ひらひらと、風に煽られて宙を舞う鳥の羽。

蒼い、鳥の羽。

ちょうど見上げたときに下りてきた羽を掴み取る少女。

「・・・え?」

少女はその羽から『声』を聞き取った。

彼女の名前はキサ。

ものや動植物にある言葉をいう事で、手に触れたもの全ての記憶を聞き見る事ができるという能力があった。

だが、ごくまれに、無意識に力を使って残された記憶を聞き見る事が出来る。

今も、そう。無意識に羽からの『声』を聞いたのだ。

「・・・て・・・・・・助け・・・て。」

その声は救いを求める声。それも、か細く危うい命の声。

一大事なのでは?!と慌てて羽に記された記憶にあった映像を見て、見覚えのあるその場所へと向かった。








着いた先で、すぐに声の主がどこにいるのか『その空間にある風』に意識を向けた。

「あっちね。」

風が答えた方向へと向かう。

キサを風が案内する。この先に行けば、その少女がいるのだと。

ばっと、視界が開けたその場所。

そこには、硝子のように透けた蒼い鳥とまだ小さい少女がいた。

そして、少女と鳥を飲み込もうと黒い影が迫っている。

「危ない!」

キサは声を出したと同時に風や木々に頼む。守ってと。

その声に彼等は答える。鳥もまた、少女を守ろうとしている。



「 コウハクショウ 」



闇に対抗すべく、光の魔法を使って抑える。

どうやら諦めて引いていくらしい闇に少し安心したが、闇はやはり闇。

それも、夢世界を脅かす夢魔というもの。

それは蒼い鳥を飲み込んで跡形もなく姿を消した。

「嘘・・・。」

少女は鳥が消えた事に涙を零しながら、突如糸がぷちんと切れてしまった人形のように意識を失ってくったりとした。

「・・・とにかく、報告とこの子だね。」

キサは少女は抱きかかえて、風に頼んでその場を後にした。










     蒼い鳥の運ぶもの 前編









入ってきた事には驚かない。気にしないといった方が正しいかもしれない。

だが、次の瞬間。動きが止まってしまうこの部屋の主であるライシュ。

「・・・おい、キサ。」

「何?」

「とうとう人まで拾ってきたのか・・・?」

そんな声の主にむっと機嫌を損ねて文句をいうキサ。

もちろん、先ほど連れて帰った気を失っている少女をしっかりとソファで寝かせてからだ。

「違うもん。倒れたから連れてきただけだもん。それに、きっとこの子には今、保護が必要だもん。」

その主張になにやら思い当たる事があるのか、紙を一枚机の上からとってキサの方へと渡す。

「次の指令書だ。きっと、この事だろう。さっき、強い夢魔の気配を感じたからな。その子も関係者という事だろう?」

見た内容にはただ一言。



『 蒼い鳥の唄を取り戻せ 』



そう書かれた指令書。それ以外は何も書かれていない。

「気付いてたんだ・・・。」

「まあな。あれだけ強ければ・・・。だから、慎重に行かなくてはいけない。」

真剣な目。それだけ危険が伴う内容なのだろう。

「ルウイとイオンには連絡を入れてある。今、資料を集めてきてくれている。」

「私はどうしたらいい?」

「その子の傍にいればいい。あ、クレシスに連絡を入れてもらおうか。」

そこでふと思い出したのか、なにやらメモをしているライシュ。

書き終わったメモを折りたたみ、キサに預けた。

「俺はこれから出かけなくては行けない用事がある。だから、クレシスに今回の件を伝えてこれを渡しておいてほしい。」

「あれ?言ってないの?」

「さっき言っただろう。ルウイとイオンには連絡をいれてあると。クレシスは今、上に呼ばれて出てるんだよ。だから、連絡がまだなんだ。」

「そうなんだ。わかった。どうせ、ここに来るだろうし。」

コートを着て、戸締りだけはしておけよとしつこく言って、ライシュは部屋から出て行った。












