一学期の成績をつける為に、慌しくなっていく学園内 試験まであと一週間 勉強を疎かにしていた者達が叫びをあげている だが、ここに試験前でも暢気な学生達がいた 「ねぇ、夏休みのことだけど。」 「気が早いわね、園子。」 「だって、先に予約しておかないと、優希ったら事件ですぐにいなくなっちゃうんだもの。」 「確かにそうね。否定できないわ。」 「でしょ?!」 「優希はいつも不規則な生活してるものね。」 「怒らないでよ、蘭。」 と、すでに夏休みの話をしていたりする そんな彼女達は、提出課題は全て終わり、提出済みだったりする 夏風邪にご注意 最後の体育の時間。水泳であったのだが、じゃまくさかったことと、かなり快斗に駄目と言われた為に見学していた優希。 どうして駄目なのかはまったくわかってはいないが、園子達はそれが一番いいわと言って、入れとは言わなかった。そのくせ、夏は海よと誘う気満々だったりする。 優希の水着姿を見せたくないということと、園子達が行く場所なら他の誰にも見られることはないということがわかっているからである。 しかし、自分の容貌に無関心な優希はわかっていなかったりする。 授業が始まって数分。暑いので、やっぱり入れば良かったと思いながら、優希は青い空を眺めていた。 そして授業が終わる頃、やっぱり風邪かなぁと、体調が悪いのに気付く。ふらふらするから、保健室にでも行こうかなと暢気に考えているが、相当体調はよろしくないのだ。本人わかっていないだけで。 「園子、蘭。悪いけど、ちょっと保健室行ってくるわ。」 と言う優希に、あんた、そんな顔色悪くなるまでどうしてたのよと反対に怒られてしまった。 連れて行くわと言うが、まだ着替え終わっていない二人。大丈夫よと言って、優希は歩き出した。ちなみに、この時すでに視界があやうかったりするが、暑さのせいだということで気にせず保健室へ行くのだった。もしここに快斗がいれば、即抱き上げて移動して事だろう。 ノックをして扉を開けると、どうしたと、快斗が出迎えてくれた。 だが、会話に反応する元気はなく、一直線にいつも利用しているベッドへ向かい、転がった。 「どうかしたのか?」 さすがにおかしいと思い、寝転がった優希に近づく快斗。 顔色の悪さから、額に手を当てると原因がわかり、慌てて本来利用される保健室の方へと急いだ。 美和子に話をつけ、優希の早退届を出して準備を整えてから、上に着られるものとアイスノンを持って戻ってきた。 「そんなになるまで無茶するなよな。」 「・・・そんなにひどくないとお・・・。」 「充分酷いだろ。」 優希が全てを言い終わる前に答えて言葉を止める快斗。これ以上話をするのも危険と判断したからだ。 しばらく大人しく寝ているように言い、部屋を出た。その時すでに優希の顔色は悪化していた。 早退届を出したので家まで連れ帰る事を告げられたが、すでに反論する元気はない優希はベッドの上で寝転んだまま。 「まったく。それだから優作さんも有希子さんも、美和子さん達も心配するんだよ。」 優希をタオルケットのようなもので包み、抱き上げる。そのまま駐車場へ移動し、車へ乗り込む。 「困ったお姫様だ。」 エンジンをかけ、負担にならないように気をつけながら家路へと急いだ。 家に着いたらすぐにベッドへ寝かせ、氷枕を作って寝かせた。 汗をひどくかいているようなので、ちょうど今日はお隣さんは実験中で学校にいないので、着替えと診察を頼もうと電話で呼び出した。さすがに、着替えは女の人じゃないと無理かなと判断したからだ。 優希のこととなると、すぐに飛んで来てくれた。少し機嫌が悪いようだが、さっさとつれて帰ってきてくれて助かるわとだけ言って部屋を追い出された。 着替えるからだとわかっているから大人しく部屋を出て、お粥を造るためにキッチンへと向かうのだった。 おかゆを器に移している頃、ガチャリとドアが開き、診察を終えたらしい志保が姿を見せた。 「どうだった?」 「夏風邪ね。熱がひどいだけだから、下がれば大丈夫よ。」 「それなら良かった。」 おぼんに薬とおかゆをいれた器と水の入ったカップと替えの氷枕を持ってリビングへと出てきた快斗は、ありがとうと言って志保にお茶を出した。 出て行った後に、むかつくほど気が聞く馬鹿ねと言っていたのが聞こえ、苦笑してしまう。 コンコンとノックをしてからそおっとドアを開けた。 中ではぺたぺたと優希を心配して呼びかけているのか、時がいた。 「お前はこっちな。」 台の上にお盆を乗せて、時を抱き上げて快斗は側の椅子に腰掛けた。 いつもなら暴れるが、少なからず優希の状態をわかっているのだろう。暴れることはなかった。 「ある意味、賢いな。お前。」 優希の事ならなんでも聞く猫。もしかしたら敵対心をむき出しにされているのかもしれない。 たとえ時が相手だとしても、快斗は優希を諦めることなどしないけれど。 今は同じように心配する仲間だ。