三 小さな夜会

 

 

 

 魅音の移動呪文というもので、ぱっと場所を移動した一同。

「今晩、ちょうど猫の夜会の日なんですよ。」

そのことに懐かしいなと思う。

第一に、再びここに来れるとは思っても見なかったので、少しうれしかった。

あの日のことは夢で片付ける必要がないのだと、思えたから。

「さすがに、私達が猫の夜会に混じるのはあれですので、小部屋ですけどね。この空間でしたら、騒いでも問題ありません。外とは隔離されていますしね。」

そういうものなのかと思うが、目の前に不思議な力を使う相手もいるのだからそうなのかもしれないなと、兄二人は本当にこの二人がいると不思議なことに遭遇するなと思っていた。

まぁ、退屈せずにいられるのでそれはいいのだが、理解をこえるものが多いので、反対においつけずにいたりもする。

千代と桜華は窓の前にある衾を開けて、外にいるいろいろなものを見てさわいでいた。

見事に、外には猫ばかりだ。たまに、犬やよくわからない生物もいるが、猫が圧倒的に多い。

「今日は猫主催の猫の夜会ですからね。犬も鳥もそれぞれ夜会がありますから。」

そうなんだぁと納得しながら、まだ外を見ていた。

 部屋の中にはミヤコワスレが飾ってあった。床の間の花瓶にはサネカズラが二枝ほど活けてあった。

 紫音はすっと人の姿に戻り、ミヤコワスレをそれぞれ一人ずつ一輪手渡した。

この作業には、猫の姿は確かにつらいので、戻った理由は聞かずともわかった。

「・・・花言葉は『別れ』。」

麻美がふと言葉にすると、誰もが体に力を入れた。

もし、花が意味するように紫音がそう考えていたら、二度と会うことはできないだろう。

 だが、答えは違った。魅音が床の間の花瓶に活けられているサネカズラを指差されて気付いた。

「そっか、サネカズラは『再会』。」

今度は美葵が答えた。

 その通りと、魅音は微笑みながら、すぐに紫音を見た。

「・・・今いったように、ミヤコワスレは『別れ』で、サネカズラは『また会う日まで、再会』の意味。今は、今日でお別れ。ですが、いつか何年か先にもう一度私は皆に会いたいと思っているんです。」

だから、再会の約束として、今はこの別れの花を渡したのだと紫音はいう。

「私も、私も紫音と会えるなら会いたい。」

「何言ってるの。会わないとでも思っているわけ?友人を切り捨てるようなことはしないわよ。」

「それに、恩人ですし。」

「妹達が世話になっているし、認めてるしな。」

「退屈な日常をひっくりかえしてくれた友人を、自分でつくった友人を簡単に裏切る事はしないよ。」

「そうだよ、紫音。」

「アンディベルもその時は一緒だもんねぇー。」

皆がまた再会する事を望んだ。二人にとってはとてもうれしい答えだった。

 魂を分けた四人だけしかしらなかった自分達。

学ぶということで知り合った教師、離れてから知った多くの魂。

様々な輝きや優しさや暖かさを持ち合わせていて、もっと早く出会いたかったと思う相手もいた。

 ここにいる彼等は皆、自分達を受け入れてくれる。

普通では迫害されて追い出されるはずだが、迎え入れてくれる。

 今思えば、どうしてこの暖かさを知らなかったのだろうかと疑問に思うほど、大切なものになっていた。

 皆、紫音と魅音に救われた。出会えてうれしかったといってくれるが、自分達も同じ。

「あ、料理が来ましたよ。」

再会の日にはいつか招待状を贈るといって、今日は食べて話して騒ぎましょうと、机の上に料理を並べた。

 おいしそうな香りに誘われて、皆楽しくそれらを食べた。

 たわいもない、話をしながら。料理を一つ一つ残さずに食べた。

 いつか再び会う日まで、この日を楽しい思い出としてしっかり記憶しておく為、いろいろ語った。

 

 

 時間はどれぐらいすぎただろうか。気がつけば、全員が知らない部屋で寝ていた。

 麻美は起き上がって、場所を確認する。どうやら、夜会の会場ではないようだ。

 全員気持ちよさそうに寝ているので、起こすのは悪いなと思い、そおっとかけられている布団をたたんで、部屋を出た。

 部屋にいなかった紫音と魅音を探す為に出て行ったのだ。

ここがどこか知らないし、どこにいるかなんて見当もつかないが、なんとなくいる場所がわかる気がしたのだ。

 しばらく歩いていくと、中庭があり、そこから空を見上げるように、二人は廊下の柱を背もたれにして座っていた。

 邪魔をしてはいけないような空気があったが、麻美に気付いた紫音が来てもいいというので、言葉に甘えて側までいった。

「眠れませんでしたか?」

「なんだか、眼が覚めて、二人がいないと思ったら、なんか顔がみたいなと思ったりして・・・。」

「そうですね・・・。今日でしばらくはお別れですものね。」

最後に顔を見たいと思うのはよくありますよねと、微笑む紫音。

今は人の姿をしていて、いつも猫での表情だったが、なんだか新鮮だった。

見慣れた顔ではないのだが、違和感なくすとんと自分の中記憶の中に残った。

 それを、魅音はおもしろそうに見ていた。やはり、人となっても心は変わっていないと。

「また、会えるよね。絶対に、招待状、くれるんでしょ?」

「差し上げますよ。五年後になるか、十年後になるか。それ以上になるかわかりませんけれど、差し上げますよ。私も、麻美さんを含め、皆に会えなくなるのは寂しいですから。」

ぬくもりを知ったあとには、なかなかそれが手放せなくなるものなんですよ。

紫音はそういって苦笑していた。

「まだ、夜は長いですから。寝ていたらどうですか?」

「でも・・・。」

「起きたらいない、ということにはしませんから。寝ておかないと、お別れの時に寝てしまいますよ。」

それは困るといって、麻美は眠くなってきた目をこすった。

「今はおやすみなさい。貴方の貴方らしい人生を歩む明日へ向かう為に。」

麻美に膝をかしてあげる。幼い子供を寝かしつけるかのように、ゆっくりと頭をなでてやる。

「おやすみなさい。今はゆっくりとやすみなさい。これから、一人の人として立ち、明日を進んでいくのですから。」

今は休めるだけ休んでおきなさいと。側では魅音が甘やかしてるなぁと苦笑している。

確か、あの日、まだ四人が一緒で天界と呼ばれるその中でも、隔離されていた空間で過ごしていた日と同じだ。

「私も、女だったら、紫音に惚れてますね。」

「また、その話ですか?」

「でも、彼女には負けますよ。」

魅音も充分負けていないよといってやり、軽く頭をなでてやる。

まったく、二人とも自分より上でありながら子供っぽいところがある。

「写真、出来ましたか?」

「大丈夫。あとは裏に言葉を残すだけ。」

そういって、写真とペンを出した。写真だけではなく、自分達の言葉を残す為に、麻美を寝かした。

魅音が魔法を使ったのだ。でなければ、ここまですんなりと寝ないだろう。

 紫音は写真をみて、素敵な写真になりましたねと、微笑む。

 写真には、呼んでおいたもう一人が写っていた。

「転生先はとっくに決まっているので、今は自由にしているみたいですよ。」

「それはいいですね。見えないのが残念ですけど。」

 写真には写るはずのない春華の姿が映っていた。

 明日、これを渡して見た彼等はどう思うだろう。

 それが見たいと思う反面、この長い夜がもっと続けばいいのにと思う。

 だが、時の流れには逆らう事はできない。

 小さな夜会はもうすぐ終わりを告げる・・・。