不可能はないとも言われた怪盗なのに

どうしようかと思うぐらい、厳しい道があった

もしかしたら、自分でも不可能なのではないかと思うような事

 

「どうして好きって言っても、わかってくれないわけ?」

 

先日の告白も、その前の告白も

全部、俺も好きだぞと返して、笑顔に見とれている間に用事を始める人

 

はぁ

 

今日、何度目の溜息だろうか・・・

 

 

 


 鳥の懐へ

 


 

 

チュンチュンチュン・・・


鳥の鳴き声が聞こえる。そして、この家の主・・・自分の思い人の声も聞こえる。

ベッドから起き上がって、カーテンを開けて窓を開ければ、下で鳥と戯れる新一の姿がいた。

 


バサバサバサッ・・・

 


鳥が一匹、快斗の元へやってきた。鳥を視界の中で追いかけた新一は、窓から顔を出している快斗に気付いた。

「お、起きたか。」

「あ、うん。」

満面の、とても綺麗な笑顔を見せてくれる新一。

だけど、いまだに好きだと言っても思いが通じないので、ちょっといろいろと複雑である。

「朝食喰うか?」

「あ、下降りるね。」

「おう。スープ温めておいてやる。」

どうやら、今日も、用意をしてくれたみたいだ。

いつも、料理はそれなりに出来るし、食べて欲しいと思ったから作ろうと思うが、何故か朝は起きられない。

新一よりはやく起きる事はここに着てから一度もない。

隣の、新一の部屋がある方の壁をぼーっと見る。

絶対に、新一の心を手に入れて、ずっと側に、隣で温もりを感じながら休みたいと毎朝誓う。

「おーい、快斗〜?」

下からまだかと呼ぶ声が聞こえる。

「今行く〜。あ、待って〜。」

ちょっと情けないかもしれないけれど。

 

 

 


「え?街に出るの?」

今彼等が住む場所は、人が住む世界とは違う世界。そして、この家は街から少しはなれた丘にある。

何より、新一は人ごみを嫌うので、自分からは行こうとしないのだ。

まぁ、快斗もわざわざ新一の側から離れて出かけるなんて事はしない。それに、今までいた場所と少し勝手も違うようなので、困らない程度にしか出かけなかった。

「ちょっと、用事が出来てさ。」

「用事?珍しいね。」

そうだなと、本人も認めている。いったいどんな用事だというのか。

「この街の管理者に呼ばれているんだ。」

「へぇ、管理者・・・管理者?」

ここに来てはじめて聞く職業だなと思う。大家とか管理人とかは今までいた世界にもいたが、この街の管理者というのが気になる。

「この世界にはいくつかの街や国がある。その街や国が荒れたり、おかしくならないように管理する者がいるんだ。」

お前も来るだろと言われて、どんなものか少し興味がわいたので行くと答えた。

「それに、お前はあって損はないぞ。」

「・・・どういうこと?」

「お前がよく知る人だからな。」

珈琲を飲みながら楽しそうな顔を見せる。だが、快斗には自分が知る人だといわれても何もぴんとこない。だって、ここに来て一月ぐらいは経ったが、知り合いと言うほど話す人はいないし、知っているのは目の前にいる新一ぐらいだ。

「・・・会えばわかるよ。」

さて、用意をするかと立ち上がる。

まったく意味がわからない快斗は誰に会ったんだろうか

誰だとぶつぶつ言う姿を見て、わからないだろうけれど、会えばすぐにわかるさと、放っておくことにした新一は、皿の片付けをする。

 

 

 


