夜会の小さな魔術師





 日が沈み、夜が来る。

人間達の知らない所で、夜会が行われる。もちろん、そこに集まるものは人間ではない。

猫が大半を占める、動物達の夜会である。

 始めは、ただの猫の集会であった。

それから、犬や鳥、挙句の果てに、人間の創造動物までもがやって来るようになり、満月と新月の夜だけに集まる夜会となった。

 夜会の主催者である猫達は不思議な力を持っていた。

人間達が忘れてしまったものを持っていた。

その力を持って、夜会が人間達に見つからないようにした。

しかし、今日のように、まれに人間が迷い込んで、仲間になる事があった。






 時刻は夕暮れ。
沖田 麻美はやっと終わった学期末試験の解放感からか、眠りについていた。起きたころには、日は傾き、五時をさしていた。

「わ、もう五時!」

試験の為に、部屋中辞書やらノートを出していたので、片付けようと予定をしていたのだが、寝ていたために出来なくなってしまった。

 とりあえず、簡単にノートを重ね合わせ、端に寄せておく事にした麻美は、どんどんと重ねていく。

そこへ、母がやって来て、どうせ暇でしょと言われて買い物に出されてしまった。

「暇じゃないのに…。」

言っても聞いてくれる相手でもない為、しぶしぶ出かける事にした。

 家の前まで来た頃、麻美の側を真っ黒の猫と真っ白の猫が通り過ぎた。

「暇そうでいいわね…。」

猫に八つ当たりをしてみるが、自分がバカみたいに思え、すぐに家の中に入っていった。

 家に帰っても、また用事を言いつけられても困るので、外に散歩に出かける事にした麻美。

これが、小さな魔術師と不思議な夜会に迷い込んだきっかけであった。





 ふらふらと近くの公園までやって来た麻美。

日が沈むと、やはり寒い。風も吹き出して、そろそろ家に帰ろうかと考えた時、ふわふわと何かが降ってくるのが見えた。

「何、これ…?」

それは、綿のようにふわふわした真っ白でまるいものであった。

何なのかと、手の平に載せて観察してみたが、やはりただの綿に見えた。

 捨てて、さっさと帰ろうとしたとき、足元を誰かが呼ぶようにたたくのを感じた。

「え、ね、猫?」

足元で麻美を呼ぶように前足でたたいていたのは真っ黒な猫であった。

よく見ると、買い物帰りに見た、黒猫と似ている気がする。

「すみませんが、それ、私のなので、返していただけませんか?」

「猫が、しゃべった?」

「あれ?お嬢さん、知らないんですか?あ、それより、それを返していただけませんか。それがないと、夜会で私は役目を果たせなくなってしまうんですよ。」

普通に考えても、猫がしゃべるはずがない。

だが、この猫にとっては、これが当たり前のように言う。

驚いて、間抜けな顔になっている麻美は、猫の言うとおり、この手に持っている丸い綿を渡した。

「ありがとうございます、お嬢さん。そうだ、夜会にご一緒しませんか?もうすぐ始まるんですが、よければどうですか?」

 猫に誘われても、どう答えればいいのか困るものだ。なので、これは夢だと思う事にして、誘いを受ける事にした。

悪い猫でもなさそうで何かされる気配もない。

どちらかというと感謝されているので、問題はないだろうという判断の結果である。

 誘いの返事に応じてくれたのがうれしいのか、大切そうに真っ白の丸い綿を持って、案内しますと言って、公園の隅まで歩いていった。

「ここが、入り口になっているんですよ。」

猫が腕で示した場所は、公園にある一番大きな樹であった。何年も昔からある、年代物だったはずである。

 猫は、もう少しこっちにと麻美を招いて、真っ白の丸い綿を樹の根元に置いた。

「ようこそ、本日の夜会へ。さぁ、合言葉をどうぞ。」

なんと、その樹がしゃべったのだった。嘘だと思うが、やはりこの樹がしゃべっている。

「合言葉は『虹の魚が泳ぐ月夜』でしょう?」

「正真正銘の招待客のようだね。さぁ、もうすぐ夜会が始まる。入るがいい…。」

 樹の根元が少しずつ動き、麻美がしゃがみこんで、なんとか入れるぐらいの大きさの穴が現れた。

「穴はそう長く開いてはいない。桜と雪の力でわしは動くからね。」

「毎回、夜会の門番ありがとうね。」

「ほら、言っている間に行け。」

「お嬢さんも急がないといけないようだ。」

麻美は猫に続き、恐る恐る、樹の穴に入っていった。

 そこには誰も人間は居ず、ゆっくりと樹は穴を閉じ、普段と変わらぬ公園の中に生える樹となっていた。





 樹の中に入った麻美と猫。狭いと思われたその中は滑り台のように、長い坂が続いていた。

「このまま滑っていけば、すぐにつきますからね。」

「で、一つ聞きたいんだけど、まだ私、貴方の名前を聞いていなかったわ。」

「おっといけない。私とした事が…。私は紫音という名です。」

「紫音さん?私は麻美。改めて自己紹介ね。」

 今の麻美には、夢でも現実でもどうでも良かった。

ただ、これからどうなるかという楽しみの気持ちが支配し、時間の流れのままに、紫音の案内するままに着いて行く事にしたのだ。

 滑り終えた後、紫音の案内するままに少し歩くと、そこには木々に囲まれている白い建物が見えた。

「あれが、夜会の会場?」

「そうですよ。夜会から次の夜会まで順番に人目につかないように守る奴がいてね、私もこの前やったよ。大変だけど、やりがいのある仕事だよ。」

「守るの?じゃぁ、大変だね。」

「夜会の日だけ、確実に世界と繋がるようにして、夜会の日時と入り口の場所を伝えるのも仕事なんだよ。なれれば楽さ。」

思っているほど、簡単なものではないらしい。

外部からの侵入者がいれば、すぐに対処して本来あるべき場所へ送り、記憶を消すのだとか。

夜会一つ行うのも、大変な事のようだ。

 話を聞いているうちに、よく考えれば自分もある意味部外者である事を思い出す。

記憶を消されて本来あるべき場所へ戻されるのだろうか。出来れば、楽しい思い出として残しておきたいものである。

 少し考え込んでいた麻美は、少し心配そうに見上げながら、もうすぐ着くことを知らせた。

「…人の考える事はわからないですが、考えすぎるのはよくないですよ?」

紫音はそれだけを言い、その後は何も言わず、建物の入り口の大きな扉を開けた。

 呪文を唱え、魔法を使ったかのように、重そうな扉を簡単に開けた。

本当は空気で出来ているのではないかと疑ってしまうほど、簡単に開いた。

 いろいろと話を聞いたが、よく思い出すと、紫音のことはあまり話の中に出ていなかった。

 もしかすると、とてもすごい猫なのかもしれないと思ったが、現実でそんな事があるはずがないと、夢で片付けてしまった。

 麻美は紫音の後に続き、にぎやかな猫と動物達の夜会の会場内に入っていった。