たくさんの竜が生息するある谷 その中でも、闇色と光色に分類される竜はそこにはいない 闇色は闇を支配する破滅の力を持つ竜 破壊神とその谷では呼ばれた 光色は光を支配する癒しの力を持つ竜 太陽神とその谷では呼ばれた
竜の住む谷
「新一っ。」 見つけたっと、背後から抱きついてきた。 「わぁ?!危ないだろ、快斗!」 危うく転びそうになって文句を言う新一。 彼はこの谷の長の息子で、いろいろと権力者の息子ということで疎遠されやすいが、彼の人柄のよさと、この平和で人に差をつけない谷の住人達なので、普通に暮らしていた。 そんなある日、この谷へ怪我をした少年、快斗がやってきた。 過去のことは話したがらず、無理に誰も無理に聞こうとしなかったし、彼という人間性を気に入って、今ではすっかりと馴染んでいる。 そんな彼は、一番のお気に入りの少年が新一だった。 いつも一緒にいて、似ている事から、よく兄弟だろうとか、まさか隠し子かと冗談交じりに言われる事がある。 そうして、彼等は数年の間、谷で過ごしたのだった。
ある日。いつものように竜たちと子供達は仲良く遊び、大人達は竜の背に乗って見回りに出かけたり、共に過ごしていた。 そこへ、連絡が入り、谷の雰囲気は一変した。 「竜狩りをあの国王が始めた!」 この世界では、竜は恐れられる物であると同時に、希少価値があり、その角や髭は高値で裏取引されるほど。 竜がそれぞれ持つ宝珠はさらに高値たつくもので、王は国民に恐ろしい魔は先に滅ぼすべきだと言い、裏では高値の取引を考える酷い王であった。 国民は騙されているなんて事はしらない。確かに、恐怖を感じる事は誰にだってある。 それを利用した国王が悪いのだ。 「どうしよう、快斗・・・。」 「大丈夫だよ、新一。」 すぐさま作戦会議をはじめた長を含めた、警備や谷の戦士達。 ぎゅっと快斗の腕の中で、何も出来ない事で悔しさを覚えて快斗の服を攫む新一を、しっかりと抱きしめて大丈夫だと励ます。 「本気でやる気なら、こっちにだって考えがあるでしょ。そう簡単に、やられないって。それに、竜はいつも俺たちの味方だろ?」 「皆、大丈夫だよな?」 「大丈夫だって。誰も、死なないって。」 ねっと、言い聞かせる快斗。 今はまだ、はじまってはいないから、睡眠をしっかりとって休んでおくんだと、寝かしつける。 新一は、快斗がいれば、すぐにぐっすりと眠るので、今更誰も不思議に思う光景ではなかったが、今回はここに誰かいれば、目を見開いて驚きで動けずにいたことだろう。 そこには眠る新一の姿はあったが、快斗の姿はなかった。 あるのは・・・ 「何度も、同じ事を繰り返す愚か者めが・・・。」 漆黒の翼を広げ、腕にしっかりと新一を抱きしめる快斗の姿があった。
かつて、黒き巨体の漆黒の翼を持つ竜は、谷に住む者を手にかけた。
それが、破壊神と呼ばれる理由。
誰も、真実を知ることがなかったからそうなったのだ。
真実はその竜だけが・・・。 そして、彼の腕の中で二度と動く事のない幼い子供の亡骸だけが・・・
まずは話し合いだと、穏便に済ませたかったのだが、相手は聞く耳を持たず、谷に攻撃を加えた。 このまま戦になるのかと、長は心を痛めながら、竜と戦士は応戦するために向かった。 すでに、何人かのけが人が出ている。 唯一の救いは、まだ死人が出ていないという事だろうか。 一気に谷を吹き飛ばそうと、王は指示を出した。 だが、それが実行される事はなかった。 両者の間に降り立つ、漆黒の翼を広げた青年。 「あれは・・・。」 「新一もいますわ。」 二人の存在にも驚きだが、快斗の翼にも驚きだった。 あれは、あの時から姿を見せる事がなかった闇色の竜の翼だった。 「愚かな者共よ。何度同じ事を繰り返せばよいのか・・・。」 王はその見覚えのある快斗の顔に驚きが隠せなかった。 かつて、三頭の竜を捕獲した。 そのうち、子供を親竜が逃した。 おしい事をしたが、二頭もいれば今はいいと判断したが・・・。 それに、あの怪我ではまず助からないと思っていたというのに。 厄介な事に彼は生きていたのだ。この、竜が住む谷で。 「数百年前も、そして今も。お前達は変わることはないのだな。」 数百年前。彼はここにいた。そして、一人の愛する者と幸せに過ごしていた。 それを、壊す者がいた。竜は高値で売れるものであり、生息地は限られていたから。 自分を庇って、愛する者は命を落とした。 そのため、すっかりと我を忘れて其の者達を手にかけてしまった。 それが、闇色の竜が破壊神と呼ばれる由縁になった事。 「即刻、立ち去るがいい。」 すっと、細めた目は赤みをおびて、風が彼等を包み、竜巻のように空高く挙がった風にのって、彼等は元いた国へと飛ばされる。
だが、これで終わりではない。 この翼が何よりの証拠。この谷で唯一のタブー。 目を覚ましたのか、腕の中でもぞもぞと動く新一。 「起きた?」 「ん・・・、か・・・ぃと・・・。」 このまま連れて行きたいが、そんなわけにはいかない。彼には彼の生活があるのだから。 足を地面につけさせて、立った事を確認して、これから何処に行こうかなと羽根を広げた快斗。 これを逃せば、きっと二度と会うことはできない。 すぐに理解できた。快斗の背にあるのは、闇色の翼。快斗は闇色の竜なのだと。 ぎゅっと服を攫む手があって、やっぱり起きる前に行った方が良かったかもしれないなぁと考える快斗に馬鹿と怒鳴る新一。 「誰にだって自分に秘密を持つ事があるし、隠している事が悪いって事はない。だけどな、何も言わずに勝手に行くなよ。」 いなくなったら寂しいじゃないかと言えば、さすがに困る快斗。 「でも、俺・・・。」 「だいたい、竜だろうが闇色だろうが光色だろうが、俺はお前を気に入って、親父だって、谷の人達だって、『闇色の竜』だろうと関係ねぇ。」 文句が言う奴がいたら、俺が倒すと何だかたくましく育っている新一が言う。 それが、とてもうれしくて、新一をぎゅっと抱きしめる。 「俺・・・。いてもいいの?」 「俺はお前がいいの。それに、お前だろ。うるさい国王どっかやったの。なら、谷の英雄だろ。」 ありがとうと、新一に抱きついて、涙を流す。 その涙は、光を含んできらきらと輝いていた。 そして、すうっと溶けるように、漆黒の羽根は純白の羽根へと変化した。 そう見えただけなのかもしれないが、確かにここに闇色の竜ではなく、光色の竜が存在したのだ。
竜王は自然界の力を司る。 火・水・土・風・樹・光・闇の七つ。 闇は光の中に、光は闇の中に。 同じようで違うもの。だけど、同じ場所に存在する。 そういうもの。
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