本日も、平和で何より。 「そんなわけないでしょ。」 そう言って、読書をしていたところをお隣の少女に邪魔された。 「何か問題があるか?」 「大有りよ。何よ、あれ。」 そういって、少女が指差す先にいるもの。 「…幻覚だ。」 そう言って、本の続きに視線を戻すと、本を取り上げられた。 きっと、時間の問題 普段は事件があれば喜んで考えて、満足したら本に浸る探偵馬鹿がいる。 そんな彼との出会いは、長くなるので省略だ。それはいい。だが、最近彼が睡眠や食欲を放棄することよりも困った問題が発生した。 この出会いもいつだったかは忘れたが、事件の過程で何度か遭遇することになった、神出鬼没な怪盗紳士、結論からいうと国際的に指名手配されている大泥棒が、家に現れるようになった。しかも、何か盗むわけでもなく、掃除したり料理をしたりして、いつのまにか帰っていく変な泥棒である。 相変わらずあの目立つ白いスーツを着たままだ。 最初に見た時は声をあげそうになり、警察に電話しようとした。もちろん、やんわりとマジックで奪われ、今も電話できないままだ。 そんなことが続いて数か月。 最初は警戒していた探偵だったが、完全にいないものとしてスルーすることにしたようだ。 「御嬢さんもどうぞ。」 そう言って、探偵に出すついでに私にも珈琲を用意して差し出す、おかしな泥棒は無駄に笑顔。気味が悪い。 「で、結局貴方はいつも何しにきているのかしら?」 「最近退屈でして、名探偵に私のショーへ来ていただけるように口説いてるんですよ。」 危うく珈琲を吹きかけた。 「あなた、捕まりたいの?」 「いえ。ただ私が名探偵のことを気に入っている、というだけですよ。」 いくつか話をして、泥棒は失礼しますと、相変わらず窓から帰って行った。 「ねぇ、本当にどうするつもりなの?」 「別に、害がないならいいだろ。」 それに、と彼は何かを続けようとして、結局本から視線を変えず、答えてくれなかった。 それから後日、私が彼はあの泥棒と過去の知り合いだと知ることになる。 「ねぇ、何なの、あれは。」 「見てのとおり、変な奴だ。」 「…。」 私からみても、納得いかないぐらい違いすぎる怪盗の素顔。詐欺だと思う。 「どちらかというと、俺の知り合いはあいつの父親の方だ。俺の親父の悪友だったらしい。」 マジックの腕がすごくて、何度か見せてもらったことがあると、過去を懐かしむ彼に、少し聞きたいけれど聞かない方がいいなとそれ以上何も言わなかった。 「あの人の名誉にかけて、あのバカは悪さしないさ。」 彼がいいというのなら、私からはもう何も言わないというと、礼をいい、その日、泥棒が作った夕食をごちそうになった。 後日、静かな隣人の怒りを聞きつけ、家を訪問すると、静かにキレている探偵と、よくわからずともあたふたしながら必死に謝っている泥棒の姿があった。 「何をしてるの?」 まったく状況がわからない。だから尋ねると、希望を見出すかのようにこっちに救いを求め事の経緯をわかりやすく教えてくれた。 探偵が思っていた過去の思い出と、この泥棒が思っていた過去の思い出には、かなりの違いがあったようだ。 不本意ながら、母親の趣味で女装させられる羽目になった探偵は、その日に限ってこの泥棒と会ったらしい。 最初はふてくされていたが、頭がよく、謎が好きな彼にとっての好物である問題をいくつも出せる彼は、すぐに己の恰好も忘れるぐらい熱中し、いい奴だと認識するに至った。だが、この泥棒はまがりなりにもあの大女優の子どもだ。顔がいい。普通に女の子と思い込み、仲良くなろうとした結果、懐かれてよろこんだ。 その後、父親のことでいろいろあり、会うことがなかった。だが、互いに覚えていた。 勿論、泥棒だって最初は男だと知って驚きはしたものの、初恋が消えてなくなることもなく、むしろ天才は馬鹿と紙一重というか、問題なしと言う結論にいたったようだ。結果、お互い思っていることが違うが、知り合いであるためにつかず離れずの距離を保っていたが、泥棒の思っていることを知った探偵は過去の恥とも呼べる悪夢を思い出し、キレたということだろう。 「別にいいじゃない。」 「何がだよ。」 「貴方のことをどう思うかは泥棒さんの自由。それに興味がなければ答えなくても、それはあなたの自由。そうでしょ?」 「…。」 私としては、これで泥棒の不可解な程の探偵に懐く理由が理解でき、警戒するのをやめた。 「でも、泥棒さん。」 「な、何?」 私をみて、何故かびくつく泥棒。そんな泥棒を見て、さらに深まる笑み。 「今は彼の保護者やってるの。勝手をされては困るわ。そこは、わかるわよね?」 もし、彼の意に沿わないことをするのなら、容赦なく消すわという宣言をすると、ちぎれんばかりの勢いで頭を上下に動かす。 「ほら、貴方も。今は、今までと同じで害はないんだから。彼が用意したそれ、さっさと食べてしまいなさい。」 そう言うと、仕方なく引き下がる彼。 今後、彼等は知られた以上はおしまくる彼と逃げる彼の追いかけっこになるだろう。 本来の泥棒と探偵とは逆の。 |