『 たぶん、これだと思う。夢魔が北西1km付近で引っかかった。 』 三人で食事が終えられた頃。突然聞こえてきた声。 これは、数十分前にキサがイオンに頼んでいたもの。どうやら、見つかったようだ。 「なら、行かないとね。りおは大人しく待っててね。すぐに、鳥をつれてくるから。」 「急ぐわよ。きっと、すぐに移動するだろうから。」 「そうだね。」 すぐさま流し台へと食器類を置いて、りおに声をかけて飛び出していく二人。 残されたりおはただぽつんとそこにいるだけ。 そして、ぎいっと椅子を引いて立ち上がる。この部屋からでていくために。これ以上、巻き込んで迷惑をかけないために。 そして、自分のことを知られて嫌われる事を避ける為。 「・・・ごめん・・ね。・・・ありがとう。」 床に零れ落ちた小さな雫。それは、りおの涙。 キサとルウイが出て行ったあと、りおも出て行き、誰一人いなくなり静まりかえる部屋。 蒼い鳥の運ぶもの 中編 キサとルウイはイオンと合流し、先に向かっていたクレシスに追いついて四人で闇である夢魔を追いかけていた。 「今回の夢魔は『悪魔』よ。そのまんま。悪魔が悪さしているみたいなのよ。」 「何か前例でもあったの?」 「あるわよ。三年前に一件。五年前に二件。それ以前にも何件かあるわ。」 「ルウイと一緒に探していたとき、興味深いものが見つかったんだ。」 イオンは古ぼけて日焼けしてしまっている紙を一枚渡した。 「何これ。『天使になりたい悪魔』って、何それ。」 「一般的に神に忠誠を誓い、平等の愛を持ち人のためにつくすのが天使。そして、その正反対で魔王に忠誠を誓い、自分勝手で人を陥れるのが悪魔。今回はその悪魔が関わっている。」 「どういうこと?」 まったくもって意味がわからない。悪魔が関わっていて、どうして処理するのが夢魔なのか。 「簡単に言えば、悪魔でありながら悪魔になれない悪魔。その悪魔が悪夢を見て生み出したものが今回の夢魔。」 「・・・たちが悪いね、それ。」 今回も一筋縄ではいかないような相手のようだ。 「だいたい、マスターがこっちへまわす仕事なんて、まともであるわけがないだろう。」 「確かにそうだけどさ。」 「あ、夢魔が消えようとしてる。」 「急がないと。」 魔法を使って移動しようかと考えていた時、ふと聞こえた綺麗な音。 それが何かの声であるのに気付くのはその後すぐだった。 「あ、唄が聞こえる。」 「もしかして、これが蒼い鳥の唄?」 「じゃぁ、蒼い鳥は無事なんだね。」 これを聞いて一安心だ。これで夢魔を捕まえ損ねてもりおに報告できる。 だけど、その報告をする事は出来ない。 りおはすでに、あの部屋、あの管理局内から外へ出ていたからだ。 「どうやら、ゲートを通るようです。」 「なら、こっちもゲートをくぐって追いかけるまでよ。」 夢魔はしょせん夢の中の事。夢の事ならルウイには手がある。 ルウイは夢見の能力者。夢と同調して渡り歩く力を持つ。ある意味では厄介な能力。 だけど、使い方を応用すれば、いろいろ出来たりもする。 今回のように夢が使おうとしている入り口を探す事だって、入り口をくぐる事だって、出来るのだ。 「行くわよ。」 「大丈夫。」 「 シンザー・オーパス 」 闇が消えて隠れてしまった場所に気を集中させ、夢を探って言葉を放つ。 一瞬にして四人を光が包み込んだ。 そして、跡形もなくその場から四人の姿は消えた。 気がつけば、周りは闇が広がり、何も見えないような暗い中にいた。 「えっと・・・。」 どうしたんだっけと、先程までの自分を振り返っていた時、背後から自分の名前を呼ぶ声がし、それに反応するかのように振り返って、ぽんっと手を叩く。 「思い出した思い出した。」 事態は急を要するというのに、まったくもってのんきなものだ。 「そんなので、大丈夫?」 「大丈夫。心配なしだよ、ルウイ。」 「なんだか、心配ですね。」 「大丈夫だって。イオンもしつこ〜い!」 なんとか四人集まれた。そして、キサが力を使う。 この黒い闇の中にある声を聞くのだ。 「 我の問いに答えよ・・・。 」 何も無い場所に風が通り抜ける。 