人の姿をしながら、鳥や天使や悪魔のように、背中に翼を持つ者達がいた。

その者達を有翼人と言い、人が住む場所とは少し違う場所に、同じ有翼人が住む村を造りあげ、暮らしていた。

そんな彼等は、戦闘、魔術、医術など様々な面で優れ、多くの資源と恵みを持つその村は、そこを囲む森の木々に宿る精霊達の加護を受け、日々を過ごす。

平和に、ゆっくりと時の流れと共に過ごしていた。

だがある日、彼等の力を欲した帝国の王が攻めてきた。

もちろん、撃退されるが、数はあちらの方が多い。

いくら優れている有翼人であっても、死人を蘇らせる事は出来ないし、出来ればその力を使って人を殺める争いは避けたいと願った。

しかし、争いは止まる事はなかった。

 

 

 


 神風の吹くその地で

 


 

 

人だかりが出来た、普段は人気のない森の入り口周辺。

彼等は皆、翼を背に持ち、一対のそれが有翼人であると示していた。

「お前等が、奴等のスパイなのだろう。」

「片方しかないなんて、可笑しい。二枚ないと飛ぶ事もできないだろ!」

プライドもいつしか高くなる、他の人と変わらないような欲が出始める者達もいて、彼等は日々の争いの原因は、彼等が住まう村がいつまで経っても平和にならないのは、異端とも言える、片方しか翼のない者達だと言うのだ。

そうして、目の前にいる二人に問い詰めた。

他の者達より出来るということが、今の彼等には優越感を与え、人と同じような欲で、同じ仲間でありながらも、片方しか翼を持たなかった彼等をいじめる。

だが、生憎彼等はそんな差別やいじめで動じるような神経はしていなかったし、反対に対抗していくか、無視する。もっと言えば、何も言わないように力を見せ付けて、人と同じように権力や力を問うのならと、示すのだ。彼等は持つその力を。

「うるさいよ。いっつもいっつも。」

「・・・また・・・?・・・眠いのに・・・。」

二人の少年は、とても似ていた。しかし、親は別々。

なので、村の長は言う。本来魂が二つに分かれて、この世に生まれたのだと。

だから、二人は二人がいて一人前。そして、一人前以上の、二人分の力を出す事が出来るのだと。

だから、特殊ということもあり、村の長自身も彼等の事は気にいっていた。

それがまた、一対の翼を持つ者達には気に入らない原因でもあった。

だから、言いがかりをつけて、追い出そうとするのだ。

若い者達は、争いの日々で、性質も性格も人と似てきだしたのだった。

「少し痛い目をみないと、駄目みたいだな。」

リーダー格のような偉そうな男が目の前に立つ。そして、側に控えている者達や、二人の周りを囲う者達に「やれ」と指示を出す。

それと同時に、彼等が身に着けた戦闘の力を使って、追い詰めるはずだった。

出来事は一瞬。倒れるのは、二人の少年ではなく、自分の味方。

「おい、何やってる?」

少し慌てて、怒ったように怒鳴る男。

「うるさいだけなら、静かな場所を探せばいいけれど。手まで出すなら、こっちは正当防衛だよ。」

「・・・眠い・・・。」

「ごめんね。新一。すぐに片付けて、お昼ねしようね。」

よしよしとこの状況でのんきにしている二人。

くそっと男は仲間を置いて逃げようとした。しかし、新一と呼ぶ少年を腕の中にしっかりと収めながら、一言、呪文を唱えた。彼ぐらいの力と技術があれば、呪文を略してもその呪文の威力を引き出す事は出来る。

時間と手間が省けるということだ。

容赦なく、彼は男を仕留め、地に伏せさせた。

「よし。終わり。さて、お昼ねだね。」

もう用がないと立ち去ろうとするその場所には、数人の有翼人の気絶して倒れている者達がいた。

そんな彼等は一対ではなく、片翼で、二人が並べばやっと一対の翼になる。

しっかりと手を繋いで、新一を抱きこんで空に舞い上がる。

一対となった翼が、二人を運ぶ。

 


 

 

