童話に出てくる、幸せの蒼い鳥
蒼い鳥は幸せを運ぶの? じゃぁ、この蒼い鳥も幸せを運んできてくれる?
鳥籠に閉じ込められ、自由を失った蒼い鳥
まだ、空を飛べる? お願い一つ聞いてくれるのなら この籠の鍵をあけてあげるよ
無邪気な子供の声 開かれた籠の扉
自由を手に入れ、空と同じ蒼い羽根を広げて飛んでいく 一度振り返った鳥は、そのまま飛んでいく
その時はお礼をいっているようにも思えたが、 いってしまったからには何も聞けない
鳥が言葉を話すことなんてないけれど いってしまったことで、寂しさを覚えた
こうなるために、鍵をあけたわけじゃないのに
籠の外へ
自由を手に入れ、逃げた鳥が戻る事はない。だって、また捕まえられては困るから。 幼い頃、そんな事は知らなかったから、友達になってほしかっただけなのに、飛んでいってしまった。 そして、二度と自分の前に、あの蒼い鳥は姿を見せることはなかった。 でも、成長するにつれ、いろいろな事を知るにつれ、そして汚れていく自分自身を見るにつれ、あれで良かったのだと思う。 だって、こんな世界で、こんな自分と一緒にいては、きっとあの蒼い鳥が穢れてしまう。 穢れで、息が出来なくなって死んでしまうかもしれない。 病んだ世界。昔のような蒼い空はここにはない。 だから、あの蒼い鳥はもう二度と会えないかもしれないと思った。 だって、こんな世界だったら、生きる事は出来ない。 自分だって、自分を縛る枷や、決めた目的さえなければ、ここから別の場所へと行きたいぐらいだ。 「今日も・・・。」 昨日も其の前も同じ。毎日が同じ。きっと、明日も明後日も。どれだけの時が流れても、同じ日々。 変わる事のない日々。 本当に籠に閉じ込められたのは、あの蒼い鳥ではなく、自分やこの世界。そして、世界に住む人間なのかもしれない。
今日もまた同じ日々。 だけど、誰も迎えてくれるはずのない家へと帰ろうと、ドアに手をかけた時。ふと、頭上から何かが舞い落ちた。 それは、薄っすらと蒼い色がついた、とても軽い羽根。 まさかと思い、空を見上げた。 そこには、あの時の蒼い鳥が・・・蒼い天使が舞い降りたんだ。 「お礼に来た。お前に、あの時自由をもらったから。今度は、俺がお前を自由にする番だ。」 にっこりと微笑む相手。とても、綺麗な蒼い瞳をした、蒼い鳥の羽を持った青少年。 さっきまでは確かに蒼い鳥だった。今度は人の姿になって蒼い天使だと思った。 だけど、今は羽根は錯覚だったのかと思わせるぐらい、綺麗に目には見えなくなった。 「どうした?」 出会った瞬間、絶対に人を好きになることなんてないと思った彼は一目ぼれをした。 だから、動けなかったのだけど・・・。相手はわかっていないらしく、ひょいひょいと目の前で手を振ってみる。 もしかして、現実逃避でもされたのかと思いながら。 ていっと彼はいつまでも反応を見せない相手にでこぴんをくらわせた。 さすがに我に返った彼は、慌てて状況を整理する。 「と、とにかく。目立つから中に入って!」 確かに、これだけここらあたりでは見かけないぐらいの美人である。 飢えている男供から見れば、かなり目立つのだ。 さすがに、一目ぼれした相手をそんな奴に見せるのは勿体無いというかなんというか。 とにかく、家に入って、すっかり忘れていたことを聞いた。 「ところで、君の名前は?」 「あ、名乗るの忘れてた・・・。」 相手もすっかりと忘れていたようだ。」 「俺は新一だ。」 「俺は快斗だよ。黒羽快斗。新一には姓名ないの?」 「そうだな。親の顔を知らないから、しょうがないだろうな。」 そういえば、あの蒼い鳥は生まれたときから籠の中にいた。 「新一って名前だって、記憶の彼方で誰かがそう呼んでいたのを覚えているだけ。だから、実際のところ、本当の名前かどうかなんてわからない。」 「でも、いいじゃない。名前がどんな名前だろうと、新一は新一。」 