「遅刻〜っ!!」 今日もまたやってしまったよと、勢いよく家を飛び出す少女がいた。 その勢いのまま町を駆け抜け、始業のチャイムが鳴り始めた学校の門を目指す。 「あー、先生ー待ってー!」 今まさに門を閉めようとしていた生徒指導の先生に叫ぶ、このお話の主人公、朝宮夕妃。 だが、先生は待つ気はまったくない。 「もうっ!」 しょうがないと、夕妃は閉まろうとした門の上に手を伸ばし、風に乗るように、軽やかに飛び越える。 それはまさに舞い降りる天女のように軽やかであったが、観客は厳しい生徒指導の先生である。 「こらぁー!!」 女子高生がスカートはいてそんなことするなということと、遅刻を認めろという叫びが後ろから聞こえるが無視して教室へ向かう。 これが、これまでの彼女の日常であった。 Battle Start! 結局、あの後反省文を書かされ、不貞腐れながらの帰宅途中の事。 ぶつぶつ文句を言いながら歩く夕妃は女らしさの欠片もない。 そもそも、彼女にとってはどうして仕草やマナーに厳しい女子高に入らなければいけないのかと、入学当初は親にかなり反抗したのはまだ新しい。 そんな彼女は三人兄弟の末娘で自宅は道場である。よって、幼い頃から父に鍛えられてきて、今にいたるというわけであるが、あまりにも女らしさの欠片すらないため、父が心配してここへ入れたのだった。 上の兄二人と同じように指導してきたということもあり、少しぐらいはと期待していたりもするが、今のところ効果はまったくない。 そんな彼女は今日もいつもの日常の中で帰宅している途中であったが、がやがやといつもとは違う賑わい方で、人だかりが出来ている道にあれっと首を傾げる。 今日は何も企画などなかったはずなのに、いったいどうしたんだと少し興味があり、人ごみを押しのけてその中央にまで行った。 そこにいたのは、いかにもうさんくさい男達と若い青年がいた。 「なぁ、あいつら・・・。」 いったい、何があったんだと近くにいた見物客に聞こうとした時だった。目の前で睨み合っていた二組が動き始めたのだった。 そして、夕妃は若い男の動きから目が離せなくなった。 今まで、たくさんの武道家達を見てきたが、彼のように美しく舞うような自然な動きの男ははじめてであった。 それだけ、彼が実力者であることもわかった。 軽やかにステップを踏むように、若い男は一人で多くの男達を地面に沈ていく。男達は吸い寄せられるように、倒れていく。 大半が片付いたその時だった。 「あぶないっ!」 若い男の後ろで倒れていた男が刃物を取り出したのだった。背後から、それも素手の相手に卑怯なと、夕妃は声を出すやいなや、すでに身体が動いていた。 カシャンーッ 綺麗な弧を描くように振り上げられた夕妃の足が、男が投げたナイフを蹴り上げて起動を変え、地面に落ちた。 「だ、誰だ?!」 相手側がざわつき、夕妃を見る。若い男も、少し驚いたような顔をしたが、すぐに無表情に戻った。 だが、夕妃はついしまったと思って逃げようかと思ったが、ももう遅い。すでにこの男側の人間だと認識されたら襲われる。 案の定、こちらを標的にして襲い掛かってくる馬鹿がいる。 しょうがないなと思いながら、襲い掛かる男を蹴り倒し、二人目には背負い投げる。 その状況に見物人達は拍手喝さいである。 だが、この状況をどうにかしないと、変なのに目をつけられたら困るというもの。 「どうしたもんかねぇ・・・。」 何か考えているらしい男達の頭らしき人物をちらりと見て考える夕妃の腕を攫む手があった。 「えっ?!」 ぐいっとひっぱられ、誰と思えば、それは若い男であった。 「え、あ、ちょっ、何?!」 どういうことと聞く前に走り出す男。気付いた男は追いかけてくるが人ごみにまかれて距離が離れる。 開いている道が見えているかのように、男は夕妃の腕を攫んだまま走り抜ける。 なんだか、不思議な感じがするなと思いながら、夕妃もついて走るのだった。 この時、毎日遅刻しそうだと走り込んでいて良かったなと暢気にも思ってしまった。 だって、それだけこの男は足がはやかったのだ。 しばらく走り、男が足を止めた。そして、話を聞こうとする前に腕を離して夕妃のことは存在しないと言わんばかりに立ち去ろうとする。 「ちょっと!」 呼んでも反応なし。 さすがに格好よくていいなと思っても、無視されるのは許せない。 そのあたりは父の指導でかなりの負けず嫌いに育った夕妃が逃がすはずがない。 男の前に立ち、あれは何だったわけと問いかける。 夕妃の迫力に少し引くが、男は少し黙って夕妃に一言だけ言った。 「あれには関わるな。死にたくなければな・・・。」 それだけ言って、男はさっさとその場から立ち去った。 突然のことでぽかーんとなっていた夕妃だが、我に返る。しかし、すでに男の姿はない。 「ふざけんなよっ!」 助けられたのは事実かもしれないし、助けなくてもあの男なら大丈夫だったかもしれないが、礼ぐらい常識だろと、そういうことにもうるさく父に育てられた夕妃はぶちっときれる。 「次会ったら一発殴る。」 じゃないと気がすまないと、夕妃は決意を新たに、とりあえずおなかが減ったので帰宅するのだった。 あの日の出来事から10日が経った。