記録帖 弐  魔女の宝石その弐




次の日、昨日と同じ時間に幻和館の扉が開き、ウィングと名乗った青年が現れた。

「いらっしゃい、いしまはあそこよ。後でお茶をお持ちするわ。」

みとは平然として対応し、奥に消えていった。きっと、あっちが調理場で、お茶を用意しに行ったのだろう。青年は、みとが迎えたし、昨日と同じあの場所に館の主人であるいしまもいるので、そのままそこまで歩いて行った。

「お待ちしておりましたよ、ウィングさん・・・いえ、桐島 学さん。」

一礼して席につくなり、面と面で向かって言っていないはずの本名を言われて、さすがの彼も一瞬驚いて動きを止めてしまう。

「ど、どうして・・・その名を・・・。」

やっと出てきた声も震えていて、明らかに動揺しているのがわかる。学は名前を知られている時点で、ある程度自分の事を知られてしまっている事に気付いたからこそ、同様が表に出てしまったのだ。

「クスクス、別に悪いようにはしてませんよ。第一に調べたわけでもありませんしね。」

そう言いながら、真っ直ぐ視線をそらす事を許さない目で相手を見、話を続けた。

「私は、貴方の祖母と知り合いだったのですよ。彼女から、いろいろ貴方の事も含めて血族の話も聞いていますからね・・・。」

相変わらず妖しげな笑みを浮かべて話を続ける。学は今の彼の言葉によって、少し冷静さを取り戻していた。

祖母が関わっているのなら、悪いようにはならないと。やはり、祖母の遺言通り、ここに来て、彼に『依頼』をして間違いはなかったのだろうと。

「私も、貴方が彼女と同じ血族で、依頼内容に入っているあれの受け継ぐ者だと気付かなかったら、きっと依頼を断っていた事でしょうね。やはり、貴方は彼女と同じ、目と雰囲気を持っているから。」

何も言えなくなってしまっている学。それもそうだろう。まだ、はっきりと依頼内容と、自分の事、血族の事、全て話す覚悟をつけて今日を迎えたと言うのに、相手は自分が言おうとしていた内容の事は全て把握していると思われる。

やはり、祖母が認めるだけの人物だと認めてしまう。その反面、全てが見透かされているようで居心地が悪かった。

しかし、祖母が認めるだけではなく、尊敬までしていた相手。年は自分より明らかに若いように見えるが、祖母と関わっている事から、結構見た目とは裏腹に歳を喰っていることだろう。

居心地が悪いと言っても、自分の事を知られすぎて、相手の事を知らない自分に何か腹立たしいものがあるからだろう。

今、自分は祖母同様に、彼の真実の強さと言うものに祖母と同じように尊敬と言うか、役に立ちたいと言うか、引かれる何かがあった。

「それで、今、依頼で見つけてもらおうと思っていた、『魔女の石』は何処にあるのですか?」

知られているなら、始めから話さずに、目的の内容だけで言う。いしまも、その事に気にせず、その言葉に対して返事を返す。

「今はある人物が所有者となっていますよ。彼女の依頼通り、私はあれを監視していましたからね。」

「ちょ、監視を依頼されたって?それなのにここにはないのか?」

本当に大丈夫なのかと思ってしまう。

「大丈夫ですよ。何せ、彼女の依頼は監視をするだけであって、手に入れて守れとは言われていませんからね。第一に、あれは持つにふさわしい者が持つ事によって力を増し、輝きをも増す宝石なんですから、あのような一般人・・・金の亡者どもには、ただの宝石としての価値しかありませんよ。彼女や貴方が所有者になるからこそ、本来の輝きが現れるのですから。」

学にはいしまが言っている事がよくわからない。

 学は、遺言状にかかれていた内容しかしらない。書かれていたのは、自分が持つ強大な力が、学に受け継がれてしまった。力は暴走し、身を滅ぼす。あれが、暴走を止め、制御し、本来の使い方で人生を歩めるだろうと。

