その日、学園自体が休みだったので、一人でぶらぶら買い物ついでに散歩していた。学園において、人ではない『魔物』にくくられる奴等は学園からは契約相手がいるか、教員の引率による遠出でなければ外出できないらしい。 もちろん、ユーリもクラスの奴等から休みでもいろいろ何かするらしく誘われたが、久々に『外』の散歩もいいなと思って、それとなく断って今に至る。 そのはずだったが。 「・・・その中途半端な距離でついてくるなよ。」 足を止め、振り返る。そこには、教授であるレイヴンも含め、クラスの連中が揃っていた。 「あ、えっと、気にしないで下さい。」 「そうよ。気にしなくていいのよ。」 エステルはあたふたしながら答え、リタはそっぽ向いて答えた。まだ、彼女達二人は可愛いものだった。 「えー何でよ。一緒にお出かけするの嫌だって言うからおっさんこっそりついてきたのに。」 「あら。私はユーリと契約しているもの。ユーリがいるところになら、出ても問題ないはずだもの。それに、面白そうだもの。」 契約しているこちらはついてくる気満々だ。 「ユーリと外に出かけてみたいんだけど、ダメかな?」 まだ、契約していてもカロルの方が頼み方として可愛いかもしれない。兄弟がいたらこんな感じなのかもしれない。こう、兄の後にちょこちょこついてくる感じ。 「そもそも、おっさん用事があったんじゃねーのかよ。」 「青年の出かける用事ならあります。」 挙手して答えるレイヴンに呆れるしかない。 「そもそも、エステルとリタは良かったのか?一緒にケーキ作りするんじゃなかったのかよ。」 「いいじゃない。こういう機会しか外に出られないし。」 「外に出てみたかったんです。こうやってゆっくり歩いたりしたかったんです。」 「おっさんが引率か?」 「ん?あまり細かいこと気にしちゃダメよ。」 本来手続きがあるはずなのに、適当だ。面倒なのはユーリ自身も嫌いだが、後で校長あたりに何か言われないだろうな。 「気にしろよ。」 「ダメです?」 「・・・おっさんがいたら大丈夫だろ。あれでも教授様だしな。」 そんな目で見られて断れる奴がいたら会ってみたいものだ。 「それで、おっさんが引率して出てきたのはわかった。だが、何で俺の後についてくる?」 「なら、一緒に歩こうよ。お出かけしようよ。この前の郊外学習以降、青年とお出かけしてないし。」 ねっと、腕を掴んでくっついてくるレイヴン。本当、今更だが変なのに懐かれたものだ。真面目にしていれば、少しばかり格好いいし強いし頼りになる鴉天狗様だが、こんだけふざけた奴だとわかっているが故に情けなく思う。 「離せ。」 腕を振り解く。 「で、俺はただ散歩のつもりだが、お前等だってせっかくの休日にぶらぶら歩くっていうのか?」 「楽しそうです。」 「お話しながらだと楽しそうだと思うわ。ユーリのこと、いろいろ聞けそうだしね。」 エステルの即答とジュディの何を聞く気なのかわからないが浮かべてる笑みに、少しばかり一人で過ごす休日を諦めなければいけない予感がしてきた。 確実に退く気がない。 はぁと溜め息をついて、とりあえず集団で着けてますと言わんばかりの距離でついてくるのを止めさせる。 「さすが青年。」 がばりと飛びつくレイヴンに危うく押しつぶされるところだった。 「おじ様ダメよ?」 「はーい。」 手をボキボキ言わせて笑みを浮かべるジュディに、さすがのレイヴンも少しだけ大人しくなった。 「ねぇ、ユーリ。」 「ん?どうしたカロル。」 レイヴン達に追いやられ、リタと何か言っては叩かれていたカロルがいつの間にかユーリの側に来ていた。 「いつも散歩って言って校内も歩いてるよね?」 「ん?ああ、そうだな。」 「普段も街の中歩いてるの?」 「そうだな。ラピードの散歩もかねて、な。」 近所の奴等もうるさいからなと言えば、何だかうれしそうだねと言われた。