「 ハータス・リーダル 」 生命あるもの、心あるものに問いただす言葉。従わせる清き気高い心を持つキサだからこそ、皆が答える。 「 蒼い鳥は、この先に・・・。 」 キサが呟いた後、再び風が四人の間を通り抜け、闇の奥へと消え去った。 最初から何もなかったのかもしれないが、確かにキサは何かと会話を果たした。 「見つけたよ。蒼い輝き。純粋な心の唄。」 笑顔で三人を振り返る。 三人はうなずきあい、キサの後について蒼い鳥がいるとされた『この先』へと行く。 そこに何が待っているのかは、まだ知らないのだが・・・。 だんだんと見えてくる蒼い光。そして、透き通るような綺麗な歌声。だけど、少し悲しそうな何かを思わせるような声。 「いた!」 闇の中に一本だけたたずむ黒い木の枝にとまる蒼い鳥がいる。それをしっかりとキサは発見した。 蒼い鳥はその枝から飛ぶ事なく、何かに訴えるように歌い続ける。 「キサ・・・。」 「わかってる。」 ルウイが言いたい事は、あの鳥の『声』を聞くという事。 キサは神経を集中させ、言葉を言う。 「 ボレス 」 とたんにキサへと届く蒼い鳥の声。言いたい、事。 その声に耳を傾け続け、知る事となった事実。まさかと思うような、事実。 「何があったの・・・。」 いつのまにか目を開け、一粒の涙をほろりと流しているキサに、何事かと真剣な顔で真っ直ぐ目を見て問いかけるルウイ。 クレシスはしっかりと蒼い鳥を腕の中に収め、イオンが作った『透明の鳥籠』の中に入れて、依頼の第一段階を終了させていた。 すぐに、キサの涙に気付いて二人も慌てるが、キサは首を振って答えようとしない。 そのまま、四人は闇の中から元の場所へと戻った。 そして、気付いた。りおが部屋にいない事を。 だが、皆疲れを溜める事はいけないことだと知っていたので、規定時間に部屋に戻った。 その間も、どうしてと、キサは問い続けた。今はここにいない相手に対して。 キサと同じくして、ルウイもまた、夢で別の真実を知ることとなった。 りおがあの部屋を出て行った理由だ。キサも知らないまた別の真実。 りおが今回関わっている事を、その夢で知ったのだ。 だから、それがキサの涙の原因だと思い込んでいた。実際は、また別の事だというのに。 次の日の朝 四人は集まって、昨日闇から連れ戻した蒼い鳥が歌わなくなった事に気付いた。 その理由を知るのはキサでもあり、ルウイでもある。 二人の持つ真実は答えでありながら、半分で完璧なものではない。二人分で、やっと完成するもの。 だから、誰もまだ全ての真実の答えを手に入れることはなかった。 それから時間を何気なく過ごし、昼を回った頃。 なんだか気まずい雰囲気が漂う中、珍しくその空気に気付いたクレシスは黙って見ていた。 そう、あのクレシスさえ気付くそれ。 元になっているのはキサとルウイである。 お互いはお互いが知っている真実を知っているのだと思っているが、少し食い違っている。 「キサ、ルウイ。いい加減、話してくれませんか?」 二人が何かを知ってこうなっていることには気付いている。だからこその問いかけなのだが、相変わらず二人は反応を見せない。 「どうしましょうか?」 そんな困り果てたイオンは背後で暇そうにしているクレシスに問う。もちろん、彼はどうしようもないだろとしか答えを返さないが。 はぁとイオンが深いため息を吐けば、また空気はどんよりと沈んでいく。 そんな時だった。部屋に一人の男が入ってきた。 「どうした?そんな今にも絶望が待っているって感じの顔をして。」 この部屋には似つわないような明るい声で入ってきた男。彼はこの夢管理局の第一サポートの長をやっているアヴィリー・ヴァイオルである。 ドリーム・キーパーが動くにあたり、必要なら要請する事が出来るサポートの人員は派遣許可する男。 しっかりと仕事はやっているらしいが、本当のところは見た事がないので四人にはわからない。四人からすれば、絶対にさぼってるという意見で一致するだろう。 そんな彼が、いったいここへ何しにきたのか。 「ただ、昨日から二人の様子がおかしいので、どうしようかと悩んでいたんですよ。」 