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部屋に一人残って、ぶうっとせっかくの可愛い顔を歪ませるフルーラ。 理由は簡単。隣国との関係で、いろいろと問題があり、国王に四人とも呼び出されてしまったのだ。 せっかく、こんなに晴れた青空で、四人ともいたのだから、外へお出かけしようと思っていたのにだ。 退屈でしょうがなく、機嫌も損ねてしまったお姫様は、行動を開始した。 またも、今朝同様に部屋を抜け出す。 見張りがいても、見つからない。経験で、彼女はいろいろと学び、どうやったら見つからずに外へ出られるのを学んでいた。 だから、見張りはお姫様が部屋から抜け出した事など、一切気づく事は無かった。
抜け出したフルーラは、最近警備も手抜きねと、スリルも何もないと反対に愚痴を零しながら、森の中を歩いていた。 その時、木の陰に人がいるなんで気付かずに、鼻歌を歌いながら進んでいた。
フルーラが抜け出して数分後。きっとじっとしていないだろうフルーラの性格をわかっている四人は急いで部屋にやってきた。 そして、中を見て案の定いないことで、慌てて探そうと行動を開始する。 今日はまずかった。この近くにまで、例の反逆集団がいる。偵察というものだが、彼女を一人外へ出したとなると、どうなるかわかりきっている。 「まったく。あのじゃじゃ馬がっ!」 好意を寄せるフルーラに何かあってからでは遅い。心配でしょうがないクルードは、三人にそれぞれ指示を出して森の中を掛けて行く。 ちょうどその頃、フルーラは囲まれ、危機に陥っていた。 偵察のリーダーである男が近づいてくるが、隙を突いて、彼女は逃げていた。 森の中で繰り広げられる二重の追いかけっこ。
「もう、何なのよ。」 勝手に抜け出してこうなった事は棚に上げ、追いかけてくるしつこい男達に文句をたれるフルーラ。 足音は多少遠いが、いつ追いついてくるかわからない。 何より、女の足と男の足では速さも体力も違う。 逃げている方向は城とはまったく違う為、逃げ込む事もできない。 このままいくと、捕まってしまう。フルーラは懸命に走るも、足元が少し絡まり、転んでしまった。 はやく立って、逃げないといけないと気が焦れば、なかなか立てない。やっと立てた時、背後から腕が伸び、それがフルーラの身体を捕らえた。 「いや、離せーーっ!!」 無茶苦茶に足と腕を振り回して、フルーラの身体を捕らえる腕から逃れようとした。が、いとも簡単に、木々の陰へと連れ込まれ、絶体絶命だと思っていた時。 「大丈夫です。大人しくしていて下さい。」 まったく、相変わらず困ったお姫様だと、なんと自分を捕らえ、木々の背後に連れ込んだのはクルードだった。 「ク・・・ド・・・?」 「そうです。まったく。抜け出して勝手に怖い思いをして。城で大人しくしていられないのですか?」 涙眼になっているフルーラの目じりの涙を取り出したハンカチで拭う。 「だっ・・・っ?!」 「しっ。人が来ます。しばらく黙っていて下さい。」 右手はフルーラの身体を抱き、左手でフルーラの口を押さえ、先ほどまでフルーラがいた場所を通り抜けていく者達を冷たい目で獲物を狙う獣のように見ているクルード。 行ってしまえば、すっかりと離される。それが、少し残念に感じるが、そういう奴なのでしょうがないと諦める。 「さて。フルーラは城に戻ってもらいます。」 皆が心配して探し回っているので、見つけた報告をしないといけませんと言われて、こんな事もあり、さすがにしゅんとなるフルーラ。 沈んでいたから、気づく事はなかった。 クルードの冷たいその目を見ていないから。
城に戻ると、すでにライフェ達は帰っていた。 いつも思うが、彼等はどうやった自分を探し、どうやって連絡を取っているのかわからない。 「見つかってよかった。」 「まったく。心配しましたよ。いい加減、このような行為はお控え願いたい。」 「でも、無事そうでよかったよ。」 三人がそれぞれフルーラの無事を確認してほっと息をつくのを見て、やはりあの男達が近くにいる事を知っていて、それでかなり慌てていたのだとわかる。 城に戻るまで、普段気配が穏やかなクルードがぴりぴりとしていたから。 「さて。部屋に戻りますよ。」 ライフェとウィスドが部屋までついてくる。 「あれ?クルードは?」 「まだ、後始末と王への報告がまだですから。後で行きます。」 「そっか。」 そう言えば、抜け出したということは、国王も知っていて、四人のリーダーであるクルードが報告するのは普通である。 だから、そっかという返事で、待ってるからと大人しく二人と共に戻った。 姿が視界から消えると、そこにいるのはフルーラが知るような幼馴染の護衛ではなく、冷酷な処刑執行人となる。 「行くぞ・・・。」 「ああ。」 時には、手を下す必要がある。 自分達の大切な人を守る為に。 たとえ、この手が血で紅く染まり、汚れきったとしても。 「王女に手を出す事は、死を持つて償うがいい・・・。」 すでに、男達がどこにいるかはわかっている。 四人にだけ繋がるテレパシーのようなもので、フルーラを頼むと、そして行ってくるとつげ、クルードはワンディが起こす風に乗って、その場へと向かった。