確かに嬉しいのかもしれない。他人である自分に親身になってくれる連中だから。 「今日は、どこに行くつもりだったの?」 「目的あるの?どこどこ?」 レイヴンも割り込んで聞いてくる。少しは大人しくしていられないのだろうか。 「この先にあるデパートでちょっとな。」 「お買い物です?」 「何があるっていうのよ。」 目を輝かせるエステルと少しばかり興味があるらしいリタが聞いてくる。よくよく考えれば、人とのかかわりが少ない閉鎖された中で彼等はいた。人は人ではないものを受け入れるには悲しいことに難しいからだ。 きっと、純粋に外に興味があるのだろう。とくに、このお嬢様は。 「おっさん。こいつ等の財布係りな。」 「え、ちょっと。安月給なのよー?!」 「あら。おじ様が支払ってくれるなんてうれしいわね。」 「あう、ちょっとは控えてよね。」 それでも、お金を持っていないであろう彼等の分を一応払う気でいるらしいレイヴンに苦笑する。お財布を取り出して中身を確認している姿を見て、少しだけ可愛そうに思ったので、今度好物を作ってやるかと思った。 こういった店ははじめてだったらしく、キョロキョロと周囲を見るエステルとカロル。そして、興味をなさそうにしているが、周囲が気になっているリタ。一応、猫の耳や尾、バウルといった見えるものを隠しているので、不信に思われることもない。今更だが、隠す能力はすごいなと素直に思う。だが、そうやって隠さないと生活できないというのも、何だか世の中やり難いというかココロが狭いというか複雑だ。 「おれはここに用があるけど、皆はどうするんだ?」 一つのフロア全てが本の場所で、皆の方を見る。 「私も本には興味があるので見たいです。」 「私も。」 「僕はちょっと・・・。」 「おっさんは青年といられたらそれで。」 「私はいろいろ見られたらそれでいいわ。」 わかってはいたが、興味ある奴とない奴の差が激しい。 「おっさん。ジュディとカロルと一緒に上でお昼にしてろよ。後で行くからさ。」 「えー。」 「お財布はおっさんだろ?」 「うっ・・・。」 でもでもと、ごねるレイヴンに、昼になると混むから六人分頼むといえば、しぶしぶ従って上の階へと向かった。 それに、いくつも食べ物屋が並んでいるのだから、決めるのも時間がかかるだろう。それこそ、リタとカロルが一緒では間違いなく喧嘩になって決まらないのが目に見えている。だから、先に選んでもらうつもりでわけたのだ。 「時計あるよな?」 「はい。」 「三十分後またここで集合な。エステルが好きそうなのは向こうの方で、リタが好きそうなのはあっちの方だ。」 「あんたは何の用で本屋に来たのよ。」 「俺か?料理のレシピだ。」 「そう。」 「わぁ。では次は新作お菓子が食べれるんですね。」 会話はそれぐらいにして、その後別れた。もちろん、リタは集中すると止まらなくなる為、ユーリが迎えにいくことになったが。 どうやら気に入ったらしい本が二人ともあったらしく、だがお金がないしレイヴンもいない為に気になりつつも本棚に戻す姿を見て、ユーリは自分の分とまとめてレジに出した。 一つにまとめてではなく、それぞれ袋を別にしてもらってそれを受け取り、それぞれ二人に渡した。 「いいんです?」 「ああ。」 「ありがとうございます。」 「ありがと。」 二人が喜んでくれるのなら、クラスメイトとして、友達として嬉しい限りだ。 カロルは弟みたいだったが、この二人は妹みたいだ。でも、兄弟がたくさんいたら賑やかで大変そうだ。 「どういたしまして。ほら、お昼行くぞ。おっさんがくたびれてても困るしな。」 「それは大変です。」 しっかりと本を持った二人を連れて上の階で三人の姿を探せば、ちょうど食事がだされるところだった。 