記録帖 四  魔女の宝石その四



 あの日から1週間が経った。

任せておけば大丈夫だと思う反面、一体何をやっているのかだんだん不安になってくる学。

あの日から、館は休館の札を下げており、あの二人とは会っていないのだ。

 かといって、学には暇があるわけではない。これでも大学に通う学生なのだ。

大学なので、多少時間が出来ても、毎日毎日開けられるほどあるわけではない。

だから、今はもうしばらく待つ事にした。

その矢先だった。新聞に、大きくある事が書かれていた。

ここ最近、姿を見せなかった盗人が現れるらしいのだ。

「・・・予告状って奴だよな・・・。まだいたんだ・・・。」

別に自分にとってはどうでもいいのでそのまま次のページを読もうと思ったが、視界に入ったある言葉で手はめくるのをやめた。

「嘘・・・だろ・・・?本当に・・・?」

信じられない。まさにその心境にいる彼。それもそうだろう。新聞に書かれた予告が、自分宛に送られた物であったからだ。

 

 文月の師走と葉月が交わる日、犬が吼えた頃、

十年前に消えた魔女の紅き輝きを所有者なるべき者の元へ届ける為、頂きます。

 

そう、書かれていた。

どうしてわざわざわかりにくいようなわかりやすいような文面なのかは謎だが、十年前に消えた魔女の輝きとは、自分があのいしまという少年に見つけ出して取り戻してほしいと頼んだ物の事だ。

しかも、所有者なるべき者とは自分の事だから、どうしてこの泥棒が知っているのか、学にはわからなかった。

 学はこのまま大学は欠席すると連絡を入れて、走って館まで言った。彼はきっと、この事を知っていると思ったからだ。

 

 

 館の前まで来ると、今まで休館と書かれていた札が開館と書かれていた。きっと、自分があれを見て来る事を予測していたのだろう。

 学はゆっくり扉を開けて、中に二人がいるかどうか見た。

「あら、いらっしゃい。待っていたわよ。いしまはあそこよ。」

魅琴はそう言ってあの奥の席を指差した。学は許可されたのだからと、そのまま真っ直ぐ歩いて行って、席に座った。

「どうやら、あの予告を見たようですね。」

楽しそうないしま・・・いや、京だった。

「どういう事なんですか、あれは!」

もう何がなんだかわからないと言う感じで、訴える。それを、別になんともないように答える京。

「あれは、依頼者へ、仕事を行う日をお知らせする物なんですよ。」

「それはわかっていますよ。今時、あの盗人ぐらいですよ、あのような予告状を送りつけるのは。」

会話としては成り立っているようだが、京が言いたい事を学は理解できていなかった。

あれは盗人が予告した物だと思って、その盗人が京だと思っていないからだ。

だから、「どうしてその盗人がこの件を知っているのですか?!」と言うぐらいだからだ。

それには、さすがの京も少し反応を見せた。

彼ほど頭がよければ、理解できるだろうに、彼は根本的には理解できていなかったらしい。

「ですから、私があの貴方がいう『盗人』ですよ。」

「そうです、盗人・・・って、え?!」

どういう事ですかとすぐさま言う勢い。一週間前の彼より余裕がなくなっているように見える。

「まぁ、落ち着きなさいよ、学さん。はい、お茶。」

やってきた魅琴は立ち上がった学を抑えて座るように勧めて、お茶を出した。

「ですから、あの予告は依頼人に仕事を実行すると言う事をお知らせする物なんですよ。

私が、あの盗人ですから。盗人と知り合いというよりも、本人なんですよね。」

にっこりと笑われても、こちらとしては、犯罪者に犯罪をするように頼んでしまったのかと、これからどうしようと焦ってしまう。

「大丈夫ですよ。私は悪い事はしていませんから。

不正によって何者かの手に奪われた物を取り返すのが仕事ですから。そうでしょう?

