ガサガサガサ・・・ 葉が揺れて触れあい、音がする キラキラ光る〜お空の星よ〜 なんとも、微妙な音程の歌が聞こえてくる 「何やってるんだ?」 俺は、音と歌の元に問いかける すると、あいつは答えた 「今日は七夕だから、笹を飾ろうと思って。」 ほらっと、たくさんの短冊を持ち出した どうやら、これに自分も書けという事らしいが・・・ これは、多すぎだろう いったい、何をこんなに願えというのだ
星に願いを、君に願いを
相変わらず、奇妙なリズムでキラキラ星を歌いながら、現在同居人の黒羽快斗は夕食を作っていた。 「新一〜。願い事書けた〜?」 「ああ、かけたよ。」 何々、何を書いたの〜?と、夕食のおかずを持ってリビングに現れた。 そして、気付けばすっと願い事を書いた短冊を奪われた。まさに早業。 だが、その種やトリックを見抜けないので、かなり複雑。 見ていて凄いと思い、綺麗だと思う魔法だが、こういうときには気に入らない。 む〜っと、睨んでいたら、何故か固まっている快斗。 そういえば、短冊を取られてそれを今見ているんだったなと思い出す。 「あ、あの、新一?」 これはなんでしょうかとかなり機械的な言葉でがちがちになって問う。 「あ〜、そのまんまだぞ。『魚が・・・』」 「うぎゃ〜〜〜!それ以上言わないで!」 むぎゅっと口を慌てて塞ぐ。しっかりと、先ほどまで持っていた料理は机の上だ。やっぱり、気に入らない。 ここでがっしゃ〜んと落としてくれたら面白いというのに。 そんな事を考えているとは知らない快斗は、泣きそうになりながら、新一が書いた短冊を破り捨てた。その作業もまた、早業だった。 「おいっ。何するんだよ!」 「あの願い事は駄目。かなわないし、無効!」 駄目〜っと必死に言い続ける快斗。 ちなみに、短冊に書いた内容はとっても簡単。 『魚料理が食べたい』 という、本当にちょっとした願望だった。 快斗が来るようになってから食生活は改善されたが、好きな魚料理は出てこない。 さすがに、魚料理が好きな新一には少し寂しいもの。なので、些細な願いとして短冊に書いてみただけだというのに。 書くように言った本人が駄目だと言い、破り捨ててしまった。 「それ以外のお願いにしようよ、ね?俺みたいに。ほらっ!」 と、見せてくれるのは数枚の短冊。どうやら、作業をしている間にいろいろと書いたようだ。 だが、書いている内容が同じようなもの過ぎて、一つでいいのではないかと思う。 全て、快斗ではなく自分に関する願い事だからだ。 『新一とずっと一緒にいられますように。』 『新一が幸せに過ごす時間がありますように。』 『新一に休みをあげられますように。』 『新一が好きだと言ってくれますように。』 欲があるのかないのかわからないような内容ばかりだ。 まったく、本当にIQが400もあるのかどうか、もう一度図りなおしてきた方が言いに決まっている。
そもそも。こんな関係が始まったのは数日前の事だ。 自分を好きだといい続ける気障でむかつく白いこそ泥と屋上で偶然会ってしまった日の事。 あいつはまた、うれしそうに寄ってきて、自分に好きだとか愛しているとか、返事がほしいとか、否定しないでほしいだとか言ってくる。 新一はたまにこんなわけのわからない奴に好きだと言われる事が多いので、そいつもそうなのだと思っていた。 だが、奴は本当に好きで、その日になんとキスしてきやがった。 しかも、我慢が出来ないとかいって、アンナ場所で押し倒された。 もちろん、暴走していた奴を蹴り飛ばすのは簡単だった。 そして、ゆっくりと話を聞くと、めそめそとしながら訴えるのだ。 いつまでたっても返事はくれないし、思いが抑える事は出来ないし、何より、最近は滅多に来てくれないからと言う。 呆れるしかない。本当に馬鹿だ。そう思った。それと同時に、自分も馬鹿だと思った。 確かに、自分はこいつの事が気になっていたが、うその塊で自分と同じように演技をしている男だ。はなっからその言葉を信じていなかった。 信じたところで、最後に本性をさらけ出すに違いないと思っていた。 だが、どうやら本当に自分の事が好きらしい。 普段は馬鹿にしてさっさと帰るところだが、少しそのしゅんっとした姿に保護欲がわき、何故か言ってしまったのだ。 まぁ、自分も嫌いではなく好きであったので、ついぽろりと。 そうしたら、さっきまでのそのしゅんっとしていた姿はどこいったんだ?!というぐらいはやい身の代わりで、自分を抱きかかえて空にダイブした。 おかげで、夜風に吹かれながら空から玄関を通ることなく部屋に直行で帰った。 そして、奴ははれて恋人同士だとか言って、正体をさらした。 少し、面白くない。 せっかく自分はこいつの正体を見つけ出して、本気であるのならそちら側の前に現れて言おうと思っていたというのに。 むかつく。謎が好きな新一にとっては、先にばらされるのは一番むかつくものだ。 なので、その晩はあまりにもむかついて、さすがに不機嫌だという事に気付いたあいつもあたふたとどうしたのかと聞いてくるが、家から外へ放り出した。 ま、次の日に理由は知らないが何かしたらしい自分を謝りに来た。 朝は無視していたが、家に帰ってきてみると、またしゅんっと、まるで怒られて反省して許してくれるのを待つ犬のようだった。 本当に、呆れた。学校があるというのに、きっとここにいたのだろう。 「何やってるんだ?!」 日射病で倒れたらどうするつもりだと怒鳴り、家に連れ込んだ。 その後、話をして、何故か家に居ついたのだが。 なんだかんだいっても許していて、側にいることを喜んでいる自分も駄目なのだろう。 全てはこいつのせいだと言い聞かせながらも、幸せに過ごしていた。 にもかかわらず、なんだ、この願いは。 まるで自分が心変わりしてしまうのではないかというものだ。 考えればまたむかついたので、持っていた別の短冊に書いてつるしておいた。 一つ目には『快斗の魚嫌いがなおりますように。』と。 二つ目は・・・。
ドスドスと部屋に戻っていった後、ぎゃーっと叫ぶ快斗の声が聞こえてきた。 今頃、一つ目の短冊を見つけて、最初のように始末している事だろう。 そして、しばらくして聞こえてくる足音。 自分の部屋へと向かってくる足音。 きっと、見つけたのだろう。二つ目の短冊を。 そもそも、短冊に願いを書いたからといって叶うわけではない。 それに、自分の願いを叶えてくれるのは星ではなく快斗だ。 コンコンっとノックの音とともに、入ってきた快斗。 「新一。」 新一の側までやってくる快斗。 「ねぇ、あれ本当?」 「・・・。」 「あれが、新一の気持ちだと思っていいの?」 「・・・なら、出て行くか?」 「ううん。・・・ありがとう。」 それなりに、一方的で気にしていたのだろうか。また、妙に情けない奴になっていた。 だが、明日にはすぐに元に戻るだろう。 いつもそうだから。 二つ目の短冊は笹につるされて揺れる事はなく、大切に快斗がお守りとしてしまっていた。
『願いを叶えてくれる貴方の側にいられるように。』
新一の願いは本当に些細な事。
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