「彼が我慢しているなんて、珍しいわね。」 「返事を貰っているのにね。」 目の前には、すやすやと眠るシンイチの姿がある しっかり、黒いふさふさの毛の獣であるカイトを枕にして眠っている カイトはシンイチを抱き込むように丸くなっているので、結構温かいと思われる 「・・・いつまで我慢が続くのかしら?」 「壊されるのは困るのだけど?」 我慢がきかない獣は、いったいどんな夢を見ているのだろうか だいたい想像できるが、同行しはじめて五日 どうして〜と無意識に惚気ながら、嘆く獣 それでも我慢して抑えている獣に付き合わされるのは少々遠慮したいのだが 「彼も、告白受け入れてもわかっていないものね。」 「あの環境じゃぁね。」 「「無理ね」」 二人はそろえて言う 第五話 浮気現場目撃事件 黒い獣の背中に乗って、少し眠そうにしているシンイチがいた。 「眠いなら、寝ててもいいよ?」 「そうよ。体調を崩されても困るもの。」 「でも、俺だけ寝てるわけにもいかない・・・。」 なんとか必死に起きているという感じだ。 昨晩、突然唸り出してどうしたのかと思えば、夢見が悪かったらしい。 内容は忘れたらしいが、それ以降なかなか寝付けずに、少々寝不足気味だった。 「町に着いたら本を読むつもりなのでしょう?なら、今は無理をせずに休んでいて頂戴。」 「だけど・・・。」 「人の好意はありがたく受け取っときなさい。」 二人に言われ、最終的にシホによってシンイチはカイトの背中の上で身体を倒されて、眠かったのでそのまま寝付いた。 「素直に寝てくれないから、困るわね。」 人が歩いているのに、自分だけ休むのは嫌だという人。 「でも、本当に夢、どうなんだろうね。」 「さぁ。ルシファー様でも、彼の未来だけは光が輝いているだけで何も見せてくれないもの。」 わからないわと答える。 「気を引き締めておきなさい。」 突然何者かが襲ってくることだってあるのだから、大切な彼を傷つけるようなことはしたくない。 何より、今はしっかりと休ませてあげたいから余計に警戒が必要だ。 「前方、少し進んだたら立ちはだかる壁があるわ。」 「そう。」 なら、しっかりとお灸を吸えて、二度と立ち向かってこないようにしないといけないわねと、三人が笑みを浮かべる。 その光景は、まるで悪魔が取り付いたかのようであった。 「ひぃ。ごめんなさい。」 命だけはご勘弁をという青年がいた。」 「わかりゃいいんだよ、兄ちゃん。」 青年から金目の物を全部巻き上げる。 彼等はここらあたりを通る者達からお金を巻き上げる山賊だった。 「あらら。なんかやってるよ。」 「何者だ?!」 人の気配には鋭いはずの自分達が声が聞こえるまで気付かないなんて。 ちっと舌打ちしながら声のするほうを見ると・・・。 「・・・。」 にっこりとした、美形の部類に入る少年と、美人の女が二人。 そして、すやすやと少年が抱きかかえる腕の中で眠る者。男か女かはわからないが、これまた上玉だ。 見た感じでは、いかにもお金を持っていそうで、人身売買にもってこいの四人組だ。 いやらしい目で女二人を見定めて、こいつらもと思った時。 「逃げて、四人とも。」 突然青年が男に飛び掛った。 四人を逃がせるようにと頑張ってくれているようだが、まだまだ力は弱いようだ。 「少し黙ってな、兄ちゃん。」 刃を向けられてびくびくしながらも、相手から目を逸らさないその姿に、ある意味立派だねぇとのん気に思う少年こと快斗。 「大丈夫だよ、お兄さん。俺達、そんな馬鹿に構っている時間も惜しいけれど、見過ごすことは出来ないからね。」 腕の中で眠っている大切な人が後で知れば怒るのはわかっているから、人助けはしようと戦闘状態になっていた。 何より、他人の自分達を助けようと必死になってくれている人だ。良い人の数が減るのは惜しいということもあるが。 「アカコ。シンイチのこと、頼むな?」 「大丈夫よ。さっさと片付けてきて頂戴。見てるだけでも嫌だわ。」 彼にあんな卑しい目で見るなんて。最悪だわと言う。 「なんだ、兄ちゃん一人でやるってか?」 「そうだよ。俺なんかが相手にすること、誇りに思ってよ。」 すっと、そこに人の姿はなく、黒い獣が現れ、次の瞬間には男の目の前にいて、刃を全て噛み砕かれた。 「なっ。」 