出かける用意をして、戸締りをして家から離れる。

「ここから近いの?」

「近いぞ。穴を使うからな。」

「・・・穴?」

「あ、言ってなかったっけ?」

あっちの世界を通った時のような穴だと言えば、そう言えば、世界が違うのなら、それなりに入り口があるのだ。

目を瞑っていてまったくどうなったのかは、あの時わからなかったが。

「ほら。これだよ。」

指差した先には、キの根元にある穴。

「・・・これですか?」

「おう。なんだっけ。そっちにあった本と似たような感じだな。」

兎じゃなくて鳥だけどなと言う言葉で、どのお話か思い当たった。

「・・・じゃぁ、俺は・・・。」

「主人公じゃねーの?俺は女になるなんて御免だけどな。」

自分も遠慮したいと思うが、彼の言いたいように言わせておく。きっと、この事はすぐにころっと忘れるだろうから。

この一ヶ月一緒に過ごしてわかった事だった。

「ほら。行くぞ。」

ていっと快斗を穴に向かって背中を押して落とした。

「うわっ?!ぎゃー!!」

「よし、俺も。」

すっと快斗を追いかけるように穴に下りた。

その穴の最終地点は管理者の屋敷。

滑り台を降りるような感じで、立派なお屋敷の玄関に降り立った。

「・・・ここ?」

「そうだ。」

「・・・でかいね。」

「そりゃ、この街一の権力者だしな。」

会った事があっても、権力を振りかざす嫌な奴だろうなと、過去の経験で思っていた快斗。

しかし、そんな思いを吹き飛ばすほど驚かされる事となった。

「やぁ、久しぶりだな息子よ。」

通された部屋で最初に見たのは、のんきな父の姿だった。

「な、なんで?!」

「いやぁ。妻もいるぞ?」

はっはっはとかなりのんきに笑っている父を見て、いったいどういう事なのかちんぷんかんぷんな快斗。

だって、目の前の人物は何年も前に殺されていたはずなのだ。

「な、なんで?!」

また同じ台詞を言う快斗は、周りが何も見えていなかった。

なので、いとも簡単に新一の蹴りを喰らってしまった。

「う〜、痛いぃぃいいい。」

「うるさい。それに、いつまでも現実逃避してるな。」

「だってぇ。」

目じりに痛さのあまり涙を溜めて新一を見上げる。蹴られた際に床とお友達になったのだ。

「俺の父さんがここの世界の管理者で、盗一さんが殺される前に連れてきた。」

「母さんは?」

「殺されるという予兆があった時に連れてきた。」

「俺は・・・?」

「忙しかったから遅くなったけれど、お返しもあるし、盗一さんの事もあるから探しに行った。」

確かに、敵に見つからないように。そして身内や知り合いにさえ見つからないように隠れていた快斗。

「ちょろちょろと迎えに行こうと思っても先に気付いて逃げるし。」

「えっと、その・・・。」

「一定期間を過ぎても見つからなかったら俺の家で暮らせって。お前は盗一さん達と一緒の方がいいっていうのにあの親父は・・・。」

お怒りの様子で今度は新一が回りの様子聞いていなかった。

「あの、新一・・・。新一!」

呼んでも効果がないからがしっと肩をつかんで目線を合わせれば、どうやら戻ってきてくれたようだ。

「確かに父さんが死んでいなかった事実はうれしいし、一緒に過ごせるのはうれしい。でも、俺は新一と一緒がいい。」

「はぁ?何バカな事言ってやがる。」

「だって、俺は新一の事が好きなの!好きな人の側にいる方が、親父と一緒にいるようもいいの!愛してるの!」

「おや。やっぱりだね。あ〜、父さんはふられちゃったよ。」

忘れられていた盗一が言葉を挟むも、二人の世界にいるので聞こえていない。

「・・・・。」

「ちょっと、現実逃避しないでよ。新一〜。」

固まってしまった新一に必死に戻ってきてもらえるように声をかけても、一向に意識が戻ってきてくれない。

「・・・えっと、快斗?」

やっと戻ってきてくれても、どうやらあの言葉の意味を理解せずに逃げようとする体制。

「俺も、お前の事は好きだぞ?」

「じゃぁ、両思いだから恋人になってくれる?」

「・・・はぁ?」

「俺の好きって意味、わかっててはぐらかすのやめて。」

なら、いっその事ふってと言う真剣な快斗に、どうしたらいいのかと困り果てる新一。

一体何が悪かったんだろうかと、新一は考えていた。

