――PM1:20
 帝丹高校・女子空手部部室。


「なぁ…本気なのかよ」
「当たり前よ!私たちは新一に幸せになってもらいたいの」
「だからこうして協力してるんでしょう?」
「……お前は単に面白がってるだけだろうが」
「そうとも言うわね」
「園子ったら!」
「う゛〜〜〜〜」
「昨日私が言ったようなことになるのは、新一も嫌でしょう?」
「……分かった」



 ――PM1:27
 江古田高校・3年B組。


「えーっ!お迎えいらないのかよぉ……」
「どうしたの、快斗?」
「なんでもねぇよ、アホ子」
「なんですってぇ!バ快斗!」
「あら、なんだかご機嫌斜めね、黒羽君。光の魔神にフラれたのかしら?」
「テメェには関係ねぇだろ、紅子」
「あら…そう」
「……なんだよ、その妖しい笑顔は」
「なんでもないわ……」






    素直な気持ち






 6時間目終了間際。
 とある気配を感じて、小泉紅子はふとグランドを見つめた。
 彼女の席は窓際なので外の様子がよく見える。
 気配を探りながら視線を流していると……


(あら、なにかの余興なのかしら?)


 紅子の口元に妖しげな笑みが浮かぶ。
 視線の先には、ある高校の制服を着た少女の後ろ姿。
 なんだが楽しいことになりそうだわ、と思っているとちょうどチャイムが鳴り響いた。
 彼女は即座に席を立つと徐に教室を出て行く。
 その姿を不審に思うものは誰もいなかった。





 その頃、江古田高校正門前では、1人の美少女が辺りをきょろきょろしながら学生鞄を胸に抱きしめていた。
 頭を動かすたびに腰まである長い髪がさらりと揺れる。
 唇はきゅっと噛み締められており、澄んだ瞳はゆらゆらと揺れていた。
 先ほどから通行人にじろじろと見られていることが気になるらしい。
 不安げな表情と眼差しで、ちらりと校舎へ視線を移す。
 その時、運良く6時間目終了のチャイムが鳴り響き、少女の口元から安堵の息が零れた。
 すると今度はそわそわと落ち着かない様子で視線をうろうろさせている。
 そんな彼女の後ろ姿を見ていたのは紅子だった。


(……私好みね。黒羽君には悪いけど、このまま私がお持ち帰りしようかしら?)


 なかなかセンスがいいわ。
 内心で妖しい笑みを浮かべながら、紅子は少女へと近づいた。


「そんな所で待っているとオオカミの群れに襲われてしまうわよ?」
「―――ッ!?…あ、小泉さん」


 背後から声をかけられた少女はびくりと身を竦ませた。
 恐る恐る振り向き、相手が顔見知りだと判断するとほっと身体の力を抜く。
 紅子の名前を呼んだ少女は縋るような眼差しで彼女を見つめていた。
 庇護欲をそそるその眼差しに紅子は苦笑してしまう。


「黒羽君が貴方のことを溺愛する理由がようやく分かったわ」
「そんな……。いつも快斗に迷惑ばかりかけてるし、自分の気持ちにも素直になれないのに……」
「もしかして……その格好は?」
「え…と……////」


 少女の言葉を聞いて、彼女が江古田まで来た理由がようやく理解でいた。
 真っ赤になって俯く少女は恥ずかしそうに鞄を抱きしめている。
 初めて見る『彼女』の初々しさは、最近親友となった人物から聞いていた通りのものだった。
 なるほどね…と心の中で納得して。
 紅子は少女の手を取り校舎へと戻っていく。
 下校していく生徒たちが、興味津々とばかりに紅子と少女を見つめていた。
 緊張した少女が小さな声で紅子を呼ぶ。


「小泉さん……」
「教室に行けば黒羽君が護ってくれるわよ。それまでは我慢してちょうだい」


 回りの視線――特に男子の視線から少女を守るように紅子は歩いていく。
 校舎に入っても壁側を歩かせて教室へと向かった。












 いつものように幼馴染みと言い合いをしていた黒羽快斗は、窓際に人だかりができていることに気づいた。
 幼馴染みもそれに気がつき首を傾げる。
 快斗はなにがあるのかとクラスメイトに問いかけた。


