「さ、この光の扉を超えると、もとの世界ですよ。記憶が飛んでおかしい感じになるかもしれませんが、大丈夫ですよ。」 とうとう、本当の別れの時がきたのだった。 「…また、会えるよね?」 「さあね、麻美さんが忘れない限り大丈夫ですよ。」 「忘れるように処置したの誰よ?」 「…私、ですね。」 クスっと笑みを零し、光の扉に手を触れる麻美。 「また、会おうね。私は、絶対に忘れないから。紫音こそ、私を見かけたら声をかけなさいよ?」 「そうですね、声をかけますよ。」 扉の中に入り、紫音の姿がかすれていくのを見て、 「…至福の風の導きのもと、幸せの知らせを届くように…。永き眠り、失われた時間と光を取り戻す事を願って…。」 麻美はあの話の最後に、二人が同じような境遇に陥ったものへの言葉として書かれたものをつぶやいた。 消え行く紫音からは笑みと涙がこぼれた。きっと、聞こえていただろう。 光に包まれ、何も見えなくなった麻美。出口らしきものが近付いてか、光はいっそう強まった。 その後、麻美は最後に届いたのかわからないが、叫んだ。 「紫音、私いつか、紫音みたいにずっと一緒にいたいと思える友達見つけるよ。それと、紫音とはずっと友達だからね。魅音が元に戻ったら、報告しに来なさいよ!」 光に飲み込まれ、次に目に入ったのは、いつも見る公園の大木であった。 「…何してたんだっけか?」 長い時間、別の場所にいた気がしたが、時間はそう経っている気配もなく、おかしいなとよく思い出してみる。 確か、買い物から帰ったとに、また用事を言われるのが嫌で散歩として外に出ていたなとまで思い出した。 「寒い…。」 身体をぶるっと振るわせる。珍しく冷たい風が強く吹いている。 「そろそろ、帰ろうかな。」 上着に首をすくめ、公園を出る。 ふと、振り返り公園を見渡す。何か違和感があったのだ。何かを忘れているような、思い出せないおかしな気持ち。 「…忘れちゃいけないはずだった気がするんだけどなぁ。」 思い出そうにも思い出せない。 考えようとも、寒さに負けて、家に帰ってから考える事にした。 おかしいなとつぶやきながら家までの帰途を歩く麻美。 「ニャオーン。」 麻美のすぐ側を一度止まって鳴き、その後何食わぬ顔で通り過ぎた真っ黒の猫がいた。 すれ違った後、真っ黒の猫は一度振り返り、麻美に視線を向けた。 麻美は黒い猫には気付かず、まだ何を忘れているのかを考えていた。 「ニャオーン。」 猫はもう一度鳴き、その後は振り返ることなく歩いて行った。 次の日、部屋の片づけを再開した麻美。だが、そう簡単には片付く気配はない。 ふと、休憩しようと窓に近付いた時、塀を歩く真っ黒の猫と笑顔の似合う綺麗な人が歩いているのを見た。 「猫の散歩に付き合うってか?」 言ってみた後、どこかで見たことがあるような気がしたが、名前が出てこないので、人違いだろうと、見下ろした後ぐっと背を伸ばした。 そろそろ再開しようと窓に背を向けた後、猫と人が麻美の後姿を見て、クスリと笑みを零した。 猫とその人はその後、どこかへ消えた。微かに口で何か言葉を残して…。 +++ あとがき +++ シリーズ第一弾。クラブにて提出した作品で、少々ミスをして苦い思い出になった作品です。 訂正して戻してありますが、どこか残ってるかもしれません。 実は紫音の名前が柴音になってたんです。指摘されて嘘?!となった懐かしい思い出。 もしかしたらどこかに残ってるかもしれません。その時は、こっそり教えて下さい。 |