スタッと、暗いその部屋に現れた人影。

「どうした?」

「先ほど、ヘイジの仲間達があの二人に・・・。」

「・・・そして、やられたという事だな。まったく。片方しかなかろうが、同じ村の仲間だというのに。」

「・・・同じようで、違うからこそ、受け入れられないのでしょう。」

一つはこの村を支える長。もう一つは、長の補佐をし、村の安全の為に日々を過ごす者。

「魔女が言い残した言葉が現実となる日は近づいているのだろうな・・・。」

「・・・。」

村に住む、有翼人ではない者。唯一認められた魔女と名乗る女。

現在は娘がその魔女の名を継いだ。その魔女が言うのだ。自分と同じ星のめぐりに生まれた、ひとつの魂が別れた二つの命が、大きな鍵を握ると。

彼女と同い年で、双子と言う程似ているのは、異端とされて村からよく思われていない二人の少年が思い当たった。

「彼等の力は・・・。」

「わかっておる。魔女殿の言うとおり、私も感じた。・・・恐ろしいほどの、底知れぬ力。」

両親が共に命を落とした原因が、今の争い。それから、いつも一緒にいる二人。

村もだろうが、この愚かな争い自体を嫌う二人。

「あの二人は、誰も知り得ない、理解する事など出来ない程の力の持ち主。」

「初代の竜王を名乗るあの方と、どちらが強いのかわからないぐらいの者達。」

「絶対に、二人を引き離すな。引き離した時、何かが起こる。それは、厄災に決まっておる。」

「・・・二人がいれば、争いは止まる。片方がなくなれば、もう片方も消える。」

その前に、大いなる力を見せ付けるように、厄災を振り撒いて行くだろう。

「どうしてこの世は、孤独や争いが多いのだろうな。」

ある意味、あの二人も孤独を背負っているのだ。互いが大切であっても、やはり両親という家族も必要なものだろうから。

 


 

 

いつもの、お昼寝する大きな木の上。

もうぐったりとしている新一をにこにことしながらしっかりと抱きしめているのは快斗。

力を使うとすぐに休息を必要とする新一は、安心できる快斗と一緒にいることで、余計にぐっすりとお休みモードに入る。

そんな快斗がお昼寝するようにと、新一の為ならと動き、木の上にしっかりとしたスペースを作ってしまった。

ここは誰も知らないし、見晴らしもよくて二人のお気にいり。二人だけの家にいるよりも、ここにいる方が、外敵もいないし、煩い者達もいないので、ゆっくりする事が出来る。

「もう、寝てていいよ。」

「うん。」

返事が聞こえたかと思えば、すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。

二人で一人な新一と快斗。

新一は強大な力を持ち、快斗はその強大な力を安定させたり、上手く扱う事が出来る。

だから、二人いてはじめて一人前。翼も二人でやっと一対。

だけど、二人いればやっぱり二人分。もしくはそれ以上。

新一の黒い髪を指で絡めたり触れたりしながら、愛しそうに新一を見る快斗。

同じようでまったく違う存在の新一と快斗は、互いに惹かれあっていた。

天然が少し入っている新一は側にいるのがあたり前状態なので気付いていないが、快斗はしっかりと気付いている。

「今はまだ、このままでいいけどね。」

遠くの方では、また争いを続けているのだろう。

「愚かだね。関係ないけどさ。」

新一がいれば、快斗にはそれでいい。両親を奪った奴等は憎いが、それを駄目だと新一は言ったから、それを守るつもりだ。

快斗に残ったのは、両親以上に大切な新一の存在。

絶対に何かあれば守るつもりでいる。絶対に、あの日のように簡単には奪わせはしない。

もし村の連中だとしても、新一を傷つけるのなら二度としないようにしてやりたいが、それを新一は嫌がるから。今は様子見状態。

そうしたら、新一はにっこりと、今では快斗以外には見せない本当の笑みをみせてくれるから。

それを見れるのなら、今は我慢しておこうと思う。ひどくなるようなら容赦しないが。

「好きだよ、新一。」

いつものように、寝ている新一の頬にキスをする。

今では何かの儀式であるかのように。

 


 

 

