部屋に閉じ込められた一匹の黒ウサギ。窓は開かない。扉も無理。床も天井も頑丈。 しかも、見渡す限り平民には価値が分からない程値がつきそうなものばかりがそこにあった。 「あーくそ。出せー!いつまで閉じ込める気だ!」 と扉をがんがん叩いて蹴って、ひたすら叫びまくる。きっと誰かが通れば開けてくれるのではないかと期待して、だ。 すると、扉の外から人の気配がした。 「あーけーろー。」 ガチャと静かに扉が開き、一気に間合いをつめたそいつにしっかりと身体を抑えられた。 「あーくそっ!放せ、変態!おっさん、いい加減にしろー。」 「こらこら、暴れないの。」 よしよしと駄々をこねる子どもを相手するかのように、頭を撫でる。しかも、どこかうれしそうな顔だ。 「良い子にしてた?」 「はぁ?頭大丈夫か。俺がこんなところに押し込められて大人しくはいそうですかって言うと思ってるのかよ。」 「思ってないね。」 「なら・・・」 「でも、出してあげることはできないの。」 おっさんも命令違反することはできないからねと、言いながら、担がれて奥の部屋まで連れ戻された。 「何で。」 「ん?」 「何で俺なんだ。」 「それは、何度も言ったけど、お姫様の子どもだから、青年は皇族ってことになるでしょー?」 皆心配してたからね。しばらく外出るの無理ねと言われ、へこむ。 もとよりじっとしているのが嫌いなのだ。だからこそ、理不尽にもこの部屋に閉じ込められる形になり、ストレスが溜まって暴れている状況なのだ。 「最初から騙してたのかよ。」 「最初は知らなかったわよ、もちろん。わからないから探すのが仕事だったわけ。」 無理矢理連れ戻すのがユーリだと知って、そのまま知らないでいた方がいいかもしれないとも思った。けれど、上の命令は絶対なのだ。 「ごめんね。」 「・・・。」 「でも、すぐそこまで青年返せーって感じでお子様達がやってきてるから。もう少しだけ待ってくれる?」 「はぁ?あいつら、何考えて・・・。」 「それだけ、ユーリのことが大事ってことなんでしょ。」 人気者だね、青年はとよしよしと撫でるレイヴン。 「子ども扱いすんな。」 「俺からすればまだまだ子どもだよ。」 なので、今から喜んでもらえるようにクレープを作りたいと思います。その後、デュークが剣の相手をしてくれます。そして、イエガーのとこの二人娘が構いにきてくれます。 順番に指を立てて今日の予定を告げる。 「何だよそれ。」 「ね、人気者でしょ、ユーリは。」 やいちゃいそうだよと言って、側から離れた。まず最初のクレープを用意するためだ。 「この国の連中もたいがい暇人ばっかだな。」 向こうにいた時も退屈しなかった。国のお偉いさんである天然皇子の二人も、何だかんだと言って構いに来るし、こっちもそれと似た雰囲気がある。 「ユーリだから、だけどね。」 本来他人に興味がない連中ばかりなのに、自ら志願して構いにくるのだから。レイヴンもその一人なのだから言えないけれど。 本当、お転婆で俺達に対しても容赦なく、そして優しく見守ってくれていたあの亡きお姫様と似ている。 今日はエステルが来ていないのに、何故かおいてあるもの。目を通せば、見なかったことにしたいような、そんな話が書かれていた。 「あれ、青年。どしたの?」 急にひょいっと顔を出してきたレイヴンに危うく叫びかけた。 「あ、俺様が書いた奴、こんなとこにあったのね。」 昨日どうのこうの呟きながら、俺からそれを受け取ったレイヴン。 「なぁ、それってエステルの・・・?」 「ん?ああ、そうよ。奪還するぞーっていうお子様組サイドを嬢ちゃんが書いて、おっさんがとらわれの青年サイド書いてるわけ。」 何か知らない間にこのおっさんもエステルの手先になっていたようだ。 「おっさん結構上手いでしょ?これでも・・・これでもたくさんたくさん仕事で文字を書き続けさせられた経験があるんだから。」 何かいきなりへこんで泣き出した。意味がわからん。けれど、何となく騎士団やらギルドで扱き使われたのだろう。現に今もリタやジュディに扱き使われてるように見えなくもない。 そっとしておこう。これには触れてはいけない。きっとそうだ。そういうことにした。 |