頭を撫でてやると、大人しく丸くなって目をつむった。 「でも、朝気付かない俺の失態だったな・・・。」 彼女の事に関しては、注意して気付かないといけない。決して人に弱さを悟らせたりはしない人だから。 見せた瞬間、使い物にならないものになってしまうかのように、強くあろうとする。 それが見ていて辛い。誰も頼っていないように思えるから。 志保を含め、回りの者達は気付きながらも言えない。弱さを見せないようにしていると気付いても、彼女が話してくれるまでは何も言えない。 何があってもいつもと変わらない彼女でい続けようとするから、ほとんどが気付かない。 近しい者達ですら、彼女は欺くと決め込めば、心を殺して貫き通すだろう。 そうやって傷つき、壊れて行く。 「そんな優希が、皆心配なんだよ。」 彼女の両親ですら、本音や弱音を滅多にはかないようにしてしまったのは自分達だと責め、だけど変わらないままで接し、見守り続けてきている。 「さすが。返事が早いね。」 音は消しているが呼び出しは感じる。先ほど連絡を入れておいたのだ。何かあれば必ず連絡してほしいという事だったから。 風邪で寝ていると言っていたから、今回はメールだけだったのだろう。 よろしく頼むと書かれているが、本当は心配でしょうがないのだろう。今すぐここへ来たくてしょうがないのだろう。 「あの二人なら、そのうち来てしまいそうだな。」 思い立ったら即行動な二人。本当に来てしまいそうで怖い。そして、優希をからかって引っ張りまわして、だけど、様子を気にしながら嵐のように去って行くのだろう。 優希も何だかんだ言いながら付き合い、見送るだろう。 「噂するといきなり出てきそうだな・・・。」 あの両親なら話を聞いていてすぐに出てきそうで怖い。 辺りをつい見回してみたが、どうやら現れる気配はない。今回は大丈夫なようだ。 ほっとしていると、優希の体が動き、立ち上がると膝に乗っていた時が慌てて落ちないように攫む。 快斗はやばいと猫を抱き上げて優希の顔を覗き込む。 そこには、大分顔色がましになったが、少しぼんやりとした優希の顔があった。 「あれ・・?」 あまりよく状況がわかっていない様子だ。 「熱で保健室で寝たままだからわからないと思うけど、ここは自宅だよ。」 「家?」 「そう。起きれる?つくったばかりだからまだあったかい御粥があるけど・・・。」 「・・・食べる。」 起き上がろうとする身体を支えてやり、起こす。時はしっかりと優希の膝の上に移動している。 「はい。」 快斗はレンゲにお粥をすくって優希の口元へ持っていく。最初は自分で食べれると言って断っていたが、保険医のいう事は聞いてね、病人さんと言われたら、それ以上言わなくなった。 志保の名前まで出され、ばれてしまっていることがわかったからかもしれない。 半分ほど食べ、薬を飲んで再び横になった優希。 「大分、ましになったね。良かった。」 「・・・すみません。迷惑かけて・・・。」 「そうだね。しんどいのに何も言わずにいた事に対しては怒ってるね。」 「・・・・・。」 「気付かない俺も悪かったけど、言ってくれないと心配するだろう?」 俺同様に、お隣さんもあの両親も優希に対してはかなりの心配性なのだ。 「しんどい時は言うように。生きていく中で病気は死と同じように付き合い続けるものだからね。」 逃れることの出来ないこと。どんなに健康な人であっても死ぬのはあっけないものだ。 この風邪だって、命を奪いかねない凶器に変わりかねない。 「心配させないように隠すのもいいけれど、志保ちゃんや俺は医学に関わる者だから、どうしても気付いてしまうんだよ。そして、気付かなかった時はとても後悔して、隠される方が心配になるんだよ。」 だから、少しぐらいは頼って言ってほしいと遠まわしに言う快斗。 優希はただ快斗の目を見たまま黙っていたが、わかったと答えた。 「気をつける。」 「時には言葉に出さないと負担ばかりが増えるからね。たぶん、優希の場合はそれが病気の原因だよ。」 「・・・。」 「頼ったり言葉に出す事は、いけないことじゃないよ。」 いつでも、自分を含めた周囲の者達はいつも待っている。優希に助けられてきたから、何かあれば助けられるようにと。 「とりあえず、今は寝るのが一番だからね。睡眠もしっかりととらないとね。」 額に手を乗せ、熱が下がっているのを確認し、おやすみと言った。 しばらくして目を閉じて根息が聞こえたのを確認し、部屋を出た。時は優希の側で眠っているが、たぶん大丈夫だろう。 不届きなものが現れたら時がいたら退治してくれるか、鳴き声で呼んでくれるだろう。 「熱、大分ましになったみたいだ。」 「そう。なら良かったわ。」 リビングにはまだ志保がいた。 「おかわりいる?」 「そうね。いただこうかしら。」 二つのカップとクッキーを持って戻ってきた。 「・・・保護者役ごめんという感じね。」 