その後いろいろしゃべりながら食事を済ませ、今度出かける時にと女三人は服を一着ずつ買って、いろいろ見るだけ店内を回って外に出た。その頃には来た時はまだお昼だったが、もう日が傾き始めていた。 「俺はそろそろ帰るが、おっさん達も帰るのか?」 「ユーリ、帰っちゃうんです?」 「帰っちゃうの?」 「お前等だって帰るだろ?」 予想外の反応にどうしたものかと思う。実際、ある意味郊外学習的なものの延長である為、終われば帰るのが普通だ。 「えー俺様まだ青年と一緒にいたいー。」 「気色悪いからやめろ。」 「おっさんうざい。」 確かに、子どもでもまだ外で遊びまわっている時間だろうが、これ以上出かけるところもなければ用事もない。それに、彼等はあまり長く外に出ていていいものかとも思う。 別に悪いということではなく、彼等にもやることというものがあるだろうから、時間がいいのかと思うのだ。 「私はユーリの家に一度行ってみたいわ。」 ジュディの言葉に全員が静かになり、ユーリの方を見た。 「あんた、家に帰るわけ?」 「おっさんも行きたいっ!」 「ユーリのお家はどこにあるんです?」 「ユーリは学園内の寮で生活してるんだと思ってた。」 それぞれ個性出てわかりやすい反応だ。 「普段は寮の一室だ。その方が楽だしな。でも、家もあるから、たまに掃除もかねて戻ることがあるだけだよ。」 「ねーねー、おっさん青年の家に行きたい。」 「今日は帰るつもりなのよね?行ってはダメなのかしら?」 「ダメなんです?」 何か、こうなったら今朝に後をつけてきてついてきたように、家に上がり込んでくるだろう。こういうところは一致団結している。 「構わねぇけど、普通の家だぜ?」 「わぁ、楽しみです。」 楽しみにされるような家ではないのだが。 「これからはいつでも遊びにいけるわね。」 「ジュディ・・・。」 「何かしら?」 「何でもない。」 行く気満々になっている面々に呆れつつも、仕方ないと家へと続く道を歩くのだった。 あまり大きくないが、一軒家のそれを見て、目を輝かせるエステル。本で見た家そっくりだと何か嬉しそうだった。 庭にはラピードがいて、ユーリの帰りを出迎えてくれる。そして、ユーリ以外の姿を見て、何かを考えているようだったが、何も言わずユーリと一緒に家の中へと入った。 皆をリビングへと通し、適当に座ってもらった。 「わぁ、ここがユーリの家なんだね。」 「そうだ。・・・何か飲むとしても、お茶かオレンジジュースしかないけどな。」 「あれ?学園きてから滅多に帰らないんじゃなかったの?」 レイウンが言うのは最もだ。帰らないのだから、本来ないはずだ。 「隣が喫茶店でさ、親死んでから気にかけてくれる人で掃除とかしてくれるんだよ。」 別にいいっていっても、ついでだと言って。 「へぇ。青年ってばご近所さんと仲良しなのね。」 おっさん焼けちゃうというが、無視しておく。 レイヴンだけお茶で他の皆はオレンジジュースを入れて出した。 「それで、俺の家に来て満足したならもう帰るか?」 適当にユーリも座り、そう言えば不満そうに見るいくつもの目。 「ユーリは帰ってほしいんです?」 しゅんっと悲しそうな目でユーリを見上げるエステル。この顔苦手だ。わざとやっていたら、演技派だ。 「そういうわけじゃないさ。家に帰らなくていいのかってことだ。」 年頃の女の子が男の家にそんなに簡単に足を踏み入れ、しかも遅くまでいたら保護者が心配するんじゃないかということだ。 皆家族はいないようなことを聞いてはいるが、エステルは違う。何より、無断外泊だと知れればユーリが土地神様とやらに祟られかねない。会ったことないが、溺愛してるらしいとは聞いた事がある。 「私は寮で一人だし、いい機会だからユーリとここで住むのもいいかと思ってたのだけれど。」 「ジュディ。勘弁してくれ。」 「あら。本気なのに。」 