今日は時間が早すぎたが、することもないので教室へと向かった。

すると、そこにはすでにジュディとバウルがいて、なにやら話をしていた。

「あら、おはようユーリ。」

「おはよう、ジュディ。いつもこんなにはやいのか?」

「今日はたまたまよ。」

何だかんだと言って、話が合う。そして、付き合いやすい異性のジュディ。

フレンとラピード以来だ。ここまで気さくに話が出来る相手は。ただ、異性ということで、いろいろ視線が痛いのが難点かもしれないが。

このクラスにおいて、最初に仲良くなった相手かもしれない。

だからなのかもしれない。

その日、まだ時間があるからと、二人と一匹で裏の林の中をぶらぶら歩いていいた。

静かで人の気配はあまりなく、のんびりできるから結構好きだ。ジュディもそうらしく、赤い実がなっていて、お菓子の材料になるかと味見で一口かじれば、結構おいしかった。

「ねぇ、ユーリと契約している、ラピードだったかしら?彼はこないの?」

「そうだな。基本は留守番だな。」

「いつか会ってみたいわ。」

「言っとく。」

まだ、あれから彼等とラピードは会っていない。賢い奴だから、ユーリに何かあったり、サポートする為に狙ったタイミングで現れたりするが、事件もなく平和な毎日である為に今のところ出てくることがない。

ユーリ自身は毎日会っているのであまり気にしたことなかったが、一度ちゃんと紹介しておくべきかなとこの時思った。

何せ、あのクラスの連中は契約候補らしいから。

「そういや、相棒との時も契約みたいなものなのか?」

「少し、違うわ。生まれた時から決まっているの。私たちが決めることじゃないわ。けれど、どこかで選んでいたのかもしれないけれど・・・そのあたりは私にもわからないわ。でも、一緒にいて楽しいわ。」

「そうか。」

不思議な関係だなと思っていると、バウルが一声鳴いた。

「いいの?バウル。」

「ん?どうした?」

「何でもないわ。」

「そうか。」

そろそろ戻るかと伸びをした時、視線を感じてジュディの方を向きなおす。

「やっぱり、何かあるのか?」

「何でもないわ。ただ・・・。」

「ただ?」

「・・・。」

「言いたくないなら聞かないけど。」

相手の出方を待てば、何かを覚悟したかのように真っ直ぐユーリを見る強い意思を持った目がこちらを向いた。

「ねぇ、ユーリはその今契約している相手以外で契約する気、あるのかしら?」

「ん?そうだな。ないわけではないぞ。そもそも、前にも言ったけど、ラピードともそんな大層なことしてねーんだよ。成り行きみたいなもんだ。」

「じゃあ、私とも契約してくれるかしら?」

「ジュディ?」

「私の契約主になってくれない?」

ラピードのことで何となく想像がついたが、まさか本当に言われるとは思ってなかった。

「ジュディが俺でいいなら、別に構わないぜ。」

にっこり互いに笑みを浮かべる。

ラピードの時のように、あまり気負うことなく、自然にお友達になりましょうなノリで契約を交わす為に儀をはじめる。

「私と契約して、ユーリは何を望むのかしら?」

基本的に、契約は対等でなければいけない。しかも、聞けばジュディは高位クラスに入るらしく、尚更上下をつくるわけにはいかない。

「別にないぜ。そうだな、今まで通り、一緒にいられたら楽しいだろうとは思うけどな。」

「なら、ユーリが望むのなら、いつも側にいてあげるわ。そして、貴方に害なす者がいるのなら排除して道を作るわ。」

「あまりやりすぎるなよ。俺も、ジュディが望むのなら、望む限り共に。そういや、相棒はどうなるんだ?」

「私と繋がりがあるから・・・一緒に面倒みてね。」

「何か、俺はやまったか?」

「ふふふ。」

お互いの誓いのような契約。ジュディは水色の細い紐で編み込まれたそれをユーリの右腕に巻いた。

己の持つ何かを与える。相手から何かを受け取る。それで、繋がりを持つ。他にも口付けや親指同士少し切った血を重ね合わせるなど、種族によってやり方はさまざまだが、ユーリとジュディスの契約は相手の持つモノを受け取り身にまとうことだった。

