今回の任務も無事に終わり、マスターの計らいでりおはフローラと共に、夢管理局で働けるようになった。

その日から、毎日キサはライシュに同じ事を聞くようになった。他のメンバー達も思っていたが、口に出すのはキサだけだったので、メンバー達はキサが聞くたびに聞き耳を立てるのだった。

「ねぇ、ライシュ。」

「・・・。」

今日も、いつものようにキサはだんまりのライシュに同じ事を聞く。

さすがに、毎日同じ事の繰り返しなので、ルウイはどうでもよくなってきていた。持っていた本にも集中できないので、キサを止める事にした。

「いいかげんにしたらどう。今は何を聞いても答えないのなら、放っておくしかないよ、キサ。」

「だってぇ。」

キサはまだ諦めないという顔をしていたが、イオンもルウイと同じくゆっくりを本を読みたいので、止めようと考える。

毎日毎日、隣で同じ言葉が繰り返されていては、いくら慣れても、ゆっくり本を読むことは出来ない。

「もう、答えてよ〜。けち〜。」

ぶうっと頬を膨らませて文句を言い続けるキサだったが、ルウイが怒っているので、大人しくなるのだった。

キサが引き下がった後、ルウイが一つライシュに聞いた。

「キサほどじゃないけれど。一つだけ、聞きたい事があるの。」

「・・・何だ?」

パタンと、ライシュも読んでいた本を閉じて、ルウイの方を向いた。そこにあるのは、真剣に何かを聞こうとするルウイの目。

「あの二人のうち。どちらかは貴方の好みだったの?」

それを聴いた瞬間、ライシュはドシャッと机の上に突っ伏した。

いったい何を聞くのかと真剣に聞いていたイオンも拍子抜け。

だが、キサとクレシスはそうなのかと、かなり楽しそうに聞いてくる。

「あら。どうしたの?」

ルウイが真面目な顔で言うので、拍子抜けして倒れるライシュとイオン。ルウイには二人がこうなる原因がわかっておらず、首をかしげていた。

だが、ライシュは顔をあげてルウイを見て、苦笑し、どうしようかと考えるのだった。

だって、ルウイはわかっているから。わかっていながら聞いてくる。だから、一番性質が悪い。

「そんなんじゃないって。あの二人はただ・・・・・・いや、何でもない。」

何かを話そうとして止まったので、キサは言うんだ!とライシュに詰め掛けた。

さすがに何かを言おうとして止まられるのはルウイもすっきりしなくて嫌なので、ちゃっちゃと吐いちゃいなさいと脅す。

四人から言われて、さすがに困ったライシュは、やっと話す気になったのだった。

「俺にとって、あの二人は幸せを運ぶ蒼い鳥だったんだよ。」

過去を振り返り、思い出す。あの日の無力な自分を。

初めて聞くライシュの過去に、メンバー全員が聞き逃さないようにと、真剣な顔になって、聞いた。









その日は、仕事のせいで一人泣いていた。

まだ幼くて、知らないことばかりがありすぎて、はじめての仕事で自分の無力さを思い知ったのだ。

この仕事は、夢を与えるだけではないのだと、知ったのだ。

この世界では、夢を覗いて相手を陥れるという負の行為もあるのだと。

夢の中では、自分達の対処の仕方で相手や仲間や、自分さえも死に近くなるのだと、その時に知ったのだ。

つまり、毎日『死』というものと隣り合わせなのだと、知ったのだ。

そして、常に相手や仲間を『殺す』力さえあるのだと、知ったのだ。



当時、一緒に仕事をした先輩は、自分を庇って意識不明の重症に陥った。

思い出すと今でも怖くなる。今のこのメンバーの誰かがそうなるのではないかと考えると怖くなる。

まだ幼い自分は、その怖さから先輩の側にいる事が出来ず、誰にも見られないような隅っこで座り込んで一人、泣いていた。

気付いていなかったが、そこは夢世界ではなく人の世だった。

泣いていると、歌声が聞こえてきた。とっても綺麗な歌声が。誰の歌声だろうかと、顔を上げて、声のする方へ向かった。

すると、今度は歌声に合わせて笛の音が聞こえてきた。

綺麗に合わさって、自分の心を癒していく音色。

見つけたそこにいたのは二人の少女だった。

一人は歌を歌い、一人は笛を奏でていた。

二人の存在が、ライシュの中にあった悲しみと絶望を浄化した。

その歌と笛の主こそ、フルーラとりおだった。

ずっと見ていたからか、視線に気付いたらしく、二人はライシュと視線があった。

それが、互いの出会いの瞬間。

そして、今回の全ての始まりでもあった。

だけど、あの二人には記憶には留まることはなかった。



次の日、ライシュは同じようにその場所にやって来た。

まだ意識が戻らない先輩の心配もあるが、側にいる事が怖くて出来なかったからだ。

そして、どうやら買い物で出かける二人の後をついていった。

人の世は自分の知っている場所ではなくなりつつあり、何も知らなかったから、見学もかねて二人についていったのだ。

だが、途中で彼女達は道に迷う事になった。

ライシュは彼女達の家まで導く事は出来た。

今日一日で、このあたりのことは覚えて、道もほとんど記憶されていたから。

あまり、人前に出る事はよくないが、自分が今も泣いてばかりいて過ごしていないのは二人のおかげだったから、少しお礼がしたいと思い、出て行ったのだ。

そして、家までの道を案内した。

