記録帖 壱   魔女の宝石その壱





「いらっしゃい、お客さん。何をお求めですか?」

みとは、礼儀正しく、小さく頭を下げて、奥へどうぞと言う感じで手を動かす。

「あ、えっと、ここに『いしま』と言う人がいるって聞いて来たんですけど・・・。」

みとは一瞬だけ表情が動いたが、すぐに変わらない笑顔の接客に戻して客を奥の席へと案内する。

「呼んできますから、しばらくここでお待ち下さい。あ、お飲み物は何がよろしいですか?」

「いえ、すぐに帰りますので・・・。」

「そうですか・・・。」

みとは目を少し細めて、客が座ったのを確認すると、さらに奥の部屋へと足を運んだ。そして、小さく扉をノックし、簡単な言葉を扉に投げかけた。

「・・・お客さんよ。依頼の方の・・・。」

みとが言い終わる前に、扉が開き、中から少年が出てきた。

「ごめん、ちょっと手間取っていて・・・。すみません、お客さん。始めまして。ここの主人の『いしま』です。今回はどのような用件でこちらへ?」

向かい側の席につくやいな、すぐに用件へと入るいしま。

「えっと、私は・・・今はウィンドと名乗っておきます。えっと、実はいしまさんにお願いがあって来たんです。」

ウィンド、風と偽って名乗る青年はいしまに向かって、ここへ足を運んだ用件を伝えた。

「なくなった、私の家に引き継がれてきたブローチを見つけてほしいのです。」

これが、青年がここまで足を運んだ用件。この話から、この青年がここがどういった店か、ある程度知っているのが伺える。

「で、そのブローチとは?」

「これです。」

青年は、持っていた小さなカバンから、一枚の写真を取り出して見せた。

「ほう、素敵な方ですね・・・。貴方の親族の方ですか?」

「私のつい最近亡くなった祖母です。」

「それはそれは。で、彼女がつけているこれがその品ですか?」

「そうです。これを見つけてほしいのです。10年近くも前から行方がわからなくなってしまったこれを。」

青年はだんだんと切羽詰っているようだった。何かこれに関して急ぎの用事があるようだ。最近はこういった依頼がほとんどなく、暇を持て余していたので、ちょうどいい暇つぶしになるかもしれない。

 いしまは口元に先程とは違って笑みを浮かべ、ウィンドに返事を返した。

「いいですよ。引き受けましょう。代金は、目的の品をお渡しできた時に言いますよ。」

そう言って、席から立ち上がった。

「あ、そうそう。今思い出したのですが、この件では、貴方の家が深く関わっている可能性があると思います。ですので、明日、またここに来て下さい。その時にもう一度お話しましょう。貴方に関する事で・・・。」

ウィンドはこのとき、このいしまという少年が只者ではないと確信できた事だろう。今までの仕事内容と実績から、ある程度油断大敵といった感じで、絶対に気を許してはいけないと思うほど、只者ではないと感じていた。

だが、今の彼を見ていると、先程まで思っていた以上に、危険な存在だと思わざる得なかった。

 みとはウィンドを見送ると、先に奥の部屋に戻った主人であるいしまの元へといった。

「で、あの気まぐれの『いしま』さんがどうしてまた、今回の事を引き受けたのかしらね?」

先程とは違い、ノックもせずに、気配を消して部屋に入って背後に立つみと。明らかに、今の彼女は主人に対して敬意を祓うといった事をしていない。

「いいじゃないか。俺だって、ウィンドがあの一族出身だって気付かなかったら引き受けなかっただろうしね。」

「あの一族?」

あの青年が何だというのだという感じで少し首を傾けながら問う。

「彼、ウィンドは本名霧島学と言って、大学生。そして、家がある一族なんだよ。」

「珍しいわね。貴方が人の事を知っているなんて。」

本当に珍しい事なので、さすがに少し興味がわいたらしい。

「あの人は、魔女の血族なんだよ。祖母が偉大な魔女で、その祖母が亡くなったと同時に、もう一族内ではその大きな魔力を持つ者はいないとまで言われていたぐらいだったんだけどね・・・。」

そこまで話を聞いて、勘のいいみとはわかったことを口にする。

「・・・彼が、祖母の強大な魔力を受けついだ現代の魔女ってわけね。」

「その通り。」

確かに、魅力的な話ねと少し呆れ気味なみと。紅茶でいいかしら?といいながら、部屋を出て行った。

「魅力的も何も、その祖母・・・リーナさんから頼まれていた依頼があったからこそ、なんだけどね・・・。」

このことはまだ、彼と今はもういない彼の祖母だけの秘密。

「彼は驚くかな?ここまで俺が知っている事を。」


クスクスと笑みを浮かべながら呟くすがたを、入ってきたみとは見て、また・・・と言う感じでほっておく事に決め、側のテーブルに紅茶を入れたカップを置いた。