あまりの一瞬の出来事に判断しかねずにいたが、すぐに全員でかかれと命令を下す。 だが、そんなことでやられるカイトではない。 「・・・雷黄矢。」 ばりばりっと、あたりに電気が走り、空からカイトを中心にして飛び掛ってくる者達に雷の矢が降り注いだ。 「・・・ま、命まではいらねーよ。」 それまで大人しく寝てなと、もう見るのも嫌なので、すぐに人の姿に戻ってシンイチの元へと戻る。 「さすがね。」 「あたり前だよ。シンイチをアンナ目で見てさ。もう、勿体無いっ!」 「馬鹿は黙ってなさい。」 「ひでー。」 なんだかよくわからない間に決着がつき、目が点の青年。 「それで。怪我はないのかしら?」 「あ、だ、大丈夫です。」 アカコに声をかけられて、その美貌で顔を紅くして慌てながら立ち上がる青年。 「あ、ありがとうございました。」 シホが取られたであろう荷物をしっかりと雷の矢が落ちる前に回収して、青年に渡す。 「それにしても、君たちは・・・。」 「私はシホよ。彼女はアカコ。彼はカイトで、見ての通り人ではなく使い魔。そして彼が・・・。」 「シンイチだよ。それにしても、度胸あるのかないのか謎だね、お兄さん。」 「あ、えっと・・・。」 この騒動があったのに眠ったままのシンイチという少年を見て、もしかして病気か何かだろうかと多少心配になるが、お見通しらしいカイトがただ寝てるだけだから心配はないと答えた。 「それで、お兄さんは?」 「あ、はい。僕はタカギと言います。助けていただいて本当にありがとうございました。」 「ふーん。タカギさんね。別にお礼を言われるほどのことはしてないけど?」 「そんなことはありません。助けて頂きましたし。あ、もしかして、皆さんはこの先の町へ行かれるのですか?」 「ええ、そうね。彼も休ませたいから。」 「でしたら、案内させて下さい。お礼です。」 と、タカギはあそこの警備隊の一人だと名乗り、家に泊まっていって下さいと誘ってくれた。 宿代がかからないし、好意はありがたく受け取る事にした。 「宿捜す手間が省けて良かったわね。」 「そうね。真っ直ぐ進めるし。」 「でもさ、人様の家だし。」 いちゃつけない〜とため息をつくが、たまには離れて大人しくしてなさいと二人に言われては、大人しく黙るしかなかった。 「さ、行きましょう。」 笑顔で案内してくれるらしいタカギが進もうとした。が。 背後で倒れていた一人がしぶとく意識を戻して敵意をむき出しにして、襲いかかろうとしていた。 「皆さん避けて下さいっ!」 気付いたタカギが叫ぶが、彼等にはそんなことは気にしない。
ぶわっ――――
ぴしっ
しゅっ
風が突然巻き起こったかと思うと、突然水の膜が現れて飛んできた飛び道具を包み込み、かちっと凍りついたと同時に燃え上がった。 灰も残らず綺麗にそれは視界から消滅した。 「なっ…。」 完全に油断しているから、誰か一人でも怪我をするかと思っていた男は動揺した。 今のはいったい何なのかと。 「おじさん。駄目じゃない?」 「そーですよ。」 「シンイチお兄さんのお昼寝の邪魔したら駄目でしょ。」 「そーだぞ。不意打ちは卑怯だぞ。」 「子供に言われて情けないね、おじさん。」 子供四人の姿が、突然現れた。その子供達に混じってカイトも表面上ではにっこりと笑って相手を見る。 「もしさ、シンイチが怪我したら・・・させるつもりはないけどね。怪我した時は、容赦なく消すよ?」 それぐらいの覚悟で向かってきてよねと言われて、もう一つ手に持っていた刃物を落とした。 そして、ずしゃっと膝を突いて座り込んだ。 男は気付いたのだ。そして、男の側にいた使い魔も震えていた。 「偉いわね。」 「偉いでしょー?」 「御褒美はうな重でいいぞ。」 「カイトもさっさとあんなの始末しねーからだろ。」 「コナン君。始末するってことはいけませんよ。」 「そーだぜ。シンイチ嫌がるだろー?」 わかってないなぁと、なにやら和やかに歩き出した一向。 男はその場で動けないまま。カイトが催眠術をかけたのだ。視界から姿が消えるまで、決してそこから動くなと。 「あの・・・いいの?」 「問題ありませんよ。もし、警備隊として逮捕したいというのなら別ですけど?」 「いや、あの。・・・彼等はすでに指名手配中の奴等なんだ。」 