「これでわかっただろう?新一君の婚約の意味。」

「何それ?婚約?!親父、何しやがった。ちょっと新一婚約って誰とだよ?」

すごい形相で見てくる快斗に、新一は目線をはずしながら控えめに相手を指差す。

「俺か?!・・・俺?」

「優作君は嫌がったけどなぁ。行方不明になった新一君が帰ってきたのは快斗のおかげだからね。新一君が本当に好きならと、期間を設ける事もかねて、婚約させてみた。」

快斗の知らないところで話は進んでいたりした。

「じゃぁ、新一の婚約者?」

何故か喜ぶ快斗。

「お前、わかってるのか?!男と女じゃねーんだぞ。」

「いいんだよ。新一なら〜。」

すりすりとすりよってくるのは、相変わらず犬みたいで。

「とりあえず、快斗にも伝えたし、この通り、新一君の家で過ごすことに問題もないし、婚約の問題は、あとは新一君の気持ちだけ。」

「でも・・・。」

「嫌いだったらふっても構わないよ。・・・しつこいだろうけどね。」

それが一番嫌なのですが。

「まぁ、ゆっくり二人で話し合って決めたらいいよ。」

ぎゅうっと巻きついた腕は離れない。さて、どうしたものか。

「新一君はよく考えたらいい。考えて出た答えなら、快斗は納得するよ。まぁ、側から離れることはないだろうけどね。」

「・・・わかりました。」

とりあえず、家に帰る事にした。盗一は街の管理者という仕事をしているだけあって、忙しいから。

 

 

 


「いいかげん、離れてくれないか?」

帰ってきても相変わらず離れてくれない快斗。

「だって、離したら逃げちゃいそうだし。それに、返事もくれないし。」

「それは・・・。」

もともと、先に一目ぼれというか、好きになっていたのは新一の方だったりする。

助けられた時に快斗の顔が忘れられなくて、面倒くさがりな自分が追い続けて迎えに行ったぐらいだ。

それに、嫌いな奴を家に通す程心は広くない。

だが、男同士だし、快斗にもいろいろと事情はあるだろうから、この思いを隠して、父達の婚約にも突っぱねてきたのだ。

「・・・それは。」

「それは?」

ご機嫌な顔で見てくる快斗。

「・・・俺も、・・・・・・俺も好きだ、バカ。」

いつも彼が言う好きがただの友好の表現だと思っていたから、適当に流していた新一。

「わーい。新一は俺の〜。」

さらにぎゅうっと閉まる腕。それが心地よいが、さすがにここまで閉められると苦しい。

「快斗、離せ・・・。」

途切れ途切れに、それも少し咳き込みながら言うので、やっと快斗は気付いた。

「あ、ごめん。」

つい力を入れてしまったが、快斗の力は怪盗をやっていたので半端じゃない。新一には、とても強い力で苦しいのだ。

どうしようどうしようと、慌てふためく快斗の腕を攫んで、仕掛けてみる。

えっと驚いていたようだが、気にしない。

いつもは快斗にあわせて使わない羽根を広げて部屋に逃げる。

「う〜、やってしまった。」

恋愛に鈍い彼はただ一人を愛していたからこそ、回りに関して鈍かった。

そして、その相手にはあまり好意を向けることは出来ないから料理を作ったりしていた。

今度は、キスを仕掛けてみたりもしたのだが・・・。

やっぱり恥ずかしかった。

「どうしよう。顔がみれないかも・・・。」

自分でやっておいて後悔する。

「新一?」

どうやら復活したらしい快斗が部屋の扉の前まで来たようだ。

「開けて?」

「・・・駄目。」

「え〜、開けてよ。」

「・・・・・・・・・駄目。」

「じゃぁ・・・。」

諦めたかと思ったが、甘かった。

突然背中にあった支えが消えて、転びそうになったが、何かが新一を支えた。

そして、背後から抱きしめ、感じる温かいモノ。

「新一。好きだよ。」

「・・・。」

 

 

 


不可能を可能にする人でも、やっぱり不可能なのものはあって、

それは愛しい人の突然の行動を予想する事

 

だけど、それは彼にとっても嬉しい事で

彼の側にいられるようにと願い続ける

 





   あとがき

 9000HITどうもありがとうございます。
 今回もお礼もかねてフリーを・・・。
 7000のフリーだった籠の外への続編だったりもします。
 お気に召しましたら、どうぞお持ち帰り下さいませ。