それは不思議な、愚かな、いや呆れる光景だった。

基本一対一でやっているのだが、何というか、武具による衝突の戦闘ではなく、言葉による言い合いの戦いが繰り広げられていたのだ。

確かに誰も怪我することなく終わるのならそれにこしたことはないのだろうが。

「なぁ、俺はどうしたらいいと思う?ラピード」

「クウーン。」

久々に再会した相棒と傍観者のごとくその場に座って彼等の戦いを眺めていた。

アレクセイVSエステル。何か俺のことについてひたすら叫んでるような感じがするが、空耳だろう、きっと。

「ユーリは私のお嫁さんになってもらう予定なんです!貴方になんか渡しません!」

「籠の鳥の分際で何を言うか。世間知らずの皇子様はひっこんでいただきたい。あの方をお守するのが亡き姫君との誓い。騎士が剣に誓った以上貴様等に渡すわけないだろう。」

その後も続く俺に関することを叫ぶ奴等。お前等は俺の保護者かよ。そこまで子どもじゃねーよ。

そもそも、何でそんなことまで知ってるんだよ。聞いてて恥ずかしい。

シュヴァーンVSリタ・カロル。何だかかわいそうなぐらいシュヴァーンが劣勢気味だ。人数の問題じゃない。

「ちょっとおっさん。何やってんのよ。やっぱり、いっぺん死んどく?」

「ってちょっ、ここでそれ使うの?!まっ・・・ぐはっ。」

「落ち着こうね、天才魔導士―。あー、ちょっ、落ち着い・・・ギャー。」

むしろ見方のカロルまで被害を被っている。助けた方がいいのだろうか。というか、おっさん立場弱いのか。

味方にまで容赦ない高位魔術ぶっぱなす男前な少女を見て、やっぱり彼女は怒らせないようにしなきゃなと思うのだった。

イエガーVSジュディス。冗談なのかそうでないのかわからない、かなり危険な会話・・・きっと空耳空耳。

「ミーはできればレディとは戦いたくないでーす。」

「あら、じゃあ引いてくれるのかしら?」

「これもビジネスでーす。それはできないお話です。」

「あら残念。じゃあここで引かなかったことを後悔させてあげるわ。ユーリ、連れて行った悪い人だもの。」

「これは怖―い怖いでーす。バッド、ミーも引けませんので、ここで消えて下さーい。」

もう少し、まともな会話してほしいかもしれない。というか、互いのこと嫌ってるのだろうか?笑顔が互い黒い。

いつまでこの不毛な争いが続くのだろうか。むしろ、こんな戦いになると、彼等がここへ乱入した時に予想できただろうか。

けれど、この戦いはそこまで長く続くことはなかった。

さらに面倒なのが乱入してきたのだった。

「ユーリは返してもらいます!」

あーもう、今の状況わかってる?わかってないでしょ。わかってないよね?そんなこんなで登場したフレン。少しだけこいつと親友であることに後悔したかもしれない。というよりもこの場にいる全員の殺気をその身に受けながらもどうどうとしていることに驚きだ。

「なぁ、ラピード。このままいったら、ラスボス摩り替わって全員でフレン一斉攻撃とかしないよな?」

「クウーン・・・ワンワン!」

「はぁ・・・まぁ、何でもいいや。」

少し、距離を置いてその出来事を見守ることにしたユーリ。完全に傍観者というか、忘れられている感じがして仕方ない。

「今更出てきて邪魔をしないでくれないか。」

「そうです!今この人に勝てるか否かの最終局面なんです!」

何に勝つというのかわからない二人の敵意がフレンへと向けられた。

武器を構えて明らかに騎士や皇子様の目ではなく殺る気満々のいっちゃってる目をして、フレンを見る二人。かなり危険な状態だ。さすがの俺もまずいと思って止めようと動こうとしたが、間に合いそうにない。

「いきなり出てきて何よ!詠唱途中で邪魔しないでよね。このおっさん燃やしそこねたじゃないの!」

「燃やさないで、お願いだから。年寄り労わろうよ!」

「レイヴン・・・今のリタに何を言っても無駄だよ。」

「ちょっと、何か言った?」

「言ってない言ってない!」

すでに殺る気満々だったのを邪魔されて、代わりに殺られてくれるわけ?と八つ当たりの対象を変えて狙われている。

「確かに、割り込みという無粋な真似はベリーバッドですよ、ミスター。」

「何もしてないくせにユーリを助けに来たなんて軽々しく言わないでほしいわ。」

全員で一斉に攻撃。俺の名前を叫んではるか彼方へと飛んでいったフレン。タイミングが悪い。きっとそれだけだったんだ。そういうことにしておこう。決してエステル達もフレンをどうにかしたいとかいうのはなかったんだと。

