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紫音と魅音も驚いたが、一緒にいた彼等も驚いていた。何せ、麻美が舞台から飛び降りたかと思うと、持っていた剣で絡まったコードを投げて引っ掛け、その反動で少し落ちる場所をずらした。そして、その間に綺麗に弧を描くように蹴りを入れて照明を客席の端に蹴り飛ばした。そこには、誰も人はいない。 紫音と魅音も気付いたので、いけないとわかりながら魔法を使おうと思っていたので、それには助かったが、まさか麻美があのような行動に出るとは思っていなかったので驚いた。 「人って、見かけによらないっていうけど、彼女もその類よね・・・。」 「そうですね。あの夜会で出会った感じではこういった方だとは思いませんでしたけど・・・。」 だから、人は面白いのかもしれないと、納得して、麻美に怪我はないかと近寄る。 「あ、大丈夫です。それより怪我はありませんでしたか?」 そういわれて、大丈夫だと答え、小さく劇をどうしましょうか、と尋ねると、忘れてたと思い出したようだ。 王子役をしていた彼は、演劇部所属だったので、なんとか続けようと、アドリブでいって最後を迎えようと舞台袖で待機しているメンバーに言い、劇を続ける第一声を言う。 「おのれ、魔王め。敵味方も関係なく攻撃をするとは!」 それに反応して、魔王役の彼も、王子に合わせて答える。麻美もそれに混じろうとしたが、魅音は止める。 「少し待って・・・。あれ、気付いて対処に遅れた私達の責任だから・・・。」 そういって、麻美を守るあの二人のように立ち上がり、劇に参加する意思を見せた。 麻美はどうしようかと考えたが、この人が何かするのが壊す事ではないと思ったので、流れに任せる事にした。 「まったく、迷惑を考えない人だ。あ、人ではなく魔か。」 見下すように言い放ち、怪しい笑みを浮かべ、客席の者からは、始めから仕掛けられた劇の人物だと思われた。 「な、何者だ、貴様!」 魔王や王子はよくわからないが、とにかく合わせる。 「何者?言ってくれるわね・・・。でも、いちようは自己紹介をしておくべきよね・・・。」 そういって、すっと軽くジャンプしたかと思えば、知らぬ間に舞台に立っていた。そして、麻美もそこにいた。 「私はリーズの姉。貴方が殺したはずのね。」 「な、何?!」 誰もが魅音の登場にどうしたらいいかわからなくなる。アドリブでカバーするにも、知らない相手が入っては、どうなるか予測しにくいのだ。 「確かに、私はあの日あなたに殺された。私の身代わりがね。」 そういって、魅音は始めから用意された台詞をいっているかのようにスラスラと会話を進めていく。 「私は始めから第一王女だけど、王位を継ぐつもりはなかったし、王と王妃も継がすつもりはなかったわ。だって、私は魔の力を受け継いだ魔法使いだったんですもの。」 そういいながら、魅音はすっと腕をまっすぐ魔王の方へ向けて『紫音』と名前を呼んだ。すると、今までいなかったはずの黒い猫がその腕に乗っていた。まるで重さがないかのように、そこに存在した。 「私は魔法使いでも器に魂を込め、使役し、敵を欺く者。さぁ、貴方も欺かれなさい。彼等と舞い踊って・・・。」 黒い猫は重力がないかのようにしなやかに舞台上に降り立ち、瞬時に魔王に襲い掛かった。 「う、うわ、何なんだ!」 なんと、黒い猫を筆頭に、黒い鳥や何かが現れた。だが、触る事はできない。始めから存在しないかのように。まるで、影のようだ。 それを、呆然と見ていた三人は魅音が麻美に近づいてくるのを見て、我に返る。 「あ、えっと・・・。」 「さぁ、リーズよ。この剣でかたをつけなさい。自分の手で終わらせなさい。」 そう言って、いつのまにか持っていた剣を手渡した。それは、先ほど照明に投げつけて、今もあそこで照明と一緒にいるはずの剣だった。 「わかりました。この国は私の国。