七章       帰る場所

 

 

 確かに赤谷は幽霊ともいえるものが現れて驚いたが、事情知らない赤谷とアンディベル以外は、それ以上に現れた相手に驚いた。

いるはずがない、つい最近亡くなったのを見届けた相手が現れたからだ。

「な、なんだ、お前は?!」

男もパニックを起こしている。それはそうだろう。

足は薄れて、いかにも幽霊ですと面と向かっていわれているものだからだ。

「貴方こそ何?桜華に何かしたら許さないから!」

その間に、紫音は男の頭にドスっと飛び乗って、気絶させた。

 だが、今は男の事などどうでも良かった。

「春・・・華・・・なの・・・?本当・・・に・・・?」

「うん、そうだよ。ごめんね。せっかく、会えたのに、仲直り出来たのに、もう会えなくなって。」

抱きつきたくても、触れられない。春華にはもう、体がないのだから。

兄達もただ、見ているだけで動く事も離すことも出来なかった。

「千代ちゃん、最後にお見舞いに来てくれて、ありががとう。うれしかった。

窓の外から、魅音さんと紫音と一緒にいたんだ。お別れするのに。

本当は、もう少し話がしたかったけど、時間がきちゃって・・・。」

千代も桜華も泣いた。そして、涙が流れるはずがない春華の目にも涙が流れた。

「会いたかった・・・会いたかったよ。」

「置いていくなんて、ひどいよ。」

「ごめんね、二人とも。約束、守れなくなってごめんね。でも、約束は忘れていないから、必ず戻るから。」

待っててと、いって、魅音に向きなおす。

「あの日は本当にありがとうございました。」

「そんなことありませんよ。」

「そうですよ。あれは、きっかけをつくっただけで、春華さんが生み出した奇跡なんですから。」

もう一度、ありがとうといって、二人に再び向き直った。

「私の帰る場所はあの家で、二人のもとなんだよ。だから、待ってて。

春華がわかるように二人は二人のままで、待ってて。必ず、帰るから。」

そういって、春華は消えていった。跡形もなく、消えた。

残ったのは、彼女がこぼした涙の跡と、二つの小さな丸い珠だった。

「・・・どうやら、これをもっていてほしいということでしょうね。」

「どういうこと?」

「それが、目印なんじゃないんですか?」

そっかと、二人は魅音に渡されて、それを大事に握り締めた。

 そこでふと、今になって気になった事を兄達は口にした。

「・・・猫と犬はしゃべれるのか?」

今更だからどうしようかなと思う。説明するのは面倒であるし、今はこの男達をどうにかしたい。

「後に、お話しますよ。今はこれをどうにかしたいですし。」

兄も忘れていた男の存在を思い出し、慌てて職員室へと走っていった。

 

 

 警察に、目立たないように来てくれと頼んで、男達をつれていってもらった。

 彼等は、赤谷の父親がある会社の社長だということで、犯行に及んだらしい。

どうやら、最近の不景気で、会社を立て直すために多額の資金が必要だったとかで。

赤谷やアンディベルにしてははた迷惑な話だが、彼等には重要なことがあったのだろう。

生き残るという事のために。

「これで、ひと段落すみましたね。」

立ち入り禁止の屋上に集まる紫音、魅音、麻美、赤谷、アンディベル、桜華、千代、千広、和利の九人。

「フィナーレを飾る花火ですね。」

あたりは日が沈んで暗くなっていて、花火が綺麗に見えるだろう。

「特等席!」

「花火花火!」

はしゃぐ二人。うれしそうに見る兄二人。

「で、話してくれるの?」

赤谷の言葉で、誰もが魅音に視線を向けた。

「話しますよ。他言しないと約束して下さるのでしたらね。」

全員、うなずいて、誰にも話さないといった。それを聞いて安心しましたと、魅音は話し始めた。

「私と紫音、そして彼はもともと同じ場所にいた、俗に言う幼馴染というものです。

もっといえば、四つ子です。」

「四つ子だったら、もう一人、いるんじゃないの?」

「四人は、神によって一つのものから四つにわけて創られました。

離れることがない、見えない糸で繋がった、大きな絆を持つ四人。

そんなある日、離れ離れになる事になりました。ですが、私と紫音とはすぐに再会できました。

ですが、私は争いを止めたいからと、無理をして、再び離れ離れとなりました。

近くにいながら、遠くにいたのです。

それで、始めは気付きませんでしたが、私を助けてくれた人がいました。

その人が、四人目でした。

ですが、彼女は人として転生し、記憶は何も持っていませんでした。」

そう話して、麻美の方を見た。

「でも、どこかで覚えていますよね?

私を助けてくれた時、規則という事で記憶は消しました。

ですが、貴方はまだ覚えているはず。

私や紫音、そして璃音との絆という名の糸があるから、どこかで覚えているでしょう?」

その言葉に、麻美はゆっくりとうなずく。

覚えていないはずなのに、懐かしさを感じるのは確かだから。

「そして今日、私達はもう一人、璃音と再会できました。」

と、アンディベルの方を向く。

「アンディベルと麻美さん、そして私と紫音の四人が、神が同じ日に一つの魂から四つにわけて創り出された魂です。」

すっと、紫音が魅音の前に出て、話をしだした。

「私達四人は離れる事を知らなかった。

失う恐ろしさを知らなかった。離れて、失ってから、大切さに気付いた。

だけど、絆は残ったままだったから、再会できた。皆さんの疑問の質問はここからわかるはず。

私もアンディベルも魅音同様に、人の姿を持つもので、言葉を話すことが可能だということ。

ですが、それは動物としてはありえないことだと人が認識しているために、言葉を話さなかっただけです。」

黙って聞いていた赤谷は、アンディベルに近づいて、頭をなでながら聞いた。

「ねぇ、貴方は私のもとから離れて、彼等とともにいたい?」

「・・・わからないが、犬の寿命で考えると、人の世で俺は残りは二、三年。

それまでは、南のそばにいたいと思う。」

「そっか、ありがとう。」

赤谷はアンディベルの首に抱きついていった。

「じゃぁ、麻美もいつか、帰るのか。四人がいた場所とやらに。」

「それは、麻美さんが決める事。

それに、四人が帰る場所は同じですから、今はまだ、人として過ごすのも大丈夫ですよ。

今は本当に、麻美さんは人なんですから。私達と違います。

人としての時間が許す限り、貴方方のもとに麻美さんは留まるでしょう。

アンディベルも同じ事です。」

「そう、私達には長い、いらないほどの時間がありますから。」

その時、ドンと音がして、花火が始まったことを告げた。

「うわぁ、綺麗。」

「すごいな・・・。相変わらず。」

「費用、大変だろうな。」

「わーい、花火―!」

「花火花火!あ、あれすごいよ。」

「・・・四人そろって花火見られたのはいいですね。」

「そうだな。」

「帰る日はまだ先だけど、今は忘れるのもいいな。」

「ごめんなさい、覚えてなくて・・・。」

九人それぞれ思いを胸に秘めて、今は時を忘れて花火に見入った。

 暗い空に赤や黄の光が照らし、人々を楽しませる。人口の光の中で、花火だけは綺麗だなと、紫音は思った。

 もう少し、待ってくれていたら、春華もこの花火をあの二人と楽しめたかもしれないなと思ったが、お楽しみに帰って来てからの方がいいのかもしれないなと、考えると、早くその時がくればいいと願った。

 この空に輝く月と星、そして花火に、いつか帰れますようにと願った。春華も、自分たちも。