なんとかアヴィリーに現状を伝えるイオン。 「へぇ。どうせ夢魔とあの嬢ちゃんと蒼い鳥とライシュのどれかだろ?」 そんななんでもないことのようなアヴィリーの言葉に反応し、彼の顔を見るキサとルウイ。今の言葉の中に、あの二人が知った何かのキーワードがあったのだろうと、イオンは黙って見ていた。 「だけど、二人とも辿り着く先は同じでも、持っているカードは違う。」 「え?」 「嘘?」 アヴィーの言葉に答えを返すのはあの二人。アヴィリーの顔を見た後には、キサはルウイのルウイはキサの顔を見る。 「ま、こっちも上から依頼が来てたからさ。よってんだし。ちょうどいいから二人のカードと合わせて、別の新しいカードもあげようじゃないか。」 そういって、アヴィリーはどこからか一枚のカードを取り出した。 それは、彼が研究して開発したという、夢や記憶の映像や声を記録するもので、それを何処ででも再生する事が出来る便利なものである。 「さて、二人の知った真実をそれぞれ話して、つなげようか。そうしたら、どうして今、ここに彼だけがいないのかがわかるよ。これは、彼の過去に少しだけだが、関わることだからね。」 カードを宙に置き、そこから光があふれ出し、映像が現れた。 真実を知らせるもの。 唄う事が好きな少女 そんな彼女の幸せを願う少女 その二人のに道を示した少年 三人が出会ったことで、三人はかわり、そして悲劇が訪れた 唄う事が好きでたまらない少女。自分から唄を無くしたら、もう生きていられないという少女。 そんな少女の傍で、少女の唄を聞きながら過ごす少女。少女の幸せが自分の幸せだと感じられる少女。 二人は出会い、仲良くなった。 だけど、溝ができるはめになった。 二人は道がわからず困った日、出会った少年に案内された。 その少年のことを、二人とも好きになった。 お互い胸の奥に閉まっておくつもりだった。そして、もう会わないだろう少年の事を封じ込めて、また変わりない日々を過ごした。 そんなある日。夢を見た。二人とも、夢の中で迷子になった。 そして、夢で迷子になった時も、少年が出てきて助けてくれた。帰る道を示して優しく微笑みかけてくれた。 その後に、起こった。二人を離れ離れにする事件が起こった。 その少女は唄う事が出来なくなったのだ。 精神的に追い詰められ、自由を奪われた鳥であったために、唄う事を忘れてしまったのだ。 少女の家は一般で言うと資産家で、当時は政略結婚があった時代で、彼女もまた望みもしない結婚を強いられる事となったのだ。 もちろん、少女を守りたいと願う少女は訴えて助けようとしたが、出来なかった。権力とお金がその時代でものを言う。だから、守れなかった。 その為にか、少女は唄を忘れた。そして、唄を忘れた少女はいらないと、相手が切った。 両親は困り果てたのち、怒りをもち、少女を勘当した。二度と、屋敷へは戻ってくるなと、雨の日に追い出した。 それを知った少女は慌てて傘を持って少女の家へと向かった。もちろん、知った頃にはすでに屋敷には少女はいない。だが、どこかに、まだ近くにいるはずだと、探し回った。名前を呼び、見つかると信じて。 だが、この世という物は残酷であった。 少女が飛び出した時、ひかれそうになったのだ。 理由は簡単。反対車線に探していたあの少女がいたからだ。慌てて道路に飛び出して、呼び止めようと名前を呼んだ。 その時だった。 キィイイイイッ―――――――― 車が走ってきたのだ。それもブレーキをかけても雨で滑って止まれない。 ぶつかる。そう思った。これで、少女に何も言えずに終わってしまう。本当に、そう思った。 だけど、実際は違った。自分は生きている。だが、目の前は真っ赤な血で溢れている。 少女を助けようとして少女は走ってきて庇った。 守りたいと思っていた少女の唄が奪われた。それだけに留まらず、少女の命さえも奪われた。 それも、自分のせいで。一番守りたいと思っていたものを失った。 少女は目の前が真っ白になった。 自分のしてしまった事が、あまりにも大きかったから。そして、失ったと気付いたものが、あまりにも大きかったから。 