少しばかり、はじめからそのつもりで家にくると言ったのではないかと疑いたくなる展開だ。 「若い男女で住んでるなんて、知られたら俺は確実に近所の奴等に殺される。ジュディは良い女だしな。」 「あら、心配されてるのね。」 どっちがとは聞かなかったが。 「おっさんもユーリと一緒がいい!」 何かしばらく黙っていたと思っていたレイヴンがいきなり大きな声で言いだした。 「そうよ。そうしたら部屋の家賃要らないし。おっさん青年と一緒にずっといられるじゃない。」 そうしましょと懐く男に離れろと剥がす。 「おじ様が一緒なら残念だけど二人きりじゃないわね。」 何が残念なんだ。むしろどちらもお断りしたい。何かいろんな意味で毎日疲労感に苛まれる気がする。 「契約したのだもの。ラピードがいつも一緒なのに私達がダメだというのは納得できないわ。」 そうきたか。確かに寮にいても、結構夜はラピードがやってくる。別に寮ではなくてもいいが、その方が楽だったから今にいたるだけなので、家に戻って通学しても何ら問題はない。 「寮で生活してるんじゃないのかよ。」 「でも私、あまり人が多いのは好きじゃないの。」 確かに、集団生活に向きそうにない性格はしている。自由奔放でふらふら出歩いてるイメージが強い為、わからなくはない。 「だからといって、この家に来るっていうのはどうかと思うぞ?」 「そうかしら?私はもうユーリのものよ。」 普通の第三者がいたら誤解されかねない発言だ。 「僕も、ユーリの部屋が遠いしなかなか遊びにいけないし・・・。」 そう言えば、カロルはいろいろと過去のことで周辺の部屋の住人とあまり仲がよくないのを思い出す。 「別に寮じゃなくてこの家で通学しても問題ない距離ではあるがな。」 「せっかくいい家あるんだしそうしようよ、青年。」 「おっさん張り切ってるな。」 「だって、学園内にいたら、休みでも仕事押し付けに来る上司がいるんだもん。」 休みは休みたいーと駄々こねる姿に、成る程と思った。忘れてしまいそうになるが、これでも優秀なあの学園の教員なのだ。普段がこんなのではあるが、仕事面ではしっかりしているらしい。 「なら、外で別に一人でいいじゃねーか。」 「なんで?寂しいじゃないのよ。青年おっさんにだけはつれないよね。」 何かへこんだレイヴン。だが、離れる気はないのか、腕がとれない。 「んー、でもなぁ・・・。ああ、もうこんな時間か。」 「本当ね。それでユーリ。いいのかしら?」 「何が?」 「あら。もう忘れたのかしら?私がここにユーリ達と住むというのはダメかしら、と。」 「ああ。まだ言うのかそれを。」 何か目を輝かせているカロルや楽しそうなジュディに必死なレイヴン。どうしたものか。 「別に、お前等がいいっていうならそれでもいいけどさ。そんな簡単にいきなり決めていいのかよ。」 「問題ないわ。だって、バウルだけだもの。今はユーリも。だからユーリがいればいいわ。」 「僕も元々家っていうのがないから。それに、凛々の明星の拠点がここじゃダメかな?」 「おっさんも青年のものだから青年と一緒なら何でもいいわよ。」 契約した時はあまり気にしたことがなかったが、よく考えたらラピードのことを思えばくっついてきてもおかしくはない。しかも、ラピードとは違い、言い出したら聞き分けない連中だ。 「そう言えば、凛々の明星はまだ活動場所を決めてなかったな。」 野外活動的なものとして、カロルとジュディとはじめた何でも屋のようなボランティアクラブ。いつの間にか顧問がレイヴンになっていたが気にしない。やってくれるのならそれでいい。 「じゃあ、引越しはいつにするんだ?多少は荷物あるんだろ?」 「あら、じゃあ来てもいいのね。」 「引っ越すって決めるまで聞く気ないだろ?」 「そんなことないわ。でも、うれしいわ。」 「やったー。」 