バタバタバタバタ・・・・・・





そんな音が聞こえてくる。

出来れば無視して、知らないふりをしたい。そんな気分だ。だが、この音は自分目指して走ってきている足音だ。逃げようとしても?まるだろう。

こんなふうに自分に向かって走ってくるのは限られている。第一に、自分が何処にいるかなんて、そうそうわかるものではないからだ。

「あ、見〜っけ。イオンちゃ〜ん!」

語尾にハートマークがついているような勢いで走ってくるそれ。

彼女は、壁や外にいる鳥達から記憶を見聞きして探し相手の場所へ真っ直ぐ来る事が出来る。
きっと、指令の事もあるのだろうから無碍には出来ない。

「・・・何ですか?」

「やっと見つけた。あのね、お願いがあって来たの。」

「・・・だから、何ですか?」

「闇に飲まれそうになった子を一人見つけて助けたの。だから、また同じことになったらいけないからこの辺一帯に結界を張ってほしいの。」

それも、何かが通過すればすぐにわかる出来れば広範囲のもの。そう簡単に注文してくる少女、キサ。

この中では一番それはイオンが適しているかもしれない。だが、それは酷く疲れるのだ。

そもそも、結界といってもイオンの場合は一定範囲内に何かが触れる、もしくは入ればそれを感じる事ができるもので、全神経を総動員して常に気を配り続けなければいけない。

広範囲になればなるほど神経を削るし、後々もたなくなる。

「・・・指令と関係ありですか?」

「もちろん。だって、蒼い鳥はその子の事知ってるみたいだし、鳥は闇に飲まれちゃったし。」

笑顔のキサに言われてなんだか倒れたいかもしれない。

指令に書かれた蒼い鳥は現在闇となった夢魔の手の内にあり、それに繋がる少女は倒れて寝ていると言う。

「・・・ライシュには?」

「もちろん言ったよ。でも、用事があるって出かけちゃってさ。あ、クレシスにはこれから依頼の事伝えに行くの。」

「クレシスには必要ありませんよ。何せ、先程会いまして、伝えましたから。」

「そっか。じゃぁ、部屋に戻る。」

そう言っているが、戻るのはキサの部屋ではなく、一人少女を残しているライシュの部屋の事。

「考慮しておきます。」

「駄目、今すぐ。」

「・・・。」

先程まで、ほぼ徹夜続きで別件の仕事をしたのちにライシュに資料を頼まれてやっていたというのに、もうくたくたなのである。

それだというのに、この天使のような笑顔のキサは悪魔のようにやれと言う。

「・・・はいはい。」

「よし。これでしばらくは問題なしだね。」

そう言うが、イオンにとっては、これから地獄だ。問題なしではない。

「じゃ、あとでルウイに来てって言っておいてね。」

ばいばいと笑顔で立ち去るキサ。少しうらやましく思うのは気のせいではないと思う。

はぁと深く思いため息を零し、ぐっと精神を統一して全神経を総動員して印を描き、結界を張る。

もっても一日ぐらいだろう。今のふらふらの状態では。

「・・・明日は休めるでしょうか・・・。」

はやくライシュが用事から戻ってきて休みをもらえるように頼もうと、ふらふらっとまるで幽霊のように歩きながら、彼は部屋へと戻ったのだった。









目を開ければ、そこは知らない場所だった。

つい先程までは、何処までも続く森の中で、闇に追われていた。

だが、今はその闇はない。そして、一緒にいた蒼い鳥もいなかった。

困っていた自分を助けてくれた硝子のような蒼い鳥。綺麗な歌声で励ましてくれた蒼い鳥。

「・・・いない・・・。どこ・・・?」

あたりを見て、危険はないかと確認する。

自分の上にかけられたものから、危険な場所ではないような気がする。

そこへ、バタンと扉が開く音がした。

「あれ?起きたんだ。良かった〜。」

何やら明るい少し年上の少女がやって自分の姿を見てほっとしている。