貴方が本当の御姉様かどうかはわからないけど、貴方を信じる。見ていて下さい。」 そういって、麻美は一歩、また一歩と堂々たる態度で舞台の中央へと歩いていった。 「貴方方二人もしっかりと見ておきなさい。新たなる主の誕生を。」 二人は動けなかった。ただ、魅音に言われた通り、見ているだけしか出来なかった。 「魔王よ、これで本当に終わりにしよう。私も、上に立つものとして、下につくものの為に動く。お前もそうだろうと思う。だが、私は手を引く事は出来ない。だから、進む。悪いが、倒されてもらう。」 そういって、麻美は剣を魔王に投げつけた。 「お、おのれーー!」 魔王はそう叫んで舞台に倒れた。それを、舞台袖にいたメンバーは上手く舞台から降ろし、劇を見守った。これからどうなるか、誰も予想が出来なかったから、見守る事しか出来ないから。 「これでやっと、日の光のもとへ戻ってこれた・・・。」 その魅音の言葉にどう言うことだと三人は首をかしげる。 「リーズ、私は身代わりを使って死を免れた。だが、その代償は大きかった。」 「どういう、ことですか?」 「私はこの世に繋ぎ止められたが、魔王が降臨している限り、日の光のもとへは出てこれなかった。」 闇の力の影響で、人と同じように生活が出来なくなっていた事を告げた。だが、これで戻ってこれるのだという。 「さぁ、早く城に戻って、式典を始めないとね。新しい主の誕生を知らせないとね。」 そういって、始めて姉らしく優しい笑みを向けた。 「隣国の王子殿、どうか、リーズの事を頼みます。私から・・・、いえ、兄からの最後のお願いです。」 「え?兄・・・?」 いきなりの台詞に驚く王子。どう答えればいいのかわからない。 「実は、生まれたときは第一子で王子だったんですけどねぇ。魔王が命を狙っている事を知り、賢者達が魔法使い達を集めて姿を変えたのですよ。ですから、ほとんど王女として育ったんですけど、今回の件で、中途半端にそれが解けてしまいまして・・・。」 なにやら複雑な事情に悩んでいた模様。 「で、ですが、最後のお願いって、貴方もご一緒に城へ・・・。」 「いえ、いけません。」 はっきりと意見を主張する。その目には迷いなどなかった。 「ニャオーン」 黒い猫がいつのまにか魅音の足もとにきていた。 「私は、王女として育った。そして、あの日から今日まで魔法使いとして過ごしてきた。そんな私は、リーズの兄として、城に戻る事が出来ないのです。もう、私は城の者として存在できないのです。」 「しかし、国の再建の為に貴方の力を貸していただきたいし、リーズのたった一人の家族でしょう?!」 王子は自分を取り戻して、台詞をつくっていく。それに、誰も違和感を持たないだろう。 「それでも、駄目なんです。あの日、私は城へ戻らないと決めました。ですから、もう戻りません。」 そういって、さようならと、最後に告げて消えた。まるで、本当の魔法使いのように。 「・・・さま・・・、おにい・・・さま・・・。」 消えた事に涙を流す麻美。それを、優しく包み込んで王子は言う。 「・・・きっと、彼女は・・・彼は貴方の事を見守っていてくれます。先程のように、きっと側で見守っていてくれるはずです。ですから、私達はあの人に私達が作り上げた国を見てもらいましょう。」 「そう・・・ですね。私も、国を背負う身。ここでいつまでも止まっていられません。」 その言葉にはすでに迷いはなく、国を背負うものの目をしていた。 「私はいつまでも、リーズ様に誓いを立てます。この命尽き果てるまで。」 「私も、リーズとともに国を・・・。そして、永遠に愛することを誓おう。城へ、国へ戻ったら、私の妻となっていただけますか?」 その答えに、麻美は目に涙をためながら、笑顔で『はい』と答えた。 こうして、二人は城へ戻り、婚儀を行った。そして、今では世界でも大きな国となった。 なんとか、劇は幕を閉じる事が出来た。照明のトラブルと魅音が劇に入るという事態があったが、観客にはそれはそれで好評のようだ。 