「小泉が他校生を連れて校舎に向かってるんだけど、すっげぇ美人らしいぜ?」
「紅子が……?」


 そう言えばチャイムが鳴ると同時に教室から出て行ったような気がする。
 数分前のことを思い出しながら、快斗は思わず首を傾げた。
 なぜ彼女が他校生を連れて校舎に戻るのだろう。
 あの女に他校の友人がいるとは聞いたことがない。
 なにせ自分のことを魔女だと言う女なのだから。


「つーか、なんで俺がアイツのことで悩まなけりゃなんねぇんだ?」


 ハタと我に返り、眉を顰める。
 と、そこへ。


「黒羽君、貴方の命よりも大切な人を連れてきたわよ」


 当の本人が教室へ戻ってきた。
 後ろの入り口に立って妖しい笑みを浮かべている。
 俺の命よりも大切な人?
 快斗は彼女の言葉に鋭い眼差しを向けた。
 彼の人はまだ学校にいるはずだ。
 それに、用事があるから迎えに来るなというメールを貰っている。
 彼女の意図が読めなくて、快斗は自分の席に座ったまま紅子を睨みつけた。
 しかし、紅子は快斗の視線をものともせず口元の笑みを深めるだけ。
 それは一瞬のことだったが、快斗が見逃すはずがない。


「おい、紅子――――」
「ほら、ここは安全だから入りなさい」


 彼女がなにを企んでいるのか問いただそうとした時。
 ふいに自分の背後に視線を向けた紅子が、誰かに話しかけた。
 クラスの全員が興味津々に彼女と快斗のやりとりを見つめている。
 紅子がもう一度声をかけると、彼女の背後にいた人物がようやく姿を見せた。
 途端に騒がしくなる教室。
 その中で、快斗だけが唖然とした表情でその人物を凝視していた。


「大丈夫だから、いらっしゃい」
「でも……」
「黒羽君に会いにきたんでしょう?ここで引き返したら貴方の努力が水の泡になってしまうわよ?」


 顔を俯かせてぽつりと呟いた少女へと諭すように声をかける紅子。
 珍しい彼女の態度に、クラスメイトたちがざわめく。
 それを気にすることなく、紅子は少女の手を引いて快斗の席へと案内する。
 未だに唖然としたままの快斗へにやりと笑みを投げかけて。
 彼女は少女の身体を快斗の目の前へと押した。
 いきなりのことにバランスを崩した少女は快斗の胸へと倒れ込む。
 すぐさま我に返った彼は慌てて少女を抱き留めた。
 細い肢体が彼の腕にすっぽりと収まると、クラスの男子からブーイングが寄せられる。
 しかし、それを無視した快斗は少女の耳元に唇を寄せて訝しげに囁いた。


「新一、その格好どうしたの?」
「ぁ……やっぱり、ヘンだよな」
「いやぁ…すごく似合ってて、今すぐキスしたいんだけど。…じゃなくて、今日は用事があるってメールくれたよね?」


 耳元で囁かれてぴくんと身体を揺らした少女は、快斗の愛しい恋人である工藤新一だった。
 少しだけ顔を上げて、潤んだ瞳が快斗を見上げる。
 やばいかも…と内心で思いながらも疑問を口にした。
 昼休みが終わる間近に送られてきたメールの内容は、さきほど快斗が口にした内容だったはず。
 なのに、どうして彼がここにいるのだろうか?
 しかも制服を着ているといっても、恋人が着ているのは帝丹高校の女子の制服だった。
 ブレザーやネクタイなどは変わりないが、スラックスではなくスカートを穿いている。
 短めのスカートからはすらりとした足が惜しげもなく晒されていた。
 回りの視線が彼の足に向けられているのを感じ、快斗の口元がひくりと引き攣る。
 それを怒っているのだと勘違する新一。
 蒼の双眸が潤みはじめ快斗の制服を掴んでいた手に力が篭もる。
 恋人の様子がおかしいことに気づいた快斗は彼の顔を覗きこみ。
 思わずぎょっとしてしまった。


「ちょっ……どうした?紅子になにかされたのか!?」
「ちょっと黒羽君、私は『彼女』になにもしていないわよ?」
「うるせぇ。つーか、なんでお前がコイツをここまで連れてくるんだよッ!」


 新一の顔を胸元に隠して、快斗は威嚇するように紅子を睨みつける。
 独占欲の強さに思わず呆れてしまう紅子。
 この男を躍起になって手に入れようとしていた自分を馬鹿らしく思う。
 紅子は小さな溜息を吐きながら口を開いた。