「確かにそうだけどな。」 にっこりと笑みを見せる新一。ソレを見て、顔を紅くする快斗。かなり心臓に悪い。 「で、何の用で来たの?俺としては新一に会えてうれしかったけど。」 「最初に言ったじゃないか。聞いてなかったのか?」 「自由にしてくれたお礼に俺を自由にしてくれるって奴?」 「そう。それ。」 なんだかお手軽に言ってくれるが、きっと無理だ。 この世界はいろいろなものに縛られている。そのせいで、人は本来の何かを見えなくなっている。 そして、権力者には従えというように、可笑しな階級制度まで出来上がっている。 それに、反抗する者達すらいない。空も全て、灰色がかって綺麗と思えるようなものも無い世界。 その世界で、快斗もまた、同じように罪を重ねて生きて行く。 そんな自分が自由になどなれるはずがない。 人をしばる籠の扉の鍵は、誰であっても開けることは出来ないのだ。 そういう世界が出来上がってしまっているのだ。 「簡単だよ。自由に飛び立ちたいという思いが、快斗にはあるから。」 すっと差し出される手。 戸惑いながらも、本当にこの世界から飛び立てるのなら。 二人の間で、一つの契約が交わされる。
サァ―――――ッ
風が吹きぬける。忘れていた何かを思い出させるような何かが、頭の中へと映像として流れてくる。
「ようこそ。俺の領域へ。」 目の前に広がるのは、自分の家の部屋ではなく、一面の空の蒼と大地の草。 そして、その向こうに見える村のようなところ。 「ここは・・・?」 「人が忘れてしまったかつて人も来る事が出来た場所。」 手を繋いで連れてこられたのは、小さな村。 だけど、自分が見てきた世界の人とは違い、皆が笑顔で、温かい何かがあるところ。 あの世界の冷たく、そして人を蹴落とすような、汚れきった人なんかいないようなところ。 「あそこが俺の家。」 じゃぁ、今まで彼は飛んでいった後ここにいたのだろうか。 ふと、足を止める。この世界にいていいのかと思ってしまう。 自分は多くの罪を重ね、汚れきった、この場所には、新一には相応しくないような人間。 「どうした?」 「行っても・・・いいの・・・?」 本当にいいのかと悩んでいる快斗に、眉間にしわを寄せて、馬鹿と冷たく一言。 「どうせ、ろくでもないこと考えてるんだろ。来る者を拒むなんてことはしない。ここは何かを求めて、その何かを見つける為に、見つけたあとも何かの為に生きる者達が集まるところ。」 その資格があるというのに。 「お前だって、何かを見つけるため。見つけたらそれで何をするために生きるのか。もう、わかってるんだろ?」 自分はどうしたいか。それがあれば、大丈夫。だから、はやく歩けと催促する新一。 「俺は・・・。俺はあの蒼い鳥と・・・新一と友達になりたかったんだ。」 「知ってる。だから、俺は自由をくれたお前の願いを応えたいと思った。そして、そんなお前だから、友達に・・・一緒にいたいと思った。」 それでも、まだ何か悩むのかと不敵な笑みで聞かれたら、首を振るしかない。 「次に新たな目標を決めたから。その目標の後も決めたから。」 「そっか。なら良かったな。」 きっと、新一はその目標に気付くことなんてないだろうけれど。 「俺は怪盗やってたんだ。」 「知ってる。」 「だから、狙った獲物は逃がさないんだ。それが、俺のポリシー。」 「へぇ。で、またなにか狙うのか?」 「そう。難しそうだけど、頑張るつもり。」 「そか。ま、頑張れ。」 はじめて入った、新一の住む空間。 この恋が叶わなくても、一緒にいられたらいいなと。 出来れば、叶ってほしいと思いながら。 「お邪魔します。」 「おう、入れ。」
風が吹く
自由を求めて飛び立つ鳥は 蒼い空へと羽根を広げて 何かの為に生きる為 今日も飛び立つ
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