黒ウサギ達が集まる黒ウサギの国。つまり、エステル達の目的地であり、いよいよ敵陣突入というやつである。 「頼もー!」 バンッと城の門を堂々と開け放って乱入するエステル達。それに驚いてすぐに反応できないそこにいた警備や貴族達。 今のうちねと言うジュディスの言葉にそうですね!と一気に走り抜ける二人。それに文句言いながらついていくリタと待ってと泣きそうになるカロル。 彼等四人の姿が建物内に消えた頃になって、曲者だ!と慌しくなった。 実は、その光景をたまたま、ゴーシュとドロワットの二人とおやつでケーキ食べて部屋に戻る途中の廊下で、ユーリは思い切り目撃してしまったのだった。 「大丈夫かよ、ここの警備・・・。」 もしかして、こんなのだから母親であるらしいお姫様も連れさらわれたのではないだろうか。いや、あの四人が堂々と来過ぎて状況を飲み込めていなかっただけなのか。 何にしても、レイヴンが言っていた通り、お迎えが来た。 「どうしたもんか。」 何だかんだといってここの連中もいい奴ばっかりで、無下にできなくなっていた。というか、懐かれると弱い。 そうこうしている間に、自分の部屋ではなく、何故か屋上へ続く扉の前に立っていた。 「・・・部屋に戻ってもアレクセイとかがうるさいか。」 ならば、このまま屋上でのんびりどちらかが来るまで待つのもいいかもしれない。その方が、エステル達と入れ違いになることもないかもしれない。 そして、屋上に足を踏み入れた。 「げっ・・・。」 そこにはすでに先客がいた。 しかも、かなりやばくないか、この状況。 「お部屋に戻られていたと思ってましたが・・・。」 「あー、考え事してたらここの前だったからな。それにほら、何か騒がしいから静かなところの方がいいかなーと。」 「そうですね。いつもならば騒ぎ立てて脱走を試みるというのに、いい判断です。」 「そりゃどーも。」 「では、ミーもここで待機ということでいいんデスね?」 「ああ。お姫様の護衛だからな。」 「・・・。」 笑みを向けられたが、悪い人ではないと思うが何か苦手だ。 そこへ、一つの足音と共にレイヴンが現れた。いや、本来のシュヴァーンという方か。 「団長閣下、報告で・・・って何でユーリがここにいるの?!」 驚きから、突然レイヴンの時のような砕けた口調に戻った。何か変な感じだ。 「ややこしいのから巻き込まれないように避難したそうだよ。それで、報告とは?」 「侵入者は四名。その後一名さらに侵入。現在各障害をものすごい勢いで突破してます。このままではここへ来るのも時間の問題かと・・・。」 「ふむ。向こう側もなかなかやるようだな。では、他の幹部全員ここに集めろ。」 「その必要はないわ。」 そこへ、リタが堂々とやってきて言い切った。 「観念するです!ユーリは返してもらいます!」 びしっとアレクセイに指を指してエステルも言い切った。 「そうね、独り占めは駄目だと思うの。」 そう言って、にっこり笑みを浮かべているのに殺気を放つジュディ。 「三人とも、あくまでここは隣国で、エステルはある意味敵国の皇子なんだからね。」 振り回されてくたくた気味のカロル。 数日離れていただけなのに、長い間あってなかったかのような、懐かしいそしてうれしさと驚き。本当にやってきたエステル達に呆然として動きをとめるユーリ。 「悪いが、彼女はこの国の大事な姫だ。奪わせはしない。」 剣を抜くアレクセイ。それ以前から武器を構えていたイエガーとシュヴァーンもいつ戦闘になってもいいように一切の隙を見せない。 「ユーリは絶対に返してもらいます!ずっと一緒でこれからも一緒で、誘拐するような人達に絶対渡しません!」 その言葉と同時に、双方戦闘が開始された。 「黒幕とその他全部まとめて一気に戦闘っていうのに驚きだ。」 「駄目です?」 「いいんじゃないか。今のエステルだったら、アレクセイにだって遅れをとらないかもしれないだろ?」 「そうです?うれしいです。」 本気でうれしそうに喜ぶエステルを横目に、ユーリは溜め息をついた。 堂々と正面突破したあげく、一気に攻略してラスボスとボスクラスとご対面でそのまま戦闘って・・・実際そんなことやってたら俺達は生きていないかもしれない。 それだけ、彼等の実力も本物だったことを戦ったからこそわかるのだ。 「次で終わりか?」 「はい。次でユーリを奪い返してアレクセイとイエガーとレイヴンに皆で一発ずつポカリってやるんです。」 「ネタバレ・・・?ポカリって何だよ。」 「レイヴンの時やったじゃないですか。あれです。」 そういえばあったな、そんなこと。けじめとして・・・この場合、この三人にもそれが適応されるのだろうか。疑問だ。 でも、エステルがやりたいのならいいだろう。これはあくまで彼女が描く物語の世界なのだから。 「でも、何でこいつら出そうと思ったんだ。」 「私が関わった人達だからです。」 あの旅があったから、今の自分がいる。やりたいことがある。 「本当なら、倒した魔物の名前もここにちゃんと書き記したかったんですが、それはリタに反対されてしまいまして。」 確かに倒した魔物の墓標のように書き連ねれば、まず物語終われないだろう。どれだけ倒してきたと思っているんだこのお姫様は。 だから、関わった人を登場させることにしたのだと言う。 そう、これはある意味旅に出て得たもので、大事な思い出を詰めて、忘れないように残しておきたい記録のようなものなのだ。 「そうか。」 「はい。だから、ちゃんと最後まで書きます。だから、ユーリも最後まで読んで下さい。」 皆ちゃんと幸せになれるように、書きますから。 そう言われてしまったら最後までつきあうしかないな、そう思いつつ、とうとう短いようで長かったこのやり取りが次で終わりということに、今更少しばかり寂しく思うのだった。 |