だいたい、この学園での契約は物々交換を基本としている。まれに、命の危険に関わるような契約の仕方をする種族もいるからの対処らしい。

それに関しては対処して校則作った奴によくやったと思う。そんなの、ユーリだったらお断りだ。

「それをつけている限り、私はいつでもユーリを見失わないわ。ね、バウル。」

彼女の髪とバウルの毛が編み込まれているらしいそれは、魔よけにもなるらしい。嬉しい限りだ。変なのにまとわりつかれることがあるから。

ある意味、レイヴンも変なのの部類に入るか。そんなことを考えて、それを知ったらまた大げさな反応してへこむんだろうなと思うと少しばかり笑える。

「ま、これからも変わらずよろしくってことで。」

「ええ。・・・そろそろ戻りましょう?時間だわ。」

差し出した手にジュディも手を差し出し、繋がれる。その上にバウルがちょこんと乗って、そう言えばバウルも一緒だったなと頭を撫でた。

そろそろ戻るかと、二人してクラス指定されている部屋へと向かう。

もちろん、戻れば全員に俺の腕にまかれたそれに注目が集まり、何か賑やかだった。

「あんた・・・。」

「あら、いいじゃない。お互いが同意したんだもの。」

目ざとく最初に見つけたリタがそれの理由を求めるが、さらっとジュディスが答える。それに対し、何か言いたそうにして何か言おうと口を開くが言葉にならず、あーだうーだ唸りだす。そんなリタの姿にクスリと笑みを浮かべるジュディス。

「うらやましいです、ジュディス。」

「エステルも誰かいい人見つけて契約すればいいじゃない。」

「うー・・・私はちゃんとお知り合いになった上で、お願いしたいんです。」

まだまだ、お知り合いとなるには知らないことが多いし知ってもらえていないからと、ちらりとユーリの方を見る。

最初に会ってから、何だかんだと世話をやくユーリに、何度も助けられたエステルはユーリのことが気になっていた。だが、どうやったら仲良くなれるのかわからないのだ。リタとはお友達だが、異性のそれも人のお友達ははじめてばかりで、何よりいつも誰かと一緒なのであたふたして結局一日が終わってしまうのだ。

「それに、私はまだ契約お願いするほど勇気は・・・。」

契約は互いを知ること。相手を思うこと。相手を支配すること。様々な関係があるが、できれば対等でお互いをよく知り手を取り合える関係がいいなと思っているエステルには、まだまだ言葉にするのは恥ずかしいのだ。

「いいな・・・僕もユーリと。」

弱虫で逃げてばかりとして、どこへいっても上手くいかない自分の背中をおしてくれる存在。最後までちゃんと付き合ってくれるはじめての存在で、カロルもユーリのことが気に入っていた。

だからこそ、ジュディスが少しうらやましかったのだ。カロルもエステルと同じようにまだ言うには勇気がない。本当に対等でいられるかの自信がない。

「それで、いつの間に契約したのよ。」

あーだこーだ唸ってたリタがばっと振り向いてジュディスに指差して言った。

「ついさっきよ。裏手の森の中で散歩の途中に。バウルがいいって言ってくれたからつい。」

「それ聞いてると、何かノリでやったみたいだな、ジュディ。」

「あら?駄目かしら?」

「何でもいいけどな。」

「でも、思い切りも大切よ?」

「そうね。」

そんな彼等の会話に割り込むようにして入ってきた担当のレイヴン。

「だから、青年。俺様とも契約してよ。」

「断る。」

「えー。何でよ。」

「おっさんなら、俺じゃなくてもたくさん候補がいるだろ。」

モテモテなんだろと言えば、そうだけど青年がいいのーと駄々をこね始める。

本当、何故レイヴンは初対面からユーリに付きまとうのかまったく理解不能だ。

「そうよ。他にいるなら他行きなさいよ。」

「ちょっとリタっち、それはないんじゃない?」

「でも、実際レイヴンぐらいの実力者なら選びたい放題じゃない?」

かなりあやしくて胡散臭い男、レイヴン。本名はシュヴァーンという名があるというのにレイヴンと名乗る、この学園では有名な教授だった。授業内容も難しく厳しいが評判はよく、このクラス制においても入りたいと人気なのだ。

基本は希望を出せるが、この男は毎年非開講だった。ただ、今年はユーリがいたから開講し、行き先のない連中や上から直々に頼まれたお嬢様のエステル含めた少人数含めるが。

「この年になると慎重になるもんよ。その上で、選んだんだから、逃がすわけいかないじゃない。」

ねーねー契約しよーとうるさい男を引っぺがし、席につく。

「おっさん。授業。」

「契約。」

「断る。」

「いつになったら契約許可もらえるかね。」

ふぅとレイヴンは少しばかり落ち込みながら、授業を始めるのだった。

だが、そんなやり取りを見ていたエステルとカロルとリタの三人はそれぞれ考えていた。

ジュディスとはあっさり契約したのに、毎日しつこいほど言い続けるレイヴンには即答で断ると答えるユーリについてだ。

断られたらどうしようと、どうやったら断られないだろうかと考えて、上の空だった。

そんな彼等と見て、一人勝者の笑みを浮かべるジュディスに誰も気付かなかった。