携帯電話の目覚ましの音が耳に届く。
もうそんな時間なのかと必死に目を開こうとするが、意識は眠りの淵へと戻されていく。
引きずられるように頭の中で、ま、いっか…という考えが浮かんだ。
だが、ふと思い浮かんだ顔にばちっと目が開く。
くるまっていたブランケットを剥ぎ慌てて身体を起こすと、すでに7時半を過ぎていた。
「やっべ!もうすぐ蘭が迎えに来るじゃねぇかよっ!」
新一は寝乱れた髪をくしゃりとかき混ぜながらバタバタと行動をはじめた。
怒らせると怖い幼馴染みは、学校をサボりがちな新一のお迎え役を進んで引き受けていた。
とはいっても、それは高校に入ったときとはまったく変わっていない光景。
しかし、1年半ぶりに見る光景。
黒の組織を潰して新一が元の姿に戻ったのはちょうど1週間前のことだった。
■ START ■
「新一!早くしなさいよっ!!」
「っるっせーなー。朝メシぐらいゆっくり食わせろよ」
工藤邸の前を通り過ぎようとした灰原は、言い合うような会話を耳にして思わず足を止めた。
門の前から玄関に視線を移すと、眠そうな表情で制服のブレザーを羽織る名探偵と、彼の鞄を持っている幼馴染みの姿がある。
元の姿に戻っても彼女に世話を焼かれる彼を見て灰原の口元に苦笑が浮かんだ。
するとあくびをしながら顔を上げた新一と視線が合った。
「お?灰原、学校か?」
「ええ。おはよう、工藤君」
「はよ」
「おはよう、哀ちゃん」
「……おはようございます」
挨拶を交わしていると新一の後から蘭が声をかけてきた。
彼女に対する苛立ちや苦手意識は、以前よりは少なくなっている。
だが、少なくなっているだけであって、それが消えたわけではない。
少しの間を置いて挨拶を返した灰原に、新一は瞳を細めただけで何も言おうとはしなかった。
しかし、彼が何を言いたいのか分かっている。
そしてそれが灰原を心配しているからこそだということも。
(でもね、私は貴方以外の人に興味はないのよ。どこかの怪盗と一緒でね……)
心の中で呟くと同時に、そういえば…と白い怪盗のことを思った。
悲願を達成した怪盗は、あれからずっと姿を見せていない。
密かに恋心を抱いている名探偵宅にも現れていないようだ。
そのせいで、新一の表情に寂しさが宿っているとも知らずに。
「まったく…。さっさと行動に移さないと私がかっさらうわよ?」
「は?なんか言ったか?」
「なんでもないわ。じゃあ、送ってくれてありがとう」
「おう。アイツらにヨロシク」
小さく頷くと新一の表情にかすかだが笑みが浮かんだ。
元の姿に戻っても小さな同級生達のことが気になるらしい。
無茶ばかりをする彼らだから尚のこと心配なのだろう。
さりげに自分のことを棚に上げていることには気づいていないようだが。
「貴方の方こそ無茶しないでほしいわね」
ストッパーがいない状態では何をするか分からないんだから。
小さく溜息を吐いた灰原はどうしたものかと考えながら、探偵団たちが待つ教室へと足を向けたのだった。
あの日は月がとても綺麗だった。
授業中、教師の声を子守歌代わりに聞きながら新一はぼんやりと窓の外を眺めていた。
元の姿に戻ってから頻繁に思い出すのは組織に乗り込む前日のこと。
協力者として姿を現した怪盗と過ごす、最後の夜。
闇夜に浮かんだのは綺麗な満月だった。
月を守護者とする怪盗は、月明かりの下、無表情でこちらを見つめていた。
そして――――
『明日で決着がつく。協力者としての関係も今日までですね、名探偵』
『……そうだな。明日で決着がつく。お前はお前の目的のために、俺は俺の目的のために。そういう約束だったからな……』
自分たちの目的を遂行するために、協力者という関係を築いてきた。
それもこの日限りで終わる。
怪盗は父親を殺した者たちを屠るため、新一は元の姿に戻るため。
そのためだけに半年という期間を費やしてきたのだ。
組織を潰せばお互い偽りの姿から元の姿に戻るだけ。
日常ではなんの関わりもない2人が邂逅することはないだろう。
それは分かりきっていたことなのに。
(本当は……元の姿に戻っても、お前との関係を続けていたかった。叶わないことだと分かっていても、そう願わずにいられなかったんだ……)
探偵と怪盗。
偽りの姿で対峙した時から、新一は怪盗に恋心を抱いていたのかもしれない。
