くそっ・・・

目がかすんできた・・・

 

 

へとへとになって、すでに本来の姿でいることも、人の形でいる事もできず、小さな薄汚れた黒い獣と化した

自分を狙うものはたくさんいるから、警戒もしていた

だけど、近くにいた少女を巻き込むわけにはいかなかったから

そうしたら、この様だ

 

 

このまま・・・

誰にも知られず死ぬのかな・・・

 

 

 

ぴちゃん

 

 

振り出した雨

 

 

気がついたら、自分の前に影が出来ていた

 

 

 

誰・・・?

 


残された力もなく、意識も遠のく

そんな中、ふわりと浮遊感を感じ、温かい何かを感じた

 

 

 

暖かい・・・

・・・いったい、誰・・・?

 

 

 

 




    旅をしながらどこまでも番外編>帰る場所


 

 

 

ガチャリ

 

扉を開ける音だろうか。

その音と共に、何者かの気配が近づいてくる。

どうやら、気を失っている間に捕まったようだ。

だが、そう簡単に手篭めにされてたまるかと、様子を伺って、相手が手を伸ばそうとした時を見計らって起き上がり、牙を向けた。

唸り声とともに、本来の白銀の毛を靡かせた獣となり、相手を睨みつけた。

「なんだ。元気そうじゃないか。」

かなり驚きというか、綺麗な笑顔の可愛い子がそこに立っていた。

見た瞬間惹かれて、動きが止まっていると、今度は相手がどうしたんだと、おーいと動かない獣の前で手を振ってみる。

だが、反応はなし。

さっきまでの威勢はどこいったんだと、首をかしげる様がまた、どきんと、心臓の音が高鳴り、完全に一目ぼれなんぞをしてしまった。

「あ、えっと・・・。」

「ん?・・・お前・・・言葉を話せるのか?」

言葉を話せるものは少ないので、少し珍しがっているみたいだが、あまり対して驚いているように見えない。

その理由はすぐにわかったが、とりあえず、捕獲されたのではなく助けられたみたいなので、お礼を言う。

「ありがと。」

「見捨てたら後味悪そうだったからさ、気にするな。」

よしよしと頭をなでてくれる手の暖かさが、あの時の温かさと同じで、あの時彼の腕の中にいたんだとわかった。

「で、お前名前は?」

「・・・言うの?」

「ないと不便だろ。」

「・・・カルディアン・トートルデシンア・ヴィリーキュライト=ガルディアス。」

「・・・長いな。」

「だろ。だから名乗るか迷った。」

それに、別の意味でも彼は感心していたようだ。

「まさか、お前があの伝説の白銀の獣だとはな。」

少女のような少年はにやりと笑みを見せた。その年齢にはつりあわないような笑み。

そして、年齢に似合わないような知識と洞察力、そして精神力。

彼にとって、何一つ申し分のない人間。

「で、どう呼べばいい?」

「うーん。カイトかな。」

獣はカイトと名乗り、ふっと白銀の毛並みが消え、人の姿となった。

「改めて。はじめまして。」

「おう。はじめまして、カイト。僕はシンイチだよ。」

シンイチねと、名前を覚えて、即行動するカイト。

「俺、決めた。シンイチが俺のご主人様。」

と、いきなりシンイチからキスを奪って、ご馳走様と言う。

「な、お前っ!」

最初は何が起こったのかわかっていなかったらしいが、次第に怒りが込み上げ、怒鳴るシンイチ。

だが、キスによってシンイチとカイトの間に契約が結ばれた。

ただのキスではない。別にキスでなくてもかまわないのだが。

とにかく、使い魔は主を認め、支配下になるという証の刻印を刻めばいいだけ。

ただ、一目ぼれなんてものをしたカイトはすかさずキスをしただけだ。まぁ、刻印は首筋に現れてすうっと消え、今では跡形もないが。

こうして、偶然出会った彼等は主と使い魔の関係となった。

当時、シンイチが8歳の時だった。

 


 

 


それから、10年が経った頃。

使い魔ではないが、側にいた人の言葉を話す五つの者達がシンイチの配下となり、いつもと同じように賑やかに過ごしていた。

カイトは必死にシンイチに思いを告げようと思うのだが、頭がよく、人の感情や気配に敏感なはずのシンイチは、恋愛沙汰や人からの好意にはとことん鈍かったのだ。

カイトの心情を知るシホとアカコに笑われる始末。

日々、吠えながらも、毎日シンイチに負けじと全身で好きだと訴えるのだった。

だが、そんなシンイチは別の意味で大変な事態になっていた。

「・・・もう、なくなった・・・。」

彼が住む村町、そして近場の町の本は全て読みきり、新しい本はなかった。

つまり、もっと遠い、大きな町へといかないと自分の読んだことのない本には出会えないのだ。

なので、旅に出ようと決意。本の為なら行動するような変わり者だ。

そして、ここ最近シホ達は遠出をしているので、反対されずに旅に出る事は出来る。

ということで、支度をして、両親に告げて、いざ出発しようと思ったときだった。

「シンイチ。話があるの。」

家から離れて、回りに誰もいなくなった頃。カイトはシンイチに今度こそ伝えるのだと真剣になって伝える決意をして、そのまま言おうと決めた。

「俺、ずっとシンイチが好きだった。好きなの。意味わかる?愛してるの方だよ?ねぇ、わかる?」

わからないか、わかるかと連呼されて、突然の事でフリーズしていたシンイチも我に返り、馬鹿言ってんじゃねーと冷たくあしらうが、今回逃せば無理な気がしてきたカイトは必死に訴えた。

「お願い〜、どうやったらわかってくれる?確かに主従関係だし、性別も一緒だけど、シンイチが好きなの〜。叫ぶよ。空や森中に、それと家に届くぐらい。もう、好き好き好きって。」

「・・・それはやめろ。」

さすがにしつこいカイトに、どうしようかと困るシンイチ。

そこまで言われたら、冗談で振り切れない。何より、目が真剣に訴えているし、時折、怒られてしょげる犬のようで。

予想では、カイトはイヌ科の使い魔だとは思っているシンイチということは余談だが。

とにかく、どうやって切り抜けようかと思っていた時、突如言おうとした言葉は口から零れることなく飲み込まれた。

そう、口を塞がれたのだ。カイトのそれによって。

とりゃぁと蹴りをいれようとすると、さすがに慣れたのかよけるので腹がたつシンイチは、ごしごしと口を拭いた。

それに少し傷つくカイト。

「なんなんだよ、お前は!ファーストキスも奪ったかと思ったら!」

「え?もしかしてあの日のがファーストキス?!やったぁ。」

本気で嬉しそうに喜んでいるので、それ以上怒声をあげることなく、反対に呆れてしまった。

頭のいい奴のはずなのに、なんなんだ、この馬鹿は。

はぁと、溜息が出る。一緒にカイトを旅に連れてきて良かったのかと。

「で、返事は?」

「・・・考え中だ。とりあえず、行くぞ。いつ気が変わって親父が追いかけてくるかわからないから。」

返事が延ばされたことに残念そうだが、ファーストキスの件でまだにこにこしているカイトの背に乗る。

「さて。追いつかれないように行きますか。」

出発〜と遠足気分で飛ぶカイト。シンイチを背に乗せているので、しっかりと安全を確認して空を駆け抜ける。

 

 

返事がまだなら、まだ希望はある。

だって、今のカイトの帰る場所はシンイチの側だから。

温かく迎えてくれたシンイチの側から離れるつもりはないし、絶対に手に入れると決意する。

後悔なんかしたくはないから。

 





   あとがき

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