「今日から青年と一緒〜。」 三人がそれぞれ喜ぶ中。 「今日?」 「はい。今日からおっさんこのまま居ついちゃいます。」 「荷物は?」 「元から職員用の個室にあるだけだから、借りてる部屋へは寝る為に帰ってるだけなのよ。」 「私もたいした荷物にならないから、明日すぐに持ってこれるわ。」 「僕は・・・二人よりは多いかも。でも、二人共今日からなら、僕も今日からじゃダメ?」 ここではっきりわかった。今日わざわざ着いて来たのは、はじめから居座る気でいたからだ。計画的犯行だったのだ。間違いない。 だが、今更やっぱり駄目だなんて言えないし仕方ない。 「じゃあ部屋は後で決めるとして・・・ん?どうしたんだエステル。」 コップに口をつけてなにやら剥れているエステルに気付き、声をかけてみるが、むっと剥れたまま何かユーリに言おうと手を握って拳を作り意気込むが、言葉は出ずにやっぱりむくれる。 「こっちだけで盛り上がってて悪かったな。それで、何か言いたい事があるなら聞くぞ?」 言ってごらんと、近くによってしばらく返答を待った。 「・・・ズルイです。」 小さく出てきた言葉はそれだった。 「ずるい?」 「そうです、ズルイです!」 そこから勢いがついたようにエステルが言い出した。お友達とお泊りやお出かけしてみたい云々、つまりは皆ユーリの家にお泊りするのに自分は誘われていないというのに不満らしい。 だが、見た目年頃のお嬢さんで、一応お泊りといってもずっと居つく気でいる三人だが契約している相手であって、その辺いろいろと問題ある気がする為に誘わなかっただけだ。別に仲間はずれというわけではないのだが、話にも入れなくて怒っているらしい。 「なら、今度保護者とちゃんと話してお泊りしに来たらどうだ?」 「・・・今日皆と一緒がいいです。」 珍しくわがままをいうエステルに、だけど微笑ましく感じた。本当、実際生きている年月からすれば年上だろうに、妹みたいだ。 「でも、保護者がいるなら、心配させたら駄目だろ?」 「・・・わかりました。」 「保護者とちゃ・・・。」 「ユーリ!私と契約して下さい!」 「・・・はぁ?」 わかったという言葉で今日は大人しくしてくれるかなと思ったが、とんでもないことを言いだした。 聞き間違いだろうか。 「契約、して下さい。ダメです?」 「えっと、話がまったく見えないんだが・・・。」 「契約です。私と契約して下さい。」 意気込むエステル。顔が滅茶苦茶近い。レイヴンはくっついたままだからレイヴンも近いが。それ以上にエステルが近い気がする。 「あのな、お前等にとって契約は・・・。」 「私決めました。ユーリと契約したいんです。契約して下さい。」 頭を抱えたくなる。黙っていたリタも驚きで呆然としている。いつも彼女の行動に驚かされるが、今日は比ではない。 しかも、言い出したら聞かないのがエステルのある意味いいところであり悪いところだ。 「いや、だからな。」 「ユーリは私と契約するのは嫌なんです?」 「あーそれはないが・・・。」 「なら、どうしたら契約してくれるです?」 「とりあえず、近い。ちょっと離れよう。そう、離れる。あとおっさんもな。」 「えー。青年酷い。」 冗談ではなく本気のようだが、本当に意味わかって言ってるのだろうか。 「とりあえずだな。理由教えてくれ。なんで急に今ここで、なんだ?」 「それは・・・私・・・私もユーリと一緒がいいです!」 「学園じゃいつも一緒だろ?クラス一緒だし。」 「違います。えっとその・・・私は・・・あの・・・その・・・。」 言いたいことがまとまっていないのか、そこから先がなかなか出てこない。 「エステルも私達みたいにユーリと一緒にいたいってことでしょう?」 微笑ましく見ていたジュディが助け船のように言葉を挟んだ。 「えっと、そうです。