それに気づいたのは組織に乗り込む前夜。
大事な日を前に自分の気持ちを伝えることなんてできるはずもなく。
新一の淡い恋心は、心の奥底に封印されたままだった。
しかし頭の中には白い幻影が住みついたまま。
消えろと願ってもそれは消えることなく新一の心を掻き乱す。
「バ怪盗…。俺の心を勝手に盗んでいくんじゃねえよ……」
終わってしまった関係は、もう元には戻らない。
雲一つない青空が眩しくて、新一はゆっくりと瞳を閉じた。
「…ん…いち……」
「ん……?」
誰かに呼ばれた気がして目を覚ます。
ぼんやりと顔を上げると、そこには仁王立ちの幼馴染みの姿があった。
彼女の怒りが最高潮にあるのを感じて新一の口元がヒクつく。
逃げだそうにも蘭の隣には面白そうな表情を浮かべる園子が立っている。
退路を断たれた新一は蘭の怒りを一身に浴びるしかなかった。
「復帰1日目だっていうのに、なに居眠りしてんのよっ!アンタなにしに学校へ来てんのっ!?」
「……さぁ?」
子供のように首を傾げる仕草は男だというのに可愛らしい。
教室に残っているクラスメイトたちは、目撃したその仕草に頬を染めた。
天然タラシは健在ね……
園子は心の中で呟きながら久しぶりに見る幼馴染みたちのやりとりを楽しげに見つめていた。
「さあって!ちょっと新一!?」
「うるせぇ、蘭。ンなにカリカリしてると男に嫌われるぜ?」
「余計なお世話よっ!アンタこそ、そんな自堕落な生活送ってたらお嫁さんなんか来てくれないわよ!」
「…コヤツの所に嫁にいく物好きなんて蘭ぐらいじゃないの?」
「ちょ…っ////園子っ!」
夫婦漫才が親友同士の漫才に変わるとクラスメイトたちが苦笑しながら教室を去っていく。
部活に励む者、友達と帰路に帰る者。
それを見つめる新一の眼差しには優しげな色が浮かんでいる。
穏やかな生活がようやく戻ってきた。
望んでいた生活がようやく戻ってきたというのに――――
どうしても求めてしまう、白い幻影を。
彼の、真実の姿を。
「……お前に逢いたいよ。――キッド」
掠れた声で呟かれた言葉は風に乗って空へと飛んでいく。
この気持ちも飛んでいけばいいのに。
そんなことを考えてもしょうがないとばかりに、新一は鞄を手に持ち立ち上がった。
そうして未だに漫才を続けている幼馴染みに声をかける。
「お先に」
「ちょーっと待ちなさい、新一!」
「そうよ、新一君。逃げるなんて許せないわ」
「……誰から逃げるんだよ」
立ちはだかる彼女たちに思わず溜息を零してしまう。
園子の言葉につっこみながらも視線は逃げ道を探していた。
しかし自分の席は窓際であるため、蘭たちがその場を去らない限り逃げることはできない。
がっくりと肩を落とし疲れたように顔を上げた新一は、投げやりな態度で彼女たちに問いかけた。
「で?今日はどこに付き合えばいいんだ?」
「さすが新一君えね!話しが分かるわ〜♪」
「杯戸ショッピングモールにアウトレットのお店が入ったの」
「へーへ……」
鞄を肩にかけながら嫌そうに歩き出した新一の後を、蘭と園子は慌てて追いかけた。
彼の気が変わらないように両脇を確保しなければならない。
「警察から連絡がない限り逃げねぇから、両脇を固めるのはやめろ」
「ほんっとーに逃げないのね?」
「逃げねーっつーの。ったく……」
園子が訝しげに念を押すと、新一はぶつぶつと文句を言いながらも頷いた。
それにようやく安堵した彼女たちは、新一の一歩後を歩きはじめる。
米花駅に近づくにつれ多くなっていく人たちにげんなりとしながら。
頭の中では白い幻影がゆらゆらと揺れていた。
予想したとおり、杯戸ショッピングモールは人混みで溢れていた。
それを気にすることなく、蘭と園子は嬉々としてフロアを歩いていく。
ここへ来てからすでに10件以上の店を覗いている彼女たち。
買いたいものが決まらないのか店を転々と移動していた。
それについていけない新一は疲れたように身体を引きずっている。
元に戻るための解毒剤のせいで、以前よりも体力が落ちてしまったのだ。
おかげで少し走っただけでも息切れがしてしまう。
これでは犯人を追いかけるときに苦労しそうだと苦笑を浮かべた。
店の前でそんなことを考えながらぼんやりしていると、さぁ…っと血の気が下がるような感覚に陥る。
(やべっ…貧血……ッ!)