何か音が聞こえた。大きな音。

「・・・ん・・・?」

「・・・起きちゃった?」

眼を覚ました新一は、日が暮れかけているのを確認して、すぐに音の原因を知った。

「・・・とうとう、入ってきたのか。」

「そうみたいだね。」

「・・・どうでもいいって感じだな。」

「だって、本当にどうでもいいもん。新一がいたら、俺はそれでいいから。」

「・・・。」

新一も快斗が一緒にいてくれたらいいと言ってくれるのはうれしいが、争いが酷くなっているときには、やはりそちらが気になる。

「・・・優しい新ちゃんは、そうやって心を痛めるんだよね。」

困った困ったと言いながらも、新一を抱き上げて、そこから飛び降りた。

ふわっと開かれた一対の大きな翼を使って、村へと飛ぶ。

村の入り口まで、すでに奴等は侵入していた。

「・・・声が弱くなってる。」

「そだね。あいつらはいい奴なのに。」

同属より仲が良かった妖精達。悲しい悲鳴をあげて、泣いている。

「どうにかしないと。」

「確かにね。彼等は唯一の友人たちだしね。」

二人同時に呪文を唱える。

「「我等の願いを聞き入れ、助けよ。我等の友人達を。」」

吹き抜ける風。

誰もが何だと耳を傾ければ聞こえる何かの唄。

立ち止まり、見上げれば舞い落ちる羽根。

 

「・・・長様。」

「・・・やはり、彼等は特別のようだな。」

 

二人の発動した魔術が戦う者達から戦意を奪い取った。

そして、傷つける原因であるモノを全て害のないモノへと変化させた。

最後に、荒れたその地を元に戻した。

 


 

 

 

争いはまだまだ終わる事はない。

現在現れた者達は戦意を失い、二度と同じ事はしないだろうが、まだ人はたくさんいるのだ。

「大丈夫?新一。」

「・・・疲・・・れ・・・た。」

「無茶しすぎだね。羽根もこんなに・・・。」

あーあと残念そうな快斗。降り立った互いを支えあう天使のような彼等をただ見ているだけの者達。

「あ。」

そうだと、快斗はぐったりとしている新一を抱き上げて去ろうとしたが、何かを思い出したのか、振り返って、同胞達や戦意を失った戦士たちの方を見て、にっこりを微笑んで、冷たい表情で完全に笑うことのないその顔で、一言言ったのだ。

「・・・新一に何かあったら、絶対に許さないからね。覚えておいて。」

それだけでも、確実に戦意をなくさせるほどのプレッシャーのある強い意志。

「新一の為なら、国だって、それにこの村だって。」

少し新一の吐息が聞こえ、寝顔を確認して、言う。

「・・・・・・世界だって、捨てるし、事によっては破壊するし、傷つけるようなら、新一が駄目だと言うからやらないだけで、調子に乗るようだったら、容赦するつもりないから。」

そう言い、今度こそ立ち去った。

誰も、快斗に何も言えなかった。動く事さえ、出来なかった。

完全な力の差を見せ付けられた時。

誰もが崩れる。

 


 

 

「かぃ・・・と・・・。」

「いるよ。ずっと一緒って言ってたでしょ?」

「・・・うん。・・・でも・・・。」

「どうしたの?」

何か夢でも見たのかなと思えば、そうなんだと答えた。

「・・・快斗が、いなくなっちゃうんだ。・・・そして、俺は暗い闇の中で一人ぼっちで・・・。」

「大丈夫。それはただの夢。死が俺たち別れさせようとしても、必ず新一の側にいくから。」

「・・・。」

「あ、自殺はしないからね。別の方法で連れ戻すから。」

それを聞いて、少し安心した。

そして、快斗だったら、何でも出来そうな気もした。

「不可能なんてないんだからさ。・・・それに、神だろうが魔法だろうが、邪魔するなら容赦しないしね。」

「・・・駄目だろ。」

「大丈夫。俺のほうが強い。」

「どうだか・・・。」

だけど、そう言って貰えて、そうまでして一緒にいてくれようとしてうれしかった。

そんな時感情には不器用な彼はなかなか言えないが、ぎゅっと背中に回した腕を強めた。

「もう一眠りしようか。」

「うん。」

温かい互いのぬくもりを感じて。







     あとがき

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