別に、話もせず、こっちだと手招きして歩いただけ。

口下手であったから、何を話しかければいいのかわからなかったから。

だけど、あの二人にはそれだけでも好意は伝わったらしく、後ろをついてきた。

後ろで二人が着いてくる気配を感じながら、彼女達を家まで案内した。

その後、声をかけようとした二人だったが、自分はどう話していいのかわからず、またねと言って走って逃げた。

その後、先輩の意識も戻り、ほっと胸をなでおろして、二人にいつかまた会えたらいいなと思いながら過ごしていた時だった。

夢の仕事で、彼女達の夢にあたった。

夢のエラーで迷子にされた二人を、また『案内』する役にあたった。

あの日と同じように、自分は背後の二人の気配を感じながら、正常な夢へと案内した。

その時から、少女達がこの先の行く末を知り、マスターに抗議し、その時を迎えた。

本当は手を出して助けたかった。だけど、決められた運命を変える力は持たない。

夢を変える力しか持たない。

もし無理やり変えれば、バランスが崩れ、可笑しな事が起こってしまう。

だから、目を瞑って我慢した。ある意味、見殺しにしたといっても過言じゃない。

そして、少女の命は奪われた。

だけど、二人はまた会える。歌を取り戻して、一緒に自由に過ごせる事は出来る。

だから、マスターとの約束を取り付けた。



そして、少女の前に姿を見せ、条件を出した。

少し過酷で、すれ違ってしまうかもしれないが、それを乗り越えられないと、自由にはなれないから。

乗り越えれば、晴れて自由の身となれる。

だから、二人に枷をつけた。

未来に必ず二人は一緒にいられるようにと願いながら。








「だから、あの二人のこと。放っておけなかった。ただそれだけのことさ。」

わかったかと、キサの頭をぐしゃぐしゃとなでて、立ち上がるライシュ。

少しずつ、仲間同士の過去を知っていく。キサにもあるように、他の四人にもある。

キサは、いつか自分の過去を知られても、この四人だったら受け止めてくれるだろうかと考えていた。

話してくれたライシュ。

自分もいつか話すときが来るだろう。

それも、きっと近い未来。

だって、またあの過去の悲劇がはじまろうとしているのだから。

「何か飲むか?」

「紅茶がいいわ。」

「ミックスジュースがいい!」

「紅茶。」

「俺はカフェオレ!」

ついでに入れてやると声をかけたライシュに容赦なく注文する四人。

おいおいと、苦笑しつつも、しっかりと用意してくれるライシュ。

この四人なら、拒絶せずに受け止めて、手伝ってくれるかもしれない。

自然とそう思うキサだった。

その時、ライシュの過去を一部知ることで、キサと同じように過去の出来事を振り返る三人の事に互いは気付かぬまま。






「ほら。」

それぞれの場所にカップを置く。

ライシュの部屋でありながら、しっかりと五人分の好みの飲み物とカップが用意されている。

「ありがとう。」

受け取って、いつも笑顔でお礼を言って、キサはカップに口をつけた。










「ライシュの過去が少し暴かれた・・・。」

ふぅと、タバコをふかして天井を見上げるアヴィリー。

「どうしたのかね。」

「マスター。」

「君もまだ、引きずっているのかい?」

過去の出来事で、後輩を巻き込んでしまったことを。

マスターの言葉に、無言で煙草の火を消して、目を逸らす。

「彼に、ただ夢といっても、楽で平和な世界ではないと教えた。確かに実際はそうだから、間違ってはいない。」

「しかし・・・。」

「最初の仕事で知らしめるのは辛いのだといっても、いつか経験する事だ。」

居心地の悪そうにアヴィリーはそこにいた。

「だが、支えてくれる仲間や先輩がいたら、何だって乗り越えられる。ライシュ君も言わなかったかい?」

「そうですね。二人。お互いがいれば、どんな壁だって乗り越えられる。実際、あの少女達は乗り越えましたしね。」

「そうだ。」

これを渡しておこうと、マスターはアヴィリーに一つの封筒は差し出した。

「これは・・・。」

中をあけて、書類のタイトルを見てガバッと顔をあげてマスターを見た。

「もうすぐ。・・・今度はもっと大変な事が起こる。」

「・・・また、起こるんですね。」

「・・・たぶん、今回で終わるはずだがな。」

現代を生きる太陽と月の魔力を持つ者達の力を信じるしかない。

「大丈夫、ですよね。」

「信じていれば、大丈夫なのだろう?しんじてやるしかない。それしか、私達には出来ないのだから。」

「・・・。」

コツコツコツ・・・と、マスターは歩いて行った。


ただ、残されたアヴィリーは真剣な顔で、何度も書類に目を通すのだった。








まだまだ、これから。

彼等もまた、巻き込まれていく。大きな争いごとに。



だけど、今はまだ休んでいよう

蒼い鳥の綺麗な歌声を聞きながら








     あとがき

 如何でしたでしょうか。
 これで、実質は蒼い鳥の運ぶものは完結です。
 今回はライシュの過去編でした。
 一作目はルウイが主人公並に動くお話でしたし、今回はライシュだと思ってやったのですが。
 あまり、登場しませんね。過去がわかったぐらいで。