私もユーリと一緒がいいです。」 「それと契約がどう繋がるんだよ。」 「んー、青年は俺達が『契約済み』だから、『わんこ』が一緒にいて俺達が一緒じゃないことによる差別はしないでしょ?だから、寮出て皆一緒〜ってのを許可してくれたんでしょ?」 ある意味今日はじめてまともなことをしゃべった気がする。こういうところは一応レイヴンは大人だと思える。 「まぁ、付き合いの長さとか魔物のレベルで差をつけるつもりないしな。俺は気に入らん奴と一緒にい続けるような面倒なことするつもりないし。」 「エステルは仲間に入れて欲しいってことでしょう?」 「仲間って・・・仲間じゃねーか。」 「あらあら。ユーリは結構鈍いのね。」 「それも青年の困ったところでいいところなのよね。」 「お前等何が言いたいんだよ。」 エステルとの会話で割り込んだ二人は楽しそうだ。明らかに原因を作ったであろうに、少しばかり恨めしい。 「ユーリ。」 じっと真っ直ぐ目を見て、少しばかり力が入りすぎているのか肩が震えてるエステルに、ふぅと息を抜く。 「そんなに簡単に決めていいのかよ。」 「前々からユーリがいいと決めていました。」 「そうかい。」 「ダメです?」 「エステル自身が決めて選ぶなら、俺は断らないよ。」 「じゃあ・・・っ!」 ぱあっと花が周囲に咲いたように満面の笑顔になる。本当、お花みたいな奴だ。 「俺もエステルのことは好きだからな。」 「ユーリっ!うれしいです。」 飛びついてきた為、危うくそのまま後ろに倒れるところだったが、何とかなった。それも、後ろでずっと張り付いてるレイヴンのおかげというものだ。あまり感謝する気はないが。 「あら、良かったわね。」 「エステルも今日から一緒だね。」 「おっさんとしてはライバル増えて大変なんだけど。」 わいわいと賑やかなその面々をじっと静かに見ている目にユーリは気付いた。そう言えば、彼女もエステルが契約云々を出すまでは静かで、今も静かだった。 さすがにこうなってしまえば、彼女だけ一人帰すわけにもいかない。暗くなれば女の子一人出歩くにはあまりよくないからだ。 「リタ。用事が何もなければ泊まっていくか?」 声をかければ、ピクッと黒い猫の耳が動いた。 「べ、別に、いいわよ。帰るから。」 だけど、心なしか元気がない。彼女は素直でないが、わかりやすい。耳や尾が見ていたら反応が違うからだ。 「だが、こんだけ遅くなったら女の子一人で帰すわけにもいかないしな。」 「・・・だ、大丈夫よ。そんな、柔じゃないわ。何か出てきても燃やすわよ。」 リタらしい。実際、怒らせたらそれぐらいやってくれるだろう。わかっているが、心配になるのだ。 「そうです。リタも契約すれば一緒です。」 パンと目の前で手を叩いてひらめいたらしい、無茶苦茶な提案。 リタの様子が気になってまだエステルと契約の儀は行なっていないが、一緒にやりましょうと誘いだすエステルにさすがに困る。あくまで、本人間における問題だからだ。 「私は・・・。」 今まで向こうを向いていたリタがちらりとユーリを見て、やはりそっぽ向いた。 「ここはやはり行動しなきゃダメなんだと思うんです。」 何か応援しだすエステルを見て、どうしたものかと思う。ジュディは楽しそうだし、レイヴンは独り占めできなくなる云々と唸りながら不満そうだし、カロルはすでにラピードの元に行って構っていた。 「エステルー無理強いは駄目だぞー。」 「大丈夫です。」 その自信はいったいどこからくるのやら。 「リタはどうしたいんだ?」 話を進める為、本人に聴いてみるものの、口ごもって答えない。 「とりあえず、おっさんは離れろ。ジュディとカロルはこの部屋で待っててくれ。二人共、とりあえずこっちだ。」 ユーリは立ち上がり、少しだけと諦めて離してくれたレイヴンを適当に流し、隣の部屋へ移動する。 