カラーン・・・カラーン・・・カラーン・・・・・・・・・

 

白い鳥が降り立つ時間を、時計の鐘が町中に知らせる

 

それと同時に、明日が今日に変わる

 

 

 

華麗なる魔法を見せ、白い鳥は今夜も姿を消す

 

人でありながら、まるで錯覚させられる

本当に魔法使いで、消えてしまったのではないかと

 

だが、彼はマジシャンだ

どんな魔法にも全て種がある

姿を見つければ、鳥を狙うハンターはたくさんいる

だから、油断すれば、魔法を使わない鳥は逃げ遅れる

 

 

 

今夜の獲物を確認し、落胆した一瞬の隙が命取り

分かっていながらも、逃げ遅れた白い鳥は、紅い血を流し、夜の闇に飲み込まれていった

 

 

 

 

 

 


白い幻影・偽りの顔

 


 

 

 

 

 

「あれだけの忠告を無視したからよ。」

困ったわと、長い黒髪を背に流し、妖しげな黒いマントに身を包んだ女は考える。

彼女の前には、手当てをされて現在眠り、いつ目を覚ますかわからない、世間を騒がすあの怪盗キッドがいた。

明日も彼の予告はすでに警察へと届けられている。

彼は信念のもと、絶対に予告をたがえ違えることなどしないし、許しはしない。

何より、もし明日姿を見せなければ正体がばれてしまう可能性だってある。

「いつまで経っても、困った人にはかわりはないわね。」

ふと、水晶から受け取った予言と、映像。

「なるほどね・・・。」

納得し、急いで出かけないとと、用意をする。

まだ、キッドは眠りから覚める気配はない。

 


 

 

 

 

絶対におかしい。目撃者こそいなかったが、警察が聞いたという銃声。

きっと、音を隠さずに犯行をするほど、捕まらない自信があるというのか。

その話を聞いて、思い出したのはあの白い怪盗のこと。

何かとちょっかいをかけてきては手を貸してくれた怪盗。

今自分が元に戻れたのはほとんどは彼のおかげ。そして、薬を作ったお隣の少女のおかげ。

だから、気になって必ず立ち寄るであろうビルの周辺へ向かった時に、見つけてしまった。

それは、ヒビの入ったモノクル。あの怪盗がいつもつけているものだ。

名前も何処の誰なのかもしらないから届ける事もできないし、もし怪我が酷いようなら、今晩の仕事はどうなのだろうかと心配していた。

そのせいなのかもしれないが、厄介な事がまわってきてしまった。

ただ、心配して、勝手に手助けをしていった怪盗に何か手伝える事があればと思っていただけなのに。

家に帰ってみると、何故かそこに長い黒髪で、いかにもあやしい笑みを持つ女がいた。

「・・・不法侵入者。」

「あら。私は別に不法侵入なんかしていないわ。貴方が扉を開けてくれたから、入れたのよ。」

まったく、意味がわからない。

「で、何か用ですか?」

あまり関わらない方がいいんだろうなと思いつつも、丁重にお帰り願う為に、一応用件があるのならと聞く。

「白い罪人を不幸にするのが光の魔人なら、白い罪人を幸福にするのも光の魔人。だから、手を貸していただこうと思って。」

相変わらず、意味のわからない言葉で勝手に話を進めていく女に、本気でどうしたらいいのだと悩んだ。

お隣の少女を呼んで相談してみるかと考えていたら、いつの間にか女は近づいていた。

「で、お願いがあるの。」

「あ、はい。」

とりあえず、条件反射のように返事をしてしまったが、次の言葉を聴いた瞬間、頭が真っ白になった。

「黒き衣を纏いし罪人により、昨夜撃たれて翼を折られた。でも、怪盗キッドは今夜も舞い降りなければいけない。だから、貴方に『怪盗キッド』となって代わりをしてほしいの。」

