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大切な、初恋の相手・・・。 幼い頃から、守りたいと思っていた相手。 それが、何年も前から決められていた運命だと知ったとき、 自分の気持ちがわからなくなった。 彼女は巫女で、自分は従者で、西の守護者という神の代理人だったのだから・・・。
白い虎の起こす風
中塔秦時は興味を持ったものには、とことん執着する少年だった。 小学校を卒業し、中学に入って間の無い頃。ふと、家にある隠し部屋を見つけ、興味本位で中に入った。 ここはどうやら、祖父が趣味でつくったものらしく、彼のお気に入りのものや、今では数百万もするような価値のあるようなものもあるようだ。 だが、自分にはそのようなものに興味はないし、価値もわからないので、知らないのだが、興味はわいた。そんな時、 「うわぁ?!」 中を散策していたら、足が何かに引っかかり、ほこりのたまった床にダイブしてしまった。 「ケホケホッ、うわ、すげーほこり。何年掃除してないんだよ。」 ほこりを手でよけるようにあおいぎながら、立ち上がる秦時。 「これか?」 ひろいあげる、古ぼけた一冊の冊子。手で周りのほこりをはたいて、一枚めくった。 「えっと、時はまだ神が側に降り立つ頃・・・?なんだそれ。歴史か何かなのか?」 秦時はぱらぱらとめくり、挿絵に気付いた。 「北に玄武、東に青竜、南に朱雀、西に白虎。それを率いる神の遣い、巫女が一人。」 四人が囲う真ん中に、一人の装飾で飾り、何か立派な風格を見せる少女が書かれていた。 「闇に落ちる巫女を救い、多くの民を救い、命を落とす巫女。」 そこまで読んでいたとき、ふと時計を見て慌てる秦時。 「やべ、時間過ぎてるじゃんか?!」 冊子をつかんだまま部屋へ戻り、机の上において、外へ出て行った。
その後、家に帰ってきたのは午後の七時。 「ったく、遅れたからって人をこきつかって・・・。」 今日は幼馴染の双羽と腐れ縁の七江、そして友人の明都の買い物だった。 遅れた罰として、秦時はほとんどの買い物の荷物を、荷物持ちとしてこき使われた。 「明日体育があるってのに・・・。」 体を痛めていたらどうしてくれると、いないからこその文句をいい、部屋に入った。 そして、あの部屋から冊子を持ち出したままだった事に気付いた。 「やっべー。」 持ち出す事を快く思わない持ち主や両親。 それならば、そのようなものを集めなければ厄介な事は起きないと思うところ。 まぁ、隠し部屋や仕掛けのあるようなこの家にすんでいるような変わり者なのだから仕方が無いのだが・・・。 秦時は返しに行こうとしたが、それから記憶は途切れてしまう。 意識をその冊子が吸い込んでしまったのだった。 秦時の遥か昔から続く血の絆を教えるために。
「白城、何処におる?」 黒い髪の長いマントで体を覆っている女が一件の屋敷の廊下を走っていた。 「返事ぐらいせんか、白虎のくせしよって!」 「ちょっとまて。白虎だからって何でそうなるんだよ?朱璃姉。」 屋根の上で昼寝をしていた少年は自分の名を呼ぶ女の声で目を覚まし、すとっと下へと飛び降りてきた。 「はよう、返事ぐらいせぇゆてるんや。忙しいゆうのに、のんきに寝とる虎を探して、困ってるんや。」 「へぇへぇ、左様か。で、何の用なんだよ。」 「巫女姫様の呼び出しじゃ。四方位守護神獣全員集まれとのことじゃ。」 それを聞いて、少年も顔つきがかわった。 「・・・その時が来ちまったのか。」 少年は女の後ろについて、巫女姫のもとへと向かった。 そこにはすでに、巫女姫と二人の仲間がいた。誰もが深刻な顔をして、そこにいた。 「時間なき時だが、聞いてほしい。」 時間があろうがなかろうが、自分達は巫女姫のためになら時間もつくるし、この命さえ惜しくはない。 それでも、巫女姫のことが大事で好きだったから、側にいて助けとなっている。 そのことを理解しているから、巫女姫はそれ以上は何も言わない。 だが、今回いおうとしていることは、一時の別れを告げるもの。出来れば聞きたくはなかった。 「わらわは、もう行かねばならぬようだ。残されたこの力も、残り少ない。器が滅んでしまうだろう。」 覚悟していたが、実際聞くとつらいものがある。 「闇に落ちた哀れな巫女。