それに、私も警察や違法者の為にわざわざ予告なんて真似はしませんよ。

あれは依頼人にいつ仕事をするかのお知らせとして、警察を動かしているだけですから。」

「確かにそうですが、やはりそれは・・・。」

学は大分己を取り戻してきていた。

そして、自分はどうして彼があの盗人だと知らされてしまったのだろうと困り出した。

しかし、まさか、あの世間を騒がしている正体不明の怪盗と名乗る盗人が目の間にいる少年だとは思わなかった。

確かに只者ではないが、同じだとは思わなかったのだ。

それに、自分のような依頼人に知らせるためだけに送りつけられるという予告状。

それが、どれだけ警察を振り回しているのか気づいてもらいたい所だ。

「第一に、私はこの世に存在しない者とされていますから、世間一般の法は関係ありませんからね。」

確かにそうだと納得している自分。自分もそれが当てはまると思うし、何よりあの祖母の知り合いと言う時点で一般的なものだと思ってはいけないのだ。

「で、あれが私から行動起こしてお届けするというお知らせなんですが、貴方は本日、どこにいますか?」

急に聞かれても、このまま帰るつもりはないので、「あ、ここでお待ちしてます。」と答えた。

「わかりました。それでは今から用意しますよ。開始は犬が吼えた頃、午後8時からなんですからね。魅琴、後をしばらく頼みますよ。」

「分かっています。お気をつけて・・・。」

魅琴は軽く一礼をし、主が視界から消えて頃、身体を起こした。

「さて、貴方は彼の仕事の様子を見て、待っている?」

「見れるのですか・・・?」

「はい、だって、私は何かあったときに対処するようにここで待機しているのですから。」

どうやら、彼女も共犯者らしい。一緒にいる時点でそうなのだが、行動も起こすらしい。

 今更ながら、本当にこれで良かったのかと思ってしまう学だった。

 

 

 そして、予告の一時間前。館の前に先程の白い和装と変わって黒い和装に着替えた京を仕事へ送り出そうと二人が立つ。

「それでは、行ってきますね。」

京が二人に背を向けた時、今までの間に疑問に思っていた事の一つを尋ねた。

「どうして、盗人・・・怪盗なんですか。どうして、怪盗京和と名乗って、警察を欺くのですか?」

京は振り返らずに答えた。

「京和とは真名を少し変えたものでしてね・・・。別に、真名自体を使っても良かったのですが、さすがにそれはね・・・。」

「名前の事ではありません。話をそらさないで下さい。」

京は別に話をそらすつもりではなかった。ただ、真っ直ぐな彼に自分の姿をそのまま見てもらおうと思っただけ。

「私が、どうやっても人助けをしてもそれは人かれみれば犯罪という行為になるからですよ。

たとえ、相手が違法者で裁かれるべき相手だとしても、それを私は裁く権利もなければ、その相手から何かを取る権利もない。本当の持ち主だけが、その権利を持つ。

だが、この世ではそれは罪となる。それを代行して被るのが私。

奇麗事だけでは、今の世では駄目なんですよ。」

「だからといって・・・。」

「気にしないで下さい。これは私が決めた道であり、自分自身を保つ方法でもあるんです。今日会ったとき、言いましたよね?私はこの世の者ではないと。だから、この世にいないものがこの世で地を踏んで立つためには自分を見失わずにいられる何かがなくては駄目なのですよ。」

京はすでに怪盗としての状態に入っていた。小さく行ってきますといい、黒の和装を夜の闇にたなびかせながら消えていった。

「お気をつけて・・・。」

魅琴が言った言葉はきっともう聞こえていないだろう。

 二人に見送れれて闇に消えた怪盗は、立てた作戦通り、取り戻して戻ってくるだろう。そう信じたい。何もないと。

「・・・彼、本当に大丈夫でしょうか・・・。」

心配ないと思っているが、どうしても心配してしまう。

この世にいないものだと言っても、今はこの世に生きている、自分と同じ生物には代わりがないから。血を流せば流れるし痛いだろう。

「大丈夫よ、京はね・・・。今まで、ミスを犯した事はないんだから。」

だから正体がばれていないんでしょといたずらっぽく言いながら、中に入ってお茶を飲んで待ちましょう、そう言って二人は中に入った。何事もなく彼が帰って来る事を祈って。

 今の自分達には、彼の無事を祈るだけしか出来ないのだから。