だから、ちょっと連絡させてもらってもいいかな?とタカギが言うので、いいですよという。 その間に着くまでは戻ってろとシンイチの変わりに命令を出す。 何気に、使い魔の中でシンイチが危ない時は勝手に守るが、指令を出す一番偉い者という順番はしっかりとある。 シンイチの次はカイトでその次がコナン。あとは三人平等というところだ。 簡単に言えば、出合った順番でもあり、シンイチが信頼している順番のようなものでもある。 カイトは現在恋人という位置にもいるので、シンイチが認めていることもあり、使い魔の中での階級が確立していたりする。 そんなことは、無意識のうちになったともいえるので、シンイチは知らなかったりするが、シンイチが好きでしょうがないコナンにとってはカイトの存在はむかつくものでしかないのも事実。 とりあえず今は戻って、シンイチかカイトが呼ぶまでは引っ込んでおくことにした四人は綺麗に消えた。 ソレと同時にタカギが戻ってきてあれっという顔をしていたが、使い魔だとわかっていたのであまり気にせずに案内してくれた。 連絡したとおり、すれ違い様に警備隊の人間が数人通った。 この人は下っ端ではなくそれなりの地位に人だとあとで気付くのだった。 彼の家というものについて・・・。 「普通の家ね。」 「彼の見たまま、普通ね。」 「あれで豪勢町長ぐらいだったら驚くよ。」 「と、とにかくあがって?」 狭いけどといわれつつ彼等はタカギの後について中へと入った。 男の一人暮らしらしいが、そのわりには結構片付いていた。 こまめな性格なんだろうなと思いつつ、リビングで写真を一枚見つけた。 「これ、タカギさんの好きな人?」 「え?・・・っあ、それはっ!!」 顔を紅くして写真を奪ったところから見ると、どうやらそうらしい。 結構可愛い性格だなと思いつつ、シンイチの方が可愛いもんねと、抱きしめた腕に少し力を入れて、額にキスをする。 それを見て少し紅い顔で夕食ご馳走するねと台所へと走って逃げた。 「貴方達の甘いいちゃつきに逃げちゃったじゃない。」 「可愛そうね。駄目じゃない。」 「シンイチは俺のだって見せびらかそうと思って。」 「はいはい。勝手にしてちょうだい。」 タカギがどうぞと出してくれたお茶を飲みながらくつろぐ三人。 もぞもぞと腕の中で動くシンイチはどうやらお目覚めのようで、いまいち自分が今どこにいるのかわかっていないらしく、目をこすりながらまだ眠そうな顔のままあたりをぼんやりと見ていた。 「あ、起きた?」 ちゅっと今度は頬にキス。ちょうどお菓子でも食べる?と出てきたタカギはまたそれを目撃し、かぁっと顔を紅くして奥へと引っ込んだ。 出てくるのがわかっていたけれど、起きたらするのだと決めていたのでカイトは気にしない。 さっきとは違って今回は不可抗力だもんねと言いながら。 勝手な言い分だが、この男にはそんな細かい事気にしないで流されるのは経験上わかっているので誰も言わない。 「どこだ、ここ。」 どうやらカイトの側にいるということはわかったらしいシンイチは、ぐいぐいとカイトの袖を引っ張って聞く。 「ここはね、森で会った町の警備隊の人の家。」 「そうか。」 泊まる場所は警備隊の人の家かとつぶやいて、でもどうして突然そうなんったのだと、理由を求める。なので、カイトは森であったことを伝えた。 「・・・怪我はなかったのか?」 「ないよ〜。心配してくれるのー?シンイチ優し〜。」 ぎゅうーっと抱きしめて懐く姿は、あの獣の姿に見える。 「人の姿になっても変わらないわね。」 「そうね。」 ずずずとお茶を飲む。せっかく出してくれるはずだったお菓子は出ないので、持参したお菓子を食べる二人は、まだ寝ぼけて状況がわかってないシンイチと甘い空間を作っている獣のことは視界から無視して二人だけで楽しむのだった。 とりあえず、引っ込んだまま夕食の準備に取り掛かったタカギは、作った料理を四人に振舞った。 しっかりと目を覚ましたシンイチはお礼を言って、笑顔が勿体無いのカイトに手を出されたりしつつ、いちゃつきは後でしなさいというシホの冷たい一言を乾いた笑みで交わすカイトがいたりして、普段では味わえない賑やかな夕食を過ごすタカギも自然と笑みを見せるのだった。 そこへ、誰かの訪問か、家のチャイムが鳴り響いた。 