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朝のはやくから、携帯の着信音が鳴り響く。 着信音で登録相手をわけている優希は、一応大事な知人で登録している音であるため、頭はまだ起きていないがそれをとった。 「・・・はい。」 「優希?やっぱりまだ寝てるか。今からそっち行くからね。」 「園子・・・?」 「起きて用意しときなさいよっ!」 用件だけを述べた賑やかな幼馴染はがちゃりと電話をきった。 そして、幼馴染の言葉を聞いていたのかいないのか、優希は二度寝を始めるのだった。 真夏の秘め事 何故、こんなことになっているのだろうか? 皆さんも一緒に考えましょう。と、現実逃避をしている場合ではない。 自分は確かに家で寝ていたはずなのに、どうして自分は晴れた青空の下で目の前に広がる海を見ているのだろうか。 幼馴染の二人も、お隣さんも、もちろん同居人もここにいる。だが、それ以外はいない。 一応、以前来た事があるからここがどこであるかはわかっている。だがしかし、何故気がついたらここにいるのかが全く理解できずにいた。 「あのー、いったいどうしてここに・・・?」 とりあえず、近くにいる一番いてはおかしい人物・・・快斗に問いかけた。 すると、苦笑しながら優希がほしい解答をくれた。 そう、それは冒頭の朝の電話に遡る。あの後、電話誰だったのかと、不規則な生活をさせないために起こしに来た快斗が問うが、まだ意地でも寝ようとする往生際の悪い優希が、快斗にお姫様抱っこをされながら階段を降りたところ。 ピンポーン 少し前にもあったように、朝からの突然訪問者がベルを鳴らしたのだ。 快斗はそれが誰の気配かわかっていたので、扉を開けた。もちろん、優希を抱き上げたままでだ。 ちなみに、この家にいる説明も何もしていないということもすっかり忘れていて、扉を開けてしまったのだった。 「おはよー、珍しく起き・・・て・・・・・・えっと・・・。」 元気な挨拶とともに皮肉を一言言おうとした園子嬢の笑顔が固まった。もちろん、快斗も固まった。 蘭も何故という感じで驚いている。そこへタイミングがいいのか悪いのか、お隣さんも現れた。 「・・・えっと、とりあえず、中にどうぞ。」 説明するにも立ち話はあれかと思い、快斗は三人を中へ招いたのだった。 そして、優作氏と美和子さんに頼まれて優希の生活習慣を直すために見張る役として派遣されたので、現在住み込みでいることを説明した。最初は驚いていたが、最後には全員で優希の本の徹夜や事件で食事を忘れたりすることをわかっている者同士で、頷き合い、それなら任せるわと二人に頼まれたという内容も一言も間違えずに、しかも声まで変えて説明され、優希はげんなりとしていた。 あー、何故私は気付きもせずに暢気に寝ていたのでしょうか。いつもなら人が来たら気付くというのに・・・。 これだから、見知った気配は駄目だと思う優希。知っているからこそ、大丈夫だと安心してしまう。別にそれが悪いことではないが、いざというとき命を狙う何者かが現れた時遅れをとるようなことになったらなどと、そんな葛藤する。 それがまるで快斗にはわかっているかのように苦笑して優希をふわりと抱き上げた。 「起きたなら行こうか、お姫様。」 優希が起きるのを待っていたのだ。自分もだが、彼女達も。 「あ、起きた。」 「おはよう、優希。」 そこには、大切な人達の笑顔があった。 全員の予定により、二泊三日の今回の旅行?で、宿泊先は鈴木グループが経営するそれはもういくらかかるのだと庶民が思うような立派なホテルだった。 何気にここでパーティがあるらしい。それで、どのみち招待するつもりだったのだと当日に招待状を渡す園子。それが彼女らしいと思う。 何でも、どこかのお偉いさんの誕生パーティと招待状に書かれていた。鈴木財閥会長の知り合いで、誕生パーティの会場を提供したらしい。 「金持ちって暇ね。」 何気に優希も金持ちの部類に入るのだが、本人親の金だと言って使おうとしない庶民派故、お金が無駄にかかるようなこういったことは無駄使いだというのが主張。 そして、毎回園子から金持ちでどれだけ無駄に本買い込んでるのよと突っ込みを入れられるのも日常の光景と化していた。 そんな光景を見て複雑な笑みを浮かべる快斗。また違う優希の一面を見れたのはうれしいが、やはり独占したいという、独占欲が無駄に大きい男なのだ。大人気ないと言われても独り占めしたくて何が悪いというのが快斗の本心だ。 幼馴染達には適わないこともわかっているからとても複雑なのだ。何より、先日ちょっと状況を乗っ取って告白をさりげな〜くしてみたつもりだが、優希はまったくわかっていない様子だったので、結構凹んでいたりする。 そんな快斗をじろっと恐ろしい眼で見つめているお隣さん。気付いているから快斗はかなり居心地悪かったりする。 「・・・できれば睨むのを・・・やめてもらえませんか・・・?」 恐る恐る尋ねてみるが、無視である。無視されるのがまた恐ろしいのも事実で、悲しいかな、優希の後ろに隠れる情けない快斗だった。 そんなやり取りをしながらも、パーティの為に全員正装する。もちろん、そのようなもの用意していないので、園子から借りる。 そして快斗はお隣さんがとても不機嫌だった理由の一つを知るのだった。