「『彼女』が正門の前に立っているのが見えたのよ。あんな所にいたら危険だということは貴方も分かるでしょう?」
「まあ……」
「まったく、感謝してほしいものだわ」


 心外だと言わんばかりの言葉に、さしもの快斗もバツの悪い表情を浮かべた。
 と、腕の中の恋人が少しだけ顔を上げ、首だけを回して紅子を見やった。


「ありがとう、小泉さん」


 声で工藤新一だとバレないように小さく囁かれた言葉。
 だが、紅子には感謝の言葉がきちんと聞こえていた。
 その証拠に彼女の口元には笑みが広がっている。


「貴方になにかあったら彼女に怒られてしまうわ」
「……ありがと」


 意味深な会話はクラスメイトたちの興味をそそった。
 1人の男子が紅子に話しかけようとしたが、それは快斗の言葉に遮られてしまう。


「紅子と知り合いだったのか?」
「……間接的に、だけど。怒ってるのか?」
「んーん、嫉妬してるだけ。ね、俺のこと愛してる?」
「えっ……////」


 唐突に問われてしまい、新一の顔が真っ赤に染まる。
 恋人の可愛らしい表情を見せたくない快斗は、回りから遮断するように新一の頭を抱き込んだ。
 そうして額をくっつけて、その瞳に自分だけを映すよう固定する。
 蒼の双眸が恥ずかしそうに快斗を見上げていた。


(女装しても相変わらず美人で可愛いよなぁ〜〜vv蘭ちゃん辺りがメイクしたのかな?)


 うっすらとファンデーションを塗っただけで、後はそのままなのだろう。
 もともと肌は綺麗だしお手入れは快斗がしているので、化粧をしなくても大丈夫なのだが。
 女装ということで、一応ファンデーションだけは塗ったのだろう。
 帰ったらちゃんとクレンジングさせないとね。
 心の中で呟きながら、快斗はもう一度新一に問いかける。
 彼の視界はクラスの人間をすべてシャットアウトしているようだった。
 傍にいる紅子が呆れた表情を浮かべていることにも気づいていない。


「ね、新一?」
「え…と……////」


 口元には笑みが浮かんでいるが、眼差しは真剣だ。
 自分の気持ちを素直に吐露することができず、新一は視線を泳がせてしまう。
 うーうー呻いていると、快斗の幼馴染みの姿を見つけた。
 瞬間、自分の幼馴染みの声が彼の脳裏をよぎる。


『新一もたまには素直になった方がいいと思うわよ?』


 素直になる。
 それは新一にとって一番難しいことだった。
 幼少時代から1人でいることが多かった彼は、両親を心配させないために良い子でいるしかなかった。
 言うことを聞いて大人しく待っていれば、誰にも迷惑をかけることはない。
 いつの間にか染みついてしまったものを直すことなんてできなくて。
 新一は本音を吐露することができなくなっていた。
 快斗と恋人同士になっても、新一は彼に本音を語ったことはない。
 素直に気持ちを伝えたいのに、それができない。
 ――――だけど。


「かいと……」
「ん?」


 今なら自分の本音を言うことができるかもしれない。
 快斗同様回りが見えていない新一は、きゅっと唇を噛み締めた。
 心臓が高鳴る音が耳に届く。
 小さく深呼吸をして、逸らしていた視線を恋人へと向ける。
 そして――――


「…ぉれも、快斗のこと、愛してる」
「ありがと、新一vv」


 言うや否や胸元に顔を隠してしまった可愛い恋人。
 満面の笑みを浮かべながら、快斗は紅く染まった耳元に囁いた。
 彼らを纏うのは甘甘な雰囲気。
 2人だけの世界に入っている彼らに、クラスメイトたちはただ呆然とするだけだ。


「おい、黒羽のヤツいつの間に彼女作ってたんだ?」
「あんな美人、どこで引っかけたんだよ」
「しかもここが教室だってこと、すっかり忘れてるぜ。黒羽のヤツ」
「だー!すっげぇショック!好みのタイプなのによぉ〜〜〜(涙)」


 ぶちぶちと文句を垂れる男子に対して、女子は羨ましそうに快斗たちを見つめている。


「黒羽君の彼女、羨ましいよねー」
「そうそう。あんな格好いい彼氏掴まえてさ〜」
「でも、あんな恋人同士になりたいと思わない?」
「なりたい〜vお互いを思い合っててすっごくお似合いよね〜