おかげで、怒りが薄れてきた。 そんな時に限って、しかも機嫌がいい時に限って、余計なものはやってくるものである。 「見つけたぞっ!」 「あの女だ。」 のんびりと買い物を楽しんでいる時だった。突然大きな男の声がしたと思えば、指を指されて、こちらへ向かってくる模様。 指指すなと叫びながら、とりあえず逃げる。状況がわからなくても、追いかけられたら逃げる主義だからだ。 夕妃は逃げながら、とりあえず人様に迷惑をかけないようにと、道を選んで走った。 そして、そっかとぽんっと手をたたいで思いついたのだ。 「あいつらこの前の怪しい人達じゃん。」 そして、むかつくあの若い男のことも同時に思い出して機嫌は急降下する。 「最悪。」 何故、こんなにも気分よく買い物をしているときにと、反対に追いかけてくる奴らが憎たらしく思えた。 キィーっと急ブレーキをかけるように足を止め、振り返る。 追ってくる男達はもう観念したのかと、にやにやにやつきながら近づいてくる。 そんなやつらを見て、にやりと口元に笑みを浮かべ、夕妃は動いた。 ドスンッ 大きな男の身体が地面に倒れる。 きっと、何が起こったのかその男自身もわからなかっただろう。 「貴様っ!」 周囲に立つ男達は突然のことに驚きながらも、よくもと飛び掛ってくる。 まっすぐ考えもせずに飛びかかってくるこんな馬鹿程倒しやすい奴はいない。 夕妃は八つ当たりがてら男達を相手にするのだった。 一人を蹴り上げ、もう一人は手でつかんで反動で投げ飛ばす。 そうやって順番に男達を地面とお友達にさせていったのだった。 だが、少しの油断があったのかもしれない。あまりにも弱かったからだ。 そろそろいいかと終わりにしようとしたとき、突如飛び掛ってきた男を避ける際に足を捻り、思い切り転んでしまった。 そして、気づいた時には目の前にこの男達の頭が立っていた。 「やばいって感じ?」 さすがにこれだけ暴れれば、お怒りかもしれないなぁと思って様子を伺っているその時だった。 突如、男と夕妃の間に刀が飛び込んできた。それは見事にぐっさりと地面に刺さり、来たなと男達が緊張しだし、夕妃は夕妃で危ない物投げやがってと誰が来たのかを見る。 そこに立っていたのはあの時の若い男であった。 「てめっ!?」 どこから沸いて出たと言う文句や、八つ当たりをしていた内容など、いろいろ言いたい事はあったが、すぐに黙る羽目になった。 その若い男は、表情を変えずに立ちはだかる男達を刀で切り倒していったのだ。 飛び散る紅い血が現代アートのように白い付近の壁や電柱に紅を描いていく。 「ちょっと、お前っ!何やってやがるっ!」 頭である男に切りかかろうとした若い男の腕を攫み、こちらを向けさせる。 そこには、数日前と変わらぬ、表情のない男の顔があった。 「自分がやってることわかってるのか?」 「・・・ああ。人形を切って何が悪い。」 「・・・はぁ?」 人形って、どう見てもこれは人間ではないかという疑問とともに、ふざけるなと若い男に殴りかかる。 しかし、男は避けて夕妃の腕を反対に攫んだ。 「人間様を人形呼ばわりするとは、お前相当いかれた奴だな。」 吐き捨てるように言えば、お前こそ何馬鹿なことを言っているんだと見下すように見た瞳。 その間に頭だと思われる男は逃げ去っていった。 だが、若い男は追う気配はなかった。 「何か誤解しているようだが、こいつらは『人間』ではない。」 「何馬鹿なこと・・・。」 「こいつらは『人間』によって作られた、『自動人形』だ。」 何それっと、意味がわからない。 頭の悪い馬鹿だという目で見てため息をつく男にもちろん一発蹴りを入れて、考える。 そして、倒れて動かなくなった男達に近づき、よく観察する。 すると、若い男が刀で見ていた『男』の身体を引き裂き、中にあるコードや線などを引っ張り出した。 「この通りだ。」 「う・・・そ・・・?」 人間と同じだと思う程こんなにも血が流れ、まだ温かいこの皮膚。 それでも、これは人形であった。 「お前。間違いなく目撃者として狙われるぞ。」 「ちょっと待ってよ。冗談じゃない。」 「こちらこそ冗談ではない。お荷物は迷惑だ。」 その言葉に再びぴしっと何に皹が入った。 よく、耐えたものだと自分でも褒めたくなるほどだ。 「ふ・ざ・け・る・ん・じゃ・なーい!!」 足をかけ、バラウンスを崩した男を投げ飛ばした。 それは綺麗に宙を舞って地面に叩きつけられた。 さすがの男もそれには驚いて、何が起こったかわかっていないようすであった。 ざまーみやがれと心の中で呟いて、手を叩く。 「自分の身ぐらい自分で守るからお前なんかいらん。」 こちらからお断りだと立ち去る。 だが、残った男はむくりと置きやがり、口元に笑みを浮かべていた。 もし夕妃がいて、今の笑みを見たら不気味だとか何か企んでるだろうとわかり、もう一発お見舞いしていたことだろう。 「見つけた・・・。最後の女神の加護を持つ守護騎士の一人が。」 手間取ったが、これはこれで良かったのかも知れないと呟きながら、男は夕妃と反対方向へと歩き出すのだった。 まだまだ、バトルは始まったばかり。 夕妃にとっても、この男にとっても・・・。まだ序章が終わっただけ。 |