「あ、ここは私・・・じゃないや。私の知り合いの部屋。で、貴方は倒れちゃったから看病してた。えっと、わかる?」

困っていた自分に話しかけてくれる優しい人。

どうやら、あのあと倒れて気を失っていたらしい。そして、あの蒼い鳥はあの恐ろしい闇に捕らえられた事も教えてくれた。

「でね。あの蒼い鳥、貴方の知り合い?」

「・・・彷徨ってたら、助けてくれたの。」

「そっか。じゃぁ、探さないとね。」

何か飲むかと、返事を聞く前にキッチンへと向かうキサ。そして、温かいミルクをカップに一杯入れて出してくれた。

「あ、私はキサっていうの。貴方は?」

「私は、りお・・・。」

「りおちゃんね。改めてよろしく。」

手を差し出されたので、それに応じれば軽く上下に振ってずいっと飲んでと勧められる。

「あ。蒼い鳥はね、私達・・・えっと、ここでそういった事に対して対処する組織があってね、私はその一員で、今回蒼い鳥の捜索が依頼されたの。」

「じゃぁ・・・。」

「うん。探してあげる。大丈夫だよ。安心して。」

「良かった・・・。」

たった少しの間の出会いであっても、あの鳥に助けられたのがうれしかった。

自分は・・・。

そう、自分はここにいてはいけないもの。そして、何処にも居場所がないもの。

きっと、この人はいつか答えに気付く。そう確信めいたものを感じる。

だけど、今は忘れていようと、りおは再びカップに口をつける。

今はこの優しい時間に甘えたいと思う。

気付かれたとき、どうなるかは今までの経験でわかっている。

だけど、今だけはこの優しいぬくもりがほしかった。



コンコン・・・



自分の考えに意識をとられていたため、扉のノックに気付かなかったりお。

だが、はいは〜いと元気な返事をするキサで誰か来たのだと気付かされた。

いったい誰が来たのか。きっと、キサの仕事仲間という人だろうが、名前も顔もまだ知らない。

「あ、ルウイだぁ〜。」

「もう、抱きつかないで。重いから。」

扉を開けて相手を確認するなり、声よりも先に身体が動いているキサ。さすがに慣れてはいるが、こんなことをしに来たわけではないので、離そうとするが離れない。

「え〜。いいじゃない。」

「よくないわ。それで、拾ってきた子は?」

「いるよ〜。」

そんな会話をしながら現れた。やはり、予想通り仕事仲間なのだろうとりおは予想を確信へとかえる。

「えっとね、りおって言うんだって。あ、この子は私の仲間でルウイって言うんだよ。」

「・・・りお、ね。貴方、何処から来たのか、わかるかしら?」

「・・・。」

黙り込むりお。自分が何者でどこから来たのかはわかる。だが、どうしてここへ来てしまったのかわからない。

だけど、黙り込むりおを二人は誤解してしまった。わからないのだと。

「どうやら、重症みたいだわ。」

「うーん、困ったねぇ。」

「あの・・・。」

「大丈夫。安心して。一時的なものだと思うから。すぐにわかるからね。」

「あとで、あの森の記憶を拾ってきなさい。」

「わかってる。何か見つかるかもしれないしね。」

話の内容がいまいち理解できないのだが、それでいったん話は終わりといわんばかりに、別の話へと変えられる。そして、食事はどうするかと聞かれた。

「おなか、すいていないかしら?」

「・・・少し。」

「なら、すぐにつくるわ。嫌いな物ってある?」

「特には。」

「ならいいわ。キサやクレシスにも見習ってほしいものだわ。」

「あはは。」

キッチンへと引っ込んだルウイという少女は、すぐさまエプロンをつけて料理を始めた。

こっそりと、ここの部屋の主と同じぐらい料理が上手いんだよと。

この部屋の主を知らないので何ともいえないが、うれしそうに、まるで自分の事でもあるように言うキサの顔を見て、自慢できるほど上手いんだろうと思った。

なんだか家族みたいだなと思った。自分が持つことのない家族。