「とにかく!ユーリは大切な仲間で大切な人です!勝手に連れ去ってしまうなんていけません!」

正々堂々と正面から何故こないんですか!とびしっと言うエステル。

「一度、裏切りがあったかもしれないそちらをどうやって信じろというのです?奇麗事だけではどうもできないんですよ、皇子様。」

「本当にユーリのことを思うのなら、ユーリの気持ちを第一に考えるべきでしょう。」

それでも騎士のすることですか!そうだそうだと外野もはやしたてる。

「大将〜何言っても引いちゃくれないと思うよ?」

「何を言う?ここで引いては何も変わらないだろう。」

「けど、あの子の言い分も最もだとおもうわけよ。ユーリがここにいたいと望むか否か、についてね。」

ちらりとアレクセイが俺の方を見た。

「帰りたい。そう、望まれるのですか?」

真剣な目。

「ああ。あそこで俺は生まれ育ったからな。」

「そう、ですか。」

「ほら、これが答えです!」

一緒に帰りましょうと近寄ってくるエステルに、ちょっとだけごめんと言って横をすり抜ける。

ユーリはアレクセイの側まで来て、笑みを浮かべた。

「強引で滅茶苦茶で腹たった。けど、母さんのこと大好きだった気持ちはわかった。お前等皆悪い奴じゃないっていうのも、わかった。お迎えがあいつ等じゃなかったら、ここにいてもいいって、ちょっとぐらいは思ったんだぜ。」

「姫様・・・。」

「だから、姫って柄じゃないから。なぁ、俺は帰りたいけど、また遊びに来てもいいか?」

差し出される手に繋ぎ返し、もちろんと答えた。

「では、今回のことはこちらも悪かった事実は消えません。」

元々、国の問題によって引き起こされたこと。どちらが悪いというわけではない。どちらも悪くて、悪くないのだ。

「ユーリがこの国に足を運ぶ事を望むのならば、私はそれを止める術は持っていません。」

その時は絶対に傷つけないと約束して下さい。それに彼等は応えた。

そして、ぽかっと三人を順番にはたいたエステルに唖然とする一同。

「これは、ユーリを悲しませた罰です。」

勝手に連れ去って困らせて悲しませた罰。

そして、エステル達含め、飛びついてきたお迎えの面々に押しつぶされるユーリ。けれど、文句を言っても無碍にもできず嫌えないのは、やっぱり彼等のことが好きだからだろう。

今度、皆で仲良く自分が作った手料理振舞って楽しくやるかと密かに考えるが、それが騒がしく戦いになるなんて今のユーリはまだ知らない。

けれど、今は誰一人傷つかずいられるだけで良かった。

 

何か忘れてる気がするなと、レイヴンも一緒に連れて住み慣れた土地に帰る途中で思い出した。

はるか彼方へ吹っ飛ばされたフレンのことをすっかり忘れていたのだ。

けれど、彼も帰ってくるだろうとそのまま帰ることにした。

案の定、帰ったら何故か先に戻ってきたフレンにお帰りと出迎えられる羽目になった。

 

 

 

「・・・これで、終わりか?」

「はい。」

今回はいつもより長かった。しかも、何かよくわからない戦いが繰り広げられていた。きっと気にしてはいけないのだろう。それはいいとして、エステルはそんなにフレンのことが嫌いなのだろうか。

明らかに扱いがひどくないだろうか、これは。

「なぁ、エステル。」

「何です?」

「お前・・・いや、何でもない。で、この後俺は何度も向こうにも脚を運ぶんだな。」

「はい。皆仲良しです。」

何か、仲良く出来そうな面々で、対面した瞬間戦闘開始とかになりそうな奴等がいるのは気のせいだろうか。

というか、俺がお姫様じゃなくても良かったんじゃないだろうか。むしろウサギじゃなくてもいいんじゃないだろうか。

「あ、ユーリ。表紙のために、これ、つけてくれません?」

と、出してきたのは黒いウサミミ。確か、いらないのに俺用として貰ったものだ。何故エステルが今持ってるんだろうか。

「つけないぞ。」

「お願いします。」

「・・・嫌だからな。」

「お願いします。」

「・・・。」

「お願いします。」

お姫様は引く気配がまったくない。どうやって逃げれば良いのか。そうこう考えている間に、動かなくなったことをいいことに、彼女は俺の頭にそれを装着した。最悪だ。

「やっぱり、似合ってます。」

「そうか、それはお褒めに預かりコウエイデスネ。」

もう、棒読み状態だが、何がうれしいのか、満足そうにお姫様は去って行った。

もしかして、このお話を俺にこれをつけさせるためだったのだろうか。まさか、な。

とりあえず、勝手に取ったら怒るであろうお姫様に少しだけ付き合うことにした。







あとがき
皆好きですよ。ただ、フレンは扱いに困っただけで…嫌いじゃないんですよ?
とにかく、これでお姫様の物語は終わりです。また、彼女はこんな話をかいて、最終的には凜々の明星っていうお話をカロル達と考えて楽しんでると思います。