目の前が真っ暗になり、何かに縋ろうと手を伸ばす。
すると暖かいものが伸ばした手を握りしめ、次いで力強い腕が腰に回るのを感じた。
ほっと息を吐いて助けてくれた人に礼を言おうと顔を上げる。
しかし、目の前は未だ真っ暗で回りの雑音が耳に入るだけ。
遠くから蘭の声が聞こえ、そちらに顔を向けようとした――その時。
「もう少しじっとしてて。貧血だろうから、大人しくしてれば大丈夫だと思うけど……」
「――――ッ」
耳元に囁かれた言葉に、声に。
新一の瞳が見開かれた。
忘れるはずがない、ずっと聞きたいと思っていた声。
寂しさのあまり作り出してしまった幻聴かと思いそっと手を伸ばす。
触れたのは顔なのだろう。
ゆっくりゆっくりと輪郭を辿り、ぺたぺたと相手の顔に手を這わす。
相手は新一の仕草に文句を言うこともなく大人しくしていた。
どことなく苦笑を浮かべているような気がするが、内心でひどく動揺している新一は気づいていない。
一通り確かめて、首筋を通って肩に手を這わせていく。
過去に一度だけ、じっくりと確認したことのある感触を思い起こしていく。
引き締まった身体、幅のある肩。
どこに触れても記憶に残っているものと一致する。
徐々に視界が回復していく中、同時に新一の瞳が透明な雫が溢れはじめた。
「ちょっと新一!大丈夫なの…って。新一?なんで泣いてるのよ」
ようやく駆けつけた幼馴染みの声が、焦りを含んだものから呆れたものへと変化する。
彼の涙を見たのはかれこれ昔のことなので内心では驚愕ものだった。
それは園子も同じだったようで、珍しいものを見たわと驚いている。
しかし、彼女の『いい男センサー』がすぐさま稼働するや否や、園子は瞳をきらんと光らせた。
「いい男はっけーん♪その制服は…江古田高校ね!」
「ははは…そうだけど。彼、貧血起こしてるみたいだから……どこか休ませる場所ないかな?ここにいても具合が悪くなるだけだろうし…」
「そうだったわ。確かこのフロアに休憩所みたいな所があったわよね?」
「ええ、ここから近かったような気がするけど……」
江古田高校の制服を着ている男は腕の中でぐったりとしている新一に視線を移したまま彼女たちを促した。
我に返った蘭はきょろきょろしながら園子へと問いかける。
園子もフロアを見回しながら休憩できる場所を探していた。
とそこへ、可愛らしい声と共にセーラー服を着た少女が姿を現した。
「快斗!ようやく見つけたっ!もう…どこほっつき歩いてたのよぉ」
「おめぇがさっさと行っちまうからだろうが。それよりも青子、どっか休憩出来る場所知らねぇか?」
「そこのエレベーターの側に小さな休憩所があったけど……。珍しいね、快斗が休憩だなんて」
少女は男の側に立っている蘭と園子には気づいていないらしい。
きょとんとした表情で男を見やり珍しいとばかりに首を傾げる。
男は呆れた表情を浮かべながら、動きを止めてしまった新一の身体をひょいっと抱き上げた。
その軽さに男は思わず眉を顰め思わず新一を凝視してしまう。
すると信じられないとばかりに瞳を見開く蒼と視線がかち合った。
貧血の所為で真っ暗になっていた視界が戻ったのだろう。
ポーカーフェイスの得意な彼が、驚愕をあらわにして自分を見つめている。
内心で歓喜しながら、快斗と呼ばれた男は休憩所へ向かって歩き始めた。
その後を蘭と園子が追いかけていく。
もちろん、青子と呼ばれた少女も一緒だった。
青子は蘭たちの隣を歩きながら首を傾げていた。
そしてなにかに思い当たったのか瞳を輝かせて蘭に問いかける。
「ねえねえ、快斗が抱き上げてた人ってもしかして工藤新一君!?あの高校生探偵の!」
「そっ…そうだけど。あの、貴方は?」
嬉々として問いかける青子に思わず後ずさりそうになった蘭は、それでも小さく頷いた。
すると青子はさきほどよりも瞳をきらきらさせてうっとりと瞳を細める。
「私、中森青子っていうの。いや〜んv本物の工藤君に会っちゃった〜v快斗に感謝しなくっちゃ♪それにしても工藤君って美人さんなんだね〜。目の保養になるな〜v」
