―真夏の日―










「あちい…」

 こんな日に外に出なくちゃならないなんて嫌がらせだ。

 そう思いながら、工藤新一はフラフラと帰路についていた。

 何時ものように警察からの呼び出しがあり、授業中にもかかわらず直行した新一だが、事件が解決して集中力が切れたら真夏の炎天下で長時間推理していた付けがやってきた。

 暑い。暑すぎる。

(こんな暑い日に殺人なんてすんなよー!)

 今日の最高気温三十二度。

 暑い一日になるでしょうというお天気予報のお姉さんの言は誰もが思うことだろう。

 だがこの名探偵にはこの暑さが我慢ならない。

 ふらふら〜と帰路についていた新一だが我慢できずに、木陰を求めて小さな公園のベンチに突っ伏した。


「…(脱水症状起こしかけてるな…)」

 自分で冷静に分析しつつ、さてどうしようとダル気に髪をかきあげる。汗で張り付いた髪は、ちょっとどころではなく気持ち悪い。

 ちなみに言うと工藤新一。朝ごはんも昼ごはんも食べてませんでした。

(灰原が怖いな…)

 ここで倒れたらきっとあの小さな主治医に何をされるかわからない…。

 恐ろしい予感にちょっと涼しくなりながら(寧ろ寒い)新一はからりと晴れた空を見上げていた。






















「…大丈夫?」

「え?」

 問い掛けられ、顔を上げるより早く冷たい何かが額に押し付けられた。

 それはポカリ。近くの自動販売機で購入したらしく、まだ開けられていないものだ。

 そしてそれを新一の額に押し当てているのは、新一と同い年くらいの少年。


 見覚えはなかったが、妙な引っ掛かりを覚えた。


(誰だ?)

「顔色悪いよ。これ飲んだほうがいい」

「あ…でもこれ…」

「いいのいいの。ほれ」

 無理やり渡されて、飲めと言われる。彼は新一の隣に腰掛けて、あち〜と言いながら手で扇いでいる。それを見ながらも、水分が欲しかったので礼を言って蓋を開ける。

 こくりと飲み、息をつく。

「…サンキュ」

「いえいえ」

 にこりと微笑んだ相手に、新一は暑さでぼやけた頭でも感じた引っかかりに気付いた。

(…ふーん)

「俺、黒羽快斗。黒い羽根に快晴の快に、北斗の斗」

「…工藤新一」

「新一ね」

 いきなり名前で呼び捨てにされて、馴れ馴れしい奴だと感じても不快には思わなかった。

 黒羽快斗は立ち上がり、再び新一を見て笑った。

「あんまり無理しないほうがいいぜ?そのうちぶっ倒れるからな」
















 そう言って、きたとき同様あっさりと歩いて行ってしまった。

 残されたのは、飲みかけのポカリと新一。

 もう一口飲もうとして、新一は胸ポケットに入っている紙に気がついた。

「…あのバカ…」

 それは小さな、白い紙。

『忙しい貴方に休息を』と書かれている。

 気付かない振りをしていようと思っていたのに。

 正体を自らばらす怪盗がいるか?

「…借りは返せってことか?」

 いや、違うだろう。

 だが新一は鈍かった。

 大分楽になった体で立ち上がり、気力を絞って再び帰路につく。

 日常のあいつと出会ったのは偶然だが、なんだか平行線だった自分たちの線が、これから交わりそうな予感が、あった。

(暑さで頭やられたか?)

 そう思っても。

 悪い気は、しなかった。







 真夏の日。

 昼間の邂逅は、ほんの数分。



 次の邂逅は、いつどれくらい?







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…快新か?K新にも読める…。

こんなものですみません。紅姫さま。

お粗末ですがサイト開催記念にでも。

byコウ



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コウsamaから頂いちゃいました。
この後、彼等はどうなっていくのか気になります。
やっぱり、今回のように彼から会いに来るのでしょうか?

どうも、ありがとうございました、コウsama

 李瀬紅姫


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