もうすぐだね 君が生まれてきた記念日 さて、どうやって祝おう どうやって、驚かせよう お邪魔な者達が来ないように、いろいろお隣と相談をして 盛大に祝おう なら、祝ってあげるわ あなたの誕生日ぐらい、覚えたから ここへきた歓迎会代わりに、祝ってあげる あの日と同じように、皆を呼んで、料理を作って これで、おあいこでしょ お祝いの秘め事 なんだか、最近回りの様子がおかしい。 というより、あんなにまとわり着いてくる快斗が珍しく離れているし、あんなに体調がどうのとうるさい哀の姿も見えないし、来るなと言っても勝手に姿を見せては巻き込む爆発物処理班の二人組みもいない。 そんな一日だった。 園子はどうしてか休みだったし、蘭もクラブの大会だとわかっているけれど、なんだか変な一日である。 「・・・暇。」 いつもなら喜んで本を読んでいるが、いざ誰もいないとかえって読めない。 読んでいても、誰か必ず近くにいるからだ。とくに最近は快斗が必ずいた。 だから、なんだか違和感が感じる。 まぁ、無視して本の世界に旅立っているけれど。 「散歩にでも出かけようかな。」 意外と気持ちもすっきりするかもしれないと、優希は本を閉じて出かけるのだった。 そんな出かけていった彼女の姿を、お隣の影から様子を伺っていた数人の影があった。 「よし、行ったわね。」 「それにしても、楽しいこと考えたな。」 「裏からいろいろ手を回したみたいだし。」 「邪魔されたくありませんし。」 主治医と保健医と魔女とサングラス男とナンパ男のような五人がひっそりこっそりと侵入する。といっても、鍵を持っているために誰でも簡単に入れるのだが。 「さっさと用意してしまいましょう。」 「それにしても、幼馴染の彼女。残念そうだったな。あと、鈴木財閥の娘さんも。」 「しょうがないじゃない。彼女達も私達と同じように彼女が大切なんだから。」 どうせ、明日あたり突然拉致でもして別荘に連れて行って祝うのだろう。 「ま、私達は当日祝えるものね。」 ということで、彼等はこっそり優希の誕生日の用意をはじめるのだった。 そんなことは知らない、というか誕生日事態忘れている彼女は、本屋で予想外なことに新刊を見つけ、ほくほくした気分でまだ他にないかと漁っていた。 さて。もう一冊発売が延期になって何時出るかわからない状態だった新刊を見つけ、かなりご機嫌で日が暮れた頃に家に戻ってきた。 「あれ?」 リビングに人の気配がする。お隣さんや保健医やあの二人とか魔女とか。 彼等は自分の家に集まっていったい何をしているのだろう。とくに、紅子が来る理由がわからない。 それ以外は、結構勝手に家に入ってきているので違和感なしだったりする。 首をかしげながら、大事に本の入った袋を持って扉を開けると、クラッカーがパンっと音を立てて紙ふぶきやらいろいろ飛んできた。 「・・・何?」 「ハッピーバースディ。優希。」 ぽんっと、優希に花束をマジックで出して渡す快斗。 「は?・・・あ、誕生日?」 「また、忘れてたわね。この子。」 「ま、いつものことだしな。」 「ほれ。プレゼント。」 なんだか驚かされたが、これで彼等がここにいた理由がわかってそれにはすっきりした優希。 席を勧められると、そこにはおいしそうな料理が並んでいた。 「さて、主役も来たし、祝いましょうか。」 快斗が言い、はじまる。料理を食べ、プレゼントを受け取り、彼のマジックを見た。 少し、警察関係者である二人がいるので焦ったが、よくよく思い出せば、彼の父親は有名なマジシャンであったし、彼自身もどうして保険医なんてしているか知らないが、腕はそれなりのもので、結構有名だったらしい。 それでほっと一息ついた。だけど、やっぱり心臓にはよろしくない。 「あ、メール。」 ふと、メールが着たことに気付いて確認すると蘭と園子から来ていた。 