◆秘め事のはじまり

 

 

一目見て、彼女に惹かれた。どうしてかはわからないけれど。

今日から上司になる美和子と話をして、彼女の父親に連絡を入れた。

「はい。どちら様?」

「黒羽と言います。美和子さんから優希さんのことで・・・。」

「おや、黒羽ということは快斗君かな?」

「そうですが?」

何故知っているのだろうという疑問を口に出す前に相手が答えを与えてくれた。

黒羽盗一と友人で、かつて快斗自身とも会った事があるというのだ。

なら、話がはやい。そう思ったが、それ以上にこの人は厄介な人だと知る事になった。

「そうそう。二代目ということはもう優希に話したのかい?」

「・・・何のことでしょうか?」

「怪盗KIDのことだよ。私は初代怪盗KIDと悪友だったからね。」

かすかに聞こえる笑う声。身近なところで父を知る、それも夜の姿も知る人物が現れた。

見方がいるということはうれしいけれど、この人はなんだか微妙と思えるのは何故だろうか。

とりあえず、今日優希に会った事と、美和子とも話をして、まずは優希の生活習慣の見直しから始める為に、住み込みバイトをさせて下さいとお願いしたところ、あっさり許可がもらえた。

普通、男が娘の住む家に泊まりこみと言えばどうなるかは予想できていたのだが・・・。これは拍子抜けだった。

「実はだね、先日思い切りたくさん新作や手に入った本を送ったのだよ。」

それが意味することがなんとなく見えてきた。

「連休。きっと読み老けて徹夜して睡眠も食事も疎かにするだろうからね。」

まったく困った娘だよ。はははと笑う男こそ、困った人間だと思ってしまってもしょうがないと思う。

「まぁ、最初はごねるだろうが、たぶん君なら大丈夫だよ。」

その自信がいったいどこから出るのかわからないが、とりあえず許可は得たのでまた連絡すると言って電話を切った。

「本当にいいのだろうか?」

今更ながら、あまりにも上手くいきすぎて、怖い。何しろ、あの人は狸だと思うからだ。

後日、優希からも父親は狸と聞き、苦笑するしかなかったりする。

「とりあえず、行きますか。」

速攻で届けられた鍵を使い、玄関を入る。

何とも、広い家。とても静かで、一人では寂しくはないのだろうか?そんなことを考える。

ずっとこんな家で彼女は過ごしてきたのか。そう思うと、彼女の父親があっさり許可を出した理由がわかった気がした。

知り合いの息子で何をしてるか知っている上で信用してくれただけでもうれしかったのに。

「本当、あの人は狸だな。」

彼女のためとしても、反対に自分が喜ばされたという事実。

これはしっかりとお役目を果たさないとと決意を新たにする。

「まずは簡単に掃除でもしますか。」

きっと、使う場所以外は埃をかぶっているだろうから。