あの騒動から数日。いつもの日常が戻り、平和だった。それは、あの騒動を考えると、不思議な程何もなかった。だが、何もないのなら、それでいいとも思っていた。 ただ、あれから、学園長と理事長、そしてイエガーが学園にきていないことだけが気がかりではあるが。 「ユーリィー!今日こそ俺と殺り合おうぜぇー!」 今日も、元気に騒がしいストーカーが追いかけてくる。その程度には平和かもしれない。 「ったく、あいつの愛は本当に重くてうざいな。」 何とか逃げて、教室に向かうユーリ。 「おはようございます。」 「おはよう。今日も人気者ね。」 「おはよ。あんたも変なのに好かれるわね。」 「おはよう、ユーリ。」 皆が順番に挨拶と共に話しかけてくる。 同じ家に住んでいるとは言え、家を出るのはバラバラだ。 エステルは住む許可は貰ったが、朝に挨拶をするために家に顔を出すことが条件だと言うことで、一緒に通学できないと残念がりながらも、その約束を守ってはやく家をでるし、ジュディはバウルと朝の散歩だといって、はやく家を出てふらふらっと出歩いてから教室にくる。 リタはエステルについていく日もあれば、研究の本を読むのにギリギリの日もある。レイヴンは学園長に呼ばれたら早く出るが、それ以外では一緒にいでてくる。 本日は呼び出されたようで、先にでていったから今日の授業がどうなるかはなぞだが。 「1時間目は自習だって。でも、2時間目には戻れるから授業やるみたいだよ。」 「そっか。カロル先生は自習何するつもりなんだ?」 「せっかく『お助け、ヴレイブベスペリア』やるから、その宣伝ポスター書こうって。」 皆に知ってもらわないと、依頼もしてもらえないから。そういって張り切る少年にそっかとほほえましい気持ちになる。朝出逢うストーカーを考えると本当にこういう時間が癒されると思う。 そんな時だった。 『警報。第一警戒。速やかに生徒は第一校舎地下に集合。』 トラブル。それがどういうものかはわからないが、悪い予感しかない。 「また、この前の奴等か。」 「どうしよう、ユーリ。」 「またユーリを狙うなら、戦うまでです!」 「そうね、ぶっ飛ばしたら終わりよ。」 「大事なユーリを連れていく人は倒しちゃってもいいものね。」 だんだん物騒に育ってる気がすると彼等の発言を聞いて思いつつも、何も突っ込まず、とにかく移動するかと全員で移動を開始した。 他の教室でも移動がなされているようで、生徒はたくさんいた。その中で、流れにい逆らう集団がいた。 「あ、ナン。」 「…ああ、確か、カロル先生の知り合いか。」 「え?あ、そう。…どうしたんだろう。」 心配そうにする少年に、いってみるかというと、少しとまどいながらも頷く。それを見て、ため息をつくリタ。面白そうだというジュディス。 「私も行きます。もし、違う理由であっても、この学園を脅かす悪い人を放ってはおけません。」 ここは、おじいさまの住む大事な場所なんですと意気込むエステル。 皆非難する意思はなし。ユーリも今回の原因であるであろう場所へ向かうカロルの知り合いを含めた集団のことに興味があったので、皆でそっちへと向かった。 そこには、けが人もいたが、原因である襲撃者もいた。 「どうやら、人との共存を望まない一派のテロね。」 「今、教職含め、学園長や理事長もいないもんね。狙い時ってやつね。」 「ナンっ!」 カロルの視線の先にいたのは、ユーリも以前会ったことがある少女。そして、その少女の仲間と契約主だと思われる大男。大きな剣を持った、いかにも強そうな男だった。 「あの男、なかなかやるな。」 「僕達みたいに、サークルやってるんだ。魔物を狩る、ね。」 「魔物が魔物狩り?何それ。」 「リタだって知ってるでしょ?魔物にとっても、人にとっても、敵にしかならないもの。それと戦う集団なんだ。」 そんなのがあったのかと思い、ユーリは彼等を見つめる。どうやって、あれを倒すのか視ようと思ったのだ。 「おや〜そこにいるのはカロル君じゃないの。」 こっちに気づいた、緑の服に顔に傷のある細身の男が話しかけてきた。 「しかも、そっちの女…。」 「失礼な人ね。私も、貴方のこと、バウルをいじめてくれたから嫌いだけど。」 どうやら、カロルだけじゃなくジュディスとも面識があるようだ。しかも、お互い仲がよくなさそうだ。 面倒なことにならなければいいがと思っていると、大男が剣を振り上げるところだった。 まさに一撃必殺。ただ振り下ろして叩き斬る。だが、その一撃を外さず、逃がさない。 これが狩り。これが、ハンターの姿であり、魔物が嫌う『人間』かとはじめて客観的に見ることになった。 彼等はこちらを見てはいたが、襲撃者の撃退が終われば、帰って行く。 だが、あの大男だけはこちらへ向かってきた。 「お前が、ユーリ・ローウェルか。」 あまり見下ろされるのは好きじゃないんだがなと思っていると、あの少女もこっちへきた。 「ボス…あの。」 「…戻るぞ。」 何か思うところがあるようだが、何も言わず、男は去って行った。 「…あの時はありがとう。カロル、酷いこといった。ごめん。ありがとう。」 そう言って、あの大男を追いかけて少女も走って行った。 「良かったな、カロル。」 「…うん。ありがと、ユーリ。あの時、ユーリが助けてくれたから。」 「でも、カロル先生が頑張ったからだろ。」 「あら、秘密の話?ずるいわ。教えてくれないのかしら?」 「秘密なんかじゃないさ。ただ、カロルの問題だからな。」 なら、話してくれるまでは聞かないことにするわと、笑っていた。でも、どこかでだいたいのことはわかっていそうで怖いけれど。 「それにしても、物騒ね。」 「はい。今までこんなこと起こることはそうなかったと言われています。」 安定した平和の中。約束された平穏は崩れかけているのかもしれない。 創立されてから、普段は行方知れずだし何をしているのかわからない理事長であっても、まともそうにみえて胡散臭い裏がありそうな学園長であっても、彼等がいて守ってきたから安全だったのかもしれない。 この前から続く襲撃。何かが起こり、変わろうとしているのかもしれない。 「ま、今回も被害が酷くなくて良かったな。」 そういうと、彼等は俺の方を見た。 「でも、私は守るわよ。」 「問題ないわ。」 「大丈夫です。」 「うん、皆とこれからも一緒だからね。」 頼もしい限りだ。無茶だけはするなよと言っていると、こっちへ近づく人影があった。 「あ、皆ここにいたの?!」 そう言って、慌てて戻ったらしいレイヴンがこっちへ走ってきた。 「カロル。」 「…向こうに行きたければそれでもいい。」 「いえ、私はボスと一緒にいます。大事な家族ですから。」 勝手にしろと、無言でそのまま進む男。 「ま、気楽にやればいいだろ。」 「師匠。」 「ま、あのカロル君が珍しくちゃんとできてるのは驚きだったけどな。」 笑う男。もっと強くなると決意する少女。ついていくのは、決めた主の為。 「さっさと行くぞ。」 ついていく二つ。終息した騒動に、放送が学園内に響いた。 |