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カボチャオバケにご用心 その日、数日前と同じように破壊音とともに嵐のような女が現れた。 「邪魔するぜ、テメェ等生きてるかー?」 長い黒のコートに銀縁眼鏡をかけた、肩より伸びた黒髪を簡単に一つに結んだ、それなりにスタイルのいい女が玄関の扉を破壊して室内に入る。 「毎回言うが、扉を破壊するなど非常識だ。いい加減蹴り破って入るのをやめてもらえないだろうか?」 「ごちゃごちゃ細けぇこと気にすんなよ。」 「細かくはない。」 「このマンションだってこっちのもんだから問題ないだろ?」 「・・・。」 「とりあえず茶な。」 「・・・。」 話が通じないどころか、態度のでかい女はお茶の要求をしてくる。 普通ならふざけるなとキレて銃撃戦になるだろう。(銃撃戦になることも普通ではありえないのだろうが、彼等にはそれこそが日常なので麻痺している) この女と同居人より常識があり真面目なこの男は、しばらく無言のまま女がどっしりとソファに座ったのを見たままでいたが、キッチンへと入り、茶を入れるのだった。 真面目な男はちゃんと何だかんだと言っても客である女に対してお茶を出す。ある意味損な性格をしているかもしれない。 「それで、用は何だ?」 「はぁ?用がないと来てはいけねーってのか?」 「なら、用が無いのに扉を破壊するな。」 「まぁいいじゃねーか。」 すかっとするだろ?と言われても頷けるはずがない。 毎回、この扉は修理してくれるのは事実だが、元に戻るまでが大変なのだ。 別に、この一室はこの女が所属する組織の管理するマンションであるのだから文句はあまり言うつもりはないけれどもだ。修理して数日したら再び壊されるということの繰り返しには、さすがにどうにかしてほしい。 基本的に自分と今はまだ寝ていて起きてこない相棒とはどこかに所属して群れるということはしないが、タダで住む場所があるのなら別にそれにこしたことはない。 だから、別に群れているつもりはない。 「・・・あ〜ねみぃ〜。おい、敦。カフェオレ寄越せ。」 隣の部屋の扉を開けながら眠そうに大きな欠伸をしながら、この部屋のもう一人の住人がやっと顔を出した。 「また寝坊だ。」 「あ、敦。カフェオレくれ。・・・なんでその女がいるんだ?」 いつものようにぼさぼさに寝癖で跳ねた頭をがしがしとかき回しながら、部屋から出てきた隼人。 「あれだけ盛大な爆発音がしたにもかかわらず、寝ていられるとはお前の頭はどうなっているんだ。」 「はぁ?んなもん知らねーよ。自分の脳ミソなんて見れねーだろ。」 「誰も見ろとは言ってない。俺は普通の人間のように起きろと言っている。」 「だってよ。今朝方まで俺、花子の修理してたんだぜ?」 「・・・。」 だから、これでも起きてきたのは早い方だという言う分の隼人だが、すでに昼を過ぎている今、夜寝ている時間にしても十分寝すぎである。 「それよりカフェオレ。」 「お前はそれしか言えんのか?」 「だってよ。朝一番に飲むのがうめぇんだ。」 早く寄越せと手を差し出され、今ここで刀を抜いて斬ってもよいだろうかと思ったが、諦めて敦は隼人の要求通りキッチンへと向かうのだった。 「で、何でいるわけ?白城さん。」 ぼけーっとした顔だった隼人から急に普段の彼らしい笑みを浮かべた顔に変わり、やっと目が覚めたかと、女もまた口元に笑みを浮かべる。 「依頼にきまってるだろう?」 ほらこれだと、一枚の写真を寄越した。 「誰だこのおっさん。」 「とあるお偉いさんだな。」 「へぇ。」 「ほら、カフェオレだ。」 二人の話の間に割って入るように、カフェオレの入ったカップを差し出す敦。 それを受け取って満足そうに飲む隼人を見て、甘ったるい匂いの余韻もあってか、敦は少し眉をひそめる。 「とりあえず、そのおっさんを片付けてきてくれ。」 「わかった。」 「隼人。どうして貴様はそうやすやすと依頼を受けて・・・もっと考えろ。」 「考えてるぜ。ほら、このおっさんが次ぎの相手だぜ?」 と、まだ写真を見ていなかった敦にそれを見せると、空気が変わったのを感じ、ニヤリと悪戯が成功した子どものように笑う。 「そのおっさん、この前の奴だろ?」 「そうだな。こいつなら問題は無い。今すぐ行くぞ。そしてとっとと片付けるぞ。むしろ片付ける時間すらも惜しいな。」 出会った際、印象が悪かったその男を掃除してやりたいと言っていた。その仕事が偶然なのかまわってきたのだ。敦にとっても異論なく、受けるという一言を返す。 「ってことで、受けることは決定ってことで。」 「わかった。じゃ、そいつは頼むな。あと、時間があるときでいいからこれを頼むわ。」 と、懐から一枚のCDROMを取り出した。 「あるゲームの体験版だ。でもって、仮想現実みたいなもんだ。戦闘なれしてるお前らがやってみて、その中で戦闘に不都合な点があったら教えろ。」 