そう、何を着るかということ。 一時間は普通に経過しただろう。女ってこういうとき長いよなぁと思いながら、四人が出てくるまで外で待っている快斗。 お待たせと現れた四人・・・それは誰が見ても美しい美女の集団だった。 だが、快斗にとっては優希とその他であり、たとえ両手に花だといわれても、優希だけで充分というところ。 「優希・・・絶対普段は自分から着ようとしない服だね。」 「そうね。動くということに対して、機能性が悪いもの。」 そんな感想を述べる優希らしさに笑う快斗。 「さて、お嬢様方、行きましょうか。」 とりあえず、変な虫がついてこないように・・・特に優希につかないように側で見張ってないといけないなと思う快斗だった。もちろん、蘭も園子も志保もその気である。 ただ一人だけ、蘭達綺麗だから気をつけないとと自分の容姿をまったくご理解いただけない少女のみ、外れた事を考えているのだった。 会場はすでに人が集まり、賑やかに会話が飛び交っていた。 普通の一般人なら、華やかさに驚いたり場の雰囲気に飲み込まれてしまったりするというのに、突如現れた五人組はいたって普通だった。そんな五人は一気に注目の的となった。 何せ、鈴木財閥のご令嬢に並ぶ美少女三人と、知る人ぞ知る、マジシャンの快斗。ちなみに、全員見られてるとわかっていても、態度はいつもと変わらない。 こんなことでどうにかなるようなメンバーではないし、何より場慣れしていた。 五人は周囲の視線は無視して、いろいろ食べようと張り切る園子に着いて行く。 そこへ、何人かが声をかけようとしたが、かわされていった。哀れかもしれないが、優希狙いの奴に同情してやる気もないと、快斗は無視していく。 そうして、ある意味チャレンジャーな人達を思い切りどん底へ引き落としてすーっと避けるように開けられたスペースへ五人が集まる。 「何から食べる?」 「園子っ、ケーキばっかじゃない。」 「だって、食べれる時に食べないとね。」 「夕食抜きでケーキ・・・よくやるわね。」 「・・・。」 蘭が止めるも虚しく、お菓子に走る園子。そんな様子を見て甘そうだとげんなりする優希。それはしょうがないだろう。甘い物が苦手なのだから。 「優希。少しは食べなさいよ。」 「わかってる。」 優希の食べなさすぎを知っている志保が釘を刺す。さすがと思う快斗。 そうして、おしゃべりしながら、席について笑ってり怒ったりしながら時間は過ぎていった。 もちろん、メインの誕生日だというお偉いさんは舞台に立って挨拶していたが、快斗も優希も志保も聞いてはいなかったりする。 そろそろ終わるかという時に、急いで部屋に戻るわよと園子に強引に連行される。 いったい何事かと思ったが、答えはすぐにわかった。 「これがメインなのよ。誕生パーティのね。」 ついた部屋の窓を覆うカーテンを全快にする。すると、ちょうど時間だったらしい。 ヒューっという音の後に、ドンと響く音と明るい光が部屋に差し込む。 「花火か。」 「お父さまが花火師に頼んで作らせたものらしいわ。」 夏といったら海と花火よと言って、適当に五人は座る。 「あ、あれって。」 「そう、パンダ。」 パンダの形を描いた花火が夜空にあがった。 「何でも、あの人パンダ好きらしいのよ。」 いまいちよくわかんない人なんだけどねと言いながら、最後の派手な連打の花火まで五人は鑑賞するのだった。 蘭と園子は隣の部屋でこの部屋に優希と志保が残った。 もちろん、快斗は反対の隣の部屋にいった。 「黒羽先生と一緒の方が良かったかしら?」 「別に。」 以前一緒に布団で寝ているのを目撃されたという事実を知っているので、言われて何を指しているのかわかった優希は違うもんとむっとむくれながら返事を返す。 「それにしても、貴方、人が側にいて眠るのはあまりないんじゃないの?」 「うーん、そうだけど・・・。」 だけど、快斗は側にいても何の違和感もないし、むしろ安心するのだ。やはり、空気が盗一に似ているからだろうかとも思ったりもしたが、やはりあれは快斗のもので似ているが違う。 もしかしたら、お互い同じ危険な位置のいるもの同士で、背中を預けられるライバルであるからかもしれない。そんなことをポツリと零す優希。 「そう・・・。」 優希が望むのなら、何も言わないでおこうと決める志保。快斗も、優希に無理やり何かするような人間でないことはすでにわかっているから、学校にいる迷惑な二人に比べればましだから認めたというところもある。 「なら、夜更かしせずに寝てもらうために黒羽先生呼んで来ようかしら?」 「え、それはやめて。」 ちょっと焦る様子から、どうやら本を読む気でいたなとふむ。なぜなら、あの鞄の中に本が入っているのを知っているからだ。 もちろん、用意をしたのは快斗であるし、時間の合間に暇をしないようにと用意されたものであることは知っている。だから、本当に合間の待ち程度として一冊しか本は入っていない。 「ま、いいわ。とにかく、今すぐ寝なさい。」 「・・・はい。」 夜更かしを諦めるのだった。 そして、次の日も海に出てやけくそで園子と泳ぎの対決をしたり、ばてて快斗に抱き上げられて影まで避難したりなど、いろいろ時間は過ぎ、あっという間に帰宅するのだった。 夏もそろそろ終わろうとしている。 だが、その合間に少しずつ何かが動いているのも事実である。 |