タカギが出ようとしたが、電話も同時に鳴ったので、代わりに出ますよとシンイチが動いた。 それにしっかりとカイトも着いていく。 そして、シンイチを誰かも分からぬ訪問者に見せるのは勿体無いと、カイトがどちら様?と利きながら扉を開けた。 ガチャっと開いた瞬間、何かがカイトへとぶつかった。 「もー、心配してたら案の定、山賊に目を付けられたんだって?」 そんなに弱くてどうするんだっと突然胸倉をつかんで叫ぶ女。どうやら酒に酔っているらしいが。 「そんなんじゃ、嫌いになるわよ。それとも何?私の気持ち試してるの?何?あんたの私への気持ちはそんな小さいものなのかぁ?!」 こらぁっと、叫ぶ女は完全に酔っ払っている。日本語もいまいちよくわからない。内容が飛びまくってる気がする。 それにどうやら人違いをしているようだし、この女の顔には見覚えがあり、タカギを呼びに行こうとしたのだが。 「カイト・・・?」 側にいたシンイチが大きな目を見開いて、潤みだした瞳が揺れる。 「ち、違うよ、シンイチっ!」 この人はと言おうとして、浮気者―、大嫌いーと叫んで奥へと引っ込んだ。 入り口はカイトと女が占拠しているので、だが顔をみたくなくて奥へと逃げたのだった。 「シンイチィ!」 呼んで追いかけようにも女ががっしりとカイトの胸倉をつかんだまま離してくれない。 もう、どうしてくれるんだと、いくら女の人に対しては優しいカイトでも、シンイチに誤解されるような原因をつくるなら容赦しないぞと力任せに振り払おうとした時。 「さ、ミワコさん!」 電話が終わったらしいタカギがシンイチの叫び声と何かあるという異変に気付いてやってきたのだった。 「逃がさないぞー、タカギィ!」 完全に酔っ払った女こと、タカギの思い人であり両思いで最近恋人になったミワコはカイトを相変わらずタカギと間違えたまま、胸倉つかんで叫んでいた。 「どうしたんですか。こんなにお酒を飲んで?!」 そんな様子を奥からひょっこり顔を出して覗いているシンイチの姿があり、近づこうとしたら引っ込んだ。 「シンイチ・・・。」 拒絶されたよぅとカイトも泣きそうになる。 すると部屋の奥から馬鹿やってないで二人ともこっち来て座りなさいと、シホの冷たい言葉が。 シンイチの気配が向こうへ向かったので、カイトもそっちに向かった。 玄関では必死にミワコに呼びかけて、無理そうなので上の部屋で休ませようと運んでいく足音が聞こえたので、当分ここへ来ないだろう。 さて。下を向いたまま席に座ったシンイチ。 とてつもなく後悔していた。あの言葉でカイトは自分以外にも好きという相手がいて、カイトがいつのまにか好きではしょうがないシンイチはショックを受けて叫んでしまった。 大嫌いと言ってしまい、聞いていればどうやら違うようだし。頭は悪くなかったので、話を聞いていれば人違いをして酔っ払った勢いで言っていたのだとわかったが、言ってしまった言葉でしょげていた。 「ごめん。」 ぼそりと言う言葉。 「シンイチは悪くないよー。でも、辛いなぁ。俺はシンイチだけだっていつも言っていたのに。」 ずきっと痛くなる。その言葉が、とても痛かった。 「ごめん。・・・ごめ・・・ィト・・・。」 ふえっと蒼い瞳が緩んで涙が浮かび上がり、それがぼろぼろと零れ落ちる。 それを見た瞬間カイトの方が慌て出す。 「や、違うって。あー泣かないでよ、シンイチ。」 ぎゅうっと抱きしめて、シンイチが泣くと俺も悲しいから泣かないでと、いつの間にかいつものようないちゃつきを見せ始める二人を横目に、食事を続ける女二人。 何気にカイトの分もいくつか喰われてしまい、ガーンとショックを受けたが、こんなにいらないからと、シンイチから貰って、さらに甘い空気を撒き散らして速やかに食事を終えなさいと、冷たい目で見られるのだった。 その頃、なんとかミワコが眠ったことで、ほっとするも、なかなか寝てくれず寄った勢いで言う言葉に付き合わされてへとへとのタカギ。 だが、ミワコの本音を聞けて少しうれしかったりもして、しばらくそこで休憩しながら、お風呂の用意をしないといけないなぁと考えるのだった。
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