闇から救い出してまだ眠ったまま。起きるまで、彼女の事を任せたい。」 「「「「仰せのままに。」」」」 頭を下げて最後の敬意を見せる。 「短い間だったが、わらわは楽しかったぞ。お前達に会えて。」 順に顔を見て、これが最後じゃなとつぶやく。 「白城、朱璃、凛、幻甲。後のことを頼むな・・・。」 そういって立ち上がり、部屋を後にした。それが、彼女を見た最後の姿。 「行くか・・・。」 「そうだな。姫巫女様の後のことをしっかりしておかなければならないからな。」 立ち上がる幻甲と凛。続いて立ち上がる朱璃と白城。 「いつかまた、どこかで会いましょう。姫巫女様・・・葉様・・・。」 言葉とともに、白城は人の姿にしていた枷をはずす。 「わしらも行くか。」 「行きましょう。遅れを取らぬよう。」 「終わらせましょう。いつか会えるその日のために・・・。」 次々と姿を元に戻す。 現れたのは東西南北をそれぞれ守護する四つの神獣だった。
地が割れて闇が落ち、闇に支配されていた場所は朱い炎が浄化し、全てを清き水が洗い流した。 最後に困り果てた民達とその土地を優しい風が吹いた。 新たな命を芽吹かせるために、子守唄のようにあたりを包んだ。
それから、民達は屋敷に住んでいた姫巫女のことも四人の守護者達のことも忘れた。 闇という記憶とともに、消されて、変わりなく過ごした。 その後、彼等を見たものはいない。
白城は自分の事だと、秦時は気付いた。そして、姫巫女が誰なのか、あの顔を見ればわかった。 大切な幼馴染、双羽だった。 「なんなんだよ、今のは・・・。」 気付けば自分は部屋の真ん中で寝ていたようだ。しかも、リアルな夢を見て。 側には一冊の冊子が転がっている。最後のページが開かれていた。 「再び出会うその日・・・近づく再会の日・・・。」 それが本当になるのはもうしばらく先だった。 だが、このことで、秦時は双羽と距離を持つようになった。 自分が双羽のことを好きになったのが、あの夢で出てきた自分そっくりの彼の思いと被りそうで、嫌だったからだ。 だが、そんなことは再会を果たした際に忘れてしまうだろう。 過去の思いで決められたものではないのだから。
「のわ?!何しやがる?!」 秦時は叫ぶ。 「だってねぇ、一人気持ちよさそうに寝ていたら、邪魔したくならない?」 「そんなことをするのはお前ぐらいだよ、凛。」 「年上を呼び捨てとはいい度胸だね?」 「こそ泥に言われたくないね?」 けんかを始める勢いの秦時と凛。凛は女でも男に負けを取らない。 「やめるのじゃ、二人とも。」 割ってはいる朱璃。幻甲も止めに入った。 「だって、こいつが・・・!」 「反抗するな。虎は竜には勝てんのだから。」 「それがおかしいんだってば、幻甲。」 「でもなぁ・・・。下手に手を出していつも往復を受けてきたのはお前じゃろう?」 「過去の記憶の話するなっつの。」 それを楽しそうに見ている双羽と呆れている七江。 「凛も大人気ないことをするでない。」 「朱璃・・・。そんなこといったって、過去の自分のせいなのか、なんかちょっかいをかけたくなって・・・。」 「それぐらい制御しやがれ!」 「いったわね?!」 秦時は幻甲を、凛は朱璃の拘束を抜けて、けんかをはじめた。 「・・・馬鹿でしょう。中塔・・・。」 もう、呆れる以上にどうすればいいわけと、七江は苦笑する。 あの中塔がここまで感情を表に出して、けんかをする日なんて来ないと思っていたぐらいなのだから。 「でも、いいんじゃない?楽しくて。人って結構、変わるものだし。」 「そんな問題でもないと思うけどね・・・。 「では、新しいものを入れてこようか。」 朱璃がいうと、もういいわと丁寧に断る。 きっと、あの二人が言い合いをしている限り、ゆっくり紅茶を飲むことを楽しむことなんて出来ないのだから。 「あの二人はしばらくほおっておくか。こっちは、これでも楽しんでいるかね?」 そういって、幻甲は扉を何処からか出した。 「幻和館に行けば、何かしら面白い事があるだろうしな。」 そういって、まだ言い争っている二人をほおっておいて、四人は幻和館へといった。 二人が気付くのはもうしばらく先の事。
再会できた後の日常の一場面。 これから起こることの前の、小さな休息。 風が優しく彼等を包み、見守っていた・・・。 |