舞台裏では、拍手で最後まで出演していた三人を出迎えた。 「すごかったよ〜、麻美。あの照明落とす奴。観客は皆、それがアクションだと思ってるし。拍手もすごいし。」 「そんなことないよ〜。」 でも、大きな被害にならなくて良かったねと皆笑顔だった。だが、そこでふとあの途中参加の人が何者なのか気になった。 「麻美も知らないの?」 「知ってるかもしれないけど、思い出せないんだよ。」 王子役の彼も、従者役の彼も、知らないという。クラス全員、誰も知らない。 「・・・もしかして、本当にただの観客だったのかなぁ・・・?」 「それってまずくない?巻き込んだ?」 「でも、勝手に入ってきたんでしょ?それに、結構上手かったし。どこからあの台詞はでてくるのやらねぇ。」 そんな話をしていた時、よく見た顔が現れた。 「あら〜、麻美のお兄さん。しかも、千広さんとお嬢ちゃん達も一緒じゃない。」 「やぁ、劇上手くいってよかったね。トラブルあったけど。で、あの照明の弁償はあとでね。」 「いや〜、お兄様怖い。そこをなんとかできないかしら?」 「ちょっと無理だね。」 そんな会話が繰り出される中、誰もがふと、彼等の後ろにいる人物を見て動きを止めた。 「な、なんで?いつの間にそこに!」 ほとんどの生徒がそう叫んでいた。 「あはは・・・、すみません、いきなり乱入しておきながら・・・。」 「そう言えば、いつのまにか舞台に上がって、いつのまにか客席に戻っていたね。どういう仕掛けなんだい?」 「それは秘密ですよ。」 「それにしても、劇すごかったですね。」 「乱入には驚きましたが、ありがとうございました。照明の件、合わせて頂いて。」 「いえいえ、私はただ、せっかくの劇がつぶれるのが嫌だったんですよ。でも、結局私がつぶしてしまいましたけどね・・・。」 「そんな事ありませんよ。」 その会話のあと、魅音は改めて千代と桜華の知り合いだと名乗り、自己紹介をした。 「へぇ、知り合い。いつ知り合ったんですか?」 麻美の質問に少々複雑な顔でかえす。 「つい最近なんですけどね・・・。あまり出会い方・・・というより、分かれ方がよくないので話は出来るだけしたくはありませんが・・・。」 そういいながら、二人の様子を伺う。 「あ、大丈夫だよ。それに、私は春華と最後に仲直りできたのは魅音さんのおかげだから。」 その言葉で、春華という人物を知っているメンバーはだいたい予想できた。だから、魅音にそれ以上は聞かなかった。 「ニャオーン」 暗い雰囲気に包まれた時、黒い猫が鳴いた。 「そう言えば、さっきすごかったですね。この猫、魅音さんの命令には何でも従うんですか?」 「従うというより・・・、頼んでいるというか、そうするように私が動かされているというか・・・。」 なんだか分からない事を言う。かわった人と思いながら、とりあえず、しばらくある休みの間に次の打ち合わせと昼ごはんを終えてしまおうと誰もが動き出した。 「しかし、私としては麻美さんの方がすごかったですね。」 それを聞いて、顔を少し赤らめる。魅音が何のことを言っているのかわかったからだ。 「まさに、最強のお姫様。貴方のような姫には、魔王など適いませんね。」 それを言われて、少々複雑だった。確かに、あの話では魔王より姫の自分の方が強い事になっている。 「でも、どんな姫にも、必ず王子は現れるのですよ。それに、お姫様が強くなれるのは、大切な人を守るためですからね。それが、お姫様の強さ。格好いいと思いますよ。そうでしょう?貴方は舞台の成功よりも、大切な彼等を守ったのですから。」 「ありがとうございます。そういっていただけて・・・。」 変わった人だが、いい人。麻美は魅音に対してそういうイメージを持った。 自分は確かにお姫様より王子の方が似合っているのかもしれないが、魅音に大切な人を守る為と言われて、お姫様でも、人を守る方が大切だと思った。 |