夏も終わり。だが、まだ名残で暑さは残るこの日。 夏休みを終えた学生達が登校を始める。 「ここね。」 少し癖のある長めの茶髪を耳にかけ、一人の少女が門を潜った。 大きな秘密と問題を抱え、新学期は始まるのだった。 だが、まだ誰一人として気付く者はいない。 新たな秘め事の予感。 新学期の秘め事 放送で、新学期の朝礼を行うということで体育館へ集まる指示が出される。 すでに噂でこの時期には珍しい転入生の話題があがっていた。 「何でも、人形みたいな綺麗な女の子みたいよ。」 「・・・いつも思うけど、どこからそんな情報持ってくるの?」 「園子様にかかればこんなものぐらいちょろいわ。」 はっはっはと笑う園子に苦笑する優希と蘭。 男と目新しい情報に関しては、たぶん優希の情報網を持ってしても園子には負けるだろう。 もちろん、犯罪に関する情報は優希の方が上だけれども。・・・と、こんなことで張り合う必要なないが、それほどまでに行動力がすごいなと思う優希だった。 優希の周囲からすれば、無駄とも言えるような知識や犯罪やゲームに関する知識は警察より上よという意見だが。 「で、園子様として気になるのは、彼女、経歴が不明なのよ。」 「・・・。」 どうしてかしらねと呟く園子を他所に優希は少し焦っていた。 また、命を狙う闇の使者なのだろうか。だが、経歴不明と周囲に知らせるようなへまはしないだろう。いったい、何が目的か・・・。 思い出すのは、数日前に訪れた紅子のこと。 『新たな風が吹き、災いと共に救いもまた現れる』 すでに、何かが動いているのだろうか。様子を見る必要がありそうねと、人に紛れて歩く。 その様子を少し離れた場所から見る二つの視線。 これからいったい何がはじまる・・・? そんな何だかもやもやした気持ちのまま、体育館へと入る。 そして、始められた始業式。校長の挨拶や簡単な説明や進路など話し終えた後、最後になって紹介された。 体調不良で出れない教師の変わりに短期だが就任した英語教師と転入生の紹介。 美人と美少女の登場に周囲がざわつく。 そして、ふっと少女と目線が合う。にっこりと微笑むが、それが『仮面』であることに優希は気付く。だが、何も言わず、目線を逸らす。少女の方も目線を逸らしたようだったからほっとする。 だが、すぐに見られているのに気付き、再び顔をあげる。 視線が合う・・・異国の不思議な女と。 何かの警告だろうか?何故か胸騒ぎがしてしょうがない。 少し不自然ではないように目線をそらして再び彼女達を見たときは、二人とも違う方向を見ていた。 だが、優希は気付いている。彼女達がただの一般人ではないことに。 この事が紅子が言いたかったことだろうか? 快斗のいる方をちらりと見ると、暢気にあくびをしている。もしかして気付いていないのだろうか。 いろいろ考えている間に始業式は終わり、教室へと向かう。 「本当に綺麗な子だったわね。もちろん、優希の方が綺麗だけど。」 半年は一緒になるクラスメイトだからいろいろ聞かないとと張り切る園子の言葉に、えっと反応してしまう。 「何?聞いてなかったの?」 「あ、うん。」 「まったく、相変わらずね。興味ないことには耳も貸さないんだから。」 まったくと大げさな手ぶりで呆れる園子の横で、優希らしいと笑っている蘭。 この二人に手出しさせないようにしないといけないと二人に気付かれないようにごめんと返事を返して教室へと入っていくのだった。 その様子を紅子は見ていた。 「・・・貴方が望む出会いとはどれを指すのかしらね。」 すたすたと、逆方向へと紅子は歩き出した。自分が担任となる教室へ向かう為に。 一時間ほどHRをして解散となった今日。ずっとクラスメイトに群がられる転入生。名前は月城里杏というらしい。いろいろ質問されている様子はどこにでもある光景で、先程の感じた何かがまるで嘘のようだった。 だから、気のせいかもしれないと思い優希も園子達と教室を出る。その様子をちらりと見た里杏には気付かない。 「それにしても、聞いた話だと月城さんすごいわよ。」 かなり興奮気味の園子にちょっと近寄りがたい気がするのは気のせいではないような・・・。 「帰国子女で、経歴不明扱いなのは両親が何者かの手によって殺されたことで、あまり騒がれたくなかったからみたいなのよ。」 それを聞いて変だと優希は思う。騒がれたくないのなら、なぜわざわざ言う必要があるのか。 「何でも、弟もいたらしいけど、彼は病で亡くなったらしいわ。」 「病?」 「そう。何だっけな。普通は治る病であったのに、タイミングが悪かったというか運がなかったというか・・・。助からなかったみたいよ。」 この話だけは、聞いてはいけないことを聞いてしまったわとしょげる園子。 「ねぇ。その弟さんの名前聞いた?」 「ん?聞いてないわよ。だって、思い出させるの悪いじゃない。」 とても仲がいい姉弟だったらしいからと言われ、さらに違和感を覚える。