「貴方もそう思う!?アヤツ、前からフェロモン垂れ流してたんだけど、休学から復帰してますます美人になっちゃったのよ!しかも色気のおまけつきでっ!」
「そうよね!青子も新聞とか見て思ったけど、工藤君色気が漂ってるよね!」
何故か意気投合してしまった園子と青子は立ち止まって話しをはじめてしまった。
置いていくわけにはいかないが、新一の具合が気になる蘭は彼女たちを置いて男の後を追いかける。
ようやく追いつくと、男は備え付けのベンチに新一を寝かせて額に張り付いている髪を払っていた。
その眼差しがとても優しくて、愛おしそうで。
蘭は思わず頬を染めてしまう。
よくよく見ると、新一の表情もどこか安堵の色が浮かんでいて。
もしかしてお邪魔なのかしら…?と思いながらも、とりあえず声をかけてみる。
「新一?具合、どう?」
「さっきよりは楽になった。悪かったな、蘭」
「私に謝ってどうするのよ。それよりも、この人にお礼言ったの?」
「礼なら移動の最中に言われたよ。ところで、俺の連れ知らない?」
苦笑混じりの男の言葉に、本当かしら?と訝るがどうやらそれは本当らしい。
そうして問いかけられた言葉に、蘭はぽん…っと手を叩いた。
「彼女、私の連れと意気投合しちゃったの。多分これからお茶しながら語り合うと思うんだけど……」
「じゃあ、アイツ任せても構わないかな?女の子同士の方が買い物もしやすいだろ?」
男の言葉に蘭は思わず頷きそうになった。
新一を連れて歩くよりも、彼女と一緒の方が気兼ねなく買い物できるだろう。
だが、未だに顔色が悪い新一を放っておくことなんて蘭にはできない。
どうしよう…とぐるぐる悩んでいると、男が苦笑を浮かべたまま提案を持ちかけてくる。
「彼は俺が面倒見てるから。回復したら家まで送るから、遠慮しなくてもいいよ」
「え……でも……」
「蘭…、俺はいいから。園子が暴走する前に行ったほうがいいぞ」
「そう…だね。じゃあ、よろしくお願いします」
心配そうに新一を見つめながらも、蘭はお言葉に甘えてその場を去っていく。
残された新一は先ほどから髪を梳く大きな手の感触にほぅ…と息を洩らした。
どことなく安心している新一を見て、快斗の口元に笑みが広がる。
「以前よりも細くなってない?ちゃんとご飯食べてるの?」
「……食ってる」
「嘘ついても俺には分かるんだけど?名探偵」
久しぶりに『名探偵』と呼ばれ新一の鼓動が高鳴る。
クラスメイトたちや灰原は新一のことを『工藤』、『工藤君』と呼ぶ。
両親や幼馴染み、お隣の博士は新一のことを『新一』と呼ぶ。
大阪の探偵は新一が小さくなっているときも今も変わらず『工藤』と呼ぶ。
しかし、彼だけは新一のことを『名探偵』と呼んでいた。
それは元の姿になっても変わらない。
変わらないことがとても嬉しく、そして悲しくもあった。
日常で出会っても、自分たちの関係は変わらないのか…と。
その思いが、自覚のないまま表情に表れていたらしい。
快斗の表情がどこか困惑したものに変わる。
「そんな表情されたら、俺、自惚れちゃうんだけど?」
「…?」
言葉の意味がまったく理解できない新一は瞳を瞬かせた。
きょとんとした表情は幼く、快斗は内心で胸をドキドキさせる。
(めいたんてー……そんな無防備な顔されたら理性が崩れちゃうじゃないか〜(汗))
実は、『怪盗キッド』なんぞをしていた快斗は、名探偵が偽りの姿をしていた時から彼にメロメロだった。
協力を申し出たのも、無茶をしかねない彼を心配してのこと。
それが理性との戦いになることも知らずに。
(にしても…今日はすっげぇラッキーだったな。こっちから接触する前に名探偵と遭遇するなんてv)
告白をするなら総てが終わってから。
そう決めていた快斗は組織を潰して一段落してから、彼を手に入れる計画を綿密に立てていた。
その所為で彼の家に寄りつきもせず、新一に寂しい思いをさせていたと知るのは数ヶ月後のこと。
ドキドキしながら今がチャーンス!とばかりに自分の気持ちを口にする。
「寂しそうな表情されたらさ、この腕に閉じこめて一生離したくないって思うじゃん」
「な、…んで?」
「新一のことが好きだから。好きな人が寂しそうな顔してたら自分が慰めたいって思うし、一度抱きしめてしまえば離したくないって思うよ」
