕事内容は極秘。依頼人のプライベートを守る事も、俺達の最低限のマナーって奴だからな。」

そう言葉を交わしている間に、銃弾が7発、ナイフは10本飛び交っていた。

お互い、すぐに次の弾とナイフを用意し、隙を見せない。

「内容はどうにしよ、仕事のだいたいの内容が重なった・・・という事ですか?」

「今のこれだと、そう言うことになるんじゃねぇの?」

相手の銃をよけて、右手で地をついて素早くよけて体制を立て直す前に攻撃が来る前にナイフを投げて・・・。

相手も引かず、京もひかず、会話が交わされる中、攻防は続いた。

 数分の時間、その場所には銃弾とナイフが飛び交い、これ以上は下手にしても勝負がつかないと判断して二人は攻撃を同時に止めた。

「まったく、相変わらずですね。その腕がうらやましいですよ、闇鬼神さん。」

「あんたも相変わらずで俺はうれしいね。あんた程、なかなか俺の仕事をスムーズにいかせない奴は滅多にいないからな、京和。」

すでに、お互い元の位置に立って、話し合いの状態になっていた。

「私は、これを予告した通り、もとの持ち主へと返さなければいけません。

それが依頼の内容ですからね。出来れば、これ以上は貴方とはやりあいたくはないのですが・・・。」

「かといっても、俺もそのあんたが取ってきたものに用事があるんでな。引けないんだよ。」

闇鬼神と言われる相手はそう答えた。そして、続けて言って、どうやら、これのいわくの話で依頼主が持ってきてほしいと頼んだらしい。

「いわくの話・・・ですか・・・。」

「俺は別に、そんなものに興味はないけどな。で、俺はそれを持ち出して、届けないといけない。」

「しかし、私も、これを届けないといけない。」

お互い、口元に笑みを浮かべて、決裂と言い、再び戦闘態勢に入った。

 闇鬼神は月の光を反射して輝きを放つ銀の銃を取り出し、京は右手に扇子、左手には4本の細身ナイフを取り出し、お互い構え、まるで合図があったかのように同時に一歩足を踏み出して攻撃を仕掛けた。

 暗い闇夜を照らす月が二人を見守っていた。

これだけの騒ぎになっているにもかかわらず、怪盗を追っていた警察は来る気配がない。

毎度の事ながら、これでいいのかと警察の事を心配してしまうが、今は出来れば、この男がいるからきてほしくはなかった。

なぜならば、この男は暗殺も手がける仕事人だからだった。

任務の為に人を殺す事を何とも思わない男。全て、これはゲームとして楽しむ男。

警察が未だに気付かないで今の今まで何件もの暗殺をやってのけた危険な男でもあった。

真名もわかっている。闇野 神鬼。闇の野に立つ、鬼神と、そのままの意味を仕事人の名前で名乗っているのだ。

どこでどのように暮らしているかは不明。

京も真名と変装もそこそこ出来て、声色もいくつか変えられる事。そして、自分と同じように、あの裏通りのどこかに潜んでいる事。

闇野は銀の銃を撃つ。容赦なく雨のように弾丸をその場所に放つ。

「まったく、穴だらけにするつもりですか?」

「建物をではなく、あんたをだけどな。腕が鈍ったらしく、なかなか当たらないがな。」

と、言ってのける。余裕というものが彼にはあるのだ。

いつも、余裕を持って、絶対に安全な場所に立って、安全を確保する。

確かにそれは、自分を含めた仕事人にとっては必要な事だが、この男はどれだけ追い詰めても、その余裕が消えることはなく、新しい安全を確保して姿を消すのだ。

 それに、彼が持つこの銃も問題があった。自分が持つこの扇子同様に、通常考えられない現象を起こす事が出来るのだ。

 闇野の持つ銃は、電気が流れるように、真っ直ぐ目標にいかず、雷のように空気の抵抗で少し屈折しながら目標の場所へといく。

だから、少々予測が難しいのだ。

それに、少し返れば、電気のように光を発して触れたものを痺れさせる弾以外にも、その場所を溶かしてしまうほどの熱を一瞬で作り出して目標場所に弾の形に穴を開ける事も出来る。

かちかちに凍らせる事も出来る。

四大元素とも言われる自然界の力と、それにつぐ自然界の力を込めて撃つ事が出来る特殊なものなのだ。

 そして、京が使用する扇子は、同じように自然界の力を利用するもの。

呪言葉を言って扇を扱うとその通りに空間にそのエネルギーを利用して相手を抑える事も身を守る事も出来る。

細身のナイフはあまりにこのような不思議な力を見た一般人、とくに警察が理解できなくならないようにナイフを使うようにしている。

狙うのはそれなりに出来るから扱いやすいといえば扱いやすい。

 そんな二人が、お互い自然界のエネルギーを利用して攻防を続ける。

そして、一瞬、たった一瞬でこの勝負は一時終わった。

 

   ザァァァ――――――――

 

風が京と闇野の長い服の裾をなびかせる。

「・・・一瞬が命取り、まさにその通りというものだ。」

京は闇野の背後に回り、身長差をフェンスに上ることでなくし、闇野の身長にあわせてかがんで、喉元に扇子を突きつける。

「・・・今回は、あんたの勝ちって事にしておいてやろう、京和。」

「それはうれしいですね。貴方がそんなに簡単に負けを認めるなんてね・・・。」

確かに、数回とはいえ、彼のこの諦めのよさには可笑しく思える点がある。

「ふっ・・・信用ねぇなぁ。しょーがねーけどよ。

俺は、約束は律儀に守る男なんでな、今回はたとえ逆転できても、この状況はゲームの負けを意味するからな。

ただ、それだけだ。」

少し納得できない部分もあったが、まぁいい。これ以上邪魔しないというのならば、それに越した事はない。

「それに、今日は先約があってな・・・。時間なんだわ・・・。」

それが、一番の理由らしい。信頼第一のこの仕事を放棄してまでの約束。

それは、彼のある意味表の顔とも言えるものに戻った時の彼の時間。

「じゃーな、怪盗京和殿。次は容赦しないからな。」

そう言い捨てて、闇野は闇夜の中に姿を消した。

「・・・私も容赦しませんよ。

依頼を成功させる為にも、へまをするわけにはいきませんからね、仕事人闇鬼神さん。」


京も獲物を確認して、待っている二人の元へ急いで帰った。

これ以上待たせて心配させるわけにも行かなかったからだ。