しかも、明日10時までに起きて出かける用意を済ませておけとのこと。 志保が言うには、今日祝えなかった分、明日祝うつもりなのよと言われ、なるほどと思った。 なら、たまには素直に連れて行かれてあげようかなと思ったりする優希だった。 さて、それから1ヶ月と少しが経った頃。 二日に渡ってされた誕生日はとてもたのしいもので、贈り物も大事に部屋にしまってある。本はしっかりと読破済み。 実は、あの誕生日の日、少しおかしな展開になっていた。 そして、優希は言ってしまったのだ。 「なら、誕生日祝ってやる!」 何が原因でそうなったのかは覚えていないが、祝うと宣言をしっかりしていた。 なので、今回は珍しく覚えていた。だが、どうやればいいのかわからない。 「どうしたものかしら。」 考えていると、園子がやってきた。 「優希〜。」 がばりと背後から抱きつかれて潰された。ちょっと痛かった。 「あ、ごめんごめん。勢いがつきすぎた。」 「もう、園子ったら。大丈夫?」 「なんとか・・・。」 と、言いながら園子が退いたので身体を起こした。 相変わらず、園子は良い男がどうのと一人で勝手に話している。 だが、突然快斗の名が出た。 「そうなの?」 「そうよ。一度ちらっと見ただけだけど、あれはかなりの男前だったわ。」 簡単に言うと、少し前、校内で白衣を着た格好いい男を見た。そして、あとをつけると保健室に入っていた。 以前は紅子との恋人疑惑(誤解だったけど)で名前だけ出てきていたが、あまり興味を持っていなかったらしい。 しかし、見かけてからはすぐに調べたらしい。その辺の行動は速くてさすがだと思う。 それにしても、未だに知らなかったんだと優希は他人事のように思っていた。 「でも、あの人、好きな人がいるみたいなの。小泉先生ではないみたいだけど。」 それを聞いた瞬間がくっとこけそうになった。いったい、どこからそんな情報をひっぱってくるんですかと、やはり園子に男の情報で勝てる人なんていないんだろうなと思ってしまう。 「残念だわ。すでに売却済みだったの。」 「売却って・・・。」 「物じゃないんだから・・・。」 相変わらずいい性格してるわと優希と蘭は思うのだった。そして、海外で必死に戦っているであろう本当の恋人が哀れに思うのだった。 そして、夕方になって帰宅時。二人と別れた後にふと思い出した。 快斗さんの好きな人。 「誰なんだろう。」 当てはまる人っていたっけ?とかなりぼけたことを考える優希。自分がその本人だとわかっていなかった。 そして、結論を出した。 「やっぱり、紅子さんね。」 あれだけ動揺したように否定していたけど、それは嘘っぽい。だから、きっとそうで、周囲から目の堅きにされるのを避けるためなんだと、勝手に思い込んで自己解決をするのだった。 悲しいかな、彼女はまったく恋愛に関しては鈍かった。快斗の思いはまだまだ届く気配はない。 反対に、遠のいた気配。しかし、快斗本人は優希のそんな誤解にまだ気付かない。 そして、21日がやってきた。 パンッ パ、パンッ、パンッ クラッカーの音がなり、ハッピーバースデイという掛け声が聞こえた。 「ありがとう。」 あの日と同じように、同じメンバーで。 帰ってきた彼を祝いましょう。 今日は優希が珍しく腕を振るって絶品料理を揃えたのだから、満足してもらわなければいけない。 「残さず食べて下さいね。」 「優希が作ったもの、残すなんてもったいないからしないよ。」 半分本音で、半分はまた作って欲しいという願望と他の奴等は食べたことがあるのだろうか、食べた事がないのならなるべく食べささないようにという独占欲を隠して。 あの日と同じように賑やかなパーティは幕を閉じた。
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