涙さえ、出ない。まるで、悪魔みたいだと思った。 そして、死を与える死神だと、思った。 もしあったのなら、自分が少女の自由に空を飛びまわる翼を壊してしまったのだ。 そしてこれが、はじまりだったのかもしれない。 少女へ、少女が最後に残した言葉。それを胸に刻み、動かなくなって冷たくなっていく少女身体を抱きしめて、その場でうずくまり続けた。 そんな時、出会いたいと思いながらも、出会いたくないと思っていた少年と出会った。 少年は悲しそうな顔でこちらを見てくる。まるで、攻められているようだ。 だけど、少年が発した言葉は違っていた。 「…悲しい?」 すぐには答えられなかったが、しばらくして小さくうなずいた。 「…また、会いたい?」 「会い…たい…。今度は、自由に空を飛びまわれる翼を持って、二人で…。」 きっと、自分は地獄に落ちて会えないかもしれないけど、信じたい。また、いつかこの世で再開できる事を。 「嘘じゃないんだよね?」 「嘘じゃない。」 嘘なわけがない。ただ一人の、大切な友人だったのだから。 「今はまだ、会えない。だけど、いつか会えるよ。転生して、新しい身体を手に入れられた時にね。」 「本当…?本当に…?信じていいの…?」 「信じていいよ。信じる力はいつか、奇跡へとかえる力を持つから。きっと、会えるよ。壁があって難しいけど、二人なら越えられるはずだよ。」 それまでは、その人を預かってるからと、少年は動かない少女を抱きかかえた。 「いつか、また会える日まで。はやく、気付いてあげてね。約束、だからね。必ず、見つけてあげて。」 そうしなければ、本当に消えてしまうから。不安定なものは、誰か一人にでも覚えてもらっていれば、必ず留まり続けられるもの。 だからこそ、難しいものでもある。とっても、不安定だから、忘れられて信じてもらえなくなったら、簡単に消えてしまう。 だから、絶対に忘れてはいけないと、忠告をする少年。 絶対にと念を押して、少年は少女の体を持って消えてしまった。 後に残ったのは少女と振り続ける雨だけ。 少女には残っているのに、他の誰にも少女の記憶が残っていないという不思議な事が起こった日。 だけど、少年を信じて今を生きる事を決めた。 恥じることなく、少女とまた向かい合う為に。 少女は少女を追うようにして、その後病で命を落とした。 そして、少年の言葉が意味する事をすぐに理解する事となる。 そして、眼が覚めて意識が出来て気づいた時、これが罰なのだと思い知らされた。 自分は、地獄へも天国へも行った記憶は無い。だけど、少女と出会いつくりつづけた絆や思い出はしっかりと残っている。 そんな少女は今、人で言う『魔界』と呼ばれる場所にいる。 そう、自分は今、悪魔である。人に不幸を運び、どんどん堕としていくように仕向ける魔の使い。 こんなこと、絶対出来ない。だから、いつまでも堕ち毀れで、力も弱い。 こんなので、あの少年と約束したことさえ出来ないのかと思うと、情けなく思う。 そして、見るようになった悪夢。だんだんと現実にも浸透しはじめた厄介なそれ。 どうにかしないと、また誰かを巻き込んでしまう。 そんなのは嫌だ。 それに、はやく約束を守りたい。そして、会いたい。 そんな強い思いを持ち、なんとか悪夢に飲み込まれずにいた少女。 だけど、限界に達し始める。 このままでは危うい。 悲痛な少女の叫びが聞こえてくる。力を使っていないのに、その映像が訴えてくる。 ここまでだと、アヴィリーが映像を切ったあと、ほろりと涙が零れ落ちる。 キサが知っていた半分。ルウイが知っていた半分。これで合わさった。 そして、二人が戸惑っていた理由を知ったイオンとクレシス。 四人はやっと真実を手に入れた。 唄う事が好きだった少女は別の身体を手に入れた。 自分を悪魔のようだと責めた少女は悪魔となって転生した。 少年は、少女に唄を再び与えて身体として空を自由に飛びまわれる翼を持つ鳥にした。 唄を歌う事が好きだった少女は蒼い鳥 少女の歌う唄が好きだった少女はは悪魔のりお そんな二人の前に現れた少年は…… 今、どこかに出かけているライシュ… |