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一 卒業式
体育館の舞台の上で、校長が卒業生に向けて言葉を残す。 今日は、この高校の卒業式。 麻美と美葵と南の三人は卒業して、それぞれ別々の道へと進む。 しばらくは忙しくて会えなくなるだろう。だが、しばらくすれば会える事が予想できる。 そんな三人は心の中で一つだけ思っていた事があった。 そう、彼等に会いたいという願い。 今、何処にいるかさえわからない彼等。ただ今は世界中を放浪すると去年の文化祭の最後に言っていた。 もし、連絡手段があれば、すぐに電話でも手紙でも出していた。 新しい道を進む前に、彼等と話がしたかったのだ。 いつの間にか、校長は話を終えて、舞台を降りる。教頭が次のプログラムへと進む為にマイクを持って進めていた。 卒業式は毎年同じ。ただ、出席する人が変わるだけで、他は何も変わらない。 ふと、麻美は昨日の夢を思い出した。目が覚めたと同時に忘れてしまったはずの夢。 どうして今頃思い出せたのかは不明だが、今自分が卒業式に出席していることを思えば、そうかもしれないと思う。 あの夢は自分であって自分でないもう一人の自分。前世という自分の姿。 自分は前世で、あの四人と供に、学校のようなものでさまざまなものを学び、そこを卒業したことがあった。 今日、卒業式ということで、残っていた記憶が思い出されたのだろう。 最近、よく前世と思われる時の記憶が夢で現れる。まるで、前世の自分に戻る日が近いかのように。 もしそうならば、彼等は会いに来るだろうか。こういうときには、前世の自分に戻る事に抵抗はない。 どうしても、会いたかった。そして、話したかった。自分の進む道を聞いてほしかった。 そして、私という存在が人の世からはなれるまで、見届けてほしかった。 今ある私が出来る事をして、私という存在をこの世に残して戻りたいと思うから。 どうしたら、会えるのだろうか。
短いようで長い卒業式はあっけなく終了し、卒業生は退場となる。 これで本当に、最後。卒業と言う区切りで、この場所から離れる。 花道を通って門の外へ出るのだが、麻美と美葵と南は列からはずれて、校舎裏のまだ咲いていない桜の木の前にいた。 まだ、あの花道を通る気にはなれなかった。もう、戻って来れないような気がして、通れなかったのだ。 どうしても、彼等ともう一度会いたかったから。いくらあとで戻ってこれたとしても、何故か通れない。 「もう、今日で卒業だね。」 「そうなんだよね。」 「この一年、はやかったね・・・。」 「まさか、私も二人と同じように彼等と会うとは思っても見なかったけれどね。」 「それはそうだよね。私も後で聞いて驚いたし。」 たわいもない話。だが、内容は彼等に関すること。 「もう、会えないのかなぁ?」 何故か、二度と会えないような感覚に囚われる。 「卒業式ぐらい、会いたかったな。」 「去年・・・違うね、おととしだ。今は三月なのだから。」 「そうだね。来なかったよね。彼等。」 「今、どこでどうしているんだろうね?」 そういって、咲かない桜の木を見上げた。 卒業式にはまだ、桜は花を咲かせない。なんだか、別れの季節としては寂しいことだ。 「彼等だったら、本当に、桜の花を咲かせそうだよね。」 「確かにしそうだ。彼等ならね。」 「言えてる。」 クスクスと三人は笑う。 彼等と出会わなければ今の自分達はいなかったし、三人が出会うこともなかっただろう。 ただ、クラスが同じ、学年が同じ、選択授業が同じといった共通点ぐらいしかなくて、仲良くなれて友人として付き合えるかもしれないのに、素通りしてしまっていただろう。 「本当に、彼等・・・、紫音と魅音はすごいよね。 そういって、春華の笑顔を思い出す。 今はもう、記憶の中でしか動かない卒業式で言葉を残せなかった小学生。 去年、千代達が写真で出席させて春華は無事に卒業したが、一人一人が言うはずの未来への目標の言葉をいうことはなかった。 アルバムにも、彼女自身の写真と、学年の始めにとった写真一枚が載っているだけ。 それでも、そう残っているだけで記憶の中で思い出として生きる彼女。 「彼女も、文化祭には来てたよね。」 「本当にあの文化祭はいろいろあったよ。去年の文化祭が物足りないとおもうぐらい。」 「こら。誘拐されておきながら何をいうか。」 三人はしばらくこうして会えなくなるなと少し寂しく思いながらも、最後にここで三人で話したことを一語一語間違わぬよう心に刻む。 自分達は卒業する。今日この日で、この学校の生徒ではなくなる。 もう、花道は片付けられたかなといい、まだあったら、三人だけで通らないかといいながら、桜の木に背を向けた。 卒業式という区切りで、今日で終わり。
どこかでお昼を食べようかと話しているとき、背後で何かが光った。 振り向けば、待ち望んでいた相手がそこにいた。 |