明日は晴れるだろうか? いつしか、思うようになったそれ 夜になったら、あいつは現れる だけど、雨が降ったり曇ったりして月が見えない日は来ない だから、いつしか思うようになった あいつが好きだと理解できた時、晴れたらいいなと思うようになった 明日の天気はなんですか? 今夜は今時レトロな白いスーツにマント、そしてシルクハットにモノクルという姿で、神出鬼没な怪盗紳士と呼ばれる、怪盗の予告日。 あいつは芸術のような魔法を見せて警察を翻弄する男。 その余裕を見せるかのように予告状を送りつけてくる。 まぁ、簡単に知らせるものではなく、暗号という時間のかかるものではあるが。 その怪盗に惹かれ、いつしか好きだという気持ちに気付いた探偵。 そんな二人は晴れた月夜に探偵の家で会う。 ただ、お互いに頭のいい相手が話し相手に丁度良かっただけ。 怪盗にとっては、そんな相手が面倒な宝石の返却を頼めば答えてくれるので、いい足だろう。 そんな二人は、本来交わる事のない敵同士。 だけど、探偵・・・工藤新一はその正体不明の怪盗を好きになってしまったのだ。 だから、何度も何度も、もう会わないでいようと思った。 その努力は全て水の泡だったけれど。 今では、その思いを隠して、一緒にいられる時間を楽しむようになった。 思いが通じなくても、話の合う秘密の友人のような感覚で、とても楽しかった。 そんな怪盗は、いつも晴れた月の見える夜にしか来ない。 だから、新一はいつも予告日には晴れるかどうか気にするようになった。 事件に関わっても、はやめに帰ってくるようになった。 いつしか、そんな時間が楽しくて、そして会いたくてしょうがなくて。 そんな怪盗との関係が続いていたある日。 怪盗はもうここへは来ないと言い出した。どうしてと問えば、獲物は見つかり、あとは組織を潰すだけなのだと言っていた。 薄々、何か敵がいるのだとは知っていたから、相当の覚悟をして戦いに挑むのだろうから、会いに来ないという事はわかった。 だけど、やはりまた会いたいというのが事実で、新一は言ったのだ。怪盗に。 「全て終わったら、また会えるか?」 だが、その答えはノーだった。首を横に振って、無理だと会う事は出来ないと言われた。 「怪盗キッドは、今日でいないんです。明日からただの復讐者として動きます。」 だから、日の元に戻ってこれたとしても、会う事はないと言った。 その言葉がとても悲しくて辛いものだったが、彼の決意の固さはよくわかったし、本来敵同士だから会う事事態ないようなものだから、しょうがないと言い聞かせた。 「じゃぁ、な。頑張れよ。」 ただ、笑顔でそう言った。 その笑顔は、本来の顔を隠すためのポーカーフェイスだが、きっと彼は気付かない。 気付いても、これは探偵の時に以前彼を追い詰めた時の顔と同じようなものだから、その中に隠された気持ちなんて気付かないだろう。 こうして、誰にも知れれることなく会っていたその時間は、誰にも知られる事なく終わりをつげたのだった。 だが、それからも、晴れた月夜に彼がひょっこりと現れるのじゃないかと、未練がましく毎日を過ごした。 彼が会わないと宣言してから一週間後。 ニュースはすさまじい勢いで、それを放送する。 警察も、慌しく動いている。 彼が動いたのだと、すぐにわかった。 それからさらに一ヶ月。 怪我をしたのではないかと心配していた時、街中で偶然彼に出会った。 始めてみる、昼間の彼。 自分の幼馴染と似ているが、幼馴染よりは少々幼い感じで感情がすぐに出る可愛い子。 やっぱり、好きな子がいるから、会えないと言ったのかもしれない。 もしかしたら、自分が隠していた気持ちに気付かれたのかもしれない。 だから、離れていったのかもしれない。 その時は知らない他人、目も合わすことなく気配すら感じないという態度で通り過ぎたが、その間も考えはどんどん沈んでいく。 だけど、やっぱり気にしてしまう。 晴れた月夜という日に、夜空を見上げてしまう。 「・・・今日で、終わりにしようかな。」 諦めるしかない、行き場を失った思い。 いつも開けていた窓に鍵をかけ、新一は眠りについた。 次の日。いつものように事件で呼ばれて警視庁にいた。 事件はすでに解決済み。だから、のんびりと珈琲を飲みながら椅子に腰掛けていた。 そこへ、顔なじみの趣味の合う男が現れた。 「これは、工藤君じゃないですか。」 「探か。」 「事件ですか?」 「ああ。」 一人だけ座っているのもあれなので、少しずれて隣を空ける。 「どうも。・・・それで、何か考え事か何かですか?」 「いや、別に・・・。」 明らかに何か悩みがあるとわかる態度。いつもの彼らしくはない。彼は、だいたいポーカーフェイスで覆い隠していしまうから。 珍しいものもあるものだと、少し探は興味を覚えた。 それに、同じ趣味で気が合う友人として、彼が悩むのなら解決へと何か手助けをしたいと純粋に思うのだ。 