「へぇ。面白そうだな。」 「じゃーな。俺は次の仕事がまだあるんでな。」 またなと去っていく女を見送り、写真とCDROMを見る二人。 「仕事を終えてからゲームだぞ。」 「それぐらいわかってる。」 とりあえず仕事に行くぞと、敦は上着を着て玄関を見た。 「忘れていた。あの扉をどうしようか。」 「また白城さんに修理頼んでおいたら?どうせタダだし、壊したのあっちなんだろ?」 「そうだな。」 携帯で電話を入れ、扉の修理をすぐに頼む敦。これで帰って来てなおっていればいいのだがと思いながら家をでるのだった。 逃げる獲物を追いかける隼人。獲物の周囲には雑魚が群がるが敦が次々に地面へと沈めていく。 「ちょっと鈍ってるんじゃねーの?」 「心配するようなことはない。」 「そうかぁ?」 「それよりさっさとあのオヤジを始末しろ。」 「戦闘になると怖いねぇ。」 そう言いながら、背後に迫っていた男達を一気に片付ける隼人。よそ見しているからそんなのが寄ってくるのだと敦に悪態をつかれながら、片付けていく。 「こりゃ、掃除が大変だな。」 ピチャリと歩けば音が響く。あたり一面に飛び散った赤い水を見て笑う。 大分消えていった雑魚の血が飛び散ったその場所で、やっと獲物を追い詰めた。 「次はお前の番だぜ?」 カチャリと、真っ直ぐ向けられた銃口。 「ばいば〜い。」 引き金を引き、狙いを定めた獲物の心臓を真っ直ぐ打ち抜く。 「俺が片付けたかったのだが・・・。」 「そういうなや。」 「とりあえず帰るか。」 「そうだな。」 その時、携帯の着信音が鳴った。 「はい。」 「お、生きてるかー?」 「その発言は間違ってる。」 「細けぇことは気にするなって言ってんだろ?だから敦は駄目だ。」 「貴方にだけは言われたくない。」 そんなやり取りから始まり、白城から今晩の寝床について伝えられた。 どうやら、今回もまたいつも空き部屋になっている隣室へ荷物ごと移動させたのでそこで寝ろとのこと。そうやって、何度も今の部屋と隣室を扉が破壊されるたびに移動しては過ごしている。 「ってことは、左右逆か。」 「そうだな。」 「ま、寝れたらなんでもいいけどな。あ、はやく帰ってゲームしようぜ。」 と、日々の日常のことであまり気にすることない隼人はすでにゲームをするということしか頭にない。 帰宅し、扉が蹴り飛ばされた部屋の前を通過し、隣の部屋の扉を開ける。 そこは、左右が逆転しているだけで、荷物は隣とまったく同じように置かれている。 だから、毎回不便に思うことは右と左を間違えたぐらいしか思わなかったのだけれども。 「お、これ、今度出るって言ってたプレイヤーの意識がそのままあっちに行く奴じゃん。」 「ゲームの事には詳しいな。」 「だってよ、ゲームの中ででも、現実みたいに過ごせるんだぜ?」 「といっても、現実の時間の流れも変わらないし、お腹も減るし眠くなるだろう?」 「まぁ、遊びだからいいじゃんか。」 とりあえずやるぞと行き漂々として設定をしていく隼人を横目に、帰りに買ってきたプリンを開け、口に運ぶ。 「でーきたっと。あ、敦の分もやっといたぞ。」 どうやら、勝手に人のデータも作ってくれたらしい。これといって、今はすることがないので付き合ってやるかと、隼人の隣に腰を下ろす。 「お前の名前はアツシにしといたからな。」 「そのままじゃないか。」 「俺はハヤトな。」 「そのままだな。」 「ややこしいじゃねーか。それに、体験版なんだろ?」 「そう言っていたな。」 体験版だといわれても、わかっているつもりだった。現実世界では、銃や刀を振り回しては目立つ。だから、別の場所で仕事のために訓練しなくてはいけない。 そのためにゲームという形で作られた世界に行く。そうやって過ごしてきた。一般客も混じっているらしいが、ゲームなら気にしなくてすむ。 斬っても、コンティニューすれば復活することは簡単だからだ。ちなみに、それは一般人に適応されているので、自分達は回復するのはあまり現実と変わらないように設定されているのだが。 「これをやるのは俺達だけか?」 「さぁ?とりあえずやるぞ〜。」 そんな会話をしながら、二人はゲーム世界に降り立つのだった。 現実と似ているようで違う建物が立ち並ぶその町並みを歩きながら、二人はゲームでまず必要なお金を稼ぐために仕事を探していた。 そして、請け負った仕事。それはカボチャオバケの退治だった。 「・・・何故カボチャなんぞを斬らねばいけないのだ。」 「仕事だろ〜?いいじゃん。ちょうど、この街ではイベントみたいだし?ハロウィンって奴の。」 「ジャック・オ・ランタンがそこらじゅうに飾ってあるからよくわかるな。」 とりあえず、オバケがでて困るという今にも崩れそうな廃墟へと向かうのだった。
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