 きゃいきゃいと騒ぐ女子たち。
 そんな彼女たちを尻目に、紅子は溜息を吐きながら快斗に話しかける。


「黒羽君、いい加減2人の世界から戻ってきてくれないかしら?言っておくけれど、ここは教室なのよ?」
「あ、忘れてた」


 紅子の言葉に、新一の身体がびくりと震える。
 自分がどこにいるのかを思い出した彼は、恥ずかしさのあまり快斗の学ランに縋り付いた。
 安心させるようにその背を擦りながら快斗はしれっとした顔で口を開く。


「まったく……。さっさと帰ったらどうなの?ちょうどいいから、たまにはデートでもしてきなさいな」
「もちろん、そのつもりだっつーのvんじゃ、お先に〜



 片手で新一を抱え上げ自分の腕に座らせる。
 もう片方には2つの学生鞄。
 満面の笑みを浮かべて快斗は教室を出て行った。
 とたんに響き渡る低い叫びと甲高い悲鳴。
 廊下にいた生徒や他のクラスに残っていた生徒たちは、なにがあったのかと首を傾げるのだった。












 正門を出ると、快斗は人気のない場所へと向かっていた。
 自分の首にしがみついている恋人の話を聞くためだ。
 ふと見つけた小さな公園に人気がないことを確認して、快斗は中へ足を踏み入れる。
 小さなベンチを見つけた彼は、新一を腕に抱き上げたままそこへ座った。
 鞄を置いてから、恋人の身体を自分の足の上に降ろす。
 向き合うように座らされてしまい困惑する新一。
 快斗は新一の頭の後ろに手を回して、再び額をくっつけた。


「新一、とりあえずキスしていい?我慢できないからさ」


 教室で抱きしめられた時から、新一も快斗のキスが欲しかった。
 今までずっと我慢をしていたのだからと小さく頷く。
 すぐさま重なってくる唇。
 快斗の首に腕を回して強請るように舌を絡みつける。


(んー?なんだか今日の新一は積極的っつーか、素直?まあ、可愛いからいいんだけどさ)


 少し不思議に思いつつも、快斗は絡んできた舌を思う存分堪能する。
 細い腰をぐいっと抱き寄せると、下半身の熱を感じたのか華奢な肢体がぴくんと揺れた。


「…ぁ…ん……かいと……」
「新ちゃん積極的だねぇvえらく素直だし」
「……素直な俺は嫌なのか?」
「ンなこと言ってないデショ?新一のすべてを愛してるんだからさ」
「…ん。かいと、もっと……」
「いっぱいキスしてあげるから、ちょっとだけ俺の質問に答えてね〜」
「なに?」


 先ほどのキスだけで、蒼の双眸はとろんと潤んでいる。
 軽いキスを繰り返しながらの会話。
 恋人の問いかけに、新一は首を傾げながら快斗を見つめた。


「この格好どうしたの?大方、蘭ちゃんにでも着せられたんだろうけど」
「……むぅ」
「はいはい、拗ねても可愛いだけだから。本当のことを言おうね、新一?」


 言いたくないと言わんばかりに快斗を睨みつけてくる恋人。 
 だが、そんなのは逆効果だということに彼は気づいていない。
 内心で苦笑を浮かべながら、快斗はちゅっと音を立ててキスを落とした。
 まだ快斗とキスをしていたい新一は、しぶしぶながらに口を開く。


「蘭に、言われたんだ。いい加減素直にならないと、快斗が俺から離れていくって。好きな女の子ができて、俺に内緒でつきあい始めるかもしれないわよ…って」
「ちょっとちょっと……(汗)」


 新一のことを心配しての発言だろうが、快斗としてはいただけない。
 なんちゅーことを吹き込んだんだ、と頭を抱えたくなる。
 そんな快斗の焦りに気づくことなく、新一は続きを口にする。


「俺も、自分が素直じゃないことは自覚してるから。快斗が俺から離れていかないのは分かってるけど、やっぱり不安になってきて」
「俺、ちゃんと言ったよね?新一のこと絶対に離さないって」
「ん。そしたら蘭が、女装すればちょっとは素直になれるかもって」
「……どうして女装だったの?」
「さぁ?その後蘭と園子が盛り上がっちまって、理由は聞けなかった」