そもそも、なるべく契約の儀は他者に見られない方がいいからだ。エステルとの契約はすると決めたのだから、レイヴンも大人しく離してくれたのだろう。 二人を部屋の中に入るよう勧め、扉を閉めた。 今更だが、年頃の女の子二人を部屋に連れ込むって危ないじゃないか。やはり、魔物だから人とは常識が少し違うのだろうか。何せ、人一人ぐらい簡単に吹っ飛ばすことが可能な二人だ。やっぱり、常識の基準が違うのかもしれない。 とりあえず、今はそんなことではなく、リタがどうしたいか、だ。 「リタは、どうしたいんだ?」 「私は・・・エステルと一緒がいい。・・・それに、あんたなら、別にいいかなって思うし。」 「へぇ、天才様が俺を選んでくれるとは光栄なこった。」 「ちゃかさないでよっ!そ、それに、黒は不吉で、でも好きって撫でてくれて・・・あったかかったし・・・あ、えっと。」 どうやら、以前ラピードが犬ということで、犬好きなら猫はどうだという話で、猫も好きだと答え、頭を撫でたことでそれなりに好意は持っていてくれたらしい。 それに、何でもできすぎるが故に、そして親がいない故に純粋に頭を撫でて褒められたり、好意を向けられることがなかったのだろう。だからこそ、エステルとも仲良くなかったのかもしれないが。 「あ、あんたこそ、猫・・・でもいいわけ?」 「ん?確かに犬が好きだが、猫も好きだぞ。ラピードも、猫だからって喧嘩しかけたりしないだろうし。あー、フレンとは結構喧嘩してたな。」 「フレンはラピードと仲悪いんです?」 「さあな。」 思い出せば、自然と笑みが零れる。 「本当に、いいの?私、自分でも何か熱中したら周り見えないし、迷惑かけるだろうし・・・素直じゃないし。」 最後の方はほとんど聞こえなかったが、しゅんとしおれる耳と尾を見ていると怒られた時のフレンを少しばかり思い出す。 「言っただろ?気に入らない奴と契約する程、心広くないし、プレゼントするほどお人よしじゃないって。」 しっかりと持っているその本を示せば、あっと小さな声が聞こえる。 「う、えっと、私と、契約しなさいっ!」 「くっくく・・・リタらしいな。」 「な、何よっ!」 「リタが俺でいいのなら喜んで。すでにいっぱいいるけどな。」 差し出した手を、少しだけ戸惑いながら掴むリタ。 「それで、リタはどうする?エステルと同じで今日から居つくか?」 「っ・・・う、・・・いる。エステルがいるから。」 「わぁ、今日からリタとも一緒です。」 うれしそうにリタに飛びつくエステルに少しばかり戸惑いながら、それでもいつものように憎まれ口を返しながら、二人ともユーリの方を向いた。 「今日からよろしくお願いします。」 「こちらこそ。」 「わ、私が、契約してあげるんだから・・・感謝しなさいよ。」 「はいはい。うれしくて涙が出るね。」 「ちゃかさないでよねっ!」 「本気だぞー。一年もたたない内にクラス全員と契約するなんて、思ってもみなかったからな。」 「あ、そうです。すごいですユーリ。」 すごいとかの問題ではないが、ある意味これで卒業しても彼等とわかれることはないのだろう。フレン以上の腐れ縁になるかもしれない。 「それにしても、耳飾とペンダントとはね。」 隠そうと思えば隠せるが。だんだん装飾が派手になっていく。学園側から何か言われたらどうしたらいいものかと、少しだけ考えた。けれど、これが契約によるものだとわかれば、見逃してくれる気はする。 その為につくられた学園らしいから。 「ほら、皆のところ戻るぞ。で、明日全員で片付けと引越しだ。」 「はい。頑張ります。」 「手伝ってあげるわ。」 戻れば、結果を見て祝うジュディとカロル。また背後霊のようにくっついたレイヴン。 本当、一人でいる時間がなくて、いつも賑やかだ。あの頃が嘘のようだ。 「じゃあ、部屋割り発表するぞー。」 |