「美和子さんにも言われたな・・・。」 多くの、優希を見守る保護者役がいる。それだけ多くの危険が付きまとうと同時に人のめについてしまうから守らないと気付かない彼女はどうなるかわからない。 「でも、無理やり手を出さない限りは、貴方がここにいても何も言わないでいてあげるわ。」 「そりゃどうも。」 「ただし、優希を泣かせるようなことになったら、容赦なく殺すわよ。」 「それは怖いね。」 「貴方の方が怖いでしょ。」 彼女がどこまで自分のことを知っているかわからないが、優希と接する自分とその他大勢に見せる表面上のものとは違う、狂気を含んだ自分。 それに彼女は気付いているのかもしれない。もしくは、紅子から聞いたのかもしれない。 「大丈夫。俺にとって彼女は今優先順位的には一番だからね。」 「・・・せいぜい、貴方が殺されない事を祈ってるわ。」 共に近くにいるものの死に敏感で、悲しむのを知っているからだ。 「じゃぁ、私は帰るわ。」 「もう帰るの?」 「貴方がいたら、後の事も大丈夫でしょ。」 それは、彼女なりに快斗を認めているということだ。もし認めていなければ彼だけを残して帰らない。 「状態はまた連絡するよ。」 「そうしてくれると助かるわ。」 志保が帰って行った後、苦笑しながら快斗はカップを片付けた。 「たとえ、悲しませるとわかっていても、自分にはやらなければいけない事があるし、彼女の身に何かあれば、迷わず原因を消すだろうね・・・。」 どちらも、彼女が嫌うこと。だから、志保も釘を刺したのだろう。決してそうならないと自分は言えないとわかっていながら。 「困ったね・・・。」 今まで生きてきた中で求める人などいなかったのというのに。いくら一目ぼれで、知れば知るほど放っておけなくなり、好きになり、もうこの気持ちから逃れることなど出来ないというのに。 好きになってしまった相手は生徒であると同時に、自分と相反する位置にいる者。生徒だとしてもそれだけなら気にしなかっただろう。問題は彼女が探偵である事だ。 自分の秘密を知って尚、黙っていてくれる。だが、それは彼女の負担になっている可能性はある。 「はぁ・・・」 考えれば考える程、気分も下がっていく。これではいけないなと思いながら、優希の様子を見るために上へ上がる。すると、気配が動いている事に気付いた。 「優希。入るよ。」 中に入ると、熱が下がって少しましになったということで、本を読もうと脱走を企てていた優希がいた。 「あ・・・。」 「・・・駄目でしょ?」 にっこりと作った笑顔で優希を見て、しっかりと捕獲する。 「えっと・・・。」 さすがに怒っているのに気付いたらしく、様子を伺っている優希。少し可愛いと思ったが、今はそんな事を言っている場合ではない。 「病人は大人しく寝てようね。本は禁止。」 「でもっ!」 「駄目。悪化したら困るんだから。」 時も今回は快斗の見方らしい。やはり優希が元気になる為なら快斗に協力してくれるらしく、本当に賢い猫だなと思ってしまう。 「さて、寝ようね。」 快斗もベッドに腰掛け、優希をベッドに降ろした。猫は飛び乗って追いかけてきて、準備は万端。 「えっと、あの・・・。」 自体がわかってない優希はクエスチョンマークが飛び交っている。 だが、次第に状況がわかってきた優希はあせるが、すでに快斗に抱きしめられたままベッドの上にいた。 「あの、快斗さん・・・。」 「逃げるから捕まえさせてもらうからね。時も今日は俺の味方だし諦めて寝て下さい。」 だが、こんな状況で落ち着いて寝られるかと言うのが優希の意見。 「案外、人が側に居ると思った方が、一人でいるよりも警戒しなくて済むでしょ。」 気を張って寝たのでは、ゆっくり休めないからだ。 「大丈夫。襲ったりしないから。」 「そういう問題じゃありませんっ!」 「ま、気にしない。それに、病気で弱ってる時は誰かが側に居る方が安心できるものだからさ。」 大人しくしてなさいと言われて、疲れているのは事実なので諦めることにした優希。 そのまま三人眠りに着いたのだった。 翌日。 「少し心配になったわ。」 「それはすみません。」 起こしに来た志保に目撃されたのだった。 快斗は起きて苦笑しながら挨拶をしたが、状況を忘れていた優希はあたふたして言葉が何も出てこず。 事情を説明すると、快斗の事はそこまで気にしなかったが、やはり少し心配になったのも事実。 だが、それ以上に本の虫にお怒りだった。 「言ったわよね。いつも、病気の時は本を読まずに大人しく寝て頂戴って。」 「ごめん。」 「何度破って何度謝ったかしらね?」 「・・・ごめん。」 「ま、今回は状況に問題があるけれど、寝てくれたからいいわ。」 そのおかげで、優希の熱はすっかり引いていた。 「それにしても、馬鹿は風邪を引かないって事実だったようね。」 「志保・・・。」 「志保ちゃん・・・。」 何気に止めをさすように快斗に一言言う志保だった。 |