「……うそ」
「ホント。俺は新一が偽りの姿でいた時から、ずっと新一に恋してた。新一が欲しくてたまんなかった」
思いもよらぬ快斗の言葉に、新一は横たわっていたベンチから身体を起こした。
信じられないとばかりに快斗を凝視する。
その様子に苦笑を浮かべながらも、快斗は新一の目の前に右手を差し出した。
そうしてぽんっ…と音をたてて白い薔薇を出現させる。
驚きに瞳をぱちくりさせた新一を可愛いなぁ〜と思いながら、その薔薇を愛しい人へと手渡した。
反射的に受け取ってしまった新一はまじまじと薔薇を見つめる。
忘れるはずがない、この白い薔薇は彼と会うたびに渡されていた薔薇だ。
「ほん…と…に?」
「ん?」
「ほんとに…俺のこと?」
子供のような言いぐさに頬を緩めながら快斗は新一の問いに答える。
それは、新一がずっと望んでいた言葉。
「黒羽快斗は工藤新一のことを愛しています。……真実はいつも一つなんだろ?」
「……ああ」
新一の口癖の言葉を口にした快斗に、新一は泣きそうな表情を浮かべて頷いた。
真実はいつも一つ。
快斗の真実が心の中に染み渡る。
零れ落ちそうになる涙を必死で堪えていると、瞼に柔らかいものが当てられた。
快斗の唇が新一の涙を拭ったのだ。
「『怪盗キッド』と『江戸川コナン』の関係はあの夜に終わったけど。『黒羽快斗』と『工藤新一』の関係は今からはじまるんだよ」
終わったと思っていた関係。
しかし、今この時から新しい関係を築いていく。
彼らはようやくスタートラインに立ったのだ。
恋人という関係を築いていくスタートラインに。
快斗はもう一度新一の瞼に口づけて、悪戯っ子のような表情で新一に問いかけた。
「新一は俺のことどう思ってる?」
「へ…?」
「新一は、俺のこと好き?」
「え……////もう分かってんじゃねぇのかよ……」
気持ちを口にすることが出来ない新一は顔を真っ赤に染めて俯く。
しかし頬に手を添えられて強引に顔を覗き込まれてしまう。
藍色の瞳がまっすぐに新一を見つめていた。
恥ずかしさに新一は視線を逸らしてあーだのうーだの、意味不明の言葉を呟いてしまう。
けれど、決心が付いたのかおそるおそる顔を上げて――――
「俺も快斗のことが好きだよ。ずっと好きだった……」
気持ちを口にすると、真っ赤な顔を見られたくなくて顔を俯かせてしまう。
愛しい人の嬉しい言葉に、快斗の顔はでれでれと緩んでしまう。
隣に腰を下ろしぎゅっと抱きしめると、背中に腕が回された。
服を掴む感触が愛しくて愛しくて。
自分の胸に顔を埋めている、できたてほやほやの恋人にそっと囁く。
「これからは一緒に駆けていこう。2人でスタートを切って、果てなきゴールへと歩んでいこうね」
「ああ…。そうだな」
呟きを返して新一はそっと顔を上げた。
幸せいっぱいの表情を浮かべる快斗を見ると、心の中がほんわかとしてくる。
叶わない願いだと思っていた。
でも――――
これからは彼が傍にいる。
新一の心の中に封印されていた思いはようやく解放され、幸せという名の華をさかせたのだった。
お隣の少女から、バカップルの誕生ね……、と溜息を吐かれるのは数時間後のこと。
サイトオープン記念フリーSSです。
意味不明な駄文になってしまいました。
しかも題名と内容が噛み合ってないし。
ラブラブな話しが書きたかったはずなのに…。
どうしてシリアスになってしまうのよ。
しかも新一サン、若干乙女入ってるし…
こんな駄文でよければお持ち帰りください。
2004.08.01
夏岐志乃香
コメント++++
さっそくお持ち帰りしちゃいましたとも、志乃香sama
新一さんが可愛いんですよ。私じゃ、あそこまで可愛いく書けませんよ。
天然は入りますが、なかなか難しいんですよね。
偶然が続けば、間違いなく必然という運命ですよ。
それにしても、新一も苦労しているようですね。快斗は苦労に入るか謎だが。
女性は強いんですよね。そんな彼女達が好きですよ。
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