何の違和感なのかはまだわからないけれど、どうもひっかかるのだ。 「で、新しい英語教師だけど、優しくて美人で英語ペラペラ!もう、欠点なしのいい女って感じ。」 小泉先生とはまた違う魅力を持った人で、今は黒羽先生の恋ライバルとまで噂されてるわよと、快斗が聞けば絶対ありえないと答えるような噂が飛び交っているらしい。 その事に関して、紅子と仲いいので噂の対処大変そうだなと、あくまで他人ごとな優希の態度に、噂以上に何も認識されていないのねと快斗は凹んでいただろう。 「そうそう。明日から学園祭の為に活動するからね。」 「・・・はぁ?」 言われた事がまったくわからず、少し間を開けて間抜けな声をあげてしまった。 「何?また聞いてなかったの〜??」 「え、今日そんな話してないじゃない?」 「優希、夏休み入る前のHRでの話しよ。」 横からフォローなのか何なのか、かなり昔のことに思える一学期最後を思い出すように言われてしまった。 そういえば、今年は何でも商品が出るらしく、園子が張り切っていたことを思い出した。 「蘭王子と優希姫のラブストーリー。これは傑作よ!」 「・・・はぁ?」 「ちょっ・・・園子っ!」 そんなの聞いてないと言わんばかりに二人から見られても園子はお構いなし。さすがはわが道を行くお嬢様。 「私は表舞台には・・・。」 「文化祭ぐらい協力しなさい!」 「・・・でも、その設定は・・・。」 「あら?ならもっといいものあるってわけ?」 「・・・。」 ちらりと横にいる蘭を見る。どうやら諦めているようだ。だが、ここは逃げなければまた変なの(両親とか)がわいてでる!←少し失礼 「じゃ、じゃあ、せめてちょっとミステリー系で・・・。」 「文化祭まで血みどろ事件とか嫌よ。」 「うっ・・・せめて、ラブストーリーじゃなくてミステリー系で・・・。」 「・・・ま、いいわ。優希がやってくれるのならミステリーでも何でも!」 やった、妥協してくれたと喜んだのもつかの間のこと。 「今宵最大のミステリー!呪われた館の殺人事件の真相を探る女探偵と館の主人蘭との恋物語よ!」 がくっとなる。何故そんな設定に走るのだ?!結局ラブストーリーに走るの?!園子の頭の中はどうなってるのよと思っても誰も文句言わないだろう。いや、言わせない! 「蘭も女の配役の方が・・・。」 「だって、蘭以上に王子となる相手役に相応しい人物なんていないんですものっ!」 そう、これこそ究極の物語よとかなりやる気になっている。なんだか、余計な内容を増やしただけで、結局止めることはできないままだった。 「優希。無理しない程度に、学園祭、出席してよね。」 「蘭・・・。」 蘭も優希と一緒に作るクラスの出し物を楽しみにしている。だからこそ事件に取られるのは腹立たしいけれど、体調が優れないのならしょうがないと思っている。でも・・・と思うのだ。 こうやって一緒に過ごす時間は、きっと少しずつ少なくなっていくだろうから。 「今年は一緒にやろうね。」 そうやって笑顔で言われたら、絶対嫌ですと言えないではないか。でも、頑張る園子の姿を知らないわけではないので、今年は出てもいいかなと少し思ってみたり。 ただし、狸には絶対黙っててやると誓う。その為に、快斗に口止めをしないとと決め、すぐに対処しないとと頭の中で予定を考える優希だった。 二人と別れた後、次の角を曲がったら自宅が見えてくるというところで、今日見た少女の姿を発見した。 優希にはまだ気付いていないのか、真っ直ぐ歩いていく。 視線があったときの違和感と好奇心からか、つい後をつけていた。 そして、見てしまった。 「わざわざ死ににくるようなものなのに・・・馬鹿ね。」 銃声が数発撃たれる。感じるゾクリとする、闇の者独特の気配。 少女は振り向き、優希へと銃口を向けた。そして、それは撃たれた。 一瞬の出来事がスローのように風が通りぬけるのを感じた。 優希のすぐ頬を通り、背後から襲いかかろうとした男の持つ銃を弾いた。 そう、先程の銃弾も全て目の前にいる男達から武器を奪うために放たれ、誰一人として傷つけてはいない。 「彼女には指一本触れさせないわよ。」 にやりと笑みを浮かべ、少女は一気に距離を近づけたと思ったら、確実に急所を狙って肘や膝や手で男達を片付けていった。 そして、少女は銃をしまいこみ、優希の側へ一歩、また一歩と近づいた。 「こんにちは、はじめまして・・・。」 にっこりと見せる人懐っこい笑み。だが、違和感があるそれ。先程の闇の気配とかぶっているそれ。 「工藤優作氏の子女、優希さん。月城・・・いえ、ディアーナと申します。以後お見知りおきを。」 再び、思い出す『魔女』の予言 『新たな風が吹き、災いと共に救いもまた現れる』 差し出される手に応じる事ができず、少女の顔と手を交互に見ていることしかできなかった。
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