夜会の小さな魔術師






 夜会会場はとても賑やかだった。想像していたものとは全然違っていたが、楽しそうであった。

「夜会って、何かのパーティみたいなものなの?」

前を歩く紫音に疑問を尋ねてみる。

「そうですね、始まりは何だったのかはわかりませんが、何かのお祭りか話し合いだったと思いますよ?」

「祭りか話し合い?そのまんまだね。」

「確かに今と同じように、そのまんまですね。」

頬を緩めてにこやかに笑みを零す紫音。一瞬だけ、人の姿に見えた。嘘だと思い、目をこすってもう一度見たが、やはり猫であった。

「どうかしました?」

その行動に疑問をもったのだろう。麻美はなんでもないと笑みを作って答えたが、少し哀しい顔をした紫音が見えた。

「し、紫音?どうかした?」

「あ、いえ、何でもありませんよ。ほら、行きましょう。私はまず、仕事を終わらせないといけませんから。」

そう言い、進む足を再び動かし始めた。

 そう言えば気になる、あの白い綿のようなふわふわしたもの。それと、紫音のしなければいけないこと。

「急ぎましょう。でないと、仕事が出来なくなってしまいます。」

進む足を速める柴音。何処を歩いているかさえわからない状態で置いてけぼりをくらい、迷子という格好の悪い状態にはなりたくはなかった。

「い、急ぐんだね。頑張ってついていきます。」

こう言う時、やはり猫の足は速いものだ。ほぼ走っている状態で、紫音を追いかける事になった麻美であった。





 大分息が切れかかってきた麻美。

「ね、ねぇ、ま、まだ?まだ着かない…の…?」

「もう少しです。あ、ほら、見えてきましたよ。」

ぴゅんと走っていく紫音。人間では猫の速さに勝てないということが、よくわかった麻美でした。

 先に走っていった紫音を一時は見失ったが、走っていった方向へ向かって走っていくと、そこに紫音の姿があった。

 そして、紫音の他に、髪が結構長い顔の綺麗な人間がいた。

少し可笑しくおもうところは、下半身がほとんど目の前に聳え立つ大きな塔の中にある壁に埋まっていた事だ。

最初見たときは、石像かと思ったが、今見ると全然違う事がわかる。

「…一月ぶり、だね。」

紫音は寂しそうな眼でその人に話し掛けた。返事を返すことがないとわかっている長き眠りについた人に。

「紫音、その人は誰なの?」

「…この人は、魅音。私の大切な友人ですよ。」

石のようになっている肌、さわりも石と同じく冷たい。だが、他の石とは違い、暖かい何かがある。

「魅音は、私の友人で、二十年前の猫と狐と烏がけんかをして、止めに入った彼が元に戻すように、それぞれが望む形となるようにと、魔法を使い生贄となることを選んだのですよ。魔法と言うものは、便利な反面、頼りすぎるとその者が衰えるものです。それに、大きな魔法を使う場合、たくさんの意思に対して使う魔法となると、簡単にはいかないのですよ。簡単なことはすぐ使える魔法ですが、麻薬のように中毒症状を起こす者が出てくるので困ったものです。ですから、全ての魔法においては使うごとに何かを代償として、それぞれが奉る神に捧げるのですよ。」

つまり、魅音はいがみある三種族が仲良くなってほしい一心で、己の生命を代償として願いをかけて魔法を使ったということだ。

「…そして、私はいつも助けられていたばかりで、彼の心の中の気持ちを悟れなかったのです。彼の笑顔が私に安心感を与え、この時間がこのまま続くと錯覚して、気付かなかったのです。」

紫音の哀しみの声は続く。きっと、ずっと悔やんでいたのだろう。

大切な友人を肝心な時に助ける事が出来なかった自分の不甲斐なさを思い、あの幸せな時間を思い出し、ずっと悔やんでいたのだろう。

 その後、三種族の神が、生命全てを捧げるのは代償が大きすぎると、身体は変わらぬまま、ただ永遠という長い眠りにつくだけにしようと、この塔へと封印したのだという。

 そして、気付いた時には紫音は大切な友人を無くし、合う時間も限られただけとなり、己自身に対しても呪いをかけたのだという。

「呪い…?何をしたの?」

「…彼の姿が石のままだから、自分自身も姿を変えようと思ってね。石だとさすがに会いにこれないからやめたけどね。」

「…それって、今の姿の猫?」

「そう、猫にね。好都合なことに、夜会の主催は猫だったからね。」

紫音はもともと魅音と同じように人の姿をした種族であった。

 本来、猫と紫音達は共存関係であったのだという。

人間とは違い、不思議な力を持つ、魔術師とも言われた種族。人間は同じ人間でさえも、魔術といった自分にないものを持つ者を嫌い、追い出したのだった。

それから、人間は様々な文明を持ち、今に至るまでに栄えてきた。

だが、幻想といった、夢を持たないものが増えた。

 考えれば、麻美自身も哀しくなって来た。

自分は、大切だと思える友人がいないので、失う恐ろしさと哀しさはわからないはずだが、何故か涙がこぼれ、紫音の気持ちが流れ込んだかのように哀しかった。

「…何泣いているのですか?麻美さんには涙は似合いませんよ?」

「だ、だって、笑顔ったって、私、人前でまともに笑えたことはないよ?」

涙を袖で拭き、言い返す麻美。そんな麻美に哀しい顔が消え、ほんのり笑みがこぼれた紫音が言った。

「何を言っているのですか?あなたは優しくて笑顔の似合う人ですよ。だって、私の気持ちを理解してくれましたし、ここに来るまでの貴方はとても生き生きとして、私の方が元気付けられますよ。」

そういい、あっと声を上げて気がついた。

「いけません、仕事をしないと。」

「え?仕事ってこれじゃなかったの?」

慌てて塔の奥にある階段を上り始める紫音。それに続き、見失わないように必死に追いかける麻美。

「ここへは、ただ会いに来ただけではないのですよ。」

時間がぎりぎりだと慌てる紫音。

いったい何をやるのかと、少し好奇心をわかせながらも、階段が辛く、登るのをやめようかと思ってしまう。

「で、本当は何をしに来たの?」

「今回の私の仕事は夜会の夜空を飾る、星と雪を降らす事なのですよ。」

はっと間抜けな言葉を返しながらも、大分この空間での不思議なことになれてきた麻美であった。

 紫音と麻美は最上階へと上り、端に置かれている大きな水瓶を中央へと運んだ。

「お、重い…。」

「が、頑張って下さい…。」

水瓶は重そうに見えたが、ここまで重いとは思ってもいなかった。

 やっとのことで、中央へと運び終えた二人は、休む間もなく次の作業へと移った。

麻美は知らず知らずのうちに、手伝っていた。

「さて、これで準備完了。ありがとう、助かりましたよ、麻美さん。」

「そんなことないよ。」

お互い、クスッと笑みを零し、打ち上げますかと声をそろえていった。