記録帖 参  魔女の宝石その参





「私は、昨日貴方に会い、そして彼女の血縁の者だと知り、そして力を受け継ぎ、あれの所有者となりえる者だと気付いた時、良かったと思いましたね。

10年前の段階では、もし、貴方が私の思うような人ではなかったら、この依頼は彼女の最後の意志であって願い出あっても、断っていたでしょうね。」

どうやら、依頼を受けるのは過去にもう一つの依頼があったからという偶然のような必然だけではなく、人間性も見られていたようだ。

「では、どうして私ならいいと思っていただけたんですか?依頼を受けて下さると言う事は、少なからず、私と言う存在を認めて下さったって事ですよね?」

「まぁ、そうなりますね。簡単に言うと、貴方が彼女と同じ目と雰囲気を持っているからですね。

貴方が彼女の血縁者で受け継ぐ者だと気付いたものでもありますしね。

それに、貴方は過去に見てきたたくさんの人々の中で、私が気に入った人達と同じ気配を持っているのですよ。

これが、必ず依頼を遂行してあれを届けようと思った私の意志ですね。気に入った相手の依頼しか受けない私ですから。」

「それは、きっと光栄な事なんでしょうね。」

ここを探し当てるのも苦労した。

きっと、気に入らない人間には店の名前と簡単な商売目的といしまという名前ぐらいしか名乗っていないのだろう。

下手すれば、何者か正体も表さずにその日限りと言う人もいたのだろう。

だから、あの情報屋へ言って有名だと聞かされてもしっくりとこなかったのだ。

有名なはずが、知られていない。それは主人の気まぐれのような好き嫌いによって判断されて切り離されているから。


 いしまはただ、見た目で好き嫌いを決めているわけではない。

簡単な会話の中での相手の本質を見極め、気に入ったら近寄る事を許すのだ。

大体、いしまが気に入らない輩はいしまの正体を暴いたり、いしまが持つ情報を横取りしたりなど、よこしまな思いや欲の塊の奴ばかり。

 まぁ、この裏ではほとんどが知られている。

けど、情報屋以外はあまり話そうとしない。きっと、情報を漏らさないというのが条件なのだろう。

だから、有名と言う言葉に反して、知られていないように、ひっそりと存在する。

表だと、ほとんどこの館の事は知られていない。自分が魔女の血族だと言う事も知られていないが・・・。

 いしまは、みとが入れてきたお茶を人と口飲んで、再び話を再開した。

「さてと、これでやっと動く事ができますね。」

「あ、私が依頼したから・・・。取り戻してきてくれるのですね?」

「依頼、受けましたからね。気に入ったのだから、ね。」

いしまはそう言って、みとに紙とペンを取るように合図した。言葉はなくても、ある程度二人はわかる。そんな相手がいる事に、学は少しうらやましく思えた。

「学さん、これに契約としてサインをしていただけませんか?」

学はいしまによって手渡された紙とペンを受け取り、すらすらと名前を書き入れる。

書き終わった後、ペンはみとに渡し、紙を渡そうとした。その時だった。

紙は一人でにくるりと丸まって、主人のいしまの手に収まったのだ。

「何て顔をしているのですか?これぐらい、魔女の強大なる力を手に入れた貴方には造作もない事でしょう?」

確かにそうだ。だが、学はその事に驚いているわけではない。いしまが魔力を使った事だ。

彼は魔女の血族ではないはずだからだ。祖母の知り合いだとしても、普通このような事はありえない。

「まぁ、無理もないですね。魔女や魔法使い、魔術師といった妖かしといった関連の血族ではありませんからね。

かといって、狐等の力の持つ霊が取り付いているわけでもない。」

相変わらず読めない奴だと思う。

「まぁ、いつかお話しますよ。私が何者なのか。そして、ここに存在してこのような裏のさらに裏といった事をしているか。」

そう言って、いしまは座っていた椅子を下げて席を立った。学も、みとに目で立つように合図されたので、向かい合うように机の側に立った。

 いしまは懐から、綺麗なよく手入れされている少し古い扇を取り出した。

よく使い込まれていると思う。しかも、ただ優雅に舞うだけではなく、何か別の意志を持っている。そんな気がした。

「契約完了、この依頼、受けさせていただきます。」

改めてと言う感じで、いしまは学に一礼した。そして、続けて何かの儀式のように言葉を続けて言った。

「我、仮名、『いしま』。この名に近い、貴方の依頼を受けましょう。そして、必ず貴方の手にあの紅い石を納める事を誓いましょう。」

いしまは扇をパッと広げて、腕を伸ばして学に向けて、言葉を発する。

「契約の証として、我、真名を貴方に預けましょう。我真名、和島 京なり。」

「我主、遣えし者。真名、大路 魅琴。」

みとと名乗っていた少女も自己紹介のように続いて真名という本来の名前を名乗った。

 三人の足元には魔法陣のような模様が淡い光を放って現れ、周りから空間が切り離されたように空気が渦巻き、風が吹いて全ての違和感を消し去った。

一種の魔術と言う名の儀式。

お互いの約束と言う名の契約を一方的に破らない為の誓い。

 いしまもとい、和島 京は、パチンと扇をしまい、一度目をつぶってゆっくりと開き、学をもう一度見た。

「これで、私は貴方に誓って依頼を遂行し、必ずお届けしましょう。」

「あ、ありがとうございます・・・。」

学には先程の儀式に意味がほとんどないと言う事はわかっていた。だからこそ、彼等が儀式の名を使って、真名を名乗ってくれた事が少しうれしかった。

「学さん。私共は貴方を学さんとお呼びしますので、貴方もお好きに私達の事を呼んで下さい。」

「しかし、真名は・・・。」

真名と言う物は、いしまのような者にとっては命を落とす危険もある重要な名。

いしまの本来の本来ならば他人が知ることは許されない領域に入る名を名乗ってくれてうれしいが、それだけではなく、呼んでいいというのだから、さすがに事が大きいので慌てる学。

「別に、そこいらの術者には私の真名を知って束縛しようと、使役しようと、抵抗すればあっちが倒れるから問題はありませんよ。

それに、私はここで呼ぶ名前としてですあから。彼女も、真名で呼んでいましたからね。」

「それでは、京さんと魅琴さんと呼びます。」

「そうして下さい。彼女の形見の貴方が、私達に気を使う必要もありませんからね。」

「確かにそうよね・・・。」


三人は少し冷めたお茶を飲み干し、和菓子を堪能しながら、一時間ほど、思い出話をしたり聞いたりしていた。