「クルード。もう、遅い!」 城に帰って部屋へと向かえば、三人でカードゲームをしているフルーラがいた。 どうせ、暇だから遊ぼうと誘ったのだろう。 結局、このお姫様には弱い四人だから、最後には言う事を聞いてしまう。 命令ではない、彼女自身のお願いを。 「ほら。この勝負はついたところだから。二人もやるわよ!」 はいっと、お姫様にしては慣れた手つきでカードを配り、自分達の分もとって、クルードとワンディにも渡した。 「そうですね。」 「ぜってぃ、負けないからな!」 「かかってきなさい!ワンディだけには負けないから!」 「言ったな!」 そんな事で、始まるゲーム。 先ほどのことなど忘れてしまうぐらい、和やかで、ここにこのままいてもいいのかと迷ってしまうぐらい綺麗な場所。 「よし。あがり。へん、俺の勝ちだ!」 「くやしいぃ!!もう、ウィスドがそれを先に出さなかったからでしょ!」 本気で悔しがってカードを撒き散らす。だが、それを知らぬ間に集めて、さて次をするぞと意気込むフルーラに渡す。 「今度は負けないから!」 「おう。何なら一対一ででもやってやろうじゃねーか!」 「言ったわね!」 こうして、一対一で勝負する事になった。 二人が盛り上がる中。少し、気配が消えたクルードに目を向け、フルーラとランディの方を見たまま、独り言のようにライフェは言う。 「・・・後片付け・・・してきた?」 「ああ。」 ぎゅっと、腰に下げている剣を強く握る。 「そう。・・・で、どうするわけ?」 「どうもしないさ。それを決めるのはフルーラだ。」 「ま、そうだけどね。」 二人がひっそりと話している中、どうやら勝負はついたらしく、今度はフルーラが勝っていた。 「くっそー!もう一回だ!」 負けたのが悔しいワンディはもう一回と頼む。だが、フルーラは聞き入れない。 「駄目。今度は五人でするんだから。」 ねっと、クルードたちの方を見て、やろうと手を差し出される。 出会ったあの日と変わらず、手を差し出してくれる。 その手は、いったいいつまで自分達に差し出してくれますか? そして、その笑顔は一体何時まで自分達に見せてくれますか?
既に紅い人の血を浴び、穢れた罪人
「ま。お誘いには受けないとね。ほら、クルードも行くよ。」 遠慮しておくと答えるであろうクルードを引っ張り、黙って難を逃れようとするウィスドも連れて、フルーラとワンディの元へと行く。 「で、何するの?」 「こんどはこれよ。」 この笑顔を守りたいがために、自分達は手を汚す。 それが人としての禁忌であろうとも。 いつか、彼女の笑顔を奪ってしまうかもしれない行為であったとしても。
「ほら。」
差し出される手。 これからも、差し出してくれるであろうそれ。 出会った日から何一つ変わらない。 だからこそ、今の自分達が守りたいと思うのかもしれない。 いつまでも、可憐で自分達を癒す華だから。
「どうしたの?」
生きようとする強い意志を持つ子供。 自分と同じなのに、境遇が違うけれど自分以上に強く生きようとする姿がすごいと思え、見習いたいと思った。 だから、声をかけた。 年の近い者はいなかったから、ちょうど話し相手もほしかったところだったから。 そうしたら、警戒しているのか、一向に動かず、答える事も無かった。 だが、めげずに何度も声をかけた。それぐらいの努力をしないと、いつか国を背負う事になったとき、何も出来ないだろうから。 「私は、フルーラ。あなたの名前はなあに?」 にっこりと、手を差し出して聞くと、警戒心は少し解けたのか、相手は答えてくれた。
「クルード・・・。」 最初に出会った大人しい子供の名前。
「ライフェだよ、フルーラ。」 笑顔も返してくれた子供の名前。
「ぼくは、ウィスド。」 少し顔を逸らして答えた子供の名前。
「ぼくの名前はランディだよ。」 人懐っこい明るい笑みを見せた子供の名前。
「私は綺麗に着飾って座っているだけの人形じゃないの。遊び相手がほしかったの。居場所がないのならあげる。だから、私の話し相手になって。」
そう言って、フルーラがそれぞれの国を訪れた際に声をかけ、出会った子供。 今では幼馴染で、彼女を守る四人の騎士。
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