 その遺言の後には、『幻和館』の主人である『いしま』と言う人物が、渡してくれるだろう。そう書いてあった。

だから、必死になって捜して、一月かけて、ようやく見つけ出したのだ。

 考え込んでいた学を見ながら、何を考えているのかお見通しで、無防備すぎるなと思ってしまういしま。あまり長い間過去の時間に浸ってもらうのも話が終わらないのでそこそこにして、話を再び戻して始めた。

「彼女は、10年前、あれがなくなったからどこにあるか捜してほしいと言って来ました。」

「確かに、あれは10年前になくなりました。結局見つからなくて、だから祖母が言うようにここに来たんです。」

そうだねと言いながら、いしまは確認していくかのように今までの事は簡単に話していく。

「あれは、同じ『魔女』の血を持つ者、つまり、学さんの家のように、血を絶やさずに守ってきた一族が他にもいまして、その別の一族が犯行に及んだのですよ。だから、警察も気付かなかった。彼女は薄々気付いたらしいですけど、それを言える状態ではありませんでしたからね。」

確かにそうだ。自分の家は魔女の血族で強大な魔力を持っていると言った所で、誰が信じると言うのだ。自分も血族ではなければ信じないだろう。それに、他にも魔女の一族がいて魔法を使って盗んで消えたなど、今の化学の時代で認められるわけがない。

それに、下手に騒ぎを起こして、あの忌まわしい魔女裁判と言う名の人間の争いのような事を再び蘇らせるのも悲しみを産むだけで何も残らないから、彼女は言わなかった。

この頃は、学が学生でまだもう少し小さいころだ。楽しいことを見つけて行い、祖母に誉められていた頃。何も知らなかった頃だ。

「実はですね、その後それはオークション・・・つまり裏で売りさばかれてしまったのですよ。もっちろん、それは彼女に報告しておきましたよ。」

その言葉にちょっと待って下さいと止めに入る。つまり、いしまは売られる様を近くあるいは遠めで見ていたのだ。何故そこで止めて手に入れて監視下に入れるまたは祖母に渡さなかったのか。

「依頼がなかったからですよ。」

疑問は口から出る事はなかったが、いしまは相手の思考を呼んで答えた。間違いではないし、今はそんな事に驚いている暇もないので無視をする。もともと、自分同様にいしまという彼も普通ではないと判断したからだ。

「だからといって、ほおっておいたのですか?!」

「まぁ、確かにそうですね。しかし、私はボランティアではありませんからね。一介の商売人ですよ?」

話の最中は真面目になったかと思ったら、またあの笑みを浮かべている。今度は先程とは少し違い、いたずらっ子がいたずらを仕掛けた時のような感じだ。

「で、話を続けますけど、私は今あれがある場所を把握し、この日まで行方がくらまないように、そして、魔女の血族が偶然によって本来の力を使わないようにと、依頼通り監視してきましたよ。」

「ならどうして、どうして依頼が監視だけって事ででも、動こうとしなかったのですか?」

それは簡単ですよと答えて、未来がわかるかのように言う。

「私も彼女も、この日が来る事を知っていたからですよ。力を受け継ぎ、あれを受け継ぐにふさわしい者が現れる。その者こそが貴方、学さんなんですが、貴方が必ずここへ訪れて、行方知れずになったあれを見つけて手元に戻してほしいと『依頼』しに来るとね。彼女は迷いもなくそう言いましたよ。これは絶対に外れない予言だと言ってね。私も貴方が来る予感がありましたから、今まで監視だけを行ってきたのですよ。」

やはり、思っている以上に祖母は偉大なる存在なのだ。自分が受け継いだこの力、なんだいにも渡って受け告げられてきたこの力のすごさを改めて知った気がした。そして、このいしまという少年が、祖母同等、あるいはそれ以上に凄い人物だと改めて思い知った。

 その時、みとがおぼんにお茶と簡単な和菓子を乗せて持ってきた。

「そうぞ。」

「ありがとうございます。」

「悪いね、みと。話はもう少しかかるけど、その後があるから、ここにいておいてほしい。」

「わかってますよ。」

二人は意味ありげな会話を交わし、すぐに学に意志を向けた。