もし家族を持っていれば、きっとこんな感じなんだろうなと考えながらも、今の状況を忘れる事はない。



家族のように感じる彼女達を巻き込んでしまうかもしれない自分がいて、はやく出て行かなくてはいけないと、すでに決心していた。

もちろん、そんなことにキサ達は気付くはずがない。

気付くのはいなくなった後。そして、ルウイが夢で少女の正体を知った後だった。





『 たぶん、これだと思う。夢魔が北西1km付近で引っかかった。 』



三人で食事が終えられた頃。突然聞こえてきた声。

これは、数十分前にキサがイオンに頼んでいたもの。どうやら、見つかったようだ。

「なら、行かないとね。りおは大人しく待っててね。すぐに、鳥をつれてくるから。」

「急ぐわよ。きっと、すぐに移動するだろうから。」

「そうだね。」

すぐさま流し台へと食器類を置いて、りおに声をかけて飛び出していく二人。

残されたりおはただぽつんとそこにいるだけ。

そして、ぎいっと椅子を引いて立ち上がる。この部屋からでていくために。これ以上、巻き込んで迷惑をかけないために。

そして、自分のことを知られて嫌われる事を避ける為。

「・・・ごめん・・ね。・・・ありがとう。」

床に零れ落ちた小さな雫。それは、りおの涙。

キサとルウイが出て行ったあと、りおも出て行き、誰一人いなくなり静まりかえる部屋。








キサとルウイはイオンと合流し、先に向かっていたクレシスに追いついて四人で闇である夢魔を追いかけていた。

「今回の夢魔は『悪魔』よ。そのまんま。悪魔が悪さしているみたいなのよ。」

「何か前例でもあったの?」

「あるわよ。三年前に一件。五年前に二件。それ以前にも何件かあるわ。」

「ルウイと一緒に探していたとき、興味深いものが見つかったんだ。」

イオンは古ぼけて日焼けしてしまっている紙を一枚渡した。

「何これ。『天使になりたい悪魔』って、何それ。」

「一般的に神に忠誠を誓い、平等の愛を持ち人のためにつくすのが天使。そして、その正反対で魔王に忠誠を誓い、自分勝手で人を陥れるのが悪魔。今回はその悪魔が関わっている。」

「どういうこと?」

まったくもって意味がわからない。悪魔が関わっていて、どうして処理するのが夢魔なのか。

「簡単に言えば、悪魔でありながら悪魔になれない悪魔。その悪魔が悪夢を見て生み出したものが今回の夢魔。」

「・・・たちが悪いね、それ。」

今回も一筋縄ではいかないような相手のようだ。

「だいたい、マスターがこっちへまわす仕事なんて、まともであるわけがないだろう。」

「確かにそうだけどさ。」

「あ、夢魔が消えようとしてる。」

「急がないと。」

魔法を使って移動しようかと考えていた時、ふと聞こえた綺麗な音。

それが何かの声であるのに気付くのはその後すぐだった。

「あ、唄が聞こえる。」

「もしかして、これが蒼い鳥の唄?」

「じゃぁ、蒼い鳥は無事なんだね。」

これを聞いて一安心だ。これで夢魔を捕まえ損ねてもりおに報告できる。

だけど、その報告をする事は出来ない。

りおはすでに、あの部屋、あの管理局内から外へ出ていたからだ。

「どうやら、ゲートを通るようです。」

「なら、こっちもゲートをくぐって追いかけるまでよ。」

夢魔はしょせん夢の中の事。夢の事ならルウイには手がある。

ルウイは夢見の能力者。夢と同調して渡り歩く力を持つ。ある意味では厄介な能力。

だけど、使い方を応用すれば、いろいろ出来たりもする。

今回のように夢が使おうとしている入り口を探す事だって、入り口をくぐる事だって、出来るのだ。

「行くわよ。」

「大丈夫。」





   「 シンザー・オーパス 」





闇が消えて隠れてしまった場所に気を集中させ、夢を探って言葉を放つ。

一瞬にして四人を光が包み込んだ。

そして、跡形もなくその場から四人の姿は消えた。