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二章 最強のお姫様 前編 『 昔、神は言いました。今日生まれた姫は、十五年後、災いがふりかかり、命を落とす危機におちいるだろう、そう言った。 』 ナレーターの声が物語を進め始めた。それと同時に、かかっていた幕があがり、舞台はライトで照らされた。 「そんな、姫は、姫は助かるのでしょうか!」 『 姫は生まれ持った賢さと強さと勇気を持ち、立ち向かえば災いは晴れ、この場所へ帰ってくることが出来るでしょう。 』 舞台では布でくるんだものを抱えるお后様らしき人と王様らしき人、そして、神らしき人の三人が演技をしている。 『ああ、なんと言う事だ。』 王のその言葉が舞台から聞こえたとき、ライトは落とされた。次のシーンへと移るのだろう。 次のシーンはお姫様が登場する。どうやら、災いが始まると予言された十五歳らしい。もちろん、演じるのは麻美だ。 『お呼びでしょうか、お父様。』 姫は頭をさげ、王に敬意を払ってから向き合った。 『リーズ、実は話さなければならない事があるんだ。』 そう言って、王は姫が生まれたときに神から言われた事を話した。そして、それが現実となろうとしていることを話した。 『どういうことです、お父様。ガーゼスが、私の伴侶として誓いをたてた者が国ののっとりを考えているというのですか?』 『そうだ。だから、今すぐ城を出て姿を隠しなさい。あの男はもう、お前の伴侶ではない。国ののっとりを企む反逆者だ。』 舞台では出演者の芝居が続く。 「すごいですね。まさか、これだけ堂々と演技をするとは思いませんでしたよ。」 「練習したんでしょうね・・・。」 そう言いながら二人は見ている。隣では、伴侶の事が許せないと文句を言う小学生二人がいた。 話はどんどんと展開していき、姫は言われたとおり、その日のうちに城を出て、少し離れた川辺の集落で身を隠す。城の姫ということを知っている人は、一緒に城を出た魔法使いの従者ただ一人。 姫は正体を隠すために、男としてその従者と村で暮らすようになった。魔法で、髪と目の色を変えてもらって、もう自分は姫ではないと決めて。 姫が城を出たあと、父が亡くなり、あの男が王の位についたのを知った。誰もが、いなくなった姫が死んだと思い込んでいた。 話がどんどん進むにつれ、結果は予想できるが、それまでに起こる展開が読めない。今、この客席の誰もが、この演技から目を話せないでいるだろう。 「すごいね、麻美おねえちゃん。」 「私もいつか、麻美おねえちゃんみたいになる。」 小学生二人はそう言って、小学校卒業して中学に入ったら、演劇部に一緒に入ろうねと、約束していた。まぁ、そんなに遠い未来ではないので、実現するのは近いだろうが。本当に、他の者への強い影響力を持つのだと、紫音は思った。自分も、その影響力によって今があるのだから。 それから、劇は戦闘のシーンが多くなっていった。姫の幼馴染でありながら、あの男と供にあるのが幸せならばと手を引いたが、あの時無理やりにでもと後悔して、行方知れずとなった姫を探していた。姫、その王子にただ一人本当に愛する事を誓う人。そして、やっと見つけ出せた。 事情を聞いて、あの従者の三人で行動していくうちに、二人は昔のように仲良くなり、そして愛するようになる。このまま、旅を続けていてもいいかなと思っていた頃、従者はある魔法で知った情報を血相を変えて伝えに来た。 これから、三人はあの男と敵対して国を取り戻す事を決め、姫、というより、反抗するうざい青年と隣国の王子を消そうと男は動き出す。舞台では、姫と王子が背中合わせにして、お互いを守るように立ちはだかる敵を倒していく。 小学生を挟んで座っている千広はよくオリジナルの台本作ってここまで仕上げられたものだなと感心している。魅音も紫音も同感だ。それだけ、練習をたくさんしたのだろう。 そして、ふと紫音は思った。少しの隙をついて、敵が王子に最後の力を振り絞って攻撃を仕掛けてきたのを、姫が庇ったシーンを見て。自分達と同じだなと思った。自分も過去に一度、故意ではないが、危険の真っ只中に立つ魅音を庇った事があった。それは本当に遠い昔の話。魅音が封じられる前、そして、自分がまだ、人の姿をしていた頃。そして、見た目も幼かった頃。 今では懐かしい思い出として思い返す事が出来る。あの当時では、悲惨な事態だったので、口に出す事など出来なかった。 そう思い出に浸っている間に、姫は従者の魔法で一日かけて回復していた。この世にはない力が、この劇では大いに役に立っているようだ。この世界とはかけ離れている世界が、あの舞台では繰り広げられている。自分達が本来いるべき場所に少し近い場所。 劇はクライマックスを迎えていた。姫の麻美は最後の気力を振り絞って劇に集中した。 「覚悟しなさい、ガーゼス。いえ、魔王よ!」 「ふふふ、私の正体に気付いた者はお前たち三人ぐらい。だが、すぐに正体は再び闇に消える。」 そういって、ガーゼス役の青年は衣装を、まるで魔法を使ったかのように変えて、黒い剣を構えた。 「お前たちは私の手によって死ぬのだからな!」 「私達は決して死にはしない。お前を倒すまでは!」 その台詞の後、魔王と右腕なる魔物との対決だった。ガシャンやドォンなど、大きなぶつかったり剣が交わる音が客席へと響く。 「なかなかやるな。しかし、これで終わりだ!!」 そういって、魔王は呪文を唱えて、ドラゴンに変身するという設定だったはず。麻美は少し周りの様子を見ながら、目で次の動作の合図をしあう。その時に、自分の兄とその友人で最近よく遊びに来る小学生二人組みが目に入った。そして、どこかで見た事がある人と猫を。それと同時に、彼等の上にある照明が魔王の呪文の後の変身の大きな効果音で、かろうじて保てていたバランスを崩し、落ちようとしていた。 「あ、危ない!」 麻美は劇を放り出して舞台から飛び降りた。
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