<< 番外編 >>

   〜 夢から覚めた後には

 

 

夢から覚めたら、待つのは別れ。だけど、それは次の新たな出会いでもある。

舞台のアクシデントに誘拐や、猫と犬の会話など、いろいろなことが起こった文化祭初日。

それ以上にはいかないけれど、その後の二日間の文化祭も、なんとか上手くいった。

これで、この劇も終わりを迎える。

昨日も今日も、紫音達の姿はなかった。

 

屋上へ来て、野外パフォーマンスを眺めていた。どうも、ここで過ごすのが、一番落ち着く。

きっと、紫音達とのお別れをした場所でもあったからだろう。

一人黄昏るかのように、フェンスにもたれて夕焼け空を見上げていたら、お客が来たようだ。

「こんなところにいたのか、探したよ。」

美葵がやってきた。

「うーん、ここがなんとなく落ち着くからさぁ。」

「何?屋上で何か思い出あり?」

「思い出・・・なんだよね・・・。いろんなことがあって、いろんなことを知って、夢から覚めた場所だからね・・・。」

なんだか、遠くへいってしまいそうな感じがして、少し怖いかもと思いつつ、そんな考えを吹き飛ばして戻ろうという美葵。

だが、麻美はまだ、ここにいると言う。

「まだ、いたいんだよ。」

「どうして?」

美葵の問いに、もしかしたら会いにきてくれるかもしれないから、と麻美は答えた。

会いに来るのは誰の事か。美葵にはわからないが、心当たりがないわけではない。

二日前、現れた、劇に巻き込まれながら劇をやり遂げた人と黒猫。

そして、誘拐事件。そのことが関係している事ぐらいわかっている。

彼等と一緒にいた麻美は自分に向けるのと同じような笑顔を向けていたから。

あの笑顔は、あまり他人に見せないから、特別な相手だということはよくわかっていたから。

きっと、大切だが、近くに一緒にいることがほとんど出来ないのだと思われる。

だって、美葵はここずっと一緒にいても、文化祭に出会った日まで、彼等の存在は知らなかったからだ。

ふと、彼等のことを考えていた美葵に、麻美が問いかける。

「夢から覚めた後には、何が残るんだろうね・・・?」

少し寂しそうにいう麻美を見て、どう答えたらいいのか迷う。

「夢から覚めた後には、何も残らないのかなぁ?

紫音も魅音も、私に会いに来てくれて、うれしかったけど、それと同時に、私は私だから、今は一緒にいられないから、また、どこかにいっちゃったんだよね・・・。」

出来れば、文化祭最後には会ってから、放浪にいってほしかった。何もまだ、言えていないのだ。

記憶の片隅にある、四人の人。自分はその中の一人。

たくさんの感謝の気持ちと、謝罪の気持ちがあふれてくる。

紫音に、伝えたかった。

前の自分の記憶も今の自分とは同じじゃないけど、自分は自分だから、伝えたかった。

「私が私であるから、私の人生を私らしく生き抜いてほしいっていってさ。

前も今もこの先も、きっと『私』というものはかわらないから、今は別のもので違っていても、帰る日まで会えないのはやっぱり寂しいから。」

麻美が何を言いたいのかはあまりよく理解できないが、黒猫とあの人とあえなくなるのは寂しいということだけはよくわかった。

だから、これでも友人だったから、何かいってはげましたいけど、良い言葉は見つからない。

だけど、何かいわないと、引き止めないと、消えてしまいそうで、美葵は思うように麻美にいう。

「会いたいなら、会いに行ったらいいよ。

相手が逃げるなら追いかければいい。

麻美が麻美であるなら、相手も麻美のことを気にかけてくれていたら、会えるよ。

切っても切れない仲ってのがあるように、腐れ縁とかって、結構離れられないから、繋がってるなら、また会えるよ。」

だから、今は相手の気持ちが変わるのを待っていたらどうと提案する。

数年たって音沙汰がなければ探せばいいと、必死になって自分でも意味のわからないことをいっていた自覚のある麻美は、友人はいいなと、美葵に感謝していた。

きっと、自分はどこかで参っていたのだと思う。

いろいろなことを忘れて、知らずに生きてきて、知らずに大切だった人と出会って。

大切な人のことを忘れるということは、相手にとってとてもつらい事だとわかるから、そんな思いを持たせてしまった事と、自分が人であるために、彼等とともにある時間が今つくれないこと。

巡る思いが、心の中で整理しきれていなかったのだ。

「ありがとう。さすが美葵。」

「ほら、とにかく下に行こうよ。そろそろフィナーレだよ。」

屋上にはもう、人の姿はない。麻美は美葵につれられて階段を下りていったから。

 

 

あるのは、たったひとつ。

気まぐれな神様だけが、そこにいた。

四人を導くかのように、何かを麻美に伝えるかのように・・・