 おそらく彼女たちの趣味なのだろう。
 新一はそこいらの女の子よりも綺麗だから、着飾りたかったに違いない。
 まあ快斗も、いつか新一を女装させたいと思っていたのだから、内心で驚喜していたのだが。


「だから、素直になってくれたの?」
「……今日だけだからな////」
「分かってるよv素直な新一も可愛いけど、新一は言葉にしなくても態度で示してくれてるんだよ?」
「態度で?」


 覚えがない新一は訝しげに首を傾げた。
 満面の笑みで頷きながら、先ほどのキスで紅く熟れた唇を軽く塞いだ。
 音を立てて離すと不満そうに唇を尖らせる。
 素直すぎる態度に苦笑を浮かべながら、快斗は恋人の耳元に唇を寄せた。


「キスして欲しいときや俺が欲しい時は瞳で訴えてくるし、事件で辛いことがあれば俺の傍から離れようとしないし。新一のことを見ていれば新一の言いたいことがすぐに分かるんだ」
「……そんなことした覚えない」
「無意識なんだよ。だから新一は覚えてないんだ。口にすることも大事だと思うけど、新一のことは俺がちゃんと分かってるから、大丈夫v」


 だから無理しなくていいからね?
 気持ちを口にしたくなった時だけ、言ってくれればいいから。
 優しい眼差しに見つめられて、新一の心が少しずつほぐれていく。
 今のままの自分で良いのだと言われたような気がした。


「じゃあさ、快斗はちゃんと口にしてくれよな?俺は快斗みたいにできないから、ちゃんと言ってくれないと快斗の気持ちが分からない」
「うーん……、俺が素直になったら新一の方が大変だと思うけど?」
「?なんでだ?」


 ワケが分からずきょとんとする新一を見て思わず微苦笑を浮かべてしまう。
 自分が素直になってしまえば、新一は高校に行けなくなってしまうだろう。
 それどころか事件現場にも行けなくなるかもしれない。
 自分の腕の中に閉じこめて、誰にも会わせたくない。
 そんな気持ちを、快斗はずっと抱いていた。
 とりあえず正直に自分の気持ちを話してみると、新一は苦笑を浮かべてはいるがどことなく嬉しそうだった。


「高校に行けないのと事件現場に行けないのは困るけど。快斗に拘束されるのは嫌じゃない」
「……本当に?」
「当たり前だろう?俺だって、快斗を閉じこめて俺だけを見ててほしいんだから」


 初めて見せた新一の独占欲。
 自分と同じ気持ちなのだと分かり、思わず相好が崩れてしまう。
 華奢な身体をぎゅうぎゅうと抱きしめ顔中にキスの雨を降らせる。


「んっ…くすぐったい」
「もーダメ!これからデートしようと思ってたけど、予定変更!」
「へっ?」
「いますぐ俺の隠れ家に直行!快斗君我慢できない!」
「ちょっ…おい、快斗っ!?」


 愛しい恋人を抱き上げがばりと立ち上がる。
 器用に2つの鞄を持つと、公園から徒歩10分ほどにあるキッドの隠れ家目指して走りはじめた。
 いきなりのことに驚愕する新一は、それでも両腕を快斗の首に回している。


「快斗っ!」
「文句は後でちゃんと聞くから。先に新一のことを堪能させてね?」


 恋人の喜色満面の笑みを見てしまえば、それを拒否することなんてできない。
 それに、新一の身体も快斗がほしいと訴えている。
 う〜と唸りながら快斗の胸に顔を隠して。
 新一は小さく頷くのだった。







 ――――翌日。
 帝丹高校と江古田高校では、ひどく機嫌のいい名探偵とマジシャンの姿があったとか。









夏岐志乃香samaのコメント

5000hit記念フリーSSです。
新一が女装をして快斗をお迎えの巻(笑)
甘甘をめざして書き始めたのに……
甘甘というよりもいちゃいちゃしすぎですね。
しかも無駄に長いし(汗)
「Destiny」並みの長さになってしまいました。
こんな駄文ですが、よろしければお持ち帰りくださいませv

2004.08.25 夏岐志乃香


李瀬のコメント

5000HITおめでとうございますということで、フリーだったお話を頂いてきました。
私も女装話は結構いろいろと書きますが、志乃香samaのはとっても甘いんですよ。
紅子さんがいい味といいますか、いいところとってますし。
もっとイチャイチャしちゃって下さい。
素敵なお話どうもありがとうございました。これからも頑張って下さい。



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