演技ならお手の物だから、大丈夫よねと言われても、かなり驚いて断る事も忘れていた。

「返事がないようなら、引き受けてくれると思ってもいいのよね?」

「え?あ、駄目。無理だ。何言ってるんですか!」

さすがに演技でも犯罪者を演じる事もできないし、なによりあのマジックは素人の自分には無理である。

「大丈夫よ。怪奇現象なら、私がなんとかするから。」

いや、そういうことではないのだが・・・。

追い詰められてかなり困る。

話を聞いていれば、どうやらキッドは撃たれて動ける状態ではないのだろう。

だから、彼女が変わりに助けを求めてきたのだろうが・・・。

いつも、あいつの側には彼女がいるのだと思うと、少しもやもやとするものがある。

「お願い。このままだと、彼は本当に殺されるわ。」

さすがにその言葉を聞いてどういうことだと聞けば、少し戸惑うが彼女は答えた。

先代を継いだ二代目ということ。先代を知っている者の数人が息子が引き継いだと気付いたこと。

今回は、生きていても死んだとしても、どちらでも追い詰める事は出来るのだ。

死んだら御の字。生きていても、現れなかったり、正体の方が姿を見せなかったならわかるから、あとは追い詰めるだけ。

本当の名前と年といった、個人情報は一切抜いて説明した女。

新一が知りたいと望んでいないことはわかっているようだった。

だって、知るのなら、自分で見つけるか、本人から知るのが一番だ。

他人を通して知るのは、悪い気がするし、ずるをしているようだ。そして何より、そういったことからこじれが出始めて犯罪はおきるのだから。

「もう、あなたしかいない。同じものを持つ光の魔人であるあなたしかいないの。」

いろいろ考え、引き受けて頂戴といわれても出来るかどうかとしばらく悩んだが、新一はわかってと答えた。

何処の誰だか知らないが、助けてくれた借りを返すのなら、今は絶好の機会だろうから。

「で、あんたの名前は?」

「あら、失礼。私は紅子ですわ、光の魔人。」

「紅子ね・・・。上の名前はないわけ?」

「小泉紅子ですわ。」

「そう。わかった。で、衣装ってあるわけ?」

今から仕事の手順を頭に入れて、全て準備をしないといけない。

怪盗キッドの舞台を失敗させるわけにはいかないから。

「大丈夫ですわ。ここに。」

出されたのは、白いあの怪盗が着ている衣装とシルクハットとヒビのないモノクル。

「あと、光の魔人はやめてくれ。」

それだけいって、服を着替えに行く新一。

黒い薄めの服に着替え、上にそれを着る。

そして、紅子に今回の予定を聞き、獲物も聞く。そして、侵入と逃走の念入りな作戦を立てた。

 

 

 


白い幻影に惑わされる哀れな黒衣の使者よ

偽りの顔を見破れるかしら?

 


 

 

やはり、度胸と強い精神力を持ち、演じる力がある彼に頼んで良かったと紅子は思う。

元からマジックは興味があったらしく、基本はマジシャンに教わった経験があるらしかった。

だから、キッドが使うマジックの簡単な種を明かし、ばれないように、いつものパフォーマンスもすることになった。

やはり、やるからには本物に近くしなければいけないだろう。

「じゃぁ、何かあったときは頼みますね。」

「任せて。・・・気をつけて。」

「ああ。」

時間が来た。

偽りの仮面を被った、白い鳥が舞い降りる。

本物と同じように、『怪盗キッド』を演じる。

 


 

 

賑やかな観客の声。警察の飛び交う指示。夜の街を明るく照らすライト。

白い鳥という姿をした新一は、ゆっくり、誰にも気付かれることなく建物に舞い降りた。

「・・・いつみても、すげーな。」

キッドが自分に手を貸す際に、たまにキッドの現場に来るようにと言われた事があって見た事があるが、いつもながら人は多いし、警察もぴりぴりしている。

「だが、今夜は誰にも邪魔はさせねーぜ。」

たとえ本物であろうとも。自分はやると決めたのだから。

今このときは探偵の工藤新一ではない。ただの、警察を欺き、宝石を盗む泥棒だ。

「さて、はじめますか。」

時間を知らせる鐘の音が鳴り響く。

 


 

 

 

 

 

「お疲れ様。」

「いえいえ。貴女の助力があってこそですよ。」

宝石は渡しておけば、本物に渡してもらえますねと、たったいまあの警察の包囲網を抜け出して盗んできた宝石を紅子に渡す。

「ごめんなさい。貴方を巻き込んでしまって。」

「いや。きっと、今更だろうな。」

先に、自分がキッドを巻き込んでしまったのだから。

二人の間には、壁のような者が出来ているように紅子は感じた。

キッドと、黒羽快斗と同じような壁。

やはり、この二人はよく似ている。

どこかで、人とは一線を引いて、懐にいれないように避けている。

「・・・ねぇ。貴方は興味がないのかしら?」

「ん?何に?」

「怪盗キッドに。」

「別に。・・・私は今仮の姿を借りただけの泥棒です。今夜が終われば、魔法は解ける。」

そうしたら、自分はただの工藤新一に戻るのだから。

そもそも、自分は窃盗犯には興味がない。殺人専門の探偵だ。

「興味がある事が多すぎて、今は手がいっぱいなんですよ。」

「そう。」

あれだけ、互いが互いを気に入っているのに、どうして気付かないのだろうか。

「ま、いいわ。」

「それでは。さようなら。また会う機会があるかはわかりませんが・・・。」

すっと白い衣装を脱ぎ、たたんで紅子に渡した。

こっそりと、あのヒビの入ったモノクルをスーツの胸ポケットに入れて。

新一はそれ以上何も言わずに、ビルの屋上から去った。

残った紅子は、完敗かもしれないわねと、苦笑していた。

「やはり、貴方が好きになった人だから、手ごわいわ。」

貴方と同じように、私に虜にならなかった人。

「反対に、私が興味を持ってしまったわ・・・。」

そろそろ、彼なら目を覚ます頃だろう。起きようという意思があるのなら。








     あとがき

 15000HITどうもありがとうございました。
 コウsamaリクエストどうもありがとうございます。
 リクエストに添えているかどうかかなり微妙ですが・・・。
 どうぞ、お受け取り下さいませ。

 * コウsamaのみ、お持ち帰り可能です。それ以外の方はご遠慮下さい *



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