「明らかに悩んでいるという顔で。ポーカーフェイスも出来ていない。そんな貴方を放っておく事なんて出来ませんよ。」 「・・・。」 「言いたくないのならいいのですが、言えるのなら言って下さい。以外と、話をしてみたらすっきりする事だってあるんですよ?」 「そうだな・・・。」 確かに、哀によく言われる。幼馴染にも言われ続ける。 新一はいつも一人で何でも抱え込みすぎだ。 たまには、悩みも抱える問題も外へ吐き出さないと、いつかいっぱいに溢れかえって駄目になってしまうと。 探偵として頭のいい彼だから、話を聞くだけで下手に言われたくない自分にとってはそこはわかってくれて、何も言わずただ聞いてくれるような気もしたし、本気で誰かに聞いてもらいたかったのかもしれないから、新一は話した。 怪盗キッドという名前は伏せて、自分は好きな人がいるのだと言って。 「・・・好きな人、ですか。」 それが悩みの種ですかと探が問えば、そうだと答える。 「最初は惹かれているだけで、他の好きや尊敬と混ざっていた。だけど、途中から好きになっていたんだ。」 「それで、伝えたんですか?」 「その時は、伝えられるような状況じゃなかった。だから、隠してきた。でも、言える時が来たらいえたらいいなと思った。」 だけど、言える時が来る事はなかったのだと言うと、どうしてと探は問う。 まぁ、相手がいなくなったわけではないのだから、そう思うのが普通だろう。 「そいつは、俺に別れを言った。友人としても会わないと。それは、いろいろとそいつにも事情があって、それの後始末をするためだった。それはわかっていたけれど、後始末が終わってもあえないかと言ったら、会えないとと言われた。」 「・・・会えない、ですか。」 「しばらくして、俺はたまたまそいつを見かけたんだ。すると、そいつはきっと本当に好きな人なんだろうな。楽しそうに歩いてた。」 「じゃぁ、完全に確認はしていないんですね?」 「そうだけど、俺も見たことのない、顔だった。生き生きとしていて、やっぱり、俺は駄目なんだとよくわかった。まぁ、もとから駄目だったんだけどな。」 「何が駄目だったんですか。」 もし、そいつも同じ思いだったら、他は全部気にせずいられたんだと思う。 新一は言った。好きな人は女ではなく男だと。 「それは・・・。」 「そう。本来は認められないもの。まぁ、外国ではいろいろあるから、そういった事は気にしていないが、そいつにとってはどうかはわからない。」 「だから、諦めるんですか?」 「諦める、以前の問題になった。あいつは、もしかしたら会いに来てくれるかと思ったけど、あいつが言った通り、やっぱり来なかった。だから、昨日で待つのは終わりにしたんだ。」 「なら会いに・・・。」 会いにいって言葉だけでも伝えたらどうだと言おうとしたが、新一は首を振る。 「俺は、あいつの顔と名前しかしらない。あとは、何もしらないんだ。調べたらわかるだろうけど、そんなことまでは、したくはないんだ。」 偶然であって仲良くなった相手。だから、一緒にいる時間があたりまえのようになったために、何も知らないことを気付くのが遅くなったのだ。 「だから、どうやってこれから自分を保っていこうかと考えていたところなんだ。」 そういう新一はとても辛そうで、つい、探はいってしまったのだ。 「なら、僕も遠慮はしません。前々から言おうと思っていた事なんです。」 「・・・?」 「僕は、貴方が、工藤新一が好きです。」 「・・・探?」 突然の告白。今まで気付かなかったなぁと、苦笑する。こんなに近い場所にいたのに。 「ごめんな。まだ、完全に決着付けられていない俺は、お前に答えるなんてできない。」 それこそ、お前に失礼だしなといった笑顔は、綺麗だったけれど、とても悲しそうだった。 「そうですか。でも、僕は諦めませんよ。新一君をそこまで好きにさせて他の女のところに行く男なんて、許せませんし。」 「ありがとな、探。」 「いえいえ。それに、薄々と新一君が変わってきているのには気付いていましたから。その時既に、その人の思いでいっぱいで、きっと僕の入る隙なんてこれっぽっちもなかったのでしょうから。」 「・・・探。・・・それ、嫌味か?」 「違いますよ。」 久々に、心から笑えた気がした。 その後、事件の話やホームズの話で盛り上がって、楽しい時間を過ごす事が出来た。 これも、探のおかげだなと、帰り道考えていた。 今日はこのまま、風呂に入って寝ようと考えて家の前を見た時。 家の前に誰かがいた。黒い服を着た自分と同じぐらいの人影がそこにある。 「・・・新一。」 それは、見間違えることはない。あの怪盗がいたのだ。 だが、白い衣装を纏わず、モノクルもつけてない。 昨日の昼間、街中で見かけた彼がそこにいたのだ。 「・・・どちら様ですか?」 怪盗は知っているが、彼とは初対面だ。だから、そう言ったのだが、相手は少しビクリと反応を見せた後、情けない声でまた自分の名前を呼ぶ。それに、答えたいが、何の意図でここにいるかわからないので、これ以上は自分を保つ事が出来ないので、さっさと中に入ろうと門に手をかける。 だが、それを彼は止める。 だから、言ってやった。他人の不利をして冷たく彼に。 「何か、用でもあるんですか?」 「新一っ!」 切羽詰ったような顔で名前を呼ばれて、さすがにうっとつまる。 「新一。お願い、否定しないで。」 それ以上聞いたら駄目だと思っても、身体が動かない。 「諦めようと思った。昼間、新一の姿が見れるだけでいいと思った。だけど・・・。」 だけど、昼間探との会話を聞いてしまったら、もう抑えることなんて出来ない。 逃げて情けない自分だったが、新一も同じだったのなら。 情けないけど、新一と同じで、好きの思いが強すぎて、拒絶されるのが怖くて諦めようとしたんだ。 よく考えれば、新一はこの手の事に関しては奥手で、彼からいう事なんてないに等しいのに。 「昼間・・・。いたのか・・・?」 恥ずかしいところを見られたなと思う。 なら、こいつはそれを聞いて何かあったというのだろうか。 「いたの。それも、近くに。だから・・・。」 「何だよ。」 「怖くて逃げて、諦めようとしたけど。昼間のを聞いたら、どうしても言いたくなって。」 「だから、何だよ。」 「俺は、ずっと新一の事が好きだったんだ。」 「・・・っ?!」 突然の告白に、それも怪盗キッドとは思えないような情けない顔で驚いたが、すぐには信じられなかった。 「お前・・・。」 「お前じゃなくて、黒羽快斗。黒い羽に快い北斗の斗。出身校は白馬と同じ江古田。家も江古田。歳は新一と一緒。誕生日は6月21日。それから・・・。」 信用してくれるまで、そして無意識に知られないように避けていた自分の罰として、快斗は言い続ける。 だけど、それを新一は止めた。 「そんなにいっぺんに、覚えられるわけないだろ。」 ぺしっとおでこをはたいて、快斗の口を塞いだ。 快斗自信驚く。そう、新一は快斗にキスをしかけたのだ。 「俺も、キッドが・・・快斗が好きだ。」 にっこりと微笑まれたその顔を見て、快斗も自然と笑みになる。 「とにかく、中に入ろうぜ。お前、冷たいし。」 何時から待っていたんだと言えば、新一の話を聞いてからずっとここにいたらしい。 もちろん、事件とホームズの話をしている間、ずっとここにいたのだ。 「・・・馬鹿だろ。」 「う〜、馬鹿じゃないです。これでもIQは400もあるんです。それに、全国模試は新一よりも上です。」 「あ〜、あいつか!」 前回帰ってきた模試で、自分の上に現れた男の名前。 「こんなところにいたのか、むかつくお気楽男。」 「お気楽って・・・ひどい・・・。」 何気に近くにいながら、名前を知らないばっかりに噂ばっかり聞いていて、賑やかなお気楽野郎と認識していた。 それはもちろん、園子がその男についていろいろ知っていて、お祭りごとに参加する派手な演出のマジシャンと言っていた事が原因である。 「それにしても・・・。」 珈琲を入れて快斗に渡した新一は、入れる砂糖と牛乳の量に胸焼けしそうになった。 「これぐらいいれない?」 「そんな事をするのはきっとお前ぐらいだ。」 「お前じゃなくて快斗です。覚えてくださいよ、名探偵?」 「お前こそな。俺は名探偵ではなく、新一だよ、快斗君?」 「恋人同士に君はいらない〜〜。」 「お子様にはいると思うけど?」 「キッドじゃありません!」 「どうだかね・・・。」 珈琲を一口の飲んで、ふと空を見上げれば、そこには真ん丸の大きな月があった。 「今日は晴れ・・・。満月ね。」 「ん?どうしたの?」 「いや、何でもない。」 飲み終わったカップをテーブルの上に置いてソファに腰掛ける。 「新一っ。」 ずっとこうしてたかったんだと、快斗は後ろから抱き付いてきた。 「ねぇ、新一の部屋の隣。もらっちゃ駄目?」 「・・・掃除するならな。」 「ありがとう。」 ちゅっと、頬にされたキス。 顔真っ赤にして、何するんだよと腕を振り回せば、危ないなぁといいながらも、何だか楽しそうな快斗。 相変わらず、キッドのような余裕な笑みを見せて、やっぱり好きだけどむかつく。 「新一からのキスもうれしいけど、キスしたいしねぇ。」 「なっ。」 顔をさらに真っ赤にした新一に可愛い〜とへばりつく快斗。 久々に聞こえる新一の怒っているがこの前までの元気のなさのない声に、やっと怪盗が戻ってきたのねと実験の一息を入れる為に入れたお茶を飲む。 「・・・これから、どうなるのかしらね。」 それは、お月様だけが知っているのかもしれない 出会いの空には満月 再会の空にも満月 今日の天気は晴れで満月 そして、